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第三話 「旨いだけの話はない」

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「その……災難だったね、嶺二君」

 と夏美が話しかけて来てくれた途端に、嶺二はガバッという効果音が付きそうな勢いで起き上がった。全くもって現金な男である。

「う、うん。目覚まし時計が止まっちゃっててさ、妹がご飯用意してくれてたんだけど食べきる時間がなくてね。食パンだけ咥えて走ってたんだけど転んじゃって、その転んだ先に竜也が……気がついたら竜也の股間にダイブした上に、例のニンニク納豆が頭についちゃってて。全くひどい目に遭ったよ」

 まさしく偶然が重なりあって起こった奇跡である、こんな奇跡などお断りだが。

「そ……それは災難だったね」

 ちょっとプルプルしながら夏美は言った、どうやら何かがツボにハマったようだ。

「ごめんね! 人がひどい目に遭ったのに笑っちゃダメだよね」

 笑いすぎて出てきた涙を拭きながら、夏美は謝罪した。

「う、うん! 良いんだ。我ながらもし傍から見てれば、きっと大笑いしてただろうなって思うし」

 ハハハ、と乾いた笑いを上げながら嶺二がそう言うと、夏美はそう言えばと疑問を口にした。

「あれ?それにしては嶺二君、全然変な匂いしないよ?」

「ん?玄関に着くなり先生に捕まってね。水泳部のシャワーに押し込まれたんだよ、それでもまだ少し臭いがする気がして自分自身にファ〇リーズした。まさか服にじゃなくて自分自身にファ〇ることになるなんて思わなかったよ」

 そう嶺二がおどけながら言うと、夏美は少し笑った。

「嶺二君って面白いね」

 そう言いながら夏美は嶺二に頭に顔を近づけ、匂いを確かめる。ちらりと見える夏美の白いうなじを見ながら、嶺二は突然の事に頭が真っ白になった。

 ーー近い近い近い! てかいい匂い……

「うん、全然大丈夫だよ!ちゃんといい匂い!」

 嶺二が夏美の顔を放心状態で見ていると

「夏美ちゃーん!」

 クラスの女子から夏美が呼ばれた。

「ごめんね、嶺二君。呼ばれたから行くね? また今度お話しよ?

「う、うん。また今度」

 嶺二はまだ少し赤い顔で、クラスの女子の元に向かう夏美を見送っていると、後ろから肩を叩かれた。

「なあ嶺二君よ、どうやら君は相当な策士みたいだな」

 嶺二が振り返ると、そこにはにこやかな笑みを顔に浮かべた男子が数名腕を組んで立っていた。

「ちょっとお話したいんだけどさ、時間あるよね?」

 これには嶺二も思わず引き攣った笑みを浮かべた。

「お断りします」

「いやいや、遠慮しなくて結構」

「そうそう、俺たちと熱い友情を育もうぜ?」

「……冗談だよね?ハハハ」

 そうして嶺二と男子クラスメイト達は笑いあった。



「「HAHAHAHAHAHA」」



 どうやら自分一人では逃げ切れないと悟ったようだ、藁にも縋る思いで竜也と直樹に助けを求めた……しかし。

 帰ってきたのは親指を下に向けながら、これまたにこやかな笑顔でこちらを見る二人の姿だった。

 嶺二は両手を捕まれて引きずられるような形で連行されていく。

 そして嶺二は、引きずられていく嶺二を見てドナドナを口ずさむ二人を睨みつけ、呪詛を吐いた。

「覚えてろよ! 僕はこの仕打ちを忘れない! これから枕を高くして眠れると思うなよ!?」









 その後、嶺二の姿を見たものはいるとかいないとか。











「ひどい目に遭った……」

 場所は変わり、嶺二は廊下で竜也と直樹の二人と談笑していた。

「あんだけいい思いしたんだからいいだろ」

 嶺二がいけしゃあしゃあとそうのたまう竜也をジト目で睨みつけていると。

「そうそう、そう言えば生徒会が新入生向けに色々説明してくれるらしい。行ってみない?」

 直樹曰くどうやらこの後、生徒会が部活やこの学校の施設を紹介してくれるそうだ。

「そうだね……じゃあ行ってみようか」

「だな、そんじゃ行きますか」










 嶺二達は体育館で行われている生徒会主催の説明会に参加していた。

「おい見ろよ! この学校スゲーな、マジで女子のレベル高けぇ……」

 若干一名は説明など関係ないと言わんばかりに、参加している女子達を眺めているが。

「あれ! あの子滅茶苦茶可愛いんだけど! ほら嶺二も見てみろよ!」

 竜也に肘でつつかれ、嶺二は渋々と竜也の指さす方向を見る。

 そこに居たのは、どこか勝気そうな 赤髪でツインテールの美少女だった。

「確かに可愛いね」

「だろ?」

 その少女は嶺二達が自分を見ていることに気が付くと、一瞬嶺二達を睨みつけ、また説明をしている生徒会の人達の方に視線を戻した。

「つれないねぇ……」

 と竜也が言うと、直樹は前を見ろとジェスチャーしながら、

「おい、これから副会長のカレンさんが喋るから静かにしてろ」

 と注意した。

「はい! 大山君に代わりまして、これから説明をさせて頂く副会長のカレン・フローレンスです。新入生の皆さん、よろしくお願いしますね!」

 先ほどまで説明していた真面目そうな眼鏡君と交代したのは、金髪碧眼で、まるでどこかのお姫様のような可憐な人だった。

「うおっ! マジでか! 生徒会ってもう一人S級の美女居んのかよ!?」

「あの人はカレン・フローレンス、副会長で眉目秀麗成績優秀。外国の大手企業の令嬢でアメリカ人と日本人のハーフらしいぞ」

「俺生徒会入るわ!」

 その後、竜也と直樹が馬鹿な会話をしたり。たまにウトウトしている内に、説明会はお開きとなった。











「じゃ、俺中学時代に世話になった先輩のところに挨拶行ってくっから」

「俺もやる事がある」

「了解、じゃあまた明日」

 そうして竜也と直樹とは別れた。 

 なんとなく中庭を見学していると、先ほどの説明会で見かけた赤髪ツインテールの子を見つけた。

「やあ、こんにちは」

 嶺二がそう話しかけると、彼女は胡乱気な目を向けたのち口を開いた。

「ああ、さっきの三バカの」

 嶺二は苦笑しながら、

「僕の名前は高月嶺二、君は?」

 と話を切り出した。もっと上手い会話の切り出し方はなかったものか。

「私は柊雪奈、なんか用?」

「い、いや。何となく気になったから。そうだ! なんか入ろうかなって部活あった!?」

「ない」

取り付く島もなく返され、嶺二は額に汗を流しながら内心で思い悩んだ。

 ーーどうやら僕のコミュニケーション能力じゃあ、初対面の女の子と会話一つ満足できないらしい……話しかけておいてなんだけど凄く気まずい、助けて神様!!






 そんな事を考えていると、嶺二の祈りが天に届いたのか一筋の風が吹いた。

「キャッ!?」

 嶺二は悲鳴を上げた彼女の方を咄嗟に見ると、

「水色……」

 嶺二はあまりのことに気が動転して、うっかり目に焼き付いた色を口に出していた。
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