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第十七話

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今日は、クリスマスだ。
私は、予約していたクリスマスケーキを買いに行くために、先にショッピングモールへとやってきていた。
クリスマスパーティーは楓の家で催されるので、本来なら楓のことを待った方がいいんだろうけど、クリスマスムード一色に染まった街並みを見てみたくて、先にやってきていたのだ。

「キラキラしていて綺麗だなぁ。やっぱり、楓と一緒に来るべきだったかな」

私は、そう言って一人でショッピングモールの中を歩いていた。
一人でショッピングモールを歩いていると『不用心だよ』って奈緒ちゃんあたりからよく言われるけど、この日に限っては本当にそうかもしれない。
現に、向こうから数人の男性たちがやってくる。

「ねぇ、君。一人なの? よかったら、俺たちと一緒に遊びに行かない?」

数人の男性たちの一人が、フレンドリーな笑顔を浮かべてそう言ってきた。
私も一度だけ立ち止まってしまったのがいけなかったんだろう。
悪いけど、彼らと一緒に遊びに行く暇はない。

「あ……。あんなところにクレープ屋さんができたんだ。さっそく買ってみようっと──」

私は、毅然とした態度で彼らから視線を外し、歩き出す。
あくまでも無視を決めこめば、相手も諦めてくれるだろうと思ったのだ。
しかし彼らは諦めることなく、今度は目立つように私の前に立ちはだかった。

「無視しないでよ。俺たちは、君に話しかけているんだよ」
「すいません。急いでいるので──」

私は、事務的にそう言ってかき分けるようにして彼らを掻い潜ると、まっすぐにクレープ屋さんに向かう。

「ダメみたいだ……。もう行こうぜ」

一人は、もう諦めた様子だ。
私に声をかけてきた男性にそう言っていた。
しかし、男性は諦めたくないのか声を荒げる。

「あんな可愛い女の子を見て素通りなんてできるかよ! 俺は諦めないぜ」
「だけどよ。俺たちのことなんか見てないって感じだぜ。そんな子をナンパなんてできないぞ」
「いいから、見てろって──。あのさ。よかったら、俺たちと一緒に──」

と、再び駆け寄ってきて声をかけようとしてきた。
しかし、ある人物の登場でそれは遮られてしまう。

「こんにちは、西田先輩」
「ん?」

私は、声をかけてきたその人物に視線を向ける。
言うまでもなく、その人物は楓じゃない。
彼は、たしか楓の友達の風見慎吾だ。

「今日は、一人ですか? 周防は一緒じゃないんですか?」
「風見君じゃない。今日は、一体どうしたの?」
「ちょっとね。クリスマスケーキを買いに……」

私が聞き返すと、風見君はバツが悪そうにそう答える。
男がクリスマスケーキを買いにいくっていうのは、やっぱり恥ずかしいみたいだ。

「ちっ! 彼氏と待ち合わせだったのかよ! めんどくせえ……」

なんにせよ、ナンパしてきた男性たちは、風見君の姿を見て都合が悪くなったのか、諦めてこの場から去っていった。どうやら、私の彼氏と思ったらしい。
私は、内心でホッと一息吐き、笑顔で風見君を見る。

「そっか。実は、私も同じなんだ。クリスマスケーキを買いに…ね」
「もしかして、周防に頼まれたとか?」
「うん。まぁ、それもあるんだけど。クリスマス当日の街並みを見てみたくなってね。なんとなく来ちゃったんだ」
「そうなんですか。できたら俺も、西田先輩に付き合ってあげたいですけど、家にいる妹に急かされてるもんだから……。この辺で失礼しますね」
「うん。気をつけてね」
「それじゃ。周防によろしく伝えておいてください」

そう言うと風見君は、そそくさとケーキ屋の方へと向かっていった。
やっぱり、妹さんを待たせるわけにはいかないんだろうな。
こればかりは、仕方がない。
とにかく、ナンパしてきた男性たちを追い払ってくれたことに対しては、感謝しておこう。
私は、どうしようかな。もう少し、この辺りを歩いてみようかな。
そういえば、ショッピングモールに一人で来るなんて事はなかったから、ちょうどいいかもしれない。
そう思って、歩き出した矢先──

「香奈姉ちゃん」

と、後ろから聞き覚えのある人物から声をかけられて、私は足を止める。
声がした方を振り返ると、そこには楓がいた。
楓は、いつもの優しそうな表情を浮かべて私のところにやってくる。

「よかった。…なんとか間に合った」
「楓。…それで、花音に何を頼まれたの?」

私は、楓の顔を見てそう訊いていた。
楓の顔を見る限りだと、何かを頼まれたっぽい感じなのだけど……。どうだろう。
その通りだったのか、楓は苦笑いをして言った。

「うん。ケーキを買いに行くついでに、ジュースを買ってきてって頼まれてさ……」
「何よそれ? ジュースなら、用意してるはずだよね」
「うん。まぁ、そうなんだけど。お気に入りのジュースが無かったみたい。…とりあえずケーキを買う前に、コンビニ辺りにでも行ってみようか?」
「うん。そうだね」

私は、楓の腕にしがみつくように腕を絡める。
こうすれば、ナンパされることはないだろう。たぶん……。
しかし楓は、あまりに急な事に驚いていたみたいだ。

「ちょっ……⁉︎ 香奈姉ちゃん」
「このくらい。クリスマスなんだし、いいじゃない」
「え、でも……」
「楓は、お姉ちゃんのこと嫌いなの?」
「嫌いじゃないけど……」
「だったら、いいよね?」
「う、うん」

私の言葉に、楓はなんとか頷いてみせた。
本当は『お姉ちゃん』じゃなくて、『恋人』として私のことを見てほしいんだけど。
これ以上は、私のわがままになるので言わないでおく。
──それにしても。
花音ったら、楓にそんな頼み事をしたのか。
まったく。横着なんだから。

その後、楓の家でのクリスマスパーティーは、滞りなく催された。
楓と一緒に帰ったので、花音から色々と言われたが、やましいことは何もない。
私と楓の仲は、誰になんて言われようとも、いつまでも変わらないんだから。
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