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第二十一話

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高校三年生になってからというもの、楓とのスキンシップがめっきり減った気がする。
楓は、相変わらず積極性がないし。
私を押し倒すくらいのことはやっても別に怒らないんだけどな。
こんな時は、黙って楓の部屋にいれば、寂しい気持ちもどこかに吹き飛ぶというものだ。

「ふぅ。いいお風呂だった」

私は、楓のベッドに横たわり、そう言っていた。
いつもどおり楓と一緒にお風呂に入った後、私はまっすぐに楓の部屋へとやってきたわけだけど。楓はキッチンの方に向かい、料理をし始めたのだ。
そういえば、帰ってきてから何も食べてなかったからね。
何かしら作っているのかもしれない。
ちなみに、私も何も食べていない。
そんな事を思ってしばらく待っていたら、楓が部屋に戻ってくる。作った料理を持ってきて──

「お待たせ。夕飯を作って持ってきたけど……。香奈姉ちゃんは、夕飯は食べた?」

楓は、私にそんな事を訊いてくる。
その時には、私はベッドから起き上がり、床に座っていた。
いつまでも楓のベッドで寝そべっていたい気持ちがあるが、なんだか楓に申し訳ないと思ったのだ。
先程も言ったとおり、もちろん夕飯は食べていないから、私は素直に答える。

「ううん。これからかな」
「それなら、ちょうどよかった。香奈姉ちゃんも一緒に食べよう」

楓は、笑顔でそう言ってくる。
私の分も考えてなのか、楓が作って持ってきた料理は、少し多めだった。
おにぎり4個と唐揚げだけだったが、唐揚げの量がハンパない。
唐揚げに関しては山盛りにしてあるくらい、多く作ったみたいだ。

「唐揚げ、たくさん作ったね」
「うん。朝に漬け込んでいた肉がたくさんあって」
「そうなんだ」

私は、微笑を浮かべて楓のことを見る。
基本、楓は料理を作る時、家族の分も作るから、みんなが食べられるように多く漬け込んでいたんだろう。
できるなら、私にも漬けダレの作り方を教えてほしいくらいだ。
私の唐揚げは、楓みたいに美味しくはできない。

「それじゃ、遠慮なく。いただきます」

私は、さっそくおにぎりを一口頬張る。
楓の手作りのおにぎりは、どのおにぎりよりも美味しい。
やっぱり楓の想いが詰まったおにぎりだから、余計に美味しく感じるのかもしれない。
楓も、私と同じタイミングでおにぎりを食べ始める。

「ねぇ、弟くん」
「ん? どうしたの?」
「食べ終わって一息吐いたらさ。私と『いい事』しない?」
「『いい事』って?」
「いつものスキンシップだよ。…いいでしょ?」
「それは……」
「嫌なの?」
「嫌ではないけど……。香奈姉ちゃんは大丈夫なの?」
「私なら大丈夫だよ。むしろ我慢してたくらいなんだから、このくらいの事は…ね。許してほしいな」

私は、そう言って身体をもじもじとさせて、楓のことを誘ってみる。
そんなことくらいで乗ってこないことはわかっている。
お風呂でも何もしてこなかったくらいだから、意志はかなり固いものと思う。
だけど私にとっては、もう我慢ができない。

「別にいいけど……。激しくしないなら」
「うん。もちろん!」

楓からそう言ってもらえると、嬉しいかも。
食べ終わってしばらくしたら、あんなことやこんなことをたくさんしてもらおう。
私は、お皿に山盛りにされた唐揚げを一つ食べた。
一口で食べるのは無理なので、二口にわけて食べたのだが。やっぱり美味しい。
私が作ってもこの味にはならないのが残念なくらいだ。

「楓が作った唐揚げ、ホントに美味しい。なんかコツでもあるの?」
「いや。特にはないよ。普通に作っているだけだよ」
「そうなの? 私はてっきり隠し味とかしてるのかなって……」
「隠し味か……」

楓は、呟くようにそう言って思案げに唐揚げを見つめる。
なにやら、考えている様子。
そんな様子を見ていたら、私には楓以外ありえないなとさえ思えてしまう。

「その顔は、『無し』っていう感じかな。ごめんね。楓が作る料理が美味しくてつい聞きたくなっちゃって──」
「そっか。僕は、個人的には香奈姉ちゃんが作る料理が一番好きなんだけど」
「え……。それって、どういう──」

私は、楓のことをまじまじと見てしまう。
告白なら何度もされてきてるのに、いざ目の前で言われてしまうとどうしてもドキドキしちゃって、うまく言葉が出てこない。
当の本人も、恥ずかしいのか赤面している。
そして、誤魔化すように言った。

「な、なんでもないよ。こっちの事──。はやく食べてしまおう」
「う、うん。そうね」

私も無理矢理に笑顔を浮かべて、二つ目の唐揚げに箸を伸ばした。
楓の言いたいことは、大体はわかってる。
こういうのは、楓が言いたい時に言わせてあげるのが一番だ。
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