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第十九話

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とりあえず、楓と会うのは次の日でいいと思い、私は自分の家に戻ってきた。
年越し蕎麦を食べている時にも、花音は何か言いたげに私のことを見てきたが、私は『我関せず』の態度で蕎麦を食べる。
それが気に入らなかったんだろう。
花音は、ムッとしたような表情で声をかけてくる。

「ねぇ、お姉ちゃん」
「なに?」
「楓たちと一緒に年越し蕎麦を食べなくて、ホントによかったの? 私的には、一緒に食べたかったんだけど……」
「大晦日くらいはね。楓たちだってゆっくりしたいだろうからね」
「だけどさ……」
「どうしたの? なにか心配事でもあるの?」
「心配事は、ないけど……」
「だったら、何も問題ないじゃない。あとは明日まで待てば大丈夫だよ」

私は、そう言っていた。
能天気と言われれば、そうかもしれない。

「やっぱり、初詣なの?」
「うん。バンドメンバーと約束したからね。こればっかりは、しょうがないよ」
「そっか……」

花音は、そう言ってうつむく。
花音の場合は、友達と一緒に行く約束をしてたから、別に気にする必要もないと思うんだけど。
楓が絡むと、なんでそうなるのかな。
悪いけど楓は、私のバンドの大事なメンバーだ。しかも貴重なベース担当である。
そんな人を誘わないわけがない。
もしかして、花音も同じことを考えていたのかな。

「花音は、友達と一緒に初詣に行くんだよね?」
「うん。そうだけど」
「もしかして、楓を誘おうと思ってたり?」
「それは……」

その顔はまさに図星だった。
やっぱり。
付き合っているわけでもないのに、どうして楓を誘おうとするんだろうか。

「はっきり言うけど、初詣の日は私が先だからね。絶対に楓を誘わないでよ」
「どうしても、ダメ?」

花音は、おねだりするかのように訊いてくる。
そんな風に聞かれても、ダメなものはダメだ。

「絶対にダメだよ!」
「お姉ちゃんは、いつでも楓のことを誘えるんだしさ。初詣くらい、いいでしょ?」
「初詣くらいって……。私は、いつものバンドメンバーと一緒に初詣に行くんだよ。二人っきりじゃないんだからね」
「そんなのわかってるよ。だけど……」

花音にとっては、色々と納得できないんだろうな。
でも楓を先に誘ったのは、私たちだ。
花音も、文句は言えないはず。

「はやく食べないと、蕎麦が美味しくなくなるよ」
「うん……」

花音は、不承不承といった様子で蕎麦を食べ始めた。
せっかくだから、お蕎麦を食べ終わったらお風呂に入っておこう。
一人でお風呂に入るのはなんだか寂しいけど、今日だけは仕方ないよね。

そして、迎えた元旦。
この日は、新年ということもあり特別な日だ。
特別な日だからこそ、こういう日は晴れ着で過ごすんだけど。
私は、着物の着付けをしっかりと行う。
一つ一つ丁寧にやらないといけないので大変だ。

「お姉ちゃん……」

そんな中、花音は今にも泣きそうな表情で私を見てくる。
よく見れば、着物の着付けがまだ途中なのか、あちらこちらではだけてしまっていた。
そんな状態を見て、何があったのかわからないほど鈍いわけではないんだけど、一応訊いてみる。

「どうしたの?」
「着付けがうまくいかなくて……」

花音は、涙混じりにそう言ってきた。
まぁ、そんなことだろうと思っていたけど。
着付けくらいは、自分でやってほしいな。
まだ中学生だから、しょうがないか。

「もう。しょうがないなぁ。どれどれ……。こっちを向きなさい」
「うん」

花音は、私に言われたとおりにこちらを向く。
途中までの着付けだから、最初からやり直さなきゃいけない。
私は、敢えて着物を脱がした。着物などを着る時、下着などは身につけていないから全裸のはずだ。
あ……。ショーツくらいは穿いていたか。
途端、花音のスレンダーな体が顕になる。
胸の成長については後2~3年くらいしたら大きくなると思う。たぶん。

「どうしたの? お姉ちゃん」
「ううん。なんでもないよ。さぁ、はやく着付けを終わらせよう」
「うん。ありがとう」

花音は、素直にお礼を言った。
こうして着物の着付けをするのは、もう慣れてしまったな。
私は花音のお母さんじゃないんだから、こういうのは自分でやってほしいんだけど。
そんな本音は、きっと花音には聞こえていないんだろう。
私は、丁寧に花音の着物の着付けを行なっていった。
なんだか着せ替え人形みたいで楽しいから、色んなことを試してみたくなるけど。
ここは敢えてやめておこう。
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