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第十四話

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──朝。
私は、楓を起こさないようにそっとベッドから抜け出すと、着ていた寝間着をその場で脱いだ。
私は寝る時に下着などは一切着用しないので、寝間着を脱ぐと完全に全裸になる。
私は、そのままの格好で窓の前に行き、カーテンを開けた。
途端、気持ちがいいほどの朝日が差し込んでくる。
全身に朝日を浴びるのは、やっぱり気持ちがいい。
母からはよく

『盗撮される危険があるからやめなさい』

とか言われてしまうけど、やっぱりこれはやめられない。
私は、自然体が一番好きなのだから。

「う、う~ん……」

しばらくそうしていると、私のベッドから楓の声が聞こえてくる。
これは、もう少しで起きるよっていうサインかな。
もう少しだけ朝日を浴びたかったけど、これ以上は無理か。仕方ない。
私は、軽快な足取りで下着類が入っているタンスのある方に行き、下着類を取り出した。
今日は、せっかくだから可愛いのにしよう。
そう思い、ピンク色の下着を選んだけど。楓は気に入ってくれるかな。
私は、わざとゆっくりとした動作で下着を着用し始めた。
楓になら、見られても平気だと思ったんだけど……。
しかし楓は、まったく起きる様子はなかった。

楓が起きた時には、私は制服に着替えていた時だった。
楓は、ゆっくりとベッドから起き上がり挨拶をしてくる。

「おはよう、香奈姉ちゃん。今日も、早いね」
「おはよう、楓。私のベッドの寝心地は、どうだった?」

私は、微笑を浮かべ制服のスカートを直す。
スカートが短いから、ちょっと裾が翻っただけでも、下着が見えてしまうのがこの制服の欠点だ。
まぁ、女子しかいないから、そんなに気にはならないけれど。

「あ、いや、その……」

楓は、慌てた様子で起き上がりベッドから出る。
あんなに安眠してたら、怒る気はないんだけどね。

「楓ったら、とっても気持ちよさそうに眠っていたけど。普段は、そんなに眠れていなかったの?」
「いや……。そんなことはないけど……」
「そっか。それじゃ、私のおっぱいに顔を埋めて眠っていたのって、何なのかな?」

私は、胸元に手を添えてそう言っていた。
私のおっぱいに顔を埋めてきたのに、気持ちよくなかったっていうのは、なんか割に合わない。
私なりのご奉仕のつもりなのに……。

「え⁉︎ 僕、そんなことしてた?」

楓は、驚いた様子でそう訊いていた。
私は、楓の顔にそっと手を添えて言う。

「寝てるときの楓は、結構、大胆なことをしてきたんだけどなぁ。それに──」
「それに?」

楓は、思案げな表情で私を見てくる。
どうやら楓は、真夜中にどんなことをしてきたかわかっていないらしい。
わかっていないのなら、仕方ない。

「やっぱり、や~めた。楓には、言わない」

私は、悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。
恥ずかしさをそれで隠さないと、楓の顔をまともに見れる気がしなかったのだ。
そのままキスしてあげようかなって思ったけど、楓のそんな顔を見ていたら、それをするのも憚られるような気もするし。
楓は、呆然とした表情を浮かべて自分の頭をボリボリと掻いていた。

花音は、観察するような視線で私たちを見ていた。
中学生の制服は、セーラー服になっており、紺のスカートは若干短めだ。
だけど花音は、それを見事に着こなしている。
服装の乱れはどこにもない。
さすが風紀委員長と言ったところか。

「ねぇ、楓」
「何?」

楓は、緊張した面持ちで花音を見る。
見てわかるとおり、花音は真面目で気難しい性格をしているため、何を言われてしまうかわからないのだ。
普段どおりにしていても、花音は絶対に何かを言ってくる。
今回は、楓に何を言うつもりなんだろうか。
さすがの私も、緊張しちゃうよ。
花音は、口を開く。

「制服の襟元が緩んでるよ。そんなんでも、私より年上なんだから、しっかりしてよね」
「あ、うん。ありがとう」

楓は、お礼を言うと襟元を直し始めた。
なんだ、そんなことか。
私は、内心でホッと一息吐く。
花音は、頬を赤く染めて楓のことを見ている。
楓に恋心を抱いたらダメだって、あれほど言ったのに……。
奈緒ちゃんだけじゃなく、花音まで楓のことを狙っているのか。
これは、ジッとしていられないな。
ちゃんと楓のことを見張っていないと。

登校する時間になり、いつもどおりに家を出ようと玄関先に行くと、そこには花音が立っていて、私たちを待っていた様だった。

「あれ? 先に行ったんじゃないの?」

玄関先に立っている花音にそう言ったのは、楓だ。
楓は、思案げな表情で花音を見ている。
それについては、私も同感だった。
花音は、さっさと朝食を食べ終えて、先に玄関に向かっていったはずだ。
てっきり、先に家を出たものと考えていたのだが。
たしかに私の家から中学校までは、そんなに距離はない。
だから、多少遅れていったとしても、遅刻はしないはずだ。
花音は、楓の腕にしがみついてきて、言った。

「途中まででいいから、一緒に行こう」

花音のこの言葉に対して、私と楓は呆然となり

「「え?」」

と声をもらす。
私も、いきなりのことに思考の処理が追いつかない。
花音は、そんな楓を見てチャンスと思ったのか、そのまま腕を引っ張ろうとする。

「楓は、途中まで私と一緒に学校に行くの。…別にいいでしょ?」
「ちょっと待って。何で、僕が花音と一緒に行かないといけないの? 今までは、一人で学校に行ってたよね?」

楓は、焦り気味にそう言っていた。
楓の言葉だけでは押しが弱いので、私もすかさず花音に言う。

「そ、そうだよ。楓は、私と一緒に学校に行くの! 花音には、友達だっているでしょ? なにも、無理して楓と学校に行く必要はないんだよ」
「無理なんてしてないもん! お姉ちゃんこそ、無理してるんじゃないの?」

花音は、私に対抗するようにしてそう言ってくる。
別に無理なんてしてないんだけどなぁ。
そう言っても、花音は腕を離しそうにないし。
さて、どうしたものか。
そうやって悩んでいると、楓が口を開く。

「それなら花音の言うとおり、途中まで一緒に行こうか?」
「さすが楓。物わかりがいいじゃない」

花音は、嬉しそうな表情になる。
私は楓に近づいて、花音に聞こえないように耳元で言った。

「ちょっと、楓。…いいの? 遅刻したりしない?」
「今日くらい、遅刻したって大丈夫だよ。それよりも、花音が不機嫌になると、さすがの僕でも手がつけられなくなるから、そっちの方が後々深刻になってくると思うんだ」
「それも、そうだけど……」
「だから、今日くらいは…ね」
「楓がそういうのなら、仕方ないか……」

私は、軽くため息を吐く。
仕方ないから、今日くらいは花音に付き合ってあげようかな。
花音は、楓の腕を引っ張り、そのまま外に出る。

「そういうことだから、途中まで一緒に行こう」
「うん。…途中までだよ」

楓は、微笑を浮かべてそう言っていた。
花音がこういう行動にでるのには、必ず裏がある。
私と楓との仲を引き裂こうとしてるのは、花音の行動を見ればまるわかりだし。
だからといって、花音を諌めることもできない。
今の私にできるのは、なるべく楓と一緒にいることくらいだ。
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