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第十二話

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僕の部屋に着くなり香奈姉ちゃんは、僕の目の前で制服を脱ぎ出した。
人前で素肌を晒すことができるんだから、羞恥心なんていうものは、持っていないんだろうな。
それとも僕の前だからか。
そうして下着姿になると、今度は部屋に掛けているメイド服に手を伸ばす。
もしかして、今から着替えるつもりなのか。
寝る時間まで、あと一時間くらいしかないというのに。
香奈姉ちゃんは、メイド服を手に取る前にこちらに向き直り、訊いてきた。

「やっぱり、寝間着の方がいいですか?」

普段着の僕にそう言われてもな。

「まだ何かするつもりなの?」
「いえ、特にすることはありませんが……」

香奈姉ちゃんは、それでもメイド服に着替えたいのか、伸ばした手でメイド服を掴む。
少しの間でもメイド服を着たいのは、香奈姉ちゃんの態度から見てとれた。

「メイド服が着たいんなら、別に止めはしないけど……」
「着てもいいのですか?」
「着るかどうかは、香奈姉ちゃんに任せるよ。ただ、もう少ししたら寝る時間になるから、そろそろ口調をいつもどおりにしてもいいんじゃないかな」

僕がそう言うと、香奈姉ちゃんは恥ずかしそうに頬を赤くする。

「そう…かな?」
「…ていうか、もう元に戻していいよ。街中で『ご主人様』なんて言われたら、さすがに恥ずかしいよ」
「私は、恥ずかしくないよ。むしろ楓にご奉仕できるから、すごく嬉しいんだよね」

香奈姉ちゃんは、下着姿のまま僕に抱きついてきた。
まったく迷いなく僕に抱きついてくるから、ご奉仕したいというのは嘘ではないんだろうな。
それにしても、こんな僕のどこがいいんだろう。
趣味が料理だなんていう、女々しいところしかない僕に、香奈姉ちゃんがつり合っているかといえば、そういうわけでもないのに。
好みは人それぞれとも言うけど、僕なんかでいいのだろうか。

「そっか。だからメイド服姿を見たいって僕が言った時、迷いなくメイド服姿で来れたんだね」
「そうすれば、楓が喜んでくれるかなって思ったから」

香奈姉ちゃんは、頬を染めてそう言った。
喜ぶって……。
僕は、冗談のつもりで言っただけなんだけどな。

「兄貴が香奈姉ちゃんのメイド服姿を見たら、もっと喜ぶと思うけど」
「隆一さんのことは、別にいいの。私は楓に見てもらいたいと思って、メイド服を着ているんだから」

そう言うと香奈姉ちゃんは、一旦僕から離れ、ハンガーに掛けてあるメイド服に手を伸ばす。
そのままメイド服を着るのか。それとも寝間着を着るのか。
どっちにしても、僕はただ見ているだけしかできない。
香奈姉ちゃんは、結局、メイド服に着替え始めた。
まぁ、香奈姉ちゃんにとっては、寝るにはまだ早い時間だもんね。
しかし、僕の目の前で着替えるのは、いかがなものかと思うけど。

「楓。今日は、どのようなご奉仕がいいかな?」

香奈姉ちゃんは、微笑を浮かべ腕を絡ませてくる。
そんなこと言われても……。
特に思いつかないよ。

「そう言われても……。今は、特にないよ」
「え……。ないの? それは少し残念だな。せっかくご奉仕しようかと思っていたのに……」
「こんな時間にご奉仕って……。一体、何をするつもりだったの?」

夜のご奉仕って、やることが限られてくると思うんだけど。

「それは…色々だよ」
「色々って?」
「俗に言う、『あんなことやこんなこと』だよ。きっと、楓は満足すると思うよ」

香奈姉ちゃんは、微笑を浮かべてそう言った。
よく見ると香奈姉ちゃんが着ているメイド服は、完璧に着こなしているわけではなく、あちらこちら着崩している。
特に胸元の方は、蝶ネクタイを意図的に緩め、すぐに脱げるようになっていた。
まるで、僕を誘惑しているかのようだ。

「満足って……。今の状態でも、十分に満足してるよ」
「うそ。楓は、口には出さなくても態度に出るから、すぐにわかるよ。ホントは、私とエッチなことがしたいんでしょ?」
「そんなこと、全然考えてないよ。むしろ、今日も迷いなくメイド服を着たなぁって思っただけだよ。寝る時間になってきてるのに、着る意味あったかなぁって思って」
「それは……。もっとご奉仕したいと思ったからであって」
「だからって、そこまでするの?」

今、まさに誘惑しようとしている香奈姉ちゃんにそう言っていた。
香奈姉ちゃんは、まったく引く気はないようだし。
僕は、どうすればいいのか正直悩んでしまう。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、香奈姉ちゃんは言う。

「当たり前でしょ。楓は、専属メイドになった私の気持ちを、何にも理解してないんだね」
「香奈姉ちゃんの気持ちって?」
「メイド服を着たからには、それ相応にご奉仕したいっていう気持ちがどんどん溢れてくるのよ。だから、楓には責任をとってもらわないと」
「…そんなものなんだ」

それって、メイドだからって言うよりも、香奈姉ちゃんの本心なんじゃ……。
そう言いかけたが、すぐにやめた。
さすがに今日は、一人で普通に眠りたいな。
そんなことを言ったら、香奈姉ちゃんはきっと怒るに違いない。
僕は、メイド服を着て僕の腕にしがみついている香奈姉ちゃんに恐る恐る訊いてみた。

「もしかしなくても、今日もウチに泊まっていくんだよね?」
「当たり前でしょ。楓のことが心配だし。なにより、私がいないと楓の欲求不満が解消されないじゃない」
「僕って、そんなに欲求不満そうに見えるの?」
「うん。その顔は、私と二人きりでスキンシップがしたいって言ってるよね?」

香奈姉ちゃんは、そう言って僕の顔を見てくる。
頼むから、そんな甘えるような表情で見てこないでほしい。
はっきり言うけど、僕は香奈姉ちゃんに何も訴えてはいないよ。
そんな風に見えてしまうことが不思議でならないくらいだ。

「僕は、何も言ってないよ。今日は、一人で普通に眠りたいなって思って──」

そこまで言ったところで、途中でやめる。
香奈姉ちゃんは、今にも泣き出しそうな表情になってしまったからだ。

「私と一緒に寝るのは、嫌なの?」
「嫌ではないけど……」

僕は、たまらずそう答える。
昨日も、僕の部屋に泊まっていったよね。
香奈姉ちゃんの両親は、心配したりしないんだろうか。
僕は、その辺が心配なんだけど。
しかし香奈姉ちゃんは、そんな心配は必要ないと言わんばかりに笑顔を浮かべ、言った。

「それなら、別に構わないよね」
「香奈姉ちゃんが、良いと思うのなら別にいいけど」

香奈姉ちゃんの両親とは、家族ぐるみの付き合いがあるから、別にいいんだけどさ。
問題なのは、香奈姉ちゃんの『妹』だ。
こちらにはあまり干渉してこないが、『妹』は僕の兄に好意を持っている。
とはいえ、香奈姉ちゃんの『妹』はまだ中学生なので、兄もそこまで相手にしていないが。
来年になったら高校生になるので、その後どうするのか気にならないと言われれば嘘になる。

「私たちはもう、エッチなことをした仲なんだよ。だから、一緒にいるのは当たり前なんだよ」

香奈姉ちゃんは、僕の腕をギュッと掴み、そう言った。
たしかにセックスをしたほどの仲だ。
香奈姉ちゃんに対する愛情は誰よりも深いと思う。
もちろん信頼もだ。
それは、香奈姉ちゃんも同じだろう。
品行方正で真面目な香奈姉ちゃんだから、ゴム付きとはいえセックスをする相手というのは、心に決めた人になるんだろうな。
僕は、香奈姉ちゃんの顔を見て言う。

「そうだね。僕も、香奈姉ちゃんのことは大好きだから、大事にしたいし、もっと一緒にいたいと思っているよ」
「だったら、今日もエッチなこと…しよっか?」

香奈姉ちゃんは、僕にそう言ってくる。
その目を見たら、本気だと伝わってきた。
エッチなことっていうのは、たまにやるからいいものなんじゃないのか。

「え……。それは、さすがに……」
「そっか。心の準備ができてなかったか。それなら、仕方ないね」
「うん……」

香奈姉ちゃんの言葉に、僕はホッと一息吐く。
最近、香奈姉ちゃんとのスキンシップが多い気がするし。
さすがに頻繁にエッチなことをやると、熱も冷めちゃいそうになる。
こういうのは、ホントにたまにやるからいいものなんだと思う。

「それなら、今日は三回で許してあげるね」
「え……。三回って?」
「私を、イかせる回数だよ。──三回ね。今日も、よろしくね」

香奈姉ちゃんは、笑顔でそう言うと新しいゴムを僕に手渡してきた。
このゴムでセックスして、三回もイかせろっていうことなのか?
いや、無理無理。
いくら僕にご奉仕したいからって、セックスを求めてくるのは、さすがに反則だよ。
まぁ、そうは言っても僕の方も強く拒否はできないんだけどね。

「僕に拒否権は?」
「う~ん。基本的には『無い』かな」

香奈姉ちゃんは、はっきりとそう言う。
どうやら、香奈姉ちゃんの方は心の準備ができてるみたいだ。

「そんな……」

香奈姉ちゃんの返答に愕然とする僕。
これはお互いにとって大事なことだから、勢いだけでやるのは危険かと思うんだけど。
香奈姉ちゃんは、僕の都合などお構いなしに抱きついてくる。
気がつけば、もう寝る時間になっていた。

「さぁ。はやく事を済ませてしまおうよ。…ね」

香奈姉ちゃんは、僕の顔を見てそう言う。
なんだか香奈姉ちゃんの顔を見たら、色んな事を考えてるのがバカらしく思えてくる。

「う…うん。香奈姉ちゃんの期待に応えられるかわからないけど……。頑張ってみるよ」

僕は、香奈姉ちゃんの言葉にそう返事をしていた。
これは、本日も香奈姉ちゃんを裸にして楽しまなければならないか。
今夜は色んな意味で長くなりそうな感じだ。
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