上 下
192 / 359
第十七話

1

しおりを挟む
あたしには、人を好きになる資格はない。
そう思えてしまうのは、あたしは卑怯者だからだ。
卑怯者だと思いつつも、あたしは彼に初めて恋愛感情を抱いている。
自分では恋愛をするつもりはないって周りに言っておきながら、ちゃっかりと自分の恋愛を進めようとしてるのは、卑怯以外の何者でもないだろう。
その相手は、よりにもよって香奈が好きになった人なのだから。
香奈からは、それに対して一言だけ言われたことがある。たしか──

『もし奈緒ちゃんが、私が好きになった人の事を好きになったら、その時はどっちがその人の心を射止めることができるか勝負しようよ。奈緒ちゃんになら、万が一にでも負けてもいいから』

だったかな。
あたしが卑怯者だということもわかっていて、敢えて勝負をしてきたんだと思う。
勝負と言うからには、あたしは負けるつもりはない。
あたしも、全力で彼にアプローチをしようと思う。
何しろ、あたしの勝負下着を二枚もあげちゃったのだから。

問題なのは、彼にはあたしに対しての好意が見えてこないところだ。
こうして会っても、彼は普段どおりの笑顔を向けてくる。

「おはようございます。奈緒さん」
「うん。おはよう、楓君」

あたしは、いつもどおりに挨拶をした。
あたしの方が先輩なのに、彼を見るとなぜか安心する自分がいる。不思議だな。
季節は、冬だ。
雪こそは降っていないが、それなりに寒い。
あたしたちや彼の制服は、冬の装いになっている。
それでもスカートの丈は短いので、脚から冷えてくるけど。

「今日も、相変わらず綺麗ですね」
「そう? 普段と変わらないと思うけど……」
「そんなことないですよ。奈緒さんは、充分女の子らしくて可愛いです」
「なんか照れるな。そんなこと言われても、何もでないよ」

そう言って微笑を浮かべていると、傍にいた香奈が不機嫌そうな表情になる。

「やっぱり仲がいいんだね。二人とも──」
「それは……。奈緒さんは、香奈姉ちゃんの親友だから──」
「私の親友だから…か。もう、そんなの関係ないんじゃない?」
「そんなことないよ。香奈姉ちゃんと一緒のバンドじゃなかったら、奈緒さんとは出会えなかったし」
「それには、あたしも同意見かな」

香奈が、彼をバンドに誘わなかったら、あたしは彼には出会えなかっただろうと思う。

「そっかそっか。私がいなかったら、奈緒ちゃんは楓には会えていなかったか。それなら、よかったよ」

香奈は、なぜか上機嫌な様子でそう言った。
そりゃあ、香奈にとって彼は大事な存在だから、自慢したい気持ちも出てくるか。
──まったく。
香奈はどこまで計算しているんだろう。

「もしかして、楓君のことをあたしに自慢したかったのかな?」
「自慢だなんて……。そんなこと考えたこともなかったけど……」
「そっか。それならいいんだけど」

あたしは、香奈の言葉を聞いて安堵の息を吐く。
自慢したいわけじゃないことは、よくわかった。
だから、香奈のことを嫌いになれないんだけど。
やっぱりあたしも彼のことが好きなんだ。
香奈にとって彼の存在は、『弟』であると同時に『一人の男の子』なんだろう。
あたしも、彼のことをそう思っているから、間違いはない。
あたしは、彼の傍に寄り添うとそのまま腕を絡ませた。

「え……。奈緒さん」

彼は、キョトンとした表情であたしを見てくる。
そんな彼に、あたしは微笑を浮かべて、言った。

「あたしからのアプローチだよ」
「えっと……」

彼ったら、あきらかに緊張してるし。
すると近くにいた香奈が、彼のもう片方の腕にギュッとしがみついてくる。

「奈緒ちゃんったら、ずるい! 私も──」

そんなこと言われてもな。
香奈が先に挑発してきたんだけど。
でもまぁ、こういうのも悪くはないか。
一人で学校に登校していた時に比べると、あたしも大分、丸くなったと思う。
香奈と出会う前のあたしは、刺々しかったと思えるくらいに人に冷たかった。
人に関心がないと言われれば、それまでになるけど。
きっと香奈たちや彼との出会いは、あたしにとって意味のあることなんだろう。
バンドを組もうって香奈に言われた時は、さすがのあたしもびっくりしたけど、なんだかんだで楽しんでいる。

「楓君のことを狙っているのは、あたしだけじゃないからね。気をつけないとね」
「それは……」

香奈のその顔を見る限りでは、心当たりがあるみたいだ。
誰なのかはわからないけど、彼を狙っている女の子はきっと可愛いんだろうな。
あたしたちは、いつもどおりに学校に向かって歩いていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

クラスの双子と家族になりました。~俺のタメにハーレム作るとか言ってるんだがどうすればいい?~

いーじーしっくす
恋愛
ハーレムなんて物語の中の事。自分なんかには関係ないと思っていた──。 橋本悠聖は普通のちょっとポジティブな陰キャ。彼女は欲しいけど自ら動くことはなかった。だがある日、一人の美少女からの告白で今まで自分が想定した人生とは大きくかわっていく事になった。 悠聖に告白してきた美少女である【中村雪花】。彼女がした告白は嘘のもので、父親の再婚を止めるために付き合っているフリをしているだけの約束…の、はずだった。だが、だんだん彼に心惹かれて付き合ってるフリだけじゃ我慢できなくなっていく。 互いに近づく二人の心の距離。更には過去に接点のあった雪花の双子の姉である【中村紗雪】の急接近。冷たかったハズの実の妹の【奈々】の危険な誘惑。幼い頃に結婚の約束をした従姉妹でもある【睦月】も強引に迫り、デパートで助けた銀髪の少女【エレナ】までもが好意を示し始める。 そんな彼女達の歪んだ共通点はただ1つ。 手段を問わず彼を幸せにすること。 その為だけに彼女達は周りの事など気にせずに自分の全てをかけてぶつかっていく! 選べなければ全員受け入れちゃえばいいじゃない! 真のハーレムストーリー開幕! この作品はカクヨム等でも公開しております。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...