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第二十二話

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ゲームセンター内は時間帯もあってか、結構な人集りができていた。
やっぱり他所の高校の生徒たちが多い。
遊びに来てるというより、暇つぶしに見に来ているといった感じだろう。
主にクレーンゲームの方に人は集まっていた。
私たちは、それには興味はない。
プリクラコーナーさえ空いていたら、他の場所はどうでもいいのだ。
ちなみに、最近のプリクラコーナーは結構空いている場合が多い。
奈緒ちゃんは、迷いなくプリクラコーナーに向かっていく。

「よかったら、一緒に撮ろうよ。楓君」

たどり着くなり、もうアプローチに入っている。
楓はどんな反応をするんだろう。

「いや。こういうのは……。女の子同士で撮った方がいいんじゃないかな」
「それは、そうだけど……。でも、あたしは楓君と一緒に撮りたいんだ。ダメかな?」
「ダメっていうことはないけど……。だけど……」

楓は、私に気を遣ってなのかどうかはわからないが、私の方をチラチラ見てくる。
鈍い楓にも、わかっているみたいだ。
一緒にプリクラを撮るっていう行為が、どういう事なのかは──
できるなら、断りたいんだろうな。

「やっぱり、あたしと一緒に撮るのは嫌なの?」

奈緒ちゃんは、さも悲しげな表情で楓に訊いていた。
あきらかに意図的な表情だ。
楓はどうするのかな?
ちょっと成り行きが気になる。

「そんなことはないよ。ただ──」
「楓君が思っていることは、なんとなくわかるよ」
「え……」
「楓君は、みんなと一緒に撮りたいんでしょ?」

奈緒ちゃんは、鋭くそう言った。
やっぱり、私たちは邪魔だったかな。
奈緒ちゃんは、顔には出していないけれど。

「うん。やっぱり、みんながいるからね。僕なんかに気を遣わなくても……」
「わかってないなぁ。相手が楓君だから、あたしは一緒に撮りたいんだよ」
「奈緒がそんなこと言うなんてねぇ。よっぽどだね」

一緒にいた美沙ちゃんは、納得したかのようにそう言っていた。
理恵ちゃんは、静かに楓と奈緒ちゃんのことを見ている。
何も言わないところを見ると、考えていることは私や美沙ちゃんと一緒のようだ。

「僕だから?」
「うん。あたしは、楓君のことが好きなんだ。だから、記念になるものが欲しくて」
「奈緒さんが、僕のことを……」

楓にとって奈緒ちゃんは、私と同じく頼りになるお姉さんといった感じなんだろう。
そんな奈緒ちゃんが、楓のことを一途に見ている。
あの日、絶対に何かあったと確信が持てるくらいにして。

「そういうことだから、あたしと一緒にプリクラを撮ろう。もう嫌じゃないよね?」
「うん、まぁ……。奈緒さんが、それでいいのなら」
「決まりだね。それじゃ、さっそく──」

奈緒ちゃんは、プリクラコーナーの中に入ると、お金を投入する。
私と美沙ちゃんたちは、外側で待つことにした。

「それじゃ、私たちはここで待ってるね」
「次は、わたしたちの番だからね。独り占めは許さないからね」

と、理恵ちゃん。
理恵ちゃんも、楓のことを狙っているのかな。
どうなんだろう。
とりあえず、奈緒ちゃんの願いを叶えさせないとダメか。

やっぱり2人だけにするのは、失敗だったかな。
あれからしばらく経ったが、奈緒ちゃんと楓は戻ってこない。
プリクラを撮るだけなら、そんなに時間はかからないと思うんだけど……。

「ずいぶんと時間がかかってるね。2人とも、何やってるんだろう?」

さっそくというべきか、美沙ちゃんが不満そうにそう言った。
理恵ちゃんも、一度スマホの画面を見て何かを確認して、思案げな表情をしている。

「たしかに、あれから結構経つよね。一回、様子を見に行ってみる?」
「いいかもね」

そう言い合っていた時に、2人が戻ってくる。
奈緒ちゃんは、あきらかに恥ずかしげに表情を赤くしていた。

「お待たせ」
「ずいぶんと時間がかかったわね。何をしていたの?」

私は、2人に訊いてみる。
楓の表情を見る限り、特に何も無さそうなのだが。
それでも、気になるものはしょうがない。

「いや。何をしていたってわけでもないけど……。敢えて言うなら、プリクラを撮るために奈緒さんが色々とね」
「色々、かぁ」
「やましいことは何もないよ。一応──」

楓は、弁明するかのようにそう言った。
別に疑っているわけじゃないんだけどなぁ。

「そっか。それじゃ、次はわたしの番だね」

理恵ちゃんは、笑顔でそう言うと楓の手を握り、そのまま引っ張っていく。
向かう先は、プリクラコーナーだ。

「え。理恵先輩? それは、ちょっと……」
「なに? 楓君は、わたしと一緒にプリクラを撮るのは嫌だったりするの?」
「そんなことは……」
「そんなことないよね? 奈緒ちゃんは良くて、わたしたちがダメってことは、絶対にないよね?」
「………」

さすがの楓も奈緒ちゃんも、黙り込んでしまう。
たかがプリクラといってもそんなことはなく、重要なことになってるみたいだ。
いつの間にか、そんな話になってるし。
たしかに私自身も、楓とはプリクラを撮った事はない。
だから、今回は話の流れに乗っておこうかな。

「まさかね。奈緒ちゃんだけが特別ってことはないよね?」

私も、笑顔でそう言って楓にプレッシャーをかけておく。

「そんなことは……。奈緒さんとはそんなんじゃ……」

言うまでもなくたじろぐ楓。
これは、あきらかに何かがあったっていう顔だ。
敢えては聞かないけれど。

「へぇ。楓君は否定するんだ。あたしの部屋であんな事をした仲だって言うのに──」
「あんな事? それって、どういう事? 良かったら、詳しく教えてくれないかな?」

その話に食いついたのは、理恵ちゃんだった。
いかにも興味津々といった表情だ。
奈緒ちゃんは、悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。

「それはね。色々とあるんだよ。男の子と仲良くなるためには、女の子の方から積極的に行かないと」
「なるほど」

なにを理解したのかわからないが納得している理恵ちゃん。
これはもう、プリクラを撮るっていう雰囲気じゃないな。
話を元に戻さないと。
そう思った矢先、理恵ちゃんはかなり強引に楓のことを引っ張っていく。
おとなしい女の子とは思えないくらいにして。

「それなら、なおさら一緒にプリクラを撮らないとね。──行こう。楓君」
「う、うん」

楓には、もはや拒否する権限がないみたいだ。
容赦なく理恵ちゃんに引っ張られていった。
近くにあるプリクラコーナーが、少しだけ遠くにあるような感じがする。
これって、私の番は回ってくるのかな。
このままの流れだと、私の番が最後になるような感じだけど。
どうなんだろう。
私は、めずらしくモジモジとした美沙ちゃんの仕草を見てそう思うのだった。
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