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第二十四話
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「ねぇ、楓。今度の日曜日さ。私と一緒に買い物でもどうかな?」
花音は、何を思ったのか楓に声をかけていた。
ずいぶんと緊張した様子で、だ。
いきなりの事だったので、さすがの私も唖然となってしまう。
楓の方はというと──
「あ、と……。ごめん。その日は、友達と遊びに行く約束があって──」
楓の友達といえば、風見君の事かな。
同じバイト先の同僚でもあった気がしたが──
どうなんだろう。
花音は、あきらかに不満そうな表情を浮かべている。
「それなら、しょうがないか……。納得はできないけど……」
「ホントにごめん……」
楓は、申し訳なさそうな顔で謝っていた。
そうは言うものの、埋め合わせはしないんだ。
そこで結論が出てる気がするんだよね。
「次に誘う時には、予定を空けておいてよね。私だって、いつでも暇ってわけじゃないんだから──」
「う、うん」
花音は、踵を返して2階へと上がっていく。
2階へと上がっていく時、スカートの中の下着がチラリと見えてしまった。
しかし、楓はまったく見ていなかったのを補足しておく。
意外にも水色の下着だ。
花音も、いつの間にかそんな大人っぽいものを穿くんだなって感心してしまう。
まぁ、女子校の制服のスカートって意外と短いから、ちょっとした事で見えてしまうんだけど。
見ていないものは、しょうがない。
私にも、どうにもできないものだから。
たしかに花音の女子校の制服姿は可愛いかもしれない。
だけど楓は、私たちのことしか見ていないから、無理だろう。
逆に私が誘ったら、どういう反応を見せてくれるんだろうか。
試してみたい気持ちはあったが、悪戯になってしまうのはわかりきっているのでやめておく。
「友達って、風見君のこと?」
私は、そう楓に訊いていた。
ごく自然に訊いてみただけだから、そこまで警戒はされないとは思うけど。
楓は、微苦笑して答える。
「うん。そうだよ。まさか香奈姉ちゃんに慎吾の事を覚えられてしまうなんてね」
「私を誰だと思っているのよ。弟くんの交友関係は、ある程度把握済みだよ」
「把握されてしまってるんだ……。それは、なかなかに手強いね」
それを言うなら『厄介』と言いたいんだろうけど。
私自身、楓の交友関係については干渉するつもりはないから、安心してほしいんだけどな。
「大丈夫だよ。弟くんの交友関係については、干渉するつもりはないから。その辺は安心してほしいな」
「それは、香奈姉ちゃんだから、安心はしてるけど……」
「何か不安なことでもあるの?」
楓のそんな微妙な表情を見たら、そう訊かずにはいられない。
「ん~。香奈姉ちゃん自身には、不安はないんだけど……。慎吾がね。香奈姉ちゃんのことを高嶺の花みたいなことを言ってるから、その……」
「そっかぁ。風見君が、私のことをそんな風にねぇ。なるほど──」
私が『高嶺の花』か。
そんな事、あまり言われたことがないな。
私自身は、ずっと楓一筋だったから、考えることもなかったんだけど。
「香奈姉ちゃん? どうしたの?」
楓は、とても心配そうな顔をして私を見てくる。
あまり褒められたことがないから、いざそんなことを言われても嬉しい気持ちにはならない。
むしろ、やめてほしいかなっていう感じだ。
「ううん。なんでもないよ。こっちの事──。さぁ、みんなが来る前にお掃除しちゃおう」
今日は、バンドメンバーのみんなが私の家に集まる日だ。
だから楓と一緒に、家の中のお掃除をしていたのだ。
楓が私の部屋を掃除する事にも、もはや緊張することはない。
これは、私が大学に進学した時に借りる予定のアパートにもやって来やすいようにしてる配慮だ。
私が先になるけど、大学に進学したら、私が借りるアパートに楓も住んでもらうという形で約束している。
高校は男子校と女子校とで分かれてしまったけど、大学は同じところを通うつもりだから。
「うん」
楓は、微笑を浮かべてそう返事をした。
バンドメンバーたちがやってくる時って、なんとなく緊張してしまう。
女の子同士のただの女子会なら、ここまで緊張することもなかったんだけど……。
楓が混じると、どうしてこんなに緊張してしまうんだろう。
現に、奈緒ちゃんがそんな私の顔を見て不思議そうな表情をしている。
美沙ちゃんに至っては、楓となにやら話し込んでいるし。
理恵ちゃんは、私の部屋を見るなり、訝しげな様子で言う。
「もしかして、楓君にお掃除を手伝ってもらったりする?」
「まぁね。家が近いから、呼んだらすぐに駆けつけてくれるし──」
そう説明してあげれば、大抵の場合は納得してくれる…はずだ。
「そっか。なんだか羨ましいかも……」
理恵ちゃんは、そう言って楓の方に視線を向ける。
理恵ちゃんの表情から察するに、理解はしたけど納得はしてないっていう感じだな。
「そうかな? 私にとっては、いつもの事だけど……。勉強面とかで勝っても、料理の腕前とか家事のことでいつも負けちゃうんだよね。なんか悔しいっていうか──」
「香奈ちゃんは、すべてにおいて勝ってないと許せない性質だもんね。仕方がないかと思うよ」
「そんなことは……。私は、弟くんの前ではしっかりした『お姉ちゃん』でいたいかなって──」
「大丈夫だよ。香奈ちゃんは、楓君にとっての唯一の『お姉ちゃん』なんだから。心配する必要はないかと──」
自信ありげにそう言われても。
理恵ちゃんは、どこまで楓に依存しているのやら。
「そうかなぁ。私としては弟くんに──」
そう言いかけたところで、理恵ちゃんが笑顔で私の口元に指を添え、言葉を遮る。
「そういうところだよ。香奈ちゃんは、弟くんをダメ人間にしちゃうこともあり得ちゃうんだから、気をつけないと」
「それは、ちょっと嫌かも……」
ダメ人間って聞くと、それはそれで嫌だ。でも……。
楓のお世話をしたいっていう気持ちは、少なからずある。
こういうのは、いかにも都合のいい考え方なのかもしれない。
「その顔は、いかにも納得してないって感じね」
「わかる?」
「わかるわよ。香奈ちゃんとは、付き合いが長いからね。見ればすぐにわかっちゃうよ」
「そっか」
やっぱり、わかってしまうんだ。
顔には出してないつもりなんだけど……。
「わたしだって、できるなら楓君と一緒に……」
理恵ちゃんは、なにやら言っていたみたいだったが。
そこから先の言葉は、よく聞き取れなかった。
理恵ちゃんなりに、楓を頼りにしているっていうのは、仕草や態度を見たらわかる。
「何か言った? 理恵ちゃん」
「ううん。なんでもない。こっちの事──。香奈ちゃんが気にするような事は何もないよ」
理恵ちゃんは、つとめて笑顔を浮かべてそう言っていた。
その笑顔は、かなり無理をしているんじゃないかと思ってしまう。
でも、理恵ちゃんからは何も言ってこないので大丈夫なのかな。
う~ん……。どうなんだろう。
花音は、何を思ったのか楓に声をかけていた。
ずいぶんと緊張した様子で、だ。
いきなりの事だったので、さすがの私も唖然となってしまう。
楓の方はというと──
「あ、と……。ごめん。その日は、友達と遊びに行く約束があって──」
楓の友達といえば、風見君の事かな。
同じバイト先の同僚でもあった気がしたが──
どうなんだろう。
花音は、あきらかに不満そうな表情を浮かべている。
「それなら、しょうがないか……。納得はできないけど……」
「ホントにごめん……」
楓は、申し訳なさそうな顔で謝っていた。
そうは言うものの、埋め合わせはしないんだ。
そこで結論が出てる気がするんだよね。
「次に誘う時には、予定を空けておいてよね。私だって、いつでも暇ってわけじゃないんだから──」
「う、うん」
花音は、踵を返して2階へと上がっていく。
2階へと上がっていく時、スカートの中の下着がチラリと見えてしまった。
しかし、楓はまったく見ていなかったのを補足しておく。
意外にも水色の下着だ。
花音も、いつの間にかそんな大人っぽいものを穿くんだなって感心してしまう。
まぁ、女子校の制服のスカートって意外と短いから、ちょっとした事で見えてしまうんだけど。
見ていないものは、しょうがない。
私にも、どうにもできないものだから。
たしかに花音の女子校の制服姿は可愛いかもしれない。
だけど楓は、私たちのことしか見ていないから、無理だろう。
逆に私が誘ったら、どういう反応を見せてくれるんだろうか。
試してみたい気持ちはあったが、悪戯になってしまうのはわかりきっているのでやめておく。
「友達って、風見君のこと?」
私は、そう楓に訊いていた。
ごく自然に訊いてみただけだから、そこまで警戒はされないとは思うけど。
楓は、微苦笑して答える。
「うん。そうだよ。まさか香奈姉ちゃんに慎吾の事を覚えられてしまうなんてね」
「私を誰だと思っているのよ。弟くんの交友関係は、ある程度把握済みだよ」
「把握されてしまってるんだ……。それは、なかなかに手強いね」
それを言うなら『厄介』と言いたいんだろうけど。
私自身、楓の交友関係については干渉するつもりはないから、安心してほしいんだけどな。
「大丈夫だよ。弟くんの交友関係については、干渉するつもりはないから。その辺は安心してほしいな」
「それは、香奈姉ちゃんだから、安心はしてるけど……」
「何か不安なことでもあるの?」
楓のそんな微妙な表情を見たら、そう訊かずにはいられない。
「ん~。香奈姉ちゃん自身には、不安はないんだけど……。慎吾がね。香奈姉ちゃんのことを高嶺の花みたいなことを言ってるから、その……」
「そっかぁ。風見君が、私のことをそんな風にねぇ。なるほど──」
私が『高嶺の花』か。
そんな事、あまり言われたことがないな。
私自身は、ずっと楓一筋だったから、考えることもなかったんだけど。
「香奈姉ちゃん? どうしたの?」
楓は、とても心配そうな顔をして私を見てくる。
あまり褒められたことがないから、いざそんなことを言われても嬉しい気持ちにはならない。
むしろ、やめてほしいかなっていう感じだ。
「ううん。なんでもないよ。こっちの事──。さぁ、みんなが来る前にお掃除しちゃおう」
今日は、バンドメンバーのみんなが私の家に集まる日だ。
だから楓と一緒に、家の中のお掃除をしていたのだ。
楓が私の部屋を掃除する事にも、もはや緊張することはない。
これは、私が大学に進学した時に借りる予定のアパートにもやって来やすいようにしてる配慮だ。
私が先になるけど、大学に進学したら、私が借りるアパートに楓も住んでもらうという形で約束している。
高校は男子校と女子校とで分かれてしまったけど、大学は同じところを通うつもりだから。
「うん」
楓は、微笑を浮かべてそう返事をした。
バンドメンバーたちがやってくる時って、なんとなく緊張してしまう。
女の子同士のただの女子会なら、ここまで緊張することもなかったんだけど……。
楓が混じると、どうしてこんなに緊張してしまうんだろう。
現に、奈緒ちゃんがそんな私の顔を見て不思議そうな表情をしている。
美沙ちゃんに至っては、楓となにやら話し込んでいるし。
理恵ちゃんは、私の部屋を見るなり、訝しげな様子で言う。
「もしかして、楓君にお掃除を手伝ってもらったりする?」
「まぁね。家が近いから、呼んだらすぐに駆けつけてくれるし──」
そう説明してあげれば、大抵の場合は納得してくれる…はずだ。
「そっか。なんだか羨ましいかも……」
理恵ちゃんは、そう言って楓の方に視線を向ける。
理恵ちゃんの表情から察するに、理解はしたけど納得はしてないっていう感じだな。
「そうかな? 私にとっては、いつもの事だけど……。勉強面とかで勝っても、料理の腕前とか家事のことでいつも負けちゃうんだよね。なんか悔しいっていうか──」
「香奈ちゃんは、すべてにおいて勝ってないと許せない性質だもんね。仕方がないかと思うよ」
「そんなことは……。私は、弟くんの前ではしっかりした『お姉ちゃん』でいたいかなって──」
「大丈夫だよ。香奈ちゃんは、楓君にとっての唯一の『お姉ちゃん』なんだから。心配する必要はないかと──」
自信ありげにそう言われても。
理恵ちゃんは、どこまで楓に依存しているのやら。
「そうかなぁ。私としては弟くんに──」
そう言いかけたところで、理恵ちゃんが笑顔で私の口元に指を添え、言葉を遮る。
「そういうところだよ。香奈ちゃんは、弟くんをダメ人間にしちゃうこともあり得ちゃうんだから、気をつけないと」
「それは、ちょっと嫌かも……」
ダメ人間って聞くと、それはそれで嫌だ。でも……。
楓のお世話をしたいっていう気持ちは、少なからずある。
こういうのは、いかにも都合のいい考え方なのかもしれない。
「その顔は、いかにも納得してないって感じね」
「わかる?」
「わかるわよ。香奈ちゃんとは、付き合いが長いからね。見ればすぐにわかっちゃうよ」
「そっか」
やっぱり、わかってしまうんだ。
顔には出してないつもりなんだけど……。
「わたしだって、できるなら楓君と一緒に……」
理恵ちゃんは、なにやら言っていたみたいだったが。
そこから先の言葉は、よく聞き取れなかった。
理恵ちゃんなりに、楓を頼りにしているっていうのは、仕草や態度を見たらわかる。
「何か言った? 理恵ちゃん」
「ううん。なんでもない。こっちの事──。香奈ちゃんが気にするような事は何もないよ」
理恵ちゃんは、つとめて笑顔を浮かべてそう言っていた。
その笑顔は、かなり無理をしているんじゃないかと思ってしまう。
でも、理恵ちゃんからは何も言ってこないので大丈夫なのかな。
う~ん……。どうなんだろう。
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