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第十七話
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あたしには、人を好きになる資格はない。
そう思えてしまうのは、あたしは卑怯者だからだ。
卑怯者だと思いつつも、あたしは彼に初めて恋愛感情を抱いている。
自分では恋愛をするつもりはないって周りに言っておきながら、ちゃっかりと自分の恋愛を進めようとしてるのは、卑怯以外の何者でもないだろう。
その相手は、よりにもよって香奈が好きになった人なのだから。
香奈からは、それに対して一言だけ言われたことがある。たしか──
『もし奈緒ちゃんが、私が好きになった人の事を好きになったら、その時はどっちがその人の心を射止めることができるか勝負しようよ。奈緒ちゃんになら、万が一にでも負けてもいいから』
だったかな。
あたしが卑怯者だということもわかっていて、敢えて勝負をしてきたんだと思う。
勝負と言うからには、あたしは負けるつもりはない。
あたしも、全力で彼にアプローチをしようと思う。
何しろ、あたしの勝負下着を二枚もあげちゃったのだから。
問題なのは、彼にはあたしに対しての好意が見えてこないところだ。
こうして会っても、彼は普段どおりの笑顔を向けてくる。
「おはようございます。奈緒さん」
「うん。おはよう、楓君」
あたしは、いつもどおりに挨拶をした。
あたしの方が先輩なのに、彼を見るとなぜか安心する自分がいる。不思議だな。
季節は、冬だ。
雪こそは降っていないが、それなりに寒い。
あたしたちや彼の制服は、冬の装いになっている。
それでもスカートの丈は短いので、脚から冷えてくるけど。
「今日も、相変わらず綺麗ですね」
「そう? 普段と変わらないと思うけど……」
「そんなことないですよ。奈緒さんは、充分女の子らしくて可愛いです」
「なんか照れるな。そんなこと言われても、何もでないよ」
そう言って微笑を浮かべていると、傍にいた香奈が不機嫌そうな表情になる。
「やっぱり仲がいいんだね。二人とも──」
「それは……。奈緒さんは、香奈姉ちゃんの親友だから──」
「私の親友だから…か。もう、そんなの関係ないんじゃない?」
「そんなことないよ。香奈姉ちゃんと一緒のバンドじゃなかったら、奈緒さんとは出会えなかったし」
「それには、あたしも同意見かな」
香奈が、彼をバンドに誘わなかったら、あたしは彼には出会えなかっただろうと思う。
「そっかそっか。私がいなかったら、奈緒ちゃんは楓には会えていなかったか。それなら、よかったよ」
香奈は、なぜか上機嫌な様子でそう言った。
そりゃあ、香奈にとって彼は大事な存在だから、自慢したい気持ちも出てくるか。
──まったく。
香奈はどこまで計算しているんだろう。
「もしかして、楓君のことをあたしに自慢したかったのかな?」
「自慢だなんて……。そんなこと考えたこともなかったけど……」
「そっか。それならいいんだけど」
あたしは、香奈の言葉を聞いて安堵の息を吐く。
自慢したいわけじゃないことは、よくわかった。
だから、香奈のことを嫌いになれないんだけど。
やっぱりあたしも彼のことが好きなんだ。
香奈にとって彼の存在は、『弟』であると同時に『一人の男の子』なんだろう。
あたしも、彼のことをそう思っているから、間違いはない。
あたしは、彼の傍に寄り添うとそのまま腕を絡ませた。
「え……。奈緒さん」
彼は、キョトンとした表情であたしを見てくる。
そんな彼に、あたしは微笑を浮かべて、言った。
「あたしからのアプローチだよ」
「えっと……」
彼ったら、あきらかに緊張してるし。
すると近くにいた香奈が、彼のもう片方の腕にギュッとしがみついてくる。
「奈緒ちゃんったら、ずるい! 私も──」
そんなこと言われてもな。
香奈が先に挑発してきたんだけど。
でもまぁ、こういうのも悪くはないか。
一人で学校に登校していた時に比べると、あたしも大分、丸くなったと思う。
香奈と出会う前のあたしは、刺々しかったと思えるくらいに人に冷たかった。
人に関心がないと言われれば、それまでになるけど。
きっと香奈たちや彼との出会いは、あたしにとって意味のあることなんだろう。
バンドを組もうって香奈に言われた時は、さすがのあたしもびっくりしたけど、なんだかんだで楽しんでいる。
「楓君のことを狙っているのは、あたしだけじゃないからね。気をつけないとね」
「それは……」
香奈のその顔を見る限りでは、心当たりがあるみたいだ。
誰なのかはわからないけど、彼を狙っている女の子はきっと可愛いんだろうな。
あたしたちは、いつもどおりに学校に向かって歩いていった。
そう思えてしまうのは、あたしは卑怯者だからだ。
卑怯者だと思いつつも、あたしは彼に初めて恋愛感情を抱いている。
自分では恋愛をするつもりはないって周りに言っておきながら、ちゃっかりと自分の恋愛を進めようとしてるのは、卑怯以外の何者でもないだろう。
その相手は、よりにもよって香奈が好きになった人なのだから。
香奈からは、それに対して一言だけ言われたことがある。たしか──
『もし奈緒ちゃんが、私が好きになった人の事を好きになったら、その時はどっちがその人の心を射止めることができるか勝負しようよ。奈緒ちゃんになら、万が一にでも負けてもいいから』
だったかな。
あたしが卑怯者だということもわかっていて、敢えて勝負をしてきたんだと思う。
勝負と言うからには、あたしは負けるつもりはない。
あたしも、全力で彼にアプローチをしようと思う。
何しろ、あたしの勝負下着を二枚もあげちゃったのだから。
問題なのは、彼にはあたしに対しての好意が見えてこないところだ。
こうして会っても、彼は普段どおりの笑顔を向けてくる。
「おはようございます。奈緒さん」
「うん。おはよう、楓君」
あたしは、いつもどおりに挨拶をした。
あたしの方が先輩なのに、彼を見るとなぜか安心する自分がいる。不思議だな。
季節は、冬だ。
雪こそは降っていないが、それなりに寒い。
あたしたちや彼の制服は、冬の装いになっている。
それでもスカートの丈は短いので、脚から冷えてくるけど。
「今日も、相変わらず綺麗ですね」
「そう? 普段と変わらないと思うけど……」
「そんなことないですよ。奈緒さんは、充分女の子らしくて可愛いです」
「なんか照れるな。そんなこと言われても、何もでないよ」
そう言って微笑を浮かべていると、傍にいた香奈が不機嫌そうな表情になる。
「やっぱり仲がいいんだね。二人とも──」
「それは……。奈緒さんは、香奈姉ちゃんの親友だから──」
「私の親友だから…か。もう、そんなの関係ないんじゃない?」
「そんなことないよ。香奈姉ちゃんと一緒のバンドじゃなかったら、奈緒さんとは出会えなかったし」
「それには、あたしも同意見かな」
香奈が、彼をバンドに誘わなかったら、あたしは彼には出会えなかっただろうと思う。
「そっかそっか。私がいなかったら、奈緒ちゃんは楓には会えていなかったか。それなら、よかったよ」
香奈は、なぜか上機嫌な様子でそう言った。
そりゃあ、香奈にとって彼は大事な存在だから、自慢したい気持ちも出てくるか。
──まったく。
香奈はどこまで計算しているんだろう。
「もしかして、楓君のことをあたしに自慢したかったのかな?」
「自慢だなんて……。そんなこと考えたこともなかったけど……」
「そっか。それならいいんだけど」
あたしは、香奈の言葉を聞いて安堵の息を吐く。
自慢したいわけじゃないことは、よくわかった。
だから、香奈のことを嫌いになれないんだけど。
やっぱりあたしも彼のことが好きなんだ。
香奈にとって彼の存在は、『弟』であると同時に『一人の男の子』なんだろう。
あたしも、彼のことをそう思っているから、間違いはない。
あたしは、彼の傍に寄り添うとそのまま腕を絡ませた。
「え……。奈緒さん」
彼は、キョトンとした表情であたしを見てくる。
そんな彼に、あたしは微笑を浮かべて、言った。
「あたしからのアプローチだよ」
「えっと……」
彼ったら、あきらかに緊張してるし。
すると近くにいた香奈が、彼のもう片方の腕にギュッとしがみついてくる。
「奈緒ちゃんったら、ずるい! 私も──」
そんなこと言われてもな。
香奈が先に挑発してきたんだけど。
でもまぁ、こういうのも悪くはないか。
一人で学校に登校していた時に比べると、あたしも大分、丸くなったと思う。
香奈と出会う前のあたしは、刺々しかったと思えるくらいに人に冷たかった。
人に関心がないと言われれば、それまでになるけど。
きっと香奈たちや彼との出会いは、あたしにとって意味のあることなんだろう。
バンドを組もうって香奈に言われた時は、さすがのあたしもびっくりしたけど、なんだかんだで楽しんでいる。
「楓君のことを狙っているのは、あたしだけじゃないからね。気をつけないとね」
「それは……」
香奈のその顔を見る限りでは、心当たりがあるみたいだ。
誰なのかはわからないけど、彼を狙っている女の子はきっと可愛いんだろうな。
あたしたちは、いつもどおりに学校に向かって歩いていった。
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