上 下
264 / 352
第二十一話

9

しおりを挟む
ランジェリーショップの中で彼女のことを待つのはすごく恥ずかしい。
僕としては、1秒たりともここにはいたくない。
本心ではそう思っていても、なかなか口に出せないのがもどかしい。
──しかしだ。
だからといって、もし先にお店を出ちゃったら、後で香奈姉ちゃんになんて言われてしまうだろう。
まず確実に怒られるだろうな。

「香奈姉ちゃん。まだ決まらないのかな……」

僕は、店の出入り口付近で香奈姉ちゃんのことを待っていた。
男としては、ランジェリーショップにいることの方が苦痛なんだけど。
なにより、周囲の人たちの視線が痛い。
やっぱり、店の外で待っていようかな。

「やっぱり場違いだよな……。香奈姉ちゃんには悪いけど、店の外で待とうかな」

僕は、独り言のようにそう言って店を出ようとする。
すると──

「あ……。ちょっと待って」

すぐに女性店員がやってきて、僕を引き止めてきた。
何かあったのかな?
僕が思案げな表情で、やってきた女性店員さんを見る。

「あの……。何か?」
「君は、あの女の子の彼氏さんだよね?」

女性店員さんの言う『女の子』というのは、香奈姉ちゃんの事だ。
その証拠に、女性店員さんは香奈姉ちゃんの事を見ている。
彼氏だということは僕自身にはわからないが、香奈姉ちゃんがそう言うのだから間違いないだろう。

「あ、はい。そうだけど……。何かありましたか?」
「あの女の子が、あなたのことを呼んでるの。はやく行ってあげて」
「あ、はい。わかりました」

香奈姉ちゃんは今、下着選び中だよね?
そうした疑問を持ちつつも、僕は香奈姉ちゃんのいる場所に向かっていく。
ただでさえ、ここにいるのは恥ずかしいのに、何なんだろうか。

「どうしたの、香奈姉ちゃん? 何かあった──」
「え……」

香奈姉ちゃんは、キョトンとした表情で僕のことを見てくる。
まるで僕がここに来たなどという事は、思ってもみなかったみたいにして──
その証拠に、香奈姉ちゃんが入っていた試着室のカーテンは、開いたままだ。
その試着室の中で、今まさに下着を試着している最中だったとしたらどうだろう。
当然のことながら、僕は何も知らない。
女性店員さんに言われたから、ここに来ただけなのだから。
僕は、慌てて後ろを向いて香奈姉ちゃんに言う。

「あ、ごめん。試着の途中だったなんて……」

普通の女の子だったら、悲鳴があがるだろう。
しかし、香奈姉ちゃんからは悲鳴はあがらない。
むしろ、優しい笑顔で僕のことを見る。

「やっぱり私のことが心配になったの? 楓は、優しいね」
「いや、その……」

こんな時、なんて言えばいいのかわからない。
もしかしたら、駆けつけてきたことが嬉しかったのかな。
なんにせよ、何もなかったのなら戻っても問題なさそうだ。
しかし香奈姉ちゃんは、さも嬉しそうに──

「せっかくここまで来てくれたんだから、ちゃんと見てくれるよね?」
「いや、僕は……」
「まさか、ここまで来て見ないなんてことはないよね?」
「それは……」

笑顔でそんなことを言ってくるあたり、計算してたのかもしれない。
あの女性店員さん。僕に嘘をついたな。
香奈姉ちゃんが呼んでいたなんていう話は、まったくのデタラメじゃないか。
僕は、チラッとその女性店員さんの方に視線を向ける。
女性店員さんは、バツが悪そうに僕から視線を逸らし、そのまま他の場所に移動していく。
あ、逃げた……。
わざわざ、店の奥に誘導するような真似をしてなんの得があるんだろう。
こんな所で、香奈姉ちゃんの下着姿なんて見たくはないんだけど……。

「もう! ここまで来たんだから、はっきりしなさい!」
「あ、うん。ごめん……」

結局、謝るハメになってしまうんだよな。
香奈姉ちゃんには、敵わないから。

「とりあえず、2~3枚は買っていくから、どれがいいか楓も選んでね」

笑顔でそんなことを言われても……。
見てるだけじゃ、ダメなのか。

「それで、サイズは?」
「70のEだよ」
「Eって……。そんなに大きかったっけ?」
「成長したのよ。よくある事でしょ」
「あー、うん……。よくある事だね……」

僕は、そう相槌をうつ。
Eって、カップのことだよね。
香奈姉ちゃんのおっぱいって、そんなに大きいのか……。
見るのに慣れすぎてしまって、あんまり気にしたことはなかったな。
僕だって、女の子のおっぱいの大きさの基準くらいはわかる。
Eカップは、結構な巨乳だ。
触るとはっきりとわかるくらいにして……。

「お姉さんに合う下着は、こちらになります。可愛いものを選びましょうね」

香奈姉ちゃんを接客していた女性店員さんは、微笑を浮かべて僕を下着コーナーに案内する。
可愛いものって……。
それを僕に選ばせるつもりなのか。
悩んでも仕方がない。
僕は渋々、香奈姉ちゃんが指定したサイズのブラジャーを何枚か選ぶ。
比較的、香奈姉ちゃんが好きそうな色合いのものを……。
こんなものを僕が選んでいいものなのか、躊躇してしまうけど。
店員さんが見ているのなら、問題はないか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

巨根王宮騎士の妻となりまして

天災
恋愛
 巨根王宮騎士の妻となりまして

【R18】深夜に蜜は滴り落ちる

ねんごろ
恋愛
 エッチです

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

処理中です...