自称泣きゲーのモブに転生~メーカーは泣けるとかほざいてるけど理不尽なヒロイン死亡エンドなんていらねぇ!!

荒星

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イザナギ学院一年生編

第34話 学園祭一日目。 其の三。

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 特別競技場Cの控室に俺が入ると、もう既に対戦相手の加藤明弘がそこにいた。

「おう」

「お前が俺の対戦相手の鈴木悠馬か、よろしく」

 俺が加藤の向かいに座ると、加藤は俺の顔をまじまじと見てくる。

「なんだ? 俺の顔に何かついてるか?」

「いや、なんもついてはないんだが……あの噂って本当なのかってな」

「噂?」

「ほら、お前が学園長やSランクエンフォーサーの尾野真司をぶっ飛ばしたって言う怪物を一人で倒したって噂さ」

 ――またその話か。

「いや、俺一人じゃ倒せなかった。ルシファーを倒せたのは皆の力を合わせたからだ。それに……最後は皆の力を借りたのに、結局自分の力じゃどうにもできずに助けられちまったしな」

「そうか……いや、悪い。あのバケモン相手に立ち向かっただけでもスゲーよ、俺は尻尾撒いて逃げることしか出来なかった」

「そんな事……」

 俺がそう言うと、加藤は頭を搔きながらばつが悪そうに話す。

「現にお前は強いよ。俺はあの時お前の事を無意識に見下してた、Eクラスに所属してる補欠だってな。だけど、今度はあんなバケモン相手に立ち向かえるお前の強さに嫉妬してんだ。……ホント、何やってんだろうな俺」

 ――強さ……か。

「俺は別段強くなんかねーよ。いつだって弱くて周りに心配かけて、何度も大怪我していつも大事な人を泣かせてる。それで毎回思うんだ、もっと強くならなきゃなってな」

「怖くは無いのか? ……きっと噂の件だけじゃない、その話し方だとお前はこれまでも似たような事してきたんだろ? もしかしたら、死にかけた事もあるんじゃないのか?」

 ――そうだな……俺だって人間だ。馬鹿げた威力の魔法が飛んでくれば怖いし、刃物で首を斬られれば死ぬ。だけど……。

「怖えーよ? 死ぬほど痛い思いもしたし、加藤の言う通り死にかけた事もある。だけどな、今の俺は死ぬよりも大事な人達を守れない方が怖いんだ。大事な人達を失いたくない、だから弱くったって死にかけたって藻搔くんだ。例えどんだけ怖くっても、前に進むしかねーんだ。大事な人たちに、いつも笑ってて欲しいからな」

「そう言える時点でお前は強いよ、普通の人間はそんな思いをしたら立とうと思えない。だけどお前はこうして立ってる、いつだって逃げ腰の俺とは大違いだ。俺なんてエンフォーサーに憧れて入学したのにSクラスに入れなかった事をうじうじ悩んで、だけどまだ自分よりも下の奴が居るからって相手の事を良く知りもしないくせに、勝手に見下して。その見下した相手が立ち向かってるのに逃げ出した挙句、勝手にその相手に嫉妬してるんだぜ? 笑えるだろ?」

「そんな事……」

 そう自嘲する加藤に俺が口を開いたその時、アナウンスが鳴り響いた。

『Cブロック第一回戦。第一試合出場者、鈴木悠馬選手と加藤明弘選手はコロシアムへどうぞ!』

「あぁそうさ、俺は弱虫野郎でお前は強い。だけど俺にだって意地がある。この試合でそんなお前と逃げずに戦って、惨めな自分とは決別する! そしてお前に勝ってやる! だからお前も全力で来い!」

 そう言いながら立ち上がり、右手を差し出してきた加藤の手を俺は握り返す。

「ああ! 全力で戦おう!」




『さぁ! 選抜戦Cブロック第一回戦、第一試合の選手たちの入場だ!!』

 俺達が特別競技場Cのコロシアムに入ると、歓声が沸き上がった。

『それでは選手を紹介しましょう! まずはBクラス主席、稀有な固有スキルの保有者! 加藤明弘選手! 二刀使いでその固有スキルと二刀の連携により、相手を翻弄するスピードファイターです!」

 紹介が終わると、加藤は観客席へ手を振った。

『続いては今年の選抜戦のダークホース! Eクラスから選抜戦出場は20年ぶりとなります! 鈴木悠馬選手です!』

 俺が観客席に手を振ったが、紹介はまだ続く。

『えー鈴木選手も加藤選手と同じ二刀使いで、プレイスタイルは未だに不明。しかしAクラスの生徒複数を同時に相手取っても、余裕を見せるほどの実力者のようです! その上ヘルメス様とアレス様、その上この学院の名前にもなっているイザナギ様の加護という、3柱の神々から加護を授かった規格外の聖人! 更に鈴木選手はSランクエンフォーサー尾野真司さんの弟子で、望月学園長とも個人的な交友があるとか……。ん? 何々? なんとここで驚きの情報が入ってきました! 鈴木選手、実はあの伝説のSSランクエンフォーサー嘉義鴎将さんのお孫さんだそうです!』

 ――思ったより自分の事紹介されるって恥ずかしいな。

『それではルールを説明します! この競技場に備え付けられた特殊な魔道具により、両選手には相手の攻撃を代わりに受けてくれる自分の体力相当のバリアが付与されています! 両選手は互いに競い合い、先に相手のバリアを破った選手の勝利となります。尚このバリアには破られたことを分かりやすくするために、破られるとバリアを破られた選手は気絶する機能が備わっており、バリアが破られ相手が気絶したにも拘わらず攻撃を続行した選手は失格となります! ちなみにバリアは耐久値が一定値まで減るごとに、青色、黄色、赤色の順に変化します!』

 ――つまりはバリアが破れたら相手が気絶するから、即座に攻撃をやめろって訳だ。後はバリアの色で残りどのくらい残ってるか確認しろって事だな。

「それでは両選手、準備はよろしいでしょうか! 3,2,1! 試合開始!』

 その瞬間、加藤の姿が消えた。

「チィ!」

 俺は加藤の姿を一瞬捉えて剣を振るが、空振った。

「加速か!」

「ご名答!」

 俺は加藤に食らいつこうとするが、圧倒的なスピードに翻弄され背中を切りつけられる。

「グッ!?」

「このまま押し込むッ!」

 ――このままのスピードじゃ勝てないな……だけど、俺にもスピードを上げるスキルはあるんだよッ!

 俺は疾風迅雷・真を発動させた。

「なッ!? 急に速く!」

 死角から俺を切りつけようとした加藤を弾き返し、俺は体勢を立て直す。

「さぁ! 仕切りなおそうぜ!」

 そう言いながら、俺は加藤に攻撃を仕掛ける。

「ハァァァ!」

「スピードが追いついたってなぁ!」

 巧い戦い方で相手を翻弄するスタイルの加藤に比べ、俺はパワーとスピードでゴリ押す戦闘スタイル。
 そして何よりも同じ二刀同士。最初こそ戸惑った加藤だったが、技量では加藤が格上。俺のスピードに慣れてきた加藤と純粋な技量勝負になり、俺は加藤に押されていた。

「グッ!」

「甘い!」

 加藤は俺の繰り出した刃を跳ね上げ、高速移動しながら片方の剣を投擲してくる。

「しまった!」

 俺は投擲された剣を弾いたが、それに気を取られている隙に加藤は俺の背後に回った。

「クソッ!」

 咄嗟に後ろへ飛ぶが間に合わず、バリアが甲高い音を立てる。

「硬すぎだろ!」

 ――もう黄色……マズいな。

「おい鈴木、俺は全力でって言ったよな。まだ全然本気出してないだろ。それとも、俺相手に本気は出せないか?」

「いや。お前の戦い方が上手くって、つい自分の剣の技量だけで勝負したくなったんだ。俺はいつも力押しばっかりだからな、気に障ったなら謝る」

「良いさ、自分の技量を褒められるのは悪い気はしないからな。だけど、今からちゃんと本気出してくれるんだろ?」

「ああ! これが全身全霊、今の俺の本気だッ!」

 俺はそう叫ぶのと同時に神威を三つ同時に発動させ、龍装を纏った。

「……スゲーな。ここまでお前の圧が届いてくるぜ、鈴木」

「次はは俺の番だッ! 行くぞ加藤!」

 俺はタラリアを発動させ、空を駆けながら加藤へ急接近する。

「なにッ!? 空から!?」

「ハァァァ!」

 加藤は俺のレイスラッシュ・シンを剣で防ぎ、空中へ弾き飛ばされるも即座に体勢を立て直す。

「すげえ、たかが一撃。防御しただけで手が痺れてやがる。だけどなぁ!」

 加藤は俺に向かって叫ぶと、スキルを発動させた。

「ミラージュデコイか!」

「「「「ご名答!」」」」

 無数の加藤は超高速で動き回る。

「フッ! クッ!? 数が多いし速すぎる!」

 俺は時おりデコイの中から高速で奇襲してくる加藤の攻撃を何とかやり過ごすが、少しづつバリアを削られていた。

「これで終わりだ!」

 ――この状況を打開するにはこれしかない!

「薙ぎ払え! ケーリュケイオン!」

 俺はケーリュケイオンを発動させてると、辺り一面を無差別に薙ぎ払う。

「しまった、デコイが!?」

 そして、デコイが消滅した加藤に向かって俺は走り出した。

「決着をつけるぞ! 加藤!」

「来いッ! 鈴木!」

「アウァリティア・バースト!!」

「イグニススラッシュ!!」

 その瞬間、特別競技場は光に包まれる。

「強かったぜ、加藤」

 俺は気絶した加藤にそう言うと、龍装を解除し剣を仕舞った。

『決まったぁぁぁ! Cブロック一回戦、第一試合! 勝利を手にしたのは鈴木悠馬選手だぁぁぁ!』




 試合終了後。俺と同じ第一試合で別ブロックで行われた二人の試合結果を聞こうと、俺はソフィアと冬香を探し回っていた。

「おーい。ソフィア、冬香……」

 ソフィアと冬香の背中を見つけ、駆け寄ろうとしたが俺は立ち止まる。
 何故なら俺の視線の先には、楽しそうに屋台を巡るソフィアと冬香。そしてその二人に挟まれ楽しそうに笑う龍斗の姿があったからだ。

 ――そう……だよな、あれが正しい姿なんだ。俺みたいな中身がおっさんの、本来序盤で死ぬモブキャラがしゃしゃり出て良い訳がない。今までがおかしかったんだよ、何を勘違いしかけてたんだ俺。

 俺は自虐的な笑みを浮かべながら、踵を返す。

 ――いいじゃないか。元からこっちを見て欲しくて、強くなろうとした訳じゃない。俺を救ってくれたアイツらを、助けるために強くなるって決めたんだから。だからアイツらの笑顔が俺に向けられなくても、笑っていてくれるならそれで……。

 そして俺はずきりと痛む心を無視して、雑踏の中に姿を消した。
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