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第一話 「フラグは折ってなんぼ」

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 その時少年は、目の前の泣き出しそうな顔で強がる少女の言葉を、聞くことしかできなかった。


「ーーーー」


 最後に一言、少女は口にすると少年から背を向け去っていく。

 その言葉を聞き少年は追いすがろうとしても体が動かず声も出ない。

 少年はただ茫然と何もせずにその背を黙って見送った。

 何故なら……





















「起きて」

「起きてってば!」

 声の方を見ると制服を着た妹が立っていた。

 彼女は妹の高月紬、どうやら何時まで経っても起きてこない嶺二を起こしにきたらしい。

「……まだ五時じゃん。紬と違って部活なんてないし、というか今日入学式だし僕もうちょい寝たいんだけど」

 嶺二が不機嫌そうな目覚まし時計を見ながら抗議すると、紬は怪訝そうな顔をしてこう言った。

「私も今日は部活ないし……というかもう7時半すぎたよ、寝ぼけるのはいいけど入学式遅刻はまずいんじゃない?」

 目覚まし時計はまだ5時だ。不思議に思いスマホを確認すると、なんと時刻は7時42分。大寝坊である。

 嶺二は慌ててベットから飛び降りた。

「なんで早く起こしてくれなかったのさ!」

「毎回ご飯作ってる私に言う? お兄ちゃん。それに昨日目覚まし合わせるって言ってたじゃん」

 そう言われるとぐうの音も出ない。嶺二が慌てて支度するのを見届けて、

「じゃあ私、学校行ってくる。朝ごはんちゃんとテーブルに置いてあるから昼に回してもいいけど少しは食べて行きなよー」

 と言い残し紬は家を出た。

 嶺二はあたふたしながら顔を洗い、制服を着て机の上に置いてあったスクランブルエッグとサラダは完食し、バターがたっぷり塗ってあるトーストを口にくわえて飛び出した。

 靴ひもがほどけたが構っている余裕はない、なんとなく


 ーーあれ? なんだろうこのシチュエーション。何かが始まりそうな予感!

 と馬鹿な事を考えながら角に差し掛かった瞬間、靴ひもを踏んずけ思いっきり転んだ。

 すると、なんと角の先から猛烈な勢いで人影が飛び出してきた。

 ーーこれはまさか! 伝説の美少女がパン加えて遅刻遅刻! って走ってる所に突っ込んじゃってそこから物語が始まるパターン!? 遂にバラ色の高校生活がはじm……

「グエッ」

「グオッ」

 ーーあれ? なんか今やけに男らしい声が聞こえたような。いやいやいや、気のせいだ! 顔を上げればそこには美少女が!! 頭になんかついた!? それになんか顔に柔らかい感触が……まさか!!

 そして嶺二が顔を上げると…………











 顔に嶺二の咥えていたパンを張り付けた、金髪のスカしたイケメンがいた。しかもどうやら先ほどまで、嶺二はその男の股に顔を埋めていたらしい。

 嶺二は男の股に顔を突っ込んで上にその感触を勘違いした事実と、さっきまで想像していた自分の理想の学校生活が急速に遠ざかっていく感覚のせいで、心が急速に冷えていくの感じた。

 嶺二の表情が徐々に死んでいき、うつろな目で宙を見つめていると、目の前のフラグを粉砕した怨敵は顔に張り付いたパンをよけ、その塗ってあったバターで顔をテカテカさせながら声を掛けてきた。

「たく、前見て走れよ!! って嶺二じゃんお前も寝坊か?」

 嶺二は目の前の男を見ると、一切の感情が伺えない平坦な声で答えた。

「アア、ウン。ソウダヨ、リュウヤモ寝坊シタンダ」

 この男は石川竜也、嶺二の悪友にしてバカである。

「いやーヤベぇヤベぇ。昨日徹夜でトランプタワーの新記録に挑戦してたらよ、気がついたら寝ちまっててすっかり朝になってたぜ」

 ーーもし今度竜也の家に遊びに行って、トランプタワーがあったら粉砕してやる……

 と完全なる八つ当たりな復讐を脳内で繰り広げながら、嶺二はおかしな感触のした頭に恐る恐る触れると、ネバっとした感触と共に何かが手についた。

 嶺二の手についたのはネバネバした臭気を放つ物体だった。

「……なにこれ」

 そう嶺二がポツリとつぶやくと、竜也は自慢げに謎の物体の正体を明かした。

「俺特製ブレンドのニンニク納豆スムージーだ」

「」

 嶺二は絶句しながら竜也を信じられないものを見るような目で見ると、何を勘違いしたのかペラペラとしゃべりだした。

「このスムージーはな、言わば俺の勝負飯だ! 負けられない部活の試合がある朝とかに飲むと力が湧くんだよ!」

 ーーこれ塗り薬としても効力あるのかな、ヘヘッニンニク臭いや。これで元気百倍だな……

 なんて現実逃避をしていると竜也はスマホを取り出して時間を確認しながら、焦った声で嶺二を現実に呼び戻した。

「お、おい! マズイぞ嶺二! 集合時間まで後10分しかねぇ!」

 二人は頷きあうと、色々ついたままの格好で高校まで全力疾走した。








 ギリギリ間に合わなかった上に玄関で先生に捕まり、嶺二はシャワーに放り込まれ、その上臭いが取れなかったので先生にファ〇リーズを渡された。










 そして入学式。



「……もう嫌だ」

 嶺二は、へこんでいた。何せ間に合わなかった上に、玄関にて目の前で生徒が鼻をつまんだり遠巻きに笑われたりするのだ。それに自分自身にファ〇リーズなんて経験、人生に一度もなくていい。

 もうすでにスタートから暗雲が立ち込めている。

「まあまあ元気出せって、な?」

 竜也が声を励ましてくるが、納豆臭くなった元凶に言われても殺意しか湧かない。

「うるさい……」

 嶺その時少年は、目の前の泣き出しそうな顔で強がる少女の言葉を、聞くことしかできなかった。


「ーーーー」


 最後に一言、少女は口にすると少年から背を向け去っていく。

 その言葉を聞き少年は追いすがろうとしても体が動かず声も出ない。

 少年はただ茫然と何もせずにその背を黙って見送った。

 何故なら……





















「起きて」

「起きてってば!」

 声の方を見ると制服を着た妹が立っていた。

 彼女は妹の高月紬、どうやら何時まで経っても起きてこない嶺二を起こしにきたらしい。

「……まだ五時じゃん。紬と違って部活なんてないし、というか今日入学式だし僕もうちょい寝たいんだけど」

 嶺二が不機嫌そうな目覚まし時計を見ながら抗議すると、紬は怪訝そうな顔をしてこう言った。

「私も今日は部活ないし……というかもう7時半すぎたよ、寝ぼけるのはいいけど入学式遅刻はまずいんじゃない?」

 目覚まし時計はまだ5時だ。不思議に思いスマホを確認すると、なんと時刻は7時42分。大寝坊である。

 嶺二は慌ててベットから飛び降りた。

「なんで早く起こしてくれなかったのさ!」

「毎回ご飯作ってる私に言う? お兄ちゃん。それに昨日目覚まし合わせるって言ってたじゃん」

 そう言われるとぐうの音も出ない。嶺二が慌てて支度するのを見届けて、

「じゃあ私、学校行ってくる。朝ごはんちゃんとテーブルに置いてあるから昼に回してもいいけど少しは食べて行きなよー」

 と言い残し紬は家を出た。

 嶺二はあたふたしながら顔を洗い、制服を着て机の上に置いてあったスクランブルエッグとサラダは完食し、バターがたっぷり塗ってあるトーストを口にくわえて飛び出した。

 靴ひもがほどけたが構っている余裕はない、なんとなく


 ーーあれ? なんだろうこのシチュエーション。何かが始まりそうな予感!

 と馬鹿な事を考えながら角に差し掛かった瞬間、靴ひもを踏んずけ思いっきり転んだ。

 すると、なんと角の先から猛烈な勢いで人影が飛び出してきた。

 ーーこれはまさか! 伝説の美少女がパン加えて遅刻遅刻! って走ってる所に突っ込んじゃってそこから物語が始まるパターン!? 遂にバラ色の高校生活がはじm……

「グエッ」

「グオッ」

 ーーあれ? なんか今やけに男らしい声が聞こえたような。いやいやいや、気のせいだ! 顔を上げればそこには美少女が!! 頭になんかついた!? それになんか顔に柔らかい感触が……まさか!!

 そして嶺二が顔を上げると…………











 顔に嶺二の咥えていたパンを張り付けた、金髪のスカしたイケメンがいた。しかもどうやら先ほどまで、嶺二はその男の股に顔を埋めていたらしい。

 嶺二は男の股に顔を突っ込んで上にその感触を勘違いした事実と、さっきまで想像していた自分の理想の学校生活が急速に遠ざかっていく感覚のせいで、心が急速に冷えていくの感じた。

 嶺二の表情が徐々に死んでいき、うつろな目で宙を見つめていると、目の前のフラグを粉砕した怨敵は顔に張り付いたパンをよけ、その塗ってあったバターで顔をテカテカさせながら声を掛けてきた。

「たく、前見て走れよ!! って嶺二じゃんお前も寝坊か?」

 嶺二は目の前の男を見ると、一切の感情が伺えない平坦な声で答えた。

「アア、ウン。ソウダヨ、リュウヤモ寝坊シタンダ」

 この男は石川竜也、嶺二の悪友にしてバカである。

「いやーヤベぇヤベぇ。昨日徹夜でトランプタワーの新記録に挑戦してたらよ、気がついたら寝ちまっててすっかり朝になってたぜ」

 ーーもし今度竜也の家に遊びに行って、トランプタワーがあったら粉砕してやる……

 と完全なる八つ当たりな復讐を脳内で繰り広げながら、嶺二はおかしな感触のした頭に恐る恐る触れると、ネバっとした感触と共に何かが手についた。

 嶺二の手についたのはネバネバした臭気を放つ物体だった。

「……なにこれ」

 そう嶺二がポツリとつぶやくと、竜也は自慢げに謎の物体の正体を明かした。

「俺特製ブレンドのニンニク納豆スムージーだ」

「」

 嶺二は絶句しながら竜也を信じられないものを見るような目で見ると、何を勘違いしたのかペラペラとしゃべりだした。

「このスムージーはな、言わば俺の勝負飯だ! 負けられない部活の試合がある朝とかに飲むと力が湧くんだよ!」

 ーーこれ塗り薬としても効力あるのかな、ヘヘッニンニク臭いや。これで元気百倍だな……

 なんて現実逃避をしていると竜也はスマホを取り出して時間を確認しながら、焦った声で嶺二を現実に呼び戻した。

「お、おい! マズイぞ嶺二! 集合時間まで後10分しかねぇ!」

 二人は頷きあうと、色々ついたままの格好で高校まで全力疾走した。








 ギリギリ間に合わなかった上に玄関で先生に捕まり、嶺二はシャワーに放り込まれ、その上臭いが取れなかったので先生にファ〇リーズを渡された。










 そして入学式。



「……もう嫌だ」

 嶺二は、へこんでいた。何せ間に合わなかった上に、玄関にて目の前で生徒が鼻をつまんだり遠巻きに笑われたりするのだ。それに自分自身にファ〇リーズなんて経験、人生に一度もなくていい。

 もうすでにスタートから暗雲が立ち込めている。

「まあまあ元気出せって、な?」

 竜也が声を励ましてくるが、納豆臭くなった元凶に言われても殺意しか湧かない。

「うるさい……」

 嶺二が、ネガティブになった影響か、お先真っ暗な高校生活を想像していると、急に場が静かになった。

「見ろよ、あれがこの高校の生徒会長らしいぜ! なんだあれ! 滅茶苦茶美人じゃねえか! この高校入って良かった!」

 凛とした佇まいに綺麗な顔立ち、サラサラしていて腰まで伸びた輝くような銀髪。

 まるで物語の中のヒロインが飛び出してきたような、そんな絶世の美女がそこには居た。

「うららかな春の日差しが心地よいこのごろ、我が校の桜の花も今を盛りとばかりに咲き誇っています。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

在校生を代表して、歓迎の意を表したいと思います。

 高校生活の三年間、勉学や部活動に励み、時折肩の力を抜いて楽しみながら、悔いのない学校生活を送れるように頑張ってください。

 この高校は他の高校とは違い、独特でそれでいてユーモアに溢れたイベントが沢山あります。

 きっとこの高校での生活が、この先の人生でふと思い出して笑えて元気をもらえるような、最高の高校生活になる事を願い、私もその手助けになれるよう微力ながら力添えをさせていただきます。

 最後に、新入生のみなさん今後のご活躍を祈念申し上げて祝辞とさせていただきます。

 本日はご入学、誠におめでとうございます」

 生徒会長は挨拶を終え、壇上から降りた。その所作一つ一つ取っても気品に満ち溢れていて、この場の全員が目を奪われていた。

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