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第二十一話

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私の意志が固いのがわかると、楓はあきらめた様子で私の胸をしっかりと手で抑えていた。
周りからは

『大胆だな』

とか

『羨ましすぎ……』

とか聞こえてくるが、私は一向に気にしない。
言いたいのなら、好きなだけ言わせてやればいいと思うから。
そこに恥ずかしさなんてない。
付き合っているんだから、むしろこんなことは当たり前だろう。

「あの……。香奈姉ちゃん」
「なに?」
「ホントに学校サボる気なの? 一応、連絡を入れておいた方がよくない?」

楓は、気まずそうな表情でそう言ってくる。
まぁ、無断で欠席するっていう形になるわけだからね。
楓の気持ちもわからないわけではないけど……。

「そうだね。やっぱり連絡くらいはしておこうかな。休むわけじゃないし……」

私は、制服のポケットからスマホを取り出した。
連絡先に学校は入っているから、できるならそうした方がいいだろう。
嘘をつくことには、なると思うけど。

とりあえず、学校に連絡をして『用事があって遅刻する』という旨を伝えた後、私はお手洗いに行き、そこで渋々ながら運動用のインナーを身につけた。
楓に抑えててもらえば解決することなんだけど、お店に入ることを考えたら、さすがにそんなことをさせられないと思い始めたのだ。
サイズ的にちょっときついけど、何も着けないよりはマシだ。
その時に外したブラジャーは、ブラ紐が切れているという見るも無惨な状態だった。

「そういう事だから。行こっか?」
「う、うん……」

楓の表情からは、緊張したような表情が垣間見える。
普段は、一人以外なら女の子同士で行くようなところだ。
だけど一緒に行くと決めた以上、変更はない。
私は、楓の手をギュッと握ると、そのまま歩き出した。
そろそろ、ランジェリーショップも開く頃だろう。
スマホで時間を確認すると、午前9時だ。
ここから下着を買って、学校に向かう頃には10時半くらいにはなっているだろう。
さっきも言ったとおり、学校を休むつもりはない。
あくまで『遅れる』だけだ。

ショッピングモールにあるランジェリーショップにたどり着くと、やはりというべきか、楓は店先の方で立ち止まる。
あきらかにそこに立ち入るのに躊躇してるのが、わかるくらいだ。

「何してるの? はやく入ろう」
「いや。でも……」
「そんな嫌そうな顔をしてもダメだよ。せっかくの下着選びなんだし。弟くんにも手伝ってもらうんだから」
「手伝うって……。僕にできることは何も……」
「いいから来なさい。弟くんは、結構センスが良いから、下着選びにも…ね。役に立つかもしれないし」

私は、そう言って楓を引っ張っていく。
中に入ると、さっそく女性店員さんがフレンドリーな笑顔でやってくる。
年の頃はだいたい20歳前半といったくらいだろうか。

「いらっしゃいませ。どうかなさいましたか?」
「あ、実は……」

私は、いきなり女性店員さんに話しかけられて言葉に詰まってしまう。
まさか急に話しかけてくるなんて思ってもみなかったのだ。
そんな私を見てちょうどいいと思ってなのか、楓は一歩後退りする。

「あ……。僕は、向こうで待ってるね」
「ダメだよ。そんなこと許さないんだから」

私は、楓を逃すまいと咄嗟に楓の手をギュッと握った。
これで逃げられないだろう。
女性店員さんは、楓がいることに違和感を感じたのかもしれない。
しかし楓がいなかったら、逆に萎縮してしまいそうだ。
私は、そうなる前にすぐさま女性店員さんにブラ紐の切れたブラジャーを鞄から取り出して、そのまま見せる。

「実は、学校に向かう途中でブラの紐が切れてしまって……。新しいのを買うつもりなんですが、サイズがいまいちわからなくて──」
「あらまあ。最近の子は、ずいぶんと……。わかりました。では、改めてサイズを測ってみましょう」

そう女性店員さんに促される。
女性店員さんは、とても落ち着いた様子だ。
私の方は、いきなりのことで戸惑ってしまう。

「あ、はい。わかりました」

そう言ってしまうっていうのは、私は結構流されやすいのかもしれない。
今までのサイズがダメになってしまったのだから、仕方ないのかもしれないが。

「それじゃ、僕は向こうで待ってるね」

楓は、安心したのかほっとした笑みを浮かべてそう言っていた。
楓のことを逃がす気はないと思いつつも、女性店員さんの笑顔を見ていたら、まずはそっちを優先した方がいいのかな。

「うん。絶対に待っててね。どこかに行ったらダメだからね」

私は、念を押すように楓にそう言っていた。
こうなってしまっては、仕方がない。
私は、女性店員さんに促されるまま試着室へと向かう。
試着室に着くと、女性店員さんはスカートのポケットからメジャーを取り出していた。

「それじゃ、サイズを測りますね」
「あ、はい」

私は、そう返事をして女性店員さんの言うとおりにする。
運動用のインナーは少しきつめにできているので、それを敢えて外して、背中を向けた。

「お願いします」
「では、失礼します」

女性店員さんは、そう言ってメジャーを私の胸に軽く巻いていき、サイズを合わせ始める。
なんか擽ったい感じだが、しばらくの我慢だ。
やっぱり女性店員さんにやってもらうと安心するな。
そういえば、サイズを測ってもらうのは久しぶりのような気がする。
やっぱり大きくなってるんだよね。
楓は、そんな大きくなった私の胸を抑えていたのか。

「あの男の子。あなたの彼氏さんなの?」
「え……」

ふいにそう聞かれ、私はつい女性店員さんに視線を向ける。
どうやら女性店員さんは、楓のことが気になるみたいだ。

「一緒に来たから、そうなんでしょ? 見たところ、男子校の生徒さんみたいだけど」
「あの……。弟くんは、その……」
「弟くんかぁ。なるほどね」

女性店員さんは、意味深な笑みを浮かべる。
私、女性店員さんに失礼なことを言っちゃったかな?

「あの……。私……」
「ごめんなさいね。男の子と一緒にこのお店に入ってきたから気になっただけよ。深い意味はないから安心して。ただ──」
「ただ? どうかしたんですか?」
「ううん、なんでもないわ。ああいうタイプの男の子は、すごく一途な性格してるから、大切にしなきゃダメかなって思ってね」

女性店員さんは、私のことを温かい目で見てきてそう言ってきた。
楓に限って二股とかは…まずないだろう。
例外はあるかもしれないけど、あったとしても負ける気はない。
そもそも、楓のことが好きな女の子は、私も把握しているし。

「やっぱり、わかっちゃいますか?」
「まぁ、見ていたらね。しっかりとあなたのことを待っているから、わかるわよ」
「そうですか。それなら、はやく下着を買わないとですね」

私は、誤魔化すように苦笑いをする。

「サイズは…70のEみたいね。これは、女子高生にしては結構大きめな感じね……。ちょっと羨ましいかも……。えっと……。と、とにかく。あなたが今まで着けてたブラジャーは、たぶん合わないと思うわ」

女性店員さんは、私のブラジャーを見てそう言っていた。
そのブラジャーでも充分に大きいサイズかと思うんだけど。
もう合わないのか……。
そうなると、買い替えないとダメかな。

「70のE…ですか。どうりで……」

恥ずかしい話、自分の胸のサイズについては、あんまり把握してなかったのだ。
今まで買った下着も、どちらかというと可愛さ重視だったし。
いつの間にか、そこまで大きくなっていたなんて……。
人から大きいとは言われていたけど、それをあまり誇張したことはなかっただけに、気分としては複雑である。
いざサイズを測ったらこれだし。
私は、なんてものを楓に抑えさせてたんだろう。
ちょっと反省かな。
とりあえず、私の財布の中には、新しい下着を2~3枚くらい買えるだけのお金はある。
私は、再び運動用のブラジャーを身につけた。
ちょっときついけど、我慢だ。

「どうしますか? 新しいものを買っていきますか?」
「はい。2~3枚ほど、お願いしたいです」
「かしこまりました。それでは、ご用意致しますね」
「あ……。どんなものがあるか、自分でも見てみたいです。…ダメですか?」
「いえ。大丈夫ですよ」
「ありがとうございます!」

私は、ハンガーに掛けてあったブラウスを着る。
女性店員さんは、黙って私のことを待っていた。
無事に着替えが終わると、すぐさま試着室から出て、そのまま女性店員さんと一緒に下着コーナーに向かっていく。
私の下着選びは、もう少し時間がかかりそうだ。
楓の方はというと、出入り口付近でジッと待っていた。
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