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第十八話

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二人が入っていったのは、ファミレスだった。
買い物がある程度終わったから、一旦休憩といったところだろうか。
とにかく。
このまま外で待つのは、寒くてきつい。
私は、ファミレスに向かおうとする。
しかし、古賀千聖にグイッと腕を掴まれて、引き止められた。

「ちょっと……。どうするつもりなんですか?」
「決まっているでしょ。中に入って、二人を観察するの」
「そんなことしたら……。完全にストーカーじゃないですか⁉︎」
「………」

なんて言ったらいいんだろうか。
まさか彼女から、そんな言葉が出てくるなんて思わなかったから、一瞬だけ思考がフリーズしてしまった。
それでも、思考が正常に戻るまでに、そんな時間はかからなかったけど。

「いや、ストーカーって……。あなたの口から、そんなことが言えるの? どう考えても、人のことは言えないよね」
「うっ……。それは……」

彼女も、自身のやっている事に多少なりとも自覚はあったんだろう。
私の言葉に反論できない様子だった。
私自身もここまでやってる以上、今さら引き下がるわけにはいかないし。

「とにかく。弟くんたちに気づかれないように中に入るわよ」
「う、うん」

古賀千聖は、不安そうな表情で私の後をついてくる。
仮に彼女一人だったら、どこまで追いかけるつもりだったんだろう。
聞きたい気もしたが、今はそんなことをする暇はない。

「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」

店員さんからそう言われ、私と古賀千聖は、楓たちが座っている場所から比較的近い場所の席に座る。
それでも、楓たちにバレないようにだが。
すると、楓たちの席の方から声が聞こえてきた。

「ねぇ、何にしよっか?」
「僕は、炒飯セットにしておこうかな」
「それを選ぶとは……。無難なセレクトですな」
「そんなことは……。ただ単に食べたかったから選んだだけで……」
「そっか。それじゃ、私は中華そばセットにしようかな」

美沙ちゃんは、そう言って呼び鈴を鳴らしていた様子である。店員さんが駆け寄っていったのがわかった。
さすがに何か頼まないと、店の人に失礼か。
そう思った私は、古賀千聖に視線を向けて訊いていた。

「私たちも、何か頼もうか?」
「奢ってくれるのなら、いいですよ」

彼女は、悪戯っぽい笑みをつくりそう言ってくる。
どうやら、そこまでのお小遣いは持っていないらしい。
私は、仕方ないと言わんばかりにため息を吐く。

「今回だけだよ。…だけど、そこまで高いものは無理だからね。そこのところは、わかってもらえるといいな」
「それじゃ、パスタ系にしておこうかな。これだと値段的にも安いし──」
「パスタ系か……。どれどれ……」

古賀千聖がそう言ったので、私もメニュー表を確認する。
ファミレスにパスタ系なんてあるのかとも思ったが、意外にもあった。
どれも、値段的には高いとも安いとも言い切れなかったが。
彼女の『安い』という定義は、どうなっているのか不思議だ。だけど──

「やっぱり、私もあなたと同じパスタ系にしておこうかな」
「それがいいですよ。量的にも、ちょうどいいし」

古賀千聖は、屈託のない笑みを浮かべてそう言った。
そこまで言われたら、頼まないわけにはいかないか。

「それじゃ、頼みましょうか?」
「オッケー」

私の言葉に古賀千聖はそう答え、テーブル席に置かれている呼び鈴を押した。
やっぱり、注文をするのは先輩である私がするべきなんだろうか。
う~ん……。
古賀千聖の食べたいパスタの種類が違うかもしれないし、自分の分しか注文はできないよ。
しばらくしないうちに、店員さんがやってくる。

「お待たせしました。ご注文は、何になさいますか?」

そう聞かれたが、私から言うのは彼女を迷わせてしまうと判断し、注文するのは彼女が頼んでからにした。
ちなみに、古賀千聖が注文したのはミートソースパスタで、私が注文したのはきのこの和風パスタだった。

私たちが注文してからしばらくしないうちに、楓の席の方から声が聞こえてくる。
美沙ちゃんが先に楓に声をかけたのだ。

「ねぇ、楓君。単刀直入に聞くけどさ。香奈と付き合っているみたいだけど、どこに惚れたの?」

美沙ちゃんの言葉に、私はドキンとなる。
私のどこに惚れたって言われて、楓は答えることができるのかな。
そもそもの話、私がいないと思われる時に、そんな話を振る方もどうかしてる。
でも楓の本心が聞けると思うとなんとも微妙だが、聞きたいような聞きたくないような、そんな複雑な気持ちになってしまう。
率直に言うと、私は楓のことが大好きだ。
だけど、楓は私のことをどんな風に思っているんだろう。
やっぱり、ただのお姉ちゃん的な存在なんだろうか。
まぁ、それでも構わないんだけど。

「香奈姉ちゃん…ですか? いきなりそんなこと言われてもな。幼馴染だから、お互いのことを見知っているし。その……」
「ふむふむ。頭が良くて美人で、さらには思いやりもある理想のお姉さんであると──」
「理想かどうかはわからないけど……。僕の大事な人なのは、たしかかな」
「そっか。それを聞いて安心したよ。…私もね。楓君のことを『弟』だと思っているからさ。私たち以外の他の女の子を好きになってほしくないんだ。できるなら、香奈のことを一途に想っていてほしいんだよ」
「美沙先輩」
「私のことは気にしなくていいからね。こうやって、気軽にデートできる間柄で充分に満足なんだ」

あきらかに美沙ちゃんが無理をしてるのはわかるのだが、だからといって何か言えるような空気でもない。
そうこうしているうちに、店員さんが楓たちの席に料理を持って行く。

「お待たせ致しました。炒飯セットのお客様は?」
「僕です」

楓は、手を上げて答える。
すると、楓の前に料理が運ばれた。
料理が運ばれたからといって、先に食べ始めるわけではない。
私は、楓の癖を知っているから言えることだけど、楓の場合、相手のことを想っているせいからか、相手が頼んだ料理が運ばれて食べ始めるまで、絶対に食べないのだ。
私とのデートの時でも、それが何度もあるのだから、間違いないと思う。
美沙ちゃんは、やはりそれが不思議に思ったのか、訊いていた。

「食べないの?」
「食べるけど……。美沙先輩が注文したものが来てからでもいいかなって思って……」
「そうなの? はっきり言っておくけど、シェアとかはしないからね」
「うん。わかってるよ。中華そばはさすがにシェアはできないでしょ」
「まぁ、そうだけど……」

美沙ちゃんは、楓の返答に釈然としてないようだ。
でも楓は、自身のところに運ばれてきた料理に手をつけることなく、美沙ちゃんを見ている。
不審に思った美沙ちゃんは、訝しげな表情を浮かべて言った。

「もしかして、誰かを待ってるの?」

そうじゃないんだけど。
これは楓の癖なんだけど。
それを理解するのは、なかなかむずかしいかもしれない。

「どうして?」
「楓君の仕草から──。誰かを待ってるのかなって思って……」
「誰も待ってないけど……」
「それじゃ、なんで食べないの? 料理が冷めちゃうよ」

美沙ちゃんは、至極真っ当なことを言ってるんだろうけど、それでも楓は食べようとはしないと思う。

「わかってはいるんだけどね。…なんとなく」

楓は、そう言っていた。
たぶん、気難しそうな表情を浮かべているんだと思う。

「料理は熱いうちに食べるのが──」

と、美沙ちゃんが何かを言いだす前に、美沙ちゃんが注文した料理が運ばれてきた。

「中華そばセットのお客様。お待たせ致しました」
「あ……。私です。ありがとうございます」

美沙ちゃんのところに、注文した料理が置かれる。
ちなみに、私たちが注文したものが来るのは、おそらくその後だろう。
注文したタイミングが、美沙ちゃんが頼んだ後だったからだ。
美沙ちゃんは、微笑を浮かべて楓に言っていた。

「さて。料理も来たみたいだし。食べよっか?」
「そうですね」

楓は、そう言って炒飯に視線を向ける。
少しだけ冷めてしまったみたいだが、楓にとっては美沙ちゃんが頼んだ料理を待つことくらい、なんてことないんだよな。
そうこうしてるうちに店員さんがやって来て、私たちが注文したきのこの和風パスタとミートソースパスタが運ばれてくる。

「私たちも、食べよっか?」
「そうですね」

古賀千聖は、緊張が解れたのか軽く息を吐いていた。
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