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第十四話

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何の用件もなく私が花音の部屋にいかないのと同じように、花音自身も私の部屋に来ることはない。
別に姉妹仲が悪いわけじゃないんだけど、趣味や特技が異なるので話の話題がかみ合わないのだ。

「あの……。香奈姉ちゃん。僕、ホントに家に帰らないと……」
「ん? 何か言ったかな?」

何か言おうとしてる楓に、私は笑顔で訊いていた。
今日は、絶対に家になんて帰さないんだから。
楓は、白旗でもあげたかのようにがっくりと肩を落とす。

「何でもないです……」
「そうだよね。何でもないよね」

私は、迷いなく楓に抱きつく。
これで今日も、堂々と楓とイチャイチャできる。
楓が望めば、あんなことやこんなことだって──。
私ってホント、エッチな女の子だよね。
そんなことを考えながら楓に抱きついているといきなり部屋のドアが開いた。
開けたのは言うまでもなく花音だ。
何の用件もなしに、私の部屋には来ないはず。
一体、何の用件で私の部屋に来たんだろう。
花音は、無言で私たちの方に来たかと思うと、いきなり傍にいる楓の傍に寄り添ってきた。
表情はいつものツンとした様子である。

「ちょっと、花音。何しに来たのかな?」

私は、引きつったような笑顔を浮かべてそう訊いていた。
花音は、さも当たり前と言ったような表情で答える。

「イチャイチャしに来たんだけど。何か文句でもある?」
「いやいや。ここは私の部屋だよ。花音が来ていい理由にはならないかと思うんだけど──」
「だったら、私が楓を連れていってもいいよね?」
「いや、ダメに決まってるでしょ! それに花音には、隆一さんという素敵な男の人がいるでしょう。無理して楓にこだわらなくても、いいじゃない」

そう言って私は、楓の体を抱き寄せた。
すると花音は、負けじと楓の腕を引っ張る。

「隆兄ちゃんは、その……。普段、こんなことしてくれないし……」
「だからといって、楓に寄り添っても何の解決にもならないじゃない。それに花音は、楓のことが嫌いなんでしょ?」
「……じゃない」
「聞こえないよ。はっきりと言いなさい」
「嫌いなんかじゃない! ただ……」

楓のことが嫌いではないってことは、好きってことなのかな。
それじゃ、花音が楓に対して取ってた態度って……。
私は、押し黙ってしまった花音の方を見て、言った。

「実は花音も、楓のことが好きだったとか?」
「違う! そうじゃなくって……。これは違うもん! 恋心なんかじゃないもん!」

花音は頬を赤く染めてそう言って、楓の腕にギュッとしがみつく。
その姿は、他の女の子に大好きな彼を取られまいとしている恋する女の子のそれだ。
これって、花音が素直になりきれてないだけで、ホントは楓に好意を抱いているんじゃないのかな。
もしそうだとしたら、妹の花音が一番のライバルになってしまう。

「そ、そうだよね。花音はずっと、隆一さんのことをカッコいいって言ってたものね。楓に恋心なんか持たないよね」
「それが、最近わからなくって……」
「わからないって、何が?」
「楓のことを想ったら、胸がドキドキしちゃって……。大嫌いなはずなのに、何故か意識しちゃって……」

花音は、胸元に手を添える。
それって、完全に楓に対する恋心だよ。
え……。花音は楓のことを軽蔑視してたんじゃないの⁉︎
まさかこれが好き避けってやつなのか。
ダメだ。楓は、私の恋人だよ。
こんなことで花音にとられてたまるか。
私は、再び楓を抱き寄せる。

「楓に恋心を抱くのだけは、絶対にダメだよ! 楓は、私の恋人なんだから!」
「そんなの……。お姉ちゃんが勝手に楓のことを好きになったってだけじゃん。私が、誰を好きになろうが勝手じゃん。…ね。楓」

花音はそう言うと立ち上がり、不敵な笑顔を浮かべて楓の目の前に行く。

「え……。花音? 何を?」

楓は、思案げな表情を浮かべて花音のことを見上げる。
花音は、何を思ったのか着ていた上着を脱ぎ始めた。
いきなりの花音の行動に、私と楓は呆然となってしまう。
脱いだ上着の下はシャツを着ていないため裸だ。そのため、下着姿の花音の姿がそのまま映る。

「隆兄ちゃんは、私のことを相手にしてくれないんだよね。…だけど楓なら、そんなことないよね?」

花音は、その場にしゃがみ込み、そのまま楓に抱きついた。
しかもそれは、私が楓の傍にいてもお構いなしにだ。
楓は思わず私の方を見てきたが、私にはどうにもならない。
花音がやり始めたことだし。
楓も仕方ないと思ったんだろう。
花音を優しく抱きしめて、諭すように言った。

「まぁ、兄貴は中学生の女の子を相手にすることはないからね。…仕方ないんじゃないかな」
「楓は、どうなの? 私みたいな女の子は嫌かな?」
「嫌ではないけど……。僕が付き合っているのは、香奈姉ちゃんとだから。花音と付き合うのは無理かも」

楓は、微苦笑してそう答える。
一つ年下とはいえ、中学生と付き合うのは楓にも抵抗があるみたいだ。

「あっそ。それなら、無理矢理にでも私に振り向かせればいいんだね。まぁ、そういうのは得意だから」
「あのね、花音。人の気持ちっていうのは、そんな簡単なものなんかじゃないんだよ」

私は、助言した方がいいかなと思い、口を開く。

「わかってるよ、そんなこと。楓がお姉ちゃんとお付き合いをしてる時点で、そういうことが難しいことくらいはね。だからこそ、攻略し甲斐があるんじゃない」

花音は、自信ありげな笑みを浮かべてそう言った。
どうやら、花音は楓のことを諦めるつもりはないみたいだ。
あれだけ楓のことを軽蔑視していたのに、どういう風の吹き回しだろう。
まさか本気で、楓のことを狙ってるのかな。
私の妹ながら、花音の真意がわからない。
私は、花音にはっきりと言った。

「──とにかく。私が楓と別れるっていう選択肢はないからね」
「………」

花音は、何を思ったのかはわからないが、ジーッと私のことを見てくる。
その目は、何かを企んでいるときの目だ。
──まったく。
悪巧みだけは、思いつくんだから。

まさか花音が楓に好意を持ってたなんて思わなかったな。
楓に対してあまりにも素っ気ない態度を取っていたから、嫌っていたものとばかり思っていたんだけど。
私は、傍で寝ている楓の寝顔を見て、表情を綻ばせる。
ただでさえ楓は、女の子にモテるからなぁ。
ここは、私がしっかりとしなければ。
そう決心すると、私は、寝ている楓を優しく抱きしめていた。
こうすると、なんだか心が落ち着くからだ。
楓はどうなんだろう。
私と一緒にいても、大丈夫なのかな?
ちょっとだけ不安になるな。
楓は、嫌がる様子もなく私のことを抱きしめ返してくる。
ホントは起きているのかなとも思ったが、そんな様子はない。
むしろ私のおっぱいに顔を埋めてきて、スースーと寝息を立てている。
私は口元に笑みを作り、楓の頭を撫でてあげた。
そんな時だった。

「大好きだよ……。香奈姉ちゃん……」

楓は、嬉しそうな表情を浮かべてそんな寝言を言う。
私は一瞬だけキョトンとなってしまい、撫でていた手が止まってしまった。
寝ているくせに何を言い出すかと思ったら。
そんなことを──。

「──もう。楓ったら……」

途端に、笑いが溢れる。
寝ている時は、ホントに素直なんだから。
起きてる時も、そのくらい素直ならいいのに。
私は、再び楓の頭を撫でていた。
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