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第十八話
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数日後。
懸念していたとおり、香奈姉ちゃんがひいた風邪は、僕にも感染ってしまった。
恐る恐る体温計で測ってみたら、38.9℃もあった。
やけに体の倦怠感と頭痛がひどいわけだ。
香奈姉ちゃんの時も、きっとひどかったんだろうな。
こんな時は、どこにも行かずにゆっくりと休むのが一番だ。
「冬休み中でよかった」
僕は、一人そう言っていた。
でも、こういう時に必ずと言っていいくらいの確率でやってくるのが、香奈姉ちゃんだ。
「風邪をひいたってホントなの⁉︎」
香奈姉ちゃんは、すごく心配そうな表情で僕の傍に近寄ってくる。気のせいか、目には涙が浮かんでいた。
たぶん母さんから、おおよその事は聞いてきたんだろう。
「…見ての通りだよ」
僕は、香奈姉ちゃんにできる限りの微笑を浮かべる。
香奈姉ちゃんから感染った風邪だから、ぶり返すってことは万が一にもないんだろうけど、それでも心配しすぎだよ。
「大丈夫なの? 弟くん」
「大丈夫…とは言い難いかも……」
正直、僕の方も大丈夫だとは言えないかも。
とにかく、頭がガンガンして体具合も悪い。おまけに悪寒もする。
もしかして、香奈姉ちゃんの時よりも症状が重いのか?
──いや。
そんなことはないはずだ。
まだかろうじてだけど立って歩けるし。
「無理したらダメだよ。ちゃんとベッドで寝てなきゃ──」
「う、うん。わかってはいるんだけどね」
「全然わかってないでしょ! 弟くんは今、風邪をひいてしまってるんだよ。病人は、大人しくベッドで寝てなさい!」
そう言って、香奈姉ちゃんは僕の背を押してベッドに戻そうとする。
心配なのはわかるけど、香奈姉ちゃんにだってやる事があるはずだ。
僕に構っている暇はないと思うんだけど。
それに、普段は僕のことを『楓』って言うのに、『弟くん』って言うってことは、ホントは甘えたいし甘やかしたいんだろうな。
「いや、でも……。昼ごはんの支度をしないと……」
「そんなの、私がやってあげるから。弟くんは、寝てなさい」
お昼までにはまだ数時間あるんだけど、それでもある程度の事はやっておかないといけない。
そう思ったんだが、香奈姉ちゃんに却下されてしまう。
そうなると、仕方がない。
「香奈姉ちゃんが、そう言うのなら……」
「うんうん。素直でよろしい。今日は、たくさん『ご奉仕』してあげるからね」
「う、うん。ありがとう」
僕は、一応お礼を言う。
なんていうか、『看病』じゃなくて『ご奉仕』なんだ。
香奈姉ちゃんがそう言った時点で不安しかないんだが。
一体、何をするつもりなんだろう。
しばらくすると、一旦自分の家に帰っていった香奈姉ちゃんが僕の部屋に戻って来た。しかもメイド服姿でだ。ちなみに、スカートの丈はやはりと言うべきか短めである。
「お待たせ、弟くん。今日は、一生懸命ご奉仕させてもらうね」
香奈姉ちゃんの言動からは、迷いなど微塵も感じない。
今日一日、僕に『ご奉仕』するつもりなんだろう。
しかし、もう一つ気になることが──
香奈姉ちゃんの傍にいる、花音は何をするつもりなんだろう。
そう思った矢先、花音はふんっと鼻を鳴らし口を開いた。
「お、お待たせ、楓。せっかくだから、私もご奉仕してあげる。感謝しなさいよね」
その言動は、まさにツンデレが言うであろう台詞そのものだ。
今の僕の状況で、それは聞きたくなかったな。
花音の方も、いつどこで用意したのかわからないがメイド服姿だ。こちらもスカートの丈は短めだった。
ここまでくると、スカートから覗く素足がサービスなのかって聞きたくなるくらいだ。花音の方はニーソックスを履いてはいたが、香奈姉ちゃんの方はフリル付きの短いソックスだったため、若干細めの美脚を露わにしている。
どちらにしても、高熱を出して寝ている僕には、二人の服装に関しては、なんともできない。
花音も、僕に『ご奉仕』するつもりなんだろうけど大丈夫なのか?
「ありがとう、花音。香奈姉ちゃんも──」
「お礼は別にいいよ。私が風邪をひいた時に、いっぱいお世話になったから」
香奈姉ちゃんは、恥ずかしそうに頬を赤く染めてそう言った。
僕は、ふいにあの時のことを思い出してしまう。
あの時に見た香奈姉ちゃんの全裸……。風邪をひいていたせいか火照っていたけど、綺麗だったなぁ。
それにしても。
なんか二人とも、方向性がズレているような気がするんだけど。気のせいか。
「今日は、私がしっかりとお世話をしてあげるからね」
香奈姉ちゃんは、そう言って優しそうな笑顔を見せた。
もはや、不安しかないんだけど。
大丈夫なのかな。
この二人に任せても……。
なんにせよ、僕にできる事は何もない。
今日は、二人に任せてみるとしよう。
花音はともかく、香奈姉ちゃんなら、きっと大丈夫だと思うから。
案の定というべきか、昼食の時間になると香奈姉ちゃんがお昼ごはんを持ってきた。
「お昼ごはんを持ってきたよ。冷めないうちに食べようね」
盆に乗せて持ってきたものといえば、お粥以外にはないだろう。
若干、味噌の香りがするから、作ったのはおそらく卵を綴じた味噌粥だ。梅干しもある。
「お粥作りには、私も手伝ったのよ。だから不味くはないはずよ。感謝して食べなさいよね」
花音は、ツンッとした態度でそう言っていた。
しかし香奈姉ちゃんは、落ち着いた様子で花音に言う。
「違うでしょ、花音。これを食べさせる作法といえば、一つしかないでしょ」
「え……。まさか、ホントにあんなことをするつもりなの?」
「わざわざメイド服を着てきたのだから、当然やるでしょ。…ていうか、やるしかないでしょ」
「うぅ……」
花音は、香奈姉ちゃんには逆らえないのか言葉を詰まらせてしまう。
そんなに恥ずかしいと思うのなら、メイド服なんて着なければいいのに……。
どういう心境の変化なんだろう。
香奈姉ちゃんは、迷いなく器の傍にあるレンゲを手に取った。
ん?
どういうことだ?
レンゲが二つって……。
「さぁ、弟くん。そういうことだから、私が食べさせてあげるね」
「え、いや……。さすがにそれは……。自分で食べられるよ」
僕は、香奈姉ちゃんが手に取ったレンゲに手を伸ばす。
しかし香奈姉ちゃんは、僕からレンゲを遠ざける。
「遠慮しないの。これは私からのお礼なんだから──」
「でも……」
「私にあんなことをした以上、弟くんに拒否権なんて、ないんだからね。わかったら、じっとしていてね」
「………」
香奈姉ちゃんの言葉に、僕は黙ってしまう。
あの時は、ああするしかなかったんだけど。
どうやら香奈姉ちゃんには、忘れられなかった出来事のようだ。
もしかして、これって花音もするつもりなのか。
レンゲが二つあるってことは、そうなんだろうな。
「はい。あーんして」
香奈姉ちゃんは、レンゲでお粥を掬い、フーフーと息を吹きかけた後、僕に向けてくる。
「………」
断るわけにはいかない。
これは、僕に課せられた試練だ。
花音は、固唾を飲んで僕たちを見ているし。
僕は、覚悟を決めてゆっくりと口を開ける。
次の瞬間、レンゲは僕の口の中に入っていく。
なんか恥ずかしさで、お粥の味がよくわからなかった。
美味しいのはたしかなんだけど。
「どう? 美味しい?」
「うん。美味しいよ」
僕は、微笑を浮かべてそう答える。
そんな質問をされて、どんな返答をしろと?
たとえ味がわからなくとも、『美味しい』以外に答えられないよ。
「よかったぁ。弟くんの口に合って──。美味しくなかったら、どうしようかと思ったよ」
「そんな事は……。香奈姉ちゃんが作ってくれたものは、全部美味しいよ」
「そっか。お世辞でも嬉しいな……」
香奈姉ちゃんは、そう言って頬を赤く染める。
お世辞を言ったつもりはなく、本心でそう言ったんだけど……。まぁ、伝わっているのなら、どっちでも構わないか。
「ちょっと! 私も手伝ったんだけど」
花音は、不満げな表情でそう言ってくる。
「あ、そっか。花音も手伝ってくれたんだったね。ありがとう」
「ふんっ。わかればいいのよ」
別に忘れていたわけではないんだけどな。
どうにも、花音が相手だと調子が……。
香奈姉ちゃんは、そんな天邪鬼な花音を見てクスクスと笑う。
「うふふ。花音ったら──。照れちゃって。可愛いんだから」
「べ、別に照れてなんて……」
花音は、赤面してそう言った。
それが恥ずかしさのあまりのことなのは、一目瞭然だ。
「そう? それならいいんだけど」
「そ、そうよ。私は、お姉ちゃんとは違うんだから」
「だったら、今度は花音が弟くんに食べさせなさい」
「え⁉︎ ど、どうしてそうなるのよ!」
香奈姉ちゃんの提案に、花音はたじろいでしまう。
香奈姉ちゃんは、いつもと変わらない笑みを浮かべている。
「花音も、弟くんに食べさせるためにお粥作りを手伝ったんでしょ? それなら、花音にだってその権利はあるわよ」
「わ、私はその……。あうう……」
花音は、恥ずかしいのか僕から視線を逸らす。
香奈姉ちゃんは、そっと花音の肩に手を置いて言った。
「そんな恥ずかしがらずに…ね。花音もやってみよう」
「う、うん……」
花音は、恐る恐るといった感じでもう一つあるレンゲを手に取ってお粥を掬う。
「はい。楓。あーんして」
これも断ってはいけないんだよね。
僕は、花音の顔を見てドキドキしつつも口を開けた。
二人が作った味噌粥は、とても美味しかった。
懸念していたとおり、香奈姉ちゃんがひいた風邪は、僕にも感染ってしまった。
恐る恐る体温計で測ってみたら、38.9℃もあった。
やけに体の倦怠感と頭痛がひどいわけだ。
香奈姉ちゃんの時も、きっとひどかったんだろうな。
こんな時は、どこにも行かずにゆっくりと休むのが一番だ。
「冬休み中でよかった」
僕は、一人そう言っていた。
でも、こういう時に必ずと言っていいくらいの確率でやってくるのが、香奈姉ちゃんだ。
「風邪をひいたってホントなの⁉︎」
香奈姉ちゃんは、すごく心配そうな表情で僕の傍に近寄ってくる。気のせいか、目には涙が浮かんでいた。
たぶん母さんから、おおよその事は聞いてきたんだろう。
「…見ての通りだよ」
僕は、香奈姉ちゃんにできる限りの微笑を浮かべる。
香奈姉ちゃんから感染った風邪だから、ぶり返すってことは万が一にもないんだろうけど、それでも心配しすぎだよ。
「大丈夫なの? 弟くん」
「大丈夫…とは言い難いかも……」
正直、僕の方も大丈夫だとは言えないかも。
とにかく、頭がガンガンして体具合も悪い。おまけに悪寒もする。
もしかして、香奈姉ちゃんの時よりも症状が重いのか?
──いや。
そんなことはないはずだ。
まだかろうじてだけど立って歩けるし。
「無理したらダメだよ。ちゃんとベッドで寝てなきゃ──」
「う、うん。わかってはいるんだけどね」
「全然わかってないでしょ! 弟くんは今、風邪をひいてしまってるんだよ。病人は、大人しくベッドで寝てなさい!」
そう言って、香奈姉ちゃんは僕の背を押してベッドに戻そうとする。
心配なのはわかるけど、香奈姉ちゃんにだってやる事があるはずだ。
僕に構っている暇はないと思うんだけど。
それに、普段は僕のことを『楓』って言うのに、『弟くん』って言うってことは、ホントは甘えたいし甘やかしたいんだろうな。
「いや、でも……。昼ごはんの支度をしないと……」
「そんなの、私がやってあげるから。弟くんは、寝てなさい」
お昼までにはまだ数時間あるんだけど、それでもある程度の事はやっておかないといけない。
そう思ったんだが、香奈姉ちゃんに却下されてしまう。
そうなると、仕方がない。
「香奈姉ちゃんが、そう言うのなら……」
「うんうん。素直でよろしい。今日は、たくさん『ご奉仕』してあげるからね」
「う、うん。ありがとう」
僕は、一応お礼を言う。
なんていうか、『看病』じゃなくて『ご奉仕』なんだ。
香奈姉ちゃんがそう言った時点で不安しかないんだが。
一体、何をするつもりなんだろう。
しばらくすると、一旦自分の家に帰っていった香奈姉ちゃんが僕の部屋に戻って来た。しかもメイド服姿でだ。ちなみに、スカートの丈はやはりと言うべきか短めである。
「お待たせ、弟くん。今日は、一生懸命ご奉仕させてもらうね」
香奈姉ちゃんの言動からは、迷いなど微塵も感じない。
今日一日、僕に『ご奉仕』するつもりなんだろう。
しかし、もう一つ気になることが──
香奈姉ちゃんの傍にいる、花音は何をするつもりなんだろう。
そう思った矢先、花音はふんっと鼻を鳴らし口を開いた。
「お、お待たせ、楓。せっかくだから、私もご奉仕してあげる。感謝しなさいよね」
その言動は、まさにツンデレが言うであろう台詞そのものだ。
今の僕の状況で、それは聞きたくなかったな。
花音の方も、いつどこで用意したのかわからないがメイド服姿だ。こちらもスカートの丈は短めだった。
ここまでくると、スカートから覗く素足がサービスなのかって聞きたくなるくらいだ。花音の方はニーソックスを履いてはいたが、香奈姉ちゃんの方はフリル付きの短いソックスだったため、若干細めの美脚を露わにしている。
どちらにしても、高熱を出して寝ている僕には、二人の服装に関しては、なんともできない。
花音も、僕に『ご奉仕』するつもりなんだろうけど大丈夫なのか?
「ありがとう、花音。香奈姉ちゃんも──」
「お礼は別にいいよ。私が風邪をひいた時に、いっぱいお世話になったから」
香奈姉ちゃんは、恥ずかしそうに頬を赤く染めてそう言った。
僕は、ふいにあの時のことを思い出してしまう。
あの時に見た香奈姉ちゃんの全裸……。風邪をひいていたせいか火照っていたけど、綺麗だったなぁ。
それにしても。
なんか二人とも、方向性がズレているような気がするんだけど。気のせいか。
「今日は、私がしっかりとお世話をしてあげるからね」
香奈姉ちゃんは、そう言って優しそうな笑顔を見せた。
もはや、不安しかないんだけど。
大丈夫なのかな。
この二人に任せても……。
なんにせよ、僕にできる事は何もない。
今日は、二人に任せてみるとしよう。
花音はともかく、香奈姉ちゃんなら、きっと大丈夫だと思うから。
案の定というべきか、昼食の時間になると香奈姉ちゃんがお昼ごはんを持ってきた。
「お昼ごはんを持ってきたよ。冷めないうちに食べようね」
盆に乗せて持ってきたものといえば、お粥以外にはないだろう。
若干、味噌の香りがするから、作ったのはおそらく卵を綴じた味噌粥だ。梅干しもある。
「お粥作りには、私も手伝ったのよ。だから不味くはないはずよ。感謝して食べなさいよね」
花音は、ツンッとした態度でそう言っていた。
しかし香奈姉ちゃんは、落ち着いた様子で花音に言う。
「違うでしょ、花音。これを食べさせる作法といえば、一つしかないでしょ」
「え……。まさか、ホントにあんなことをするつもりなの?」
「わざわざメイド服を着てきたのだから、当然やるでしょ。…ていうか、やるしかないでしょ」
「うぅ……」
花音は、香奈姉ちゃんには逆らえないのか言葉を詰まらせてしまう。
そんなに恥ずかしいと思うのなら、メイド服なんて着なければいいのに……。
どういう心境の変化なんだろう。
香奈姉ちゃんは、迷いなく器の傍にあるレンゲを手に取った。
ん?
どういうことだ?
レンゲが二つって……。
「さぁ、弟くん。そういうことだから、私が食べさせてあげるね」
「え、いや……。さすがにそれは……。自分で食べられるよ」
僕は、香奈姉ちゃんが手に取ったレンゲに手を伸ばす。
しかし香奈姉ちゃんは、僕からレンゲを遠ざける。
「遠慮しないの。これは私からのお礼なんだから──」
「でも……」
「私にあんなことをした以上、弟くんに拒否権なんて、ないんだからね。わかったら、じっとしていてね」
「………」
香奈姉ちゃんの言葉に、僕は黙ってしまう。
あの時は、ああするしかなかったんだけど。
どうやら香奈姉ちゃんには、忘れられなかった出来事のようだ。
もしかして、これって花音もするつもりなのか。
レンゲが二つあるってことは、そうなんだろうな。
「はい。あーんして」
香奈姉ちゃんは、レンゲでお粥を掬い、フーフーと息を吹きかけた後、僕に向けてくる。
「………」
断るわけにはいかない。
これは、僕に課せられた試練だ。
花音は、固唾を飲んで僕たちを見ているし。
僕は、覚悟を決めてゆっくりと口を開ける。
次の瞬間、レンゲは僕の口の中に入っていく。
なんか恥ずかしさで、お粥の味がよくわからなかった。
美味しいのはたしかなんだけど。
「どう? 美味しい?」
「うん。美味しいよ」
僕は、微笑を浮かべてそう答える。
そんな質問をされて、どんな返答をしろと?
たとえ味がわからなくとも、『美味しい』以外に答えられないよ。
「よかったぁ。弟くんの口に合って──。美味しくなかったら、どうしようかと思ったよ」
「そんな事は……。香奈姉ちゃんが作ってくれたものは、全部美味しいよ」
「そっか。お世辞でも嬉しいな……」
香奈姉ちゃんは、そう言って頬を赤く染める。
お世辞を言ったつもりはなく、本心でそう言ったんだけど……。まぁ、伝わっているのなら、どっちでも構わないか。
「ちょっと! 私も手伝ったんだけど」
花音は、不満げな表情でそう言ってくる。
「あ、そっか。花音も手伝ってくれたんだったね。ありがとう」
「ふんっ。わかればいいのよ」
別に忘れていたわけではないんだけどな。
どうにも、花音が相手だと調子が……。
香奈姉ちゃんは、そんな天邪鬼な花音を見てクスクスと笑う。
「うふふ。花音ったら──。照れちゃって。可愛いんだから」
「べ、別に照れてなんて……」
花音は、赤面してそう言った。
それが恥ずかしさのあまりのことなのは、一目瞭然だ。
「そう? それならいいんだけど」
「そ、そうよ。私は、お姉ちゃんとは違うんだから」
「だったら、今度は花音が弟くんに食べさせなさい」
「え⁉︎ ど、どうしてそうなるのよ!」
香奈姉ちゃんの提案に、花音はたじろいでしまう。
香奈姉ちゃんは、いつもと変わらない笑みを浮かべている。
「花音も、弟くんに食べさせるためにお粥作りを手伝ったんでしょ? それなら、花音にだってその権利はあるわよ」
「わ、私はその……。あうう……」
花音は、恥ずかしいのか僕から視線を逸らす。
香奈姉ちゃんは、そっと花音の肩に手を置いて言った。
「そんな恥ずかしがらずに…ね。花音もやってみよう」
「う、うん……」
花音は、恐る恐るといった感じでもう一つあるレンゲを手に取ってお粥を掬う。
「はい。楓。あーんして」
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僕は、花音の顔を見てドキドキしつつも口を開けた。
二人が作った味噌粥は、とても美味しかった。
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