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第十五話
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今日の夕飯は、唐揚げらしい。
昨日の夜あたりから醤油ダレに漬けてあったであろう鶏肉を冷蔵庫の中から出したので間違いない。
楓の作る唐揚げって、ホントに美味しいんだよなぁ。
漬けてある特製の醤油ダレが肉に染みていて、それがまたたまらないのだ。
「今日の夕飯は何かな?」
「今日は、唐揚げだよ」
確認のために訊くと、楓は得意げな感じでそう答える。
あ……。やっぱりそうだよね。
お昼のお弁当に入れていたのは、味見の意味もあったみたいだから。
ちなみに、唐揚げの味付けについては、私は知らない。
楓が教えてくれないのだ。
「そっか。それは、楽しみだな」
私は、笑顔でそう言った。
教えてくれないものは、しょうがない。
それなら、私は私で、楓にも作れないもので対抗するしかないのだから。
まぁ、私が作る料理のほとんどは、楓にも作れてしまうからどうしようもないんだけど……。
楓は、そんな私の心情など知ってか知らずか嬉しそうに言う。
「香奈姉ちゃんは、唐揚げが大好物だもんね」
「うん! 楓が作る唐揚げは、特にも好きなんだ!」
私は、笑顔を浮かべたままでそう言った。
そんな私を見て、楓はよほど嬉しかったのだろう。
こんなことを言った。
「僕の作る唐揚げで良ければ、いくらでも作ってあげるよ。味付けは教えられないけれど」
「ありがとう。そういうことなら、お言葉に甘えようかな」
私の言葉に、楓は笑顔になる。
楓が嬉しいのなら、それでもいいか。
ホントは、唐揚げの味付けのレシピを知りたいんだけど。
料理が出来上がり、テーブルに並べられたタイミングで隆一さんがやってくる。
「おお! 今日は、唐揚げか。これはまた美味そうだな」
「食べるのは、もう少しだけ待ってね。…花音も呼ぶから」
楓は、そう言ってスマホを取り出し、花音に連絡し始めた。
「わかった」
隆一さんも、さすがに先に食べる勇気はなかったのか、そう言って居間の方のソファーに向かっていく。
キッチンにおいての支配権は、圧倒的に楓や楓のお母さんが上だ。
だからキッチンにいる楓には、いくら隆一さんといえども逆らえない。
楓が花音に連絡した後、しばらくしないうちに家の呼び鈴が鳴った。
「来てくれたか」
「私が行ってくるよ」
「あ、うん。お願い」
楓の代わりに、私が玄関まで行く。
玄関のドアを開けると、花音の姿があった。
隆一さんと楓がいるせいか、すっかりおめかししちゃってるし。
水色のノースリーブに黒のミニスカートの姿は、いつもよりも可愛く見えた。
私なんか、まだ白のブラウスに制服のスカートのままなのに……。
「あ、お姉ちゃん」
「みんな待ってるよ。今日は、楓の手作りの夕飯だよ」
「うん、知ってる。楓から連絡があったから」
花音は、無表情でそう言って中に入る。
無表情でいても、楓に呼ばれたのがよほど嬉しかったんだろう。
花音は、軽やかな足取りで居間へと向かっていく。
──やばい。
なんか可愛い。
花音の嬉しさがこっちにまで伝わってくるんだけど。
とりあえず、花音が来てくれたから夕飯には遅れずにすみそうだ。
私は、微笑を浮かべていた。
楓が作ってくれた唐揚げは、まさに絶品だった。
特製の醤油ダレが効いた外側の衣と中から溢れ出る肉汁が相まって、文句のつけようがないほどだ。
お昼のお弁当の時は、鳩中さんに奪われてしまって食べそびれてしまったが、夕飯に食べられるのなら文句はない。
隆一さんも花音も、よほど楓の手作りの唐揚げが気に入ったのか、美味しそうに食べている。
「やっぱ、楓が作った唐揚げはサイコーだな」
「うん。お姉ちゃんでも、この唐揚げは作れないよね」
花音は、唐揚げを食べながら私の方に視線を向けた。
私は、ムスッとした表情になり口を開く。
「悪かったわね。どうせ私の夕飯なんて、オリジナリティのかけらもないようなどこにでもあるようなものよ」
「いやいや。香奈の料理だって、充分に美味いと思うぞ」
隆一さんは、唐揚げを美味しそうに頬張りながらそう言った。
「それ、絶対に褒めてないでしょ?」
そんな隆一さんを見て、私はさらに不機嫌になる。
たしかに料理という分野なら、私は確実に楓に劣っていると思う。
それは素直に認めてもいい。
隆一さんは、私のことを宥めようとしてきた。
「そんなことないぞ。香奈の料理には、楓にはないものがあるし」
「たとえば、何?」
私は、わざと首を傾げて訊いてみる。
楓にもできない料理って言ったら何だろう?
あまり想像できないことだけに、こっちが疑問になる。
「それは……」
隆一さんも思い浮かばないのか、言葉を詰まらせてしまう。
「やっぱり答えられないんじゃない! ──もう! お世辞とかを言うなら、何かしらの褒め言葉を一緒に言わないとダメなんだからね」
「すまん……」
隆一さんは、素直に謝った。
たしかに、得意な料理が特に思い浮かばないのが私の弱点だ。
楓みたいに『これ!』という料理がない私には、楓に追いつけないのかもしれない。
さっきから私の話を聞いていた楓は、微笑を浮かべている。
楓のその表情を見ていたら、なんだかムッとしちゃう。
「何よ、楓。楓も、何かお世辞でも言うつもりなの?」
「香奈姉ちゃんの料理は基本に忠実だから、僕が調理中に何かを忘れかけた時に、料理の基本を思い出させてくれるんだよね」
「………」
楓の言葉に、私は何も言えなくなってしまった。
そっか。そういうことか。
私の料理って、たしかに何の特徴もないようなものばかりだ。
だけどそれって、基本に沿った料理になるから、楓にとってはプラスになるんだね。
それに、お弁当交換をする相手は、いつも私だ。
「どうしたの、香奈姉ちゃん? 唐揚げ、不味かったかな?」
楓は、心配そうな表情で訊いてくる。
そんな顔をしなくても、大丈夫なのに。楓の手作りの唐揚げは美味しいよ。
「ううん。そんなことないよ。楓の作った唐揚げはとても美味しいよ。…ただ、私も何か新しい料理でも作ってみようかなって……」
私は、そう言って唐揚げを一口食べる。ちなみにこれで三つ目だ。
普通なら、そろそろ飽きが来てもおかしくないのに……。
やっぱり飽きがこない味付けだ。
これなら鳩中さんのみならず、私だって教わりたいくらいである。
「新しい料理か……。いいんじゃないかな。香奈姉ちゃんなら、きっと美味しいものができるよ」
楓は、唐揚げを一口食べながらそう言った。
ちなみに楓の得意料理は唐揚げだけじゃない。
他にもちゃんとした料理が作れてしまう。
いつかは楓を越えたいって思うくらいだ。
「うん! ちゃんとしたものができたら、楓に食べさせてあげるね」
私は、笑顔を浮かべてそう言った。
私しかできない料理か。
どんな料理があるだろう。
傍でご飯を食べてた隆一さんが
「なぁ、俺には?」
て言ってくるが、それに対しては私は答える事はできなかった。
昨日の夜あたりから醤油ダレに漬けてあったであろう鶏肉を冷蔵庫の中から出したので間違いない。
楓の作る唐揚げって、ホントに美味しいんだよなぁ。
漬けてある特製の醤油ダレが肉に染みていて、それがまたたまらないのだ。
「今日の夕飯は何かな?」
「今日は、唐揚げだよ」
確認のために訊くと、楓は得意げな感じでそう答える。
あ……。やっぱりそうだよね。
お昼のお弁当に入れていたのは、味見の意味もあったみたいだから。
ちなみに、唐揚げの味付けについては、私は知らない。
楓が教えてくれないのだ。
「そっか。それは、楽しみだな」
私は、笑顔でそう言った。
教えてくれないものは、しょうがない。
それなら、私は私で、楓にも作れないもので対抗するしかないのだから。
まぁ、私が作る料理のほとんどは、楓にも作れてしまうからどうしようもないんだけど……。
楓は、そんな私の心情など知ってか知らずか嬉しそうに言う。
「香奈姉ちゃんは、唐揚げが大好物だもんね」
「うん! 楓が作る唐揚げは、特にも好きなんだ!」
私は、笑顔を浮かべたままでそう言った。
そんな私を見て、楓はよほど嬉しかったのだろう。
こんなことを言った。
「僕の作る唐揚げで良ければ、いくらでも作ってあげるよ。味付けは教えられないけれど」
「ありがとう。そういうことなら、お言葉に甘えようかな」
私の言葉に、楓は笑顔になる。
楓が嬉しいのなら、それでもいいか。
ホントは、唐揚げの味付けのレシピを知りたいんだけど。
料理が出来上がり、テーブルに並べられたタイミングで隆一さんがやってくる。
「おお! 今日は、唐揚げか。これはまた美味そうだな」
「食べるのは、もう少しだけ待ってね。…花音も呼ぶから」
楓は、そう言ってスマホを取り出し、花音に連絡し始めた。
「わかった」
隆一さんも、さすがに先に食べる勇気はなかったのか、そう言って居間の方のソファーに向かっていく。
キッチンにおいての支配権は、圧倒的に楓や楓のお母さんが上だ。
だからキッチンにいる楓には、いくら隆一さんといえども逆らえない。
楓が花音に連絡した後、しばらくしないうちに家の呼び鈴が鳴った。
「来てくれたか」
「私が行ってくるよ」
「あ、うん。お願い」
楓の代わりに、私が玄関まで行く。
玄関のドアを開けると、花音の姿があった。
隆一さんと楓がいるせいか、すっかりおめかししちゃってるし。
水色のノースリーブに黒のミニスカートの姿は、いつもよりも可愛く見えた。
私なんか、まだ白のブラウスに制服のスカートのままなのに……。
「あ、お姉ちゃん」
「みんな待ってるよ。今日は、楓の手作りの夕飯だよ」
「うん、知ってる。楓から連絡があったから」
花音は、無表情でそう言って中に入る。
無表情でいても、楓に呼ばれたのがよほど嬉しかったんだろう。
花音は、軽やかな足取りで居間へと向かっていく。
──やばい。
なんか可愛い。
花音の嬉しさがこっちにまで伝わってくるんだけど。
とりあえず、花音が来てくれたから夕飯には遅れずにすみそうだ。
私は、微笑を浮かべていた。
楓が作ってくれた唐揚げは、まさに絶品だった。
特製の醤油ダレが効いた外側の衣と中から溢れ出る肉汁が相まって、文句のつけようがないほどだ。
お昼のお弁当の時は、鳩中さんに奪われてしまって食べそびれてしまったが、夕飯に食べられるのなら文句はない。
隆一さんも花音も、よほど楓の手作りの唐揚げが気に入ったのか、美味しそうに食べている。
「やっぱ、楓が作った唐揚げはサイコーだな」
「うん。お姉ちゃんでも、この唐揚げは作れないよね」
花音は、唐揚げを食べながら私の方に視線を向けた。
私は、ムスッとした表情になり口を開く。
「悪かったわね。どうせ私の夕飯なんて、オリジナリティのかけらもないようなどこにでもあるようなものよ」
「いやいや。香奈の料理だって、充分に美味いと思うぞ」
隆一さんは、唐揚げを美味しそうに頬張りながらそう言った。
「それ、絶対に褒めてないでしょ?」
そんな隆一さんを見て、私はさらに不機嫌になる。
たしかに料理という分野なら、私は確実に楓に劣っていると思う。
それは素直に認めてもいい。
隆一さんは、私のことを宥めようとしてきた。
「そんなことないぞ。香奈の料理には、楓にはないものがあるし」
「たとえば、何?」
私は、わざと首を傾げて訊いてみる。
楓にもできない料理って言ったら何だろう?
あまり想像できないことだけに、こっちが疑問になる。
「それは……」
隆一さんも思い浮かばないのか、言葉を詰まらせてしまう。
「やっぱり答えられないんじゃない! ──もう! お世辞とかを言うなら、何かしらの褒め言葉を一緒に言わないとダメなんだからね」
「すまん……」
隆一さんは、素直に謝った。
たしかに、得意な料理が特に思い浮かばないのが私の弱点だ。
楓みたいに『これ!』という料理がない私には、楓に追いつけないのかもしれない。
さっきから私の話を聞いていた楓は、微笑を浮かべている。
楓のその表情を見ていたら、なんだかムッとしちゃう。
「何よ、楓。楓も、何かお世辞でも言うつもりなの?」
「香奈姉ちゃんの料理は基本に忠実だから、僕が調理中に何かを忘れかけた時に、料理の基本を思い出させてくれるんだよね」
「………」
楓の言葉に、私は何も言えなくなってしまった。
そっか。そういうことか。
私の料理って、たしかに何の特徴もないようなものばかりだ。
だけどそれって、基本に沿った料理になるから、楓にとってはプラスになるんだね。
それに、お弁当交換をする相手は、いつも私だ。
「どうしたの、香奈姉ちゃん? 唐揚げ、不味かったかな?」
楓は、心配そうな表情で訊いてくる。
そんな顔をしなくても、大丈夫なのに。楓の手作りの唐揚げは美味しいよ。
「ううん。そんなことないよ。楓の作った唐揚げはとても美味しいよ。…ただ、私も何か新しい料理でも作ってみようかなって……」
私は、そう言って唐揚げを一口食べる。ちなみにこれで三つ目だ。
普通なら、そろそろ飽きが来てもおかしくないのに……。
やっぱり飽きがこない味付けだ。
これなら鳩中さんのみならず、私だって教わりたいくらいである。
「新しい料理か……。いいんじゃないかな。香奈姉ちゃんなら、きっと美味しいものができるよ」
楓は、唐揚げを一口食べながらそう言った。
ちなみに楓の得意料理は唐揚げだけじゃない。
他にもちゃんとした料理が作れてしまう。
いつかは楓を越えたいって思うくらいだ。
「うん! ちゃんとしたものができたら、楓に食べさせてあげるね」
私は、笑顔を浮かべてそう言った。
私しかできない料理か。
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