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第十二話

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僕が目を覚ますと、傍らには香奈姉ちゃんがいた。
香奈姉ちゃんは、スースーと寝息を立てて眠っている。
めずらしいこともあるんだな。
大抵は、香奈姉ちゃんの方が先に起きるのに。
香奈姉ちゃんより早く起きた僕は、傍らで眠っている香奈姉ちゃんの手をそっと退かしてベッドから出ようとした。
しかし香奈姉ちゃんは、強い力で僕を抱きしめてくる。

「う~ん……。楓……」
「っ……⁉︎」

ちょっと……。香奈姉ちゃん⁉︎
僕は、思わず振り解こうとするが、それもうまくいかない。
普段なら、とっくに起きていてもいいくらいの時間だけど、香奈姉ちゃんはスースーと寝息を立てている。

これは……。
下手に起こしたら、不機嫌になること間違いなしだな。
今は、そっとしておこう。

それにしても。
いくらエッチなことをしたからって添い寝までしちゃうのは、どうなんだろう。
ちなみに、時刻は朝の五時。
まだ寝ているなんて、ホントにめずらしい。
せっかくだから、少し悪戯しちゃおうかな。
僕は、香奈姉ちゃんの頬に触れようと指を近づける。
次の瞬間、香奈姉ちゃんの目がゆっくりと開いた。
僕は、その場でフリーズしてしまう。

「あ……」
「おはよう、ご主人様」

香奈姉ちゃんは寝ぼけ眼だったが、それでも微笑を浮かべて挨拶をしてくる。

「お、おはよう」

僕は、香奈姉ちゃんにバレないように指を布団の中に隠し、挨拶を返した。
思わず表情がひきつってしまったけど……。
バレてないよね。
そう思っていたら、香奈姉ちゃんがふと訊いてくる。

「何しようとしてたの?」
「え? 何のこと?」
「惚けたってダメだよ。私に何かしようとしてたでしょ? 私にも、わかるように説明してほしいな」

さすがに勘は鋭いな。
実際には何かしようとしてただけで、何もしてないんだけど。

「何もしてないよ。起きるのが遅かったから、めずらしいなって思っただけだよ」
「ふ~ん。そう……。なんか残念だな」
「え? 何が?」
「ううん、なんでもないよ。こっちのこと。それで、今、何時なの?」
「朝の五時だよ」

僕は、近くに置いてある時計を見てそう答える。
いつもなら、僕より先に起きて制服に着替えている頃だ。

「そっか。朝の五時か。それなら、起きないといけないね」

香奈姉ちゃんは、そう言ってギュッと僕を抱きしめてきた。
いきなりどうしたんだ。
もしかして、急に寂しくなったとか?
──いや。
香奈姉ちゃんに限ってそれはないだろうけどさ。
それにしても。
なんか言ってることとやってることが違うんですけど。
僕は、呆然とした表情で香奈姉ちゃんを見る。

「あの……。香奈姉ちゃん?」
「何かな?」
「これは一体……」
「ん? 私の愛情たっぷりのハグだけど──。やっぱり、物足りないかな?」

香奈姉ちゃんは、頬を赤くして僕を見てきた。
うう……。顔がすごく近い。
それこそ、あと少しでキスしてしまうくらいだ。
そう思っていたら、香奈姉ちゃんの方から積極的にキスをしてきた。
すぐに終わるだろうと思っていたんだけど、キスの時間がかなり長く、最終的には僕の口の中に舌を入れてくる。

「っ……⁉︎」

僕は、あまりのことにビクンと身体を震わせた。
香奈姉ちゃんの舌はするりと僕の口の中に入り、僕の舌を舐めてくる。
ああ……。
知りたくなかったな。
香奈姉ちゃんの舌の感触は……。

「んっ……」

香奈姉ちゃんは、抱きしめる力をさらに強くしてくる。
その時に香奈姉ちゃんの胸の感触を感じられたが、そこは敢えて言わないでおく。
もうそろそろ起きないと……。
僕は、身体をもぞもぞと動かす。
すると香奈姉ちゃんは、一旦、唇を離して言う。

「もうちょっとだけ……。お願い」
「いや。さすがに無理かも……」
「どうしても、ダメ?」
「うん。そろそろ起きないとさ」

この時の香奈姉ちゃんには、何を言っても無駄なのはわかっている。
しかし、今日は学校だから、朝ごはんはともかくお弁当は絶対に作らないといけないし。

「ご主人様の言いたいことは、わかっているよ」
「それなら──」
「だから、余計にご主人様に家事をさせるわけにはいかないんです。朝ごはんとお弁当は私が作りますから、ご主人様は安心してここで待っていてください」

そう言うと香奈姉ちゃんは、むくりと起き上がり騎乗位になる。
気持ちはわかるけど、ここは香奈姉ちゃんの家じゃない。
なので香奈姉ちゃんに、家事をさせるわけにはいかない。

「いやいや……。僕も手伝うよ」
「大丈夫です。私一人でも、朝ごはんとお弁当くらい作れます!」
「でも……」

香奈姉ちゃんのそのやる気は、どこから出てくるんだろうか。

「どうしてもって言うなら、私の着替えを手伝ってください」
「香奈姉ちゃんの着替えって……」

僕は、部屋に立て掛けてある香奈姉ちゃんの制服を見やる。
香奈姉ちゃんは、正解っと言わんばかりに、僕の唇に指を添えた。

「そのままの意味だよ。私が制服を着るから、ご主人様はそのお手伝いをしてほしいってこと」
「それは、さすがに……。こんな朝はやくから、香奈姉ちゃんの下着姿を見るのは──」
「もう見慣れてるくせに、何言ってるの。今だって、下着姿だよ」
「それは……」
「さぁ、はやくしないと朝ごはんとお弁当を作りにいけないよ」
「わかったよ。お手伝いさせてもらいます」

僕は、そう言って香奈姉ちゃんの制服を取りに行く。
こんなことしてる場合じゃないのに。

「うん。素直でよろしい」

香奈姉ちゃんは、嬉しそうにそう言うと、まず制服のブラウスを手に取り、その場で着用し始めた。
これを黙って見ていられるほど、我慢強い方ではない。
香奈姉ちゃんの着替えは、僕の男の本能をかき立ててしまうほど、魅惑的だった。
思わず抱きつきたくなるほどだ。
香奈姉ちゃんも、それを察したのだろう。
僕に、こう言ってきた。

「エッチなことは、夜にしようね」

香奈姉ちゃんのその言葉に、僕は正気に戻される。

「う、うん。そうだね」

僕は、思わず頷いていた。
香奈姉ちゃんの言う『エッチなこと』というのが、どこまで踏み込んだものなのかはわからない。
だけど、この間のセックスの件もある。
まず間違いないだろう。
香奈姉ちゃんは、僕に見せつけるようにゆっくりと制服を着ていった。

朝ごはんとお弁当は、なんとか間に合いそうだ。
僕と香奈姉ちゃんは、盛り付けと調理を分担して、なんとか朝ごはんとお弁当を仕上げていく。
もちろん、香奈姉ちゃんの分も作った。
それにしても、香奈姉ちゃんのエプロン姿は、いつ見ても可愛らしい。
制服にエプロンっていうのは、ちょっとマニア心をくすぐるな。

「ねえ、ご主人様。これは、どうかな?」

香奈姉ちゃんは、作った朝ごはんのおかずを箸で掴み、僕に差し出してくる。
どうやら香奈姉ちゃんが作ったおかずは、肉そぼろのようだ。

「いいんじゃないかな」

僕がそう答えると、香奈姉ちゃんは不満げな表情を浮かべる。

「テキトーに答えてない?」
「え……。そんなことは……」
「だったら、食べてみてよ」

そう言って、香奈姉ちゃんは肉そぼろを掴んだ箸を僕の口元まで持っていく。
そこまでされたら、拒否はできないな。
僕は、おそるおそる肉そぼろを食べた。
美味しい。
これは、おそらく香奈姉ちゃんにしかできない料理だろう。
僕の家にある素材や調味料で、よく作れたなって思うくらいの出来だ。

「どう? 美味しいかな?」

香奈姉ちゃんは、不安そうな表情を浮かべてそう訊いてきた。
今まで、そこまで不味い料理なんて出したことないのに、なんでそんな不安そうな顔をするのか、正直言って不思議なんだけど。
僕は、正直に答えることにする。

「とても美味しいよ」
「ホントに?」
「ホントに美味しいって。香奈姉ちゃんも食べてみなよ」
「う、うん。そうしてみようかな」

香奈姉ちゃんは、箸で肉そぼろを掴み、そのまま食べた。
ちょっと待って。
それって、間接キスにならないか?
まぁ、香奈姉ちゃんと幾度となくキスしている僕が、そんなことを気にするのも、どうかしてるんだけどさ。

「どう? 不味くはないでしょ?」
「うん。不味くはないね」

香奈姉ちゃんは、そう答える。
それって美味しくもないってことかな。
せっかく作った料理なのに。
とにかく、このまま台所にいてもしょうがない。
とりあえずは、居間の方に移動しよう。
僕も一品だけだが、料理を作ったし。
ちなみに、作ったのはオーソドックスな卵焼きだ。

「とりあえず、朝ごはんを食べようか」
「そうですね」

僕と香奈姉ちゃんは、それぞれ料理をお皿に盛りつけた後、テーブルに向かう。
今日も、いつもどおりの日常が始まる。
いい加減、僕のことを『ご主人様』というのは、やめてくれないかなって思うのだけど、香奈姉ちゃんのことだ。
しばらく続くに違いない。
こんなことになるなら、『メイド服姿が見たい』だなんて言わなければよかったな。
僕は、軽くため息を吐いていた。
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