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第十三話
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楓の家に戻ってきたのは、午後の三時くらいだった。
楓と街の中をひとしきり歩きまわり、買い物などを楽しんだ後、私たちは予定通りに帰ってきたんだけど。
思った以上に、帰ってきたのが早かった。
もう少し遅くなってもよかったんだけど、街中でナンパされてしまったのが原因で、早く帰ることにしたのだ。
アレさえなかったら、もう少しゆっくりしていたんだけどな。
こればっかりは、しょうがない。
まぁ、せっかく帰ってきたんだし、今から楓に勉強を教えてもいいだろうな。
夕飯作りには、まだちょっと早いし。
楓は、ひとしきり居間を見渡し、私に訊いてくる。
「どうしようか? 香奈姉ちゃん」
「そうねぇ……。それじゃ、約束通り勉強を教えてあげようか」
「ホント? いいの?」
「そのくらい、別にいいよ。その代わり、マンツーマンだから厳しくいくよ。泣き言なんて許さないんだからね──」
いつになくいい提案だと思うな。
後は、楓がなんて答えるかだけど。
「そんな……。できるなら、優しく教えてほしいな」
「ダメだよ。そんな事したら、楓は私に甘えちゃうでしょ」
「甘えるだなんてそんな……。勉強は真面目にやるつもりだよ」
「うん。だから私が、それを厳しくチェックしてあげる」
「なんだか楽しんでない? 香奈姉ちゃん……」
「そんなことないよ」
そう言い合いながら、私たちは楓の部屋へと向かっていく。
楓の学校の成績は中の上くらいだと聞いたことがある。
将来的には、私と同じ大学に行くんだから、楓にはもう少し頑張ってほしいものだ。
私は、人に勉強を教えるってことはあまりしない。
今回は特別だ。
「ここは、こうするんだよ」
「そっか。なるほど……」
私が例題に出した問題を解いていくと、楓は納得したように頷き、問題を解いていく。
楓との何気ない勉強時間だけど、デートってこうしている間も継続してるんだよね。
どんな形でだっていい。
楓と一緒にいられるのなら、私はすごく満足だ。
「そういえば、香奈姉ちゃんさ」
楓は、何かを思い出したかのように口を開いた。
ここにきても、まだ私のことを『香奈姉ちゃん』と呼んでしまうんだ。
小さい頃からそう呼んでいたから、呼び慣れてしまったんだね。
それなら、さっきも言ったとおり、楓が私のことを『香奈』って呼ぶまで、楓の身体に私のぬくもりを覚えさせて、わからせてあげようかな。
私は、そうした気持ちをグッと押し殺して聞き返す。
「どうしたの?」
「今日は、いつもよりスキンシップが控えめだったけど。何かあったの?」
楓は、ノートに問題と答えを書きながら、そう訊いてきた。
控えめだったかな。
スキンシップ……。
私としては、普通に接したつもりなんだけど。
「別に何もないよ。いつもどおりだと思うけど」
「そう。それならいいんだけどさ」
そう言うと楓は、安心したかのように微笑を浮かべていた。
楓ったら、なんだかんだ言って私の愛情がほしいのかな。
それならそうと、はやく言ってほしいものだ。
「もしかして、私のぬくもりがほしいの?」
「い…いや、そんなことは…ない…けど……」
楓は、あきらかに動揺した様子で私から視線を逸らしそう言った。
これは、確実にほしいって言ってるようなものだ。
──まったく。
楓ったら。しょうがないな。
私は、楓の傍に寄り添うと、そのまま腕を絡めた。
「しょうがないなぁ、楓は。ほしいのなら、後でいくらでもしてあげるよ」
「僕は、別にしてほしいわけじゃなくて……」
そんな顔を真っ赤にして言われてもね。
まったく説得力がないよ。
やっぱり、そういうところが男の子なんだよなぁ。
──台所にて。
楓と料理を作っていると、楓の母が台所に入ってきた。
「あら、香奈ちゃん。今日も来てたのね。嬉しいわ」
「こんにちは」
私は、楓のお母さんに挨拶をする。
仕事帰りなのか、しっかりした服装だった。
楓のお母さんは、私のことをよっぽど気に入っているのか、私の姿を見ると嬉しそうな顔をするのだ。
まるで、実の娘を見ているかのように。
今もそうだ。
二人で料理を作っていると、楓のお母さんは微笑を浮かべて言ってきた。
「なんだか二人を見ていると、本当に恋人同士みたいね。相性もバッチリっていうか」
「そんな風に見えちゃいますか?」
「側から見たら、十分にそう見えるわよ。二人で分担して料理してる姿を見せられたらね」
楓のお母さんにそう言われると、なんだかニヤけてしまうな。
「なんか、嬉しいな」
「いっその事、ウチの娘にしちゃいたいくらいだよ」
「それは……。近い将来、きっとそうなるかなぁって」
私は、楓の方をチラッと見てそう言った。
楓のお母さんは、嬉しそうな表情になる。
「そうかい。それなら言うことなしだね。実は、西田さんのお母さんには、もう話は通してるんだよ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。楓か隆一のどちらかが、香奈ちゃんをお嫁さんにするからってね」
「お嫁さんだなんて……。気が早いです」
私的には、楓のお嫁さんがいいな。
ホントに気が早いけど。
「そうかねぇ。ちょうどいい頃合いだと思うんだけどねぇ」
「今はまだ、お付き合いをさせてもらってる段階でして……。そんな事までは考えてないです」
「そうなの? 残念ねぇ」
楓のお母さんは、気落ちした様子でそう言う。
たしかに恋人同士として楓と付き合っているけど、正直まだ結婚とかは考えてない。
とりあえず私は、大学に行って自分の夢を叶えるためにもっと勉強したいと思っている。
だから高校を卒業したら、家を出るつもりだ。
それは、楓も同じ。
一年遅れるけど、楓も私と一緒に夢を叶えるために家を出て勉強するんだろうと思う。
その時は、私と一緒の場所で暮らしていくつもり。
「そういえば、香奈姉ちゃんはやりたい事があるんだよね?」
楓は、微笑を浮かべてそう訊いてくる。
楓には、私のやりたいことは話してあるから、安心なんだけどね。
「うん。だけどそれは、楓が一緒でないと意味がないんだ」
「そうなんだ。…だったら、僕も頑張らないとな」
そうそう。
その調子だよ。
楓が頑張ってくれないと、意味がないことなんだ。
楓のお母さんは、微笑を浮かべて言った。
「なんにせよ。二人とも、無理はしないでよ」
「はーい」
そう答えると私は、料理を続ける。
楓のお母さんは、料理をしている私たちを見て、思案げに首を傾げた。
「ところで、何を作っているの?」
「鯖の味噌煮だよ。冷蔵庫の中に鯖があったから、食べたいなって思って」
楓は、調理をしながら素直にそう答える。
下ごしらえはできてるから、後は煮付けをするだけだ。
楓が作ったものだから、味も問題ないと思う。
私は何を作っているのかというと、味噌汁だ。
楓のお母さんは、調理中の楓の傍に来て、料理の出来具合を確認する。
「そう。それなら、後はみんなで食べるだけね」
「はい」
楓のお母さんの言葉に、私はそう返事をした。
──それにしても。
楓の料理の腕は、さらに上がっているんじゃないだろうか。
だとしたら、私も負けてはいられないな。
私は、調理に集中している楓を見て、そう思った。
楓と街の中をひとしきり歩きまわり、買い物などを楽しんだ後、私たちは予定通りに帰ってきたんだけど。
思った以上に、帰ってきたのが早かった。
もう少し遅くなってもよかったんだけど、街中でナンパされてしまったのが原因で、早く帰ることにしたのだ。
アレさえなかったら、もう少しゆっくりしていたんだけどな。
こればっかりは、しょうがない。
まぁ、せっかく帰ってきたんだし、今から楓に勉強を教えてもいいだろうな。
夕飯作りには、まだちょっと早いし。
楓は、ひとしきり居間を見渡し、私に訊いてくる。
「どうしようか? 香奈姉ちゃん」
「そうねぇ……。それじゃ、約束通り勉強を教えてあげようか」
「ホント? いいの?」
「そのくらい、別にいいよ。その代わり、マンツーマンだから厳しくいくよ。泣き言なんて許さないんだからね──」
いつになくいい提案だと思うな。
後は、楓がなんて答えるかだけど。
「そんな……。できるなら、優しく教えてほしいな」
「ダメだよ。そんな事したら、楓は私に甘えちゃうでしょ」
「甘えるだなんてそんな……。勉強は真面目にやるつもりだよ」
「うん。だから私が、それを厳しくチェックしてあげる」
「なんだか楽しんでない? 香奈姉ちゃん……」
「そんなことないよ」
そう言い合いながら、私たちは楓の部屋へと向かっていく。
楓の学校の成績は中の上くらいだと聞いたことがある。
将来的には、私と同じ大学に行くんだから、楓にはもう少し頑張ってほしいものだ。
私は、人に勉強を教えるってことはあまりしない。
今回は特別だ。
「ここは、こうするんだよ」
「そっか。なるほど……」
私が例題に出した問題を解いていくと、楓は納得したように頷き、問題を解いていく。
楓との何気ない勉強時間だけど、デートってこうしている間も継続してるんだよね。
どんな形でだっていい。
楓と一緒にいられるのなら、私はすごく満足だ。
「そういえば、香奈姉ちゃんさ」
楓は、何かを思い出したかのように口を開いた。
ここにきても、まだ私のことを『香奈姉ちゃん』と呼んでしまうんだ。
小さい頃からそう呼んでいたから、呼び慣れてしまったんだね。
それなら、さっきも言ったとおり、楓が私のことを『香奈』って呼ぶまで、楓の身体に私のぬくもりを覚えさせて、わからせてあげようかな。
私は、そうした気持ちをグッと押し殺して聞き返す。
「どうしたの?」
「今日は、いつもよりスキンシップが控えめだったけど。何かあったの?」
楓は、ノートに問題と答えを書きながら、そう訊いてきた。
控えめだったかな。
スキンシップ……。
私としては、普通に接したつもりなんだけど。
「別に何もないよ。いつもどおりだと思うけど」
「そう。それならいいんだけどさ」
そう言うと楓は、安心したかのように微笑を浮かべていた。
楓ったら、なんだかんだ言って私の愛情がほしいのかな。
それならそうと、はやく言ってほしいものだ。
「もしかして、私のぬくもりがほしいの?」
「い…いや、そんなことは…ない…けど……」
楓は、あきらかに動揺した様子で私から視線を逸らしそう言った。
これは、確実にほしいって言ってるようなものだ。
──まったく。
楓ったら。しょうがないな。
私は、楓の傍に寄り添うと、そのまま腕を絡めた。
「しょうがないなぁ、楓は。ほしいのなら、後でいくらでもしてあげるよ」
「僕は、別にしてほしいわけじゃなくて……」
そんな顔を真っ赤にして言われてもね。
まったく説得力がないよ。
やっぱり、そういうところが男の子なんだよなぁ。
──台所にて。
楓と料理を作っていると、楓の母が台所に入ってきた。
「あら、香奈ちゃん。今日も来てたのね。嬉しいわ」
「こんにちは」
私は、楓のお母さんに挨拶をする。
仕事帰りなのか、しっかりした服装だった。
楓のお母さんは、私のことをよっぽど気に入っているのか、私の姿を見ると嬉しそうな顔をするのだ。
まるで、実の娘を見ているかのように。
今もそうだ。
二人で料理を作っていると、楓のお母さんは微笑を浮かべて言ってきた。
「なんだか二人を見ていると、本当に恋人同士みたいね。相性もバッチリっていうか」
「そんな風に見えちゃいますか?」
「側から見たら、十分にそう見えるわよ。二人で分担して料理してる姿を見せられたらね」
楓のお母さんにそう言われると、なんだかニヤけてしまうな。
「なんか、嬉しいな」
「いっその事、ウチの娘にしちゃいたいくらいだよ」
「それは……。近い将来、きっとそうなるかなぁって」
私は、楓の方をチラッと見てそう言った。
楓のお母さんは、嬉しそうな表情になる。
「そうかい。それなら言うことなしだね。実は、西田さんのお母さんには、もう話は通してるんだよ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。楓か隆一のどちらかが、香奈ちゃんをお嫁さんにするからってね」
「お嫁さんだなんて……。気が早いです」
私的には、楓のお嫁さんがいいな。
ホントに気が早いけど。
「そうかねぇ。ちょうどいい頃合いだと思うんだけどねぇ」
「今はまだ、お付き合いをさせてもらってる段階でして……。そんな事までは考えてないです」
「そうなの? 残念ねぇ」
楓のお母さんは、気落ちした様子でそう言う。
たしかに恋人同士として楓と付き合っているけど、正直まだ結婚とかは考えてない。
とりあえず私は、大学に行って自分の夢を叶えるためにもっと勉強したいと思っている。
だから高校を卒業したら、家を出るつもりだ。
それは、楓も同じ。
一年遅れるけど、楓も私と一緒に夢を叶えるために家を出て勉強するんだろうと思う。
その時は、私と一緒の場所で暮らしていくつもり。
「そういえば、香奈姉ちゃんはやりたい事があるんだよね?」
楓は、微笑を浮かべてそう訊いてくる。
楓には、私のやりたいことは話してあるから、安心なんだけどね。
「うん。だけどそれは、楓が一緒でないと意味がないんだ」
「そうなんだ。…だったら、僕も頑張らないとな」
そうそう。
その調子だよ。
楓が頑張ってくれないと、意味がないことなんだ。
楓のお母さんは、微笑を浮かべて言った。
「なんにせよ。二人とも、無理はしないでよ」
「はーい」
そう答えると私は、料理を続ける。
楓のお母さんは、料理をしている私たちを見て、思案げに首を傾げた。
「ところで、何を作っているの?」
「鯖の味噌煮だよ。冷蔵庫の中に鯖があったから、食べたいなって思って」
楓は、調理をしながら素直にそう答える。
下ごしらえはできてるから、後は煮付けをするだけだ。
楓が作ったものだから、味も問題ないと思う。
私は何を作っているのかというと、味噌汁だ。
楓のお母さんは、調理中の楓の傍に来て、料理の出来具合を確認する。
「そう。それなら、後はみんなで食べるだけね」
「はい」
楓のお母さんの言葉に、私はそう返事をした。
──それにしても。
楓の料理の腕は、さらに上がっているんじゃないだろうか。
だとしたら、私も負けてはいられないな。
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