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第十一話
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バイト先の喫茶店にたどり着きスタッフルームで準備していると、店長の佐田さんが入ってくる。
「あ、周防君。ちょうどいいところに」
「店長。どうしたんですか?」
「あのね。今日から、新人さんが一人、入ってくるんだけど……。お願いできる?」
「新人…ですか?」
「今、お店に来てるから紹介するわね。──どうぞ、古賀さん」
「はい」
佐田さんにそう言われ、スタッフルームに入ってきたのは古賀千聖だった。
なんで彼女がこんなところに……。
僕は、あまりのことに呆然となる。
もう喫茶店の制服を着こなしてるし。
千聖は、僕の顔を見ると笑顔を浮かべ、自己紹介をした。
「今日から、一緒にお仕事させていただく、古賀千聖です。不束者ですが、よろしくお願いします」
「うん。よろしくね」
僕は、佐田さんに悟られないように自然な笑顔を作り、そう言った。
この際、新しいバイトとして千聖さんが入ってきたことに関しては、偶然のものとしてとらえよう。
「古賀さんには、さっそくホールに入ってもらうことになるけど、わからないことがあったら周防君に聞いてね」
「はい。わかりました」
佐田さんの言葉に、千聖は素直にそう答えた。
基本的には、いい子なんだけどな。
どこに問題があるのか、まったくわからないんだけど。
「そういうことだから、周防君。後は、よろしく頼むわね」
「あ、はい」
僕の返事を聞くと、佐田さんは足早にスタッフルームから去っていく。
その場に残された千聖は、僕の顔を見て言う。
「ここでバイトしてたんだね。楓君」
「まぁね」
「わからないことがあったら、教えてくれるんですよね?」
「そういうことになっているからね」
「やっぱり優しいよね。楓君って──」
「これも仕事の内だから、しょうがないけど。わからないことがあったら、遠慮なく言ってね。…できる限りサポートするから」
僕は、軽く息を吐いてそう言った。
サポートって言ったって、そこまで難しいものじゃないと思うんだけど。
ホールでやることといえば、接客してオーダーを聞くことと会計をすることくらいだし。
「ありがとう」
千聖は、笑顔を浮かべお礼を言った。
なんか嫌な予感がするんだけど、僕だけかな。
杞憂に終わればいいんだけど。
着替えを終えた僕は、そのままタイムカードを通してスタッフルームを後にした。
今日も、いつもどおりに頑張ろう。
バイトが終わると、僕は「お疲れ様でした」と言って喫茶店を後にした。
時間は、二十時になっている。
僕は、バイト帰りに必ず通る公園に来ていた。
公園としては比較的規模が大きくて、夜の時間は男女のカップルが最も多い。
香奈姉ちゃんが僕のことを待つときには、必ずと言っていいほどここにいる。
近くにいないのを見ると、香奈姉ちゃんはまだバイト中かな。
もしそうだったら、しばらく待っていようかな。
「ねぇ、楓君」
そう思って一人で待っていると、後ろから女の子に声をかけられた。
相手は言うまでもなく千聖だ。
「どうしたの? 千聖さん」
僕は、振り返って千聖さんを見る。
まだ家に帰ってなかったのか、制服姿だ。
「良かったら、一緒に帰らない?」
「悪いんだけど、人を待ってるんだ」
「それって、もしかして西田先輩?」
「そうだけど」
どうして、そんなことがわかるんだろう。
怪訝そうな顔をしている僕に、千聖はなぜか嬉しそうな表情で言った。
「やっぱりそうなんだ。楓君って、わかりやすいなぁ」
「それって、僕が単純バカだって言いたいの?」
「ううん。違うよ。一途なんだなって思ってね」
「一途? 僕が?」
「うん。そんなに西田先輩のことが好きなんだなぁって」
そんなことを言われたのは初めてだ。
たしかに僕は、香奈姉ちゃんのことが好きだけど。
単純に好きって言ったら、美沙先輩も理恵先輩も奈緒先輩もそれに当てはまる。
だけど、この場合は恋愛的なことでの『好き』だから、ちょっと違うのかもしれない。
「香奈姉ちゃんだからね。嫌いなわけがないよ」
僕の姉的存在の幼馴染にして、僕の大切な人なんだから。
「お姉ちゃん…か」
「そうだよ。僕にとって香奈姉ちゃんは最高の彼女なんだ」
「それって、私のことは恋愛対象にはならないってことだよね?」
「まぁ、付き合っている彼女がいるわけだしね」
そんなの当たり前のことだ。
付き合っている彼女がいるっていうのに、別の女の子と付き合えるわけがない。
友達としてなら、まだわかるが。
「ハッキリ言わせてもらうけど、私は楓君のことを諦めるつもりはないからね」
「え……。それって……?」
千聖の発言に、僕は唖然となってしまう。
千聖は、ビシィッと指をつきつける。
「私が西田先輩よりもいい女だってことを証明させてあげるんだから。覚悟してなさいよね!」
「覚悟って……」
「そういうことだから、楓君。あなたを振り向かせるためなら、私はどんなことだってするからね。覚悟しなさいよ」
千聖は、僕に軽くウィンクをしてそう言うと、踵を返しそのまま走り去っていった。
そんなこと言われても……。
ハッキリ言うけど、他の子を好きになるつもりはないんだけどな。
僕は、彼女の姿が見えなくなるまで見送っていた。
それからしばらくしないうちに、香奈姉ちゃんが向こうからやってきた。
香奈姉ちゃんは、申し訳なさそうな表情で聞いてくる。
「ごめん、楓。…待ったかな?」
「ううん、全然。ついさっき、ここに着いたところだよ」
僕は、香奈姉ちゃんに心配させまいとそう言った。
千聖と話をしていたことは、香奈姉ちゃんには言わないでおこう。
「そっか。それなら良かった」
香奈姉ちゃんは、そう言って安堵の表情を浮かべる。
本当なら、ここで僕のことを待つつもりだったんだろう。
香奈姉ちゃんもバイトの帰り道には、この場所は必ず通るし。
「それじゃ、帰ろっか?」
「うん。そうだね」
香奈姉ちゃんは頬を染め、手を握ってきた。
僕は、握ってきた香奈姉ちゃんの手を優しく握り返すと、ゆっくりと歩き出す。
それを遠巻きに見ていた男の人たちは、そんな僕たちを見て舌打ちしている。
どうやら、香奈姉ちゃんに声をかけようとしていたみたいだ。
無駄なことなのに。
香奈姉ちゃんも、周囲の男の人たちの視線に気づいていたのか、周りにアピールするかのようにそのまま僕の腕にギュッとしがみついてくる。
「家に着くまでこのままで行こう」
「う、うん」
僕は、小さく頷いた。
真っ直ぐ家に帰るだけだというのに、ここまでしなきゃいけないなんて……。
香奈姉ちゃんって、どれだけ注目の的になってるんだろうか。
それを考えると、すごく恐ろしいな。
「あ、周防君。ちょうどいいところに」
「店長。どうしたんですか?」
「あのね。今日から、新人さんが一人、入ってくるんだけど……。お願いできる?」
「新人…ですか?」
「今、お店に来てるから紹介するわね。──どうぞ、古賀さん」
「はい」
佐田さんにそう言われ、スタッフルームに入ってきたのは古賀千聖だった。
なんで彼女がこんなところに……。
僕は、あまりのことに呆然となる。
もう喫茶店の制服を着こなしてるし。
千聖は、僕の顔を見ると笑顔を浮かべ、自己紹介をした。
「今日から、一緒にお仕事させていただく、古賀千聖です。不束者ですが、よろしくお願いします」
「うん。よろしくね」
僕は、佐田さんに悟られないように自然な笑顔を作り、そう言った。
この際、新しいバイトとして千聖さんが入ってきたことに関しては、偶然のものとしてとらえよう。
「古賀さんには、さっそくホールに入ってもらうことになるけど、わからないことがあったら周防君に聞いてね」
「はい。わかりました」
佐田さんの言葉に、千聖は素直にそう答えた。
基本的には、いい子なんだけどな。
どこに問題があるのか、まったくわからないんだけど。
「そういうことだから、周防君。後は、よろしく頼むわね」
「あ、はい」
僕の返事を聞くと、佐田さんは足早にスタッフルームから去っていく。
その場に残された千聖は、僕の顔を見て言う。
「ここでバイトしてたんだね。楓君」
「まぁね」
「わからないことがあったら、教えてくれるんですよね?」
「そういうことになっているからね」
「やっぱり優しいよね。楓君って──」
「これも仕事の内だから、しょうがないけど。わからないことがあったら、遠慮なく言ってね。…できる限りサポートするから」
僕は、軽く息を吐いてそう言った。
サポートって言ったって、そこまで難しいものじゃないと思うんだけど。
ホールでやることといえば、接客してオーダーを聞くことと会計をすることくらいだし。
「ありがとう」
千聖は、笑顔を浮かべお礼を言った。
なんか嫌な予感がするんだけど、僕だけかな。
杞憂に終わればいいんだけど。
着替えを終えた僕は、そのままタイムカードを通してスタッフルームを後にした。
今日も、いつもどおりに頑張ろう。
バイトが終わると、僕は「お疲れ様でした」と言って喫茶店を後にした。
時間は、二十時になっている。
僕は、バイト帰りに必ず通る公園に来ていた。
公園としては比較的規模が大きくて、夜の時間は男女のカップルが最も多い。
香奈姉ちゃんが僕のことを待つときには、必ずと言っていいほどここにいる。
近くにいないのを見ると、香奈姉ちゃんはまだバイト中かな。
もしそうだったら、しばらく待っていようかな。
「ねぇ、楓君」
そう思って一人で待っていると、後ろから女の子に声をかけられた。
相手は言うまでもなく千聖だ。
「どうしたの? 千聖さん」
僕は、振り返って千聖さんを見る。
まだ家に帰ってなかったのか、制服姿だ。
「良かったら、一緒に帰らない?」
「悪いんだけど、人を待ってるんだ」
「それって、もしかして西田先輩?」
「そうだけど」
どうして、そんなことがわかるんだろう。
怪訝そうな顔をしている僕に、千聖はなぜか嬉しそうな表情で言った。
「やっぱりそうなんだ。楓君って、わかりやすいなぁ」
「それって、僕が単純バカだって言いたいの?」
「ううん。違うよ。一途なんだなって思ってね」
「一途? 僕が?」
「うん。そんなに西田先輩のことが好きなんだなぁって」
そんなことを言われたのは初めてだ。
たしかに僕は、香奈姉ちゃんのことが好きだけど。
単純に好きって言ったら、美沙先輩も理恵先輩も奈緒先輩もそれに当てはまる。
だけど、この場合は恋愛的なことでの『好き』だから、ちょっと違うのかもしれない。
「香奈姉ちゃんだからね。嫌いなわけがないよ」
僕の姉的存在の幼馴染にして、僕の大切な人なんだから。
「お姉ちゃん…か」
「そうだよ。僕にとって香奈姉ちゃんは最高の彼女なんだ」
「それって、私のことは恋愛対象にはならないってことだよね?」
「まぁ、付き合っている彼女がいるわけだしね」
そんなの当たり前のことだ。
付き合っている彼女がいるっていうのに、別の女の子と付き合えるわけがない。
友達としてなら、まだわかるが。
「ハッキリ言わせてもらうけど、私は楓君のことを諦めるつもりはないからね」
「え……。それって……?」
千聖の発言に、僕は唖然となってしまう。
千聖は、ビシィッと指をつきつける。
「私が西田先輩よりもいい女だってことを証明させてあげるんだから。覚悟してなさいよね!」
「覚悟って……」
「そういうことだから、楓君。あなたを振り向かせるためなら、私はどんなことだってするからね。覚悟しなさいよ」
千聖は、僕に軽くウィンクをしてそう言うと、踵を返しそのまま走り去っていった。
そんなこと言われても……。
ハッキリ言うけど、他の子を好きになるつもりはないんだけどな。
僕は、彼女の姿が見えなくなるまで見送っていた。
それからしばらくしないうちに、香奈姉ちゃんが向こうからやってきた。
香奈姉ちゃんは、申し訳なさそうな表情で聞いてくる。
「ごめん、楓。…待ったかな?」
「ううん、全然。ついさっき、ここに着いたところだよ」
僕は、香奈姉ちゃんに心配させまいとそう言った。
千聖と話をしていたことは、香奈姉ちゃんには言わないでおこう。
「そっか。それなら良かった」
香奈姉ちゃんは、そう言って安堵の表情を浮かべる。
本当なら、ここで僕のことを待つつもりだったんだろう。
香奈姉ちゃんもバイトの帰り道には、この場所は必ず通るし。
「それじゃ、帰ろっか?」
「うん。そうだね」
香奈姉ちゃんは頬を染め、手を握ってきた。
僕は、握ってきた香奈姉ちゃんの手を優しく握り返すと、ゆっくりと歩き出す。
それを遠巻きに見ていた男の人たちは、そんな僕たちを見て舌打ちしている。
どうやら、香奈姉ちゃんに声をかけようとしていたみたいだ。
無駄なことなのに。
香奈姉ちゃんも、周囲の男の人たちの視線に気づいていたのか、周りにアピールするかのようにそのまま僕の腕にギュッとしがみついてくる。
「家に着くまでこのままで行こう」
「う、うん」
僕は、小さく頷いた。
真っ直ぐ家に帰るだけだというのに、ここまでしなきゃいけないなんて……。
香奈姉ちゃんって、どれだけ注目の的になってるんだろうか。
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