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第十一話 「ゲームでリアルファイトはダメ、ゼッタイ」

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 あの惨劇から一週間経つ。
 嶺二と雪菜はこの一週間、麗子の実験に付き合わされたりダラダラとゲームをしたり、カレンと燐の残念な一面を見たりと中々濃厚な毎日だったが、段々と慣れつつあった。

「そういえば嶺二、今度出るK〇yの新作買う?」

「うん、もう予約もしてあるよ。待ちきれないなぁ……僕は青髪の子が気になるかなぁ」

「私お金ないから諦めかけてたけど、最近橘先輩の実験に付き合ってるお陰で、お金が入ってくるからさ。買おうかなって思って。今からでも予約間に合うかな」

 登校しながら、嶺二が雪菜とそんな会話をしていると、校門を通った先でカレンと燐が二年生の先輩と談笑しているのが見えた。
 その光景は、まるで物語の一ページのようで絵になっていたが、二人の本当の中身を知っている嶺二と雪菜は複雑な気分になった。

「ホント、あの二人表と裏じゃキャラが全然違うよね……」

「あの燐さん達と話してる二年の先輩が、いつもの二人を見たらなんて言うのかしらね」

 猫を被りながら全校生徒の憧れの的として、後輩と話し続ける二人を尻目に、嶺二と雪菜は玄関へ向かった。


 昼休み。嶺二は数学に苦戦した反動でダウンしていた。

「おい嶺二、今日はお姫様と昼飯行かなくていいのかよ?」

 と竜也が嶺二に聞いてくると、嶺二は気だるげに言った。

「行く。行くけど、もう少し休んでから……」

「全く羨ましいぜ、何をどうすりゃあんな美少女とお近づきなれんだよ。それにあの生徒会長と副会長、その上にあの滅多に口を開かない橘先輩とまで親交があるらしいじゃねぇか。おい! どうやったんだ! きりきり吐け!」

 そう必死な形相で詰め寄ってくる竜也を無視しながら、嶺二が夢の世界へ旅立とうとしたその時、教室の扉が勢い良く開いた。

「ちょっと嶺二! いつまで待たせんのよ! お腹も空いたし早く行くわよ!」

 どうやらいくら待っていても全く来ない嶺二に、業を煮やして教室まで迎えに来たらしい。
 尚も寝ようとする嶺二の胸倉を掴むと、雪菜はズルズルと嶺二を引きずりながら食堂へと向かった。

 嶺二は、雪菜が去り際に嶺二の隣の席の夏美を睨みつけ、夏美も物凄い眼光でにらみ返したような気がした。
 しかし雪菜は兎も角、夏美があんな顔をするわけがないと思い、気のせいだと思う事にした。


 放課後、嶺二はサブカル部の部室に居た。

「嶺二くーん、そこの柿ピーとってくれなーい?」

「はいはい」

「そういえば雪菜ちゃんは?」

「用事らしいですよ」

「そうなんだ。あ、柿ピー取ってくれてありがとうね」

 嶺二は、ソファで寝ころびながら競馬新聞を広げ、耳の上に赤ペンを差しながらテレビに食らいつく燐に柿ピーを渡した。
 ついでに、喉が渇いたので嶺二が冷蔵庫に向かうと燐が叫んだ。

「あ、私にもコーラお願い」

「燐さん、僕は召使いじゃないんですよ」

「ごめんごめん」

 全くもう、と嶺二はつぶやきながらコーラを運んでいると、炬燵に足がぶつかった。

「あ、すいません」

「うん、大丈夫。次からは気をつけてね」

 カレンは嶺二の方を見ずに言った。どうやら、今度イベントがあるらしくそれに向けてオリジナルのBL本を書き上げているようだ。

「燐さん、どうぞ」

「ありがとねー。そこだ! 差せ差せ差せ!」

 燐は嶺二に礼を言うと、また競馬中継に戻って行った。

 ーーホントに裏と表じゃ別人だよな……

 燐は競馬中継、カレンはBL本を書いていて、麗子は暇を持て余してコップに少しだけコーラを注いで、そこにメントスを入れて遊んでいる。
 まさにカオスである、しかしそんな光景に慣れてきたのか、若干の居心地の良さを感じてしまった自分を嶺二が疑っていると。

「嶺二君、私と一緒にス〇ブラやらないか?」

 先ほどまで遊んでいた手を止めて、麗子が言った。

「良いですよ、どうせ暇ですからね」

 そうして二人はス〇ッチでス○ブラをプレイし始めた。

「ちょ! ピカ〇ュウズルくないか!? 攻撃が当たらない!」

「ふっ、甘いですね橘先輩。僕は何でも器用に出来る妹相手に、毎日ボコボコにのされてるんですよ? エンジョイ勢の先輩相手に負ける訳ないじゃないですか」

「何だとぉ! そこまで言うならやってやろうじゃないか!」

 今のところ嶺二と麗子は5勝1敗で嶺二が勝ち越していた。

「ねえ二人とも……私も仲間に入れて欲しいんだけど」

 そこに、燐がやってきた。若干げっそりしているような気がする、大方先ほどの競馬で大負けしたのだろう。

「良いですよ」

「……まぁ良い、嶺二君相手に今度こそ打ち勝つところだったのだがな」

「ありがと、さぁ! 競馬で負けた4万円分の鬱憤、晴らさせてもらうわよ!」

 毎度の事だが、一体どこからそのお金が出てくるのか不思議である。

 10分後。

「ちょっと! 嶺二君のピ〇チュウズルいわよ!」

「燐さんのシュ〇クだって永遠とスマッシュ技繰り出してるだけじゃないですか!」

「おい! 私は……」

「「雑魚は黙ってなさい(ください)!」」

「良いだろう、私もキレた。お前たちが悪いんだからな!」

 更に5分後。

「ちょっと麗子! アンタふざけんじゃないわよ!」

「そうですよ! ス〇ブラを何だと思ってるんですか!?」

 嶺二と燐がキレながら麗子に詰め寄ると、麗子は悪びれもせずに言った。

「別にただ私はク〇パの横技を使っているだけだ。掴んだ結果偶々ステージ外に落ちて運命を共にしようと、なんらおかしなことはあるまい?」

「この! ……言わせておけば!」

「弱いからって自棄になって道連れ戦法するんじゃないわよ! 正々堂々戦いなさい!」

「ほう、言ったな? ならばこの部で誰が一番偉いか、ここで決めようじゃないか!」

 そうして、嶺二達はリアルファイトへ突入した。どうして人という生き物はは醜い争いをせずに居られないのだろうか。

 ひっかいたり襟をつかみあったり、もみくちゃになっている内に嶺二は吹き飛ばされて炬燵にぶつかった。

「「あ」」

 嶺二が、ぶつけた頭をさすりながら立ち上がると、後ろから殺気を感じた。
 嶺二が後ろを向くと、そこには嶺二がぶつかった拍子に、こぼれたインクで真っ黒になった原稿と、うつむいているせいでうまく表情の伺えないカレンが居た。

 ーーあっ、ヤバい。

 嶺二は、二人に助けを求めて視線を向けるが、知らないふりをされた。

「橘先輩、燐さん! なぜ見てるんです! 僕達は、部活仲間じゃなかったんですか! 目を逸らさないでくださいよ! ねえ! オンドゥルルラギッタンディスカー! あ、カレンさん。違うんです。橘先輩と燐さんが悪いんです! だから……ごめんなさぁい!!?」

 その後、麗子とカレン諸共嶺二は粛清された。

 後に嶺二達は語る。恐らくこれから先、寿命で死ぬまで忘れたくても今日の事を忘れることは出来ないだろうと。

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 ちなみに、部室の備え付けのものはテレビから冷蔵庫の中身まで全部燐が払ってます。冷蔵庫の中身や備え付けのお菓子の補充、使った食器の片付けや部室の掃除等は全部嶺二達が授業中に、燐の使用人たちによって行われています。なので嶺二は顎で使われても文句が言えません、無論燐もそこまで横暴では無いですが。因みに燐の収入の大半は株です。
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