自称泣きゲーのモブに転生~メーカーは泣けるとかほざいてるけど理不尽なヒロイン死亡エンドなんていらねぇ!!

荒星

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イザナギ学院一年生編

第16話 祖父

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 グレゴリーが壁に叩きつけられた衝撃で、もうもうと上がる土煙を睨みつけると俺は呟いた。

「やった……のか?」

「そうだよ悠馬! やったんだ! 僕たち勝ったんだよ!」

「あぁ、やったな! それにしても危なかった……」

 俺は喜ぶ龍斗を見ながら、額の汗をぬぐう。

 ーー本当に紙一重だった。もしもあの時、グレゴリーが龍斗に攻撃するのを優先せずに、瞬間移動で逃げることを選んでいたら……

「やったな悠馬……凄かったぞ」

 足を引きずりながら近づいてくる茜に笑いかけ、俺は龍斗に語り掛ける。

「肩を貸しますよ、茜さん。おい龍斗、とりあえず負傷した皆を運ぼう」

「そうだね」

 ーーまだだ悠馬!? まだあいつは死んでいない!!

 その時、ロトの必死な声が聞こえた。

「なッ!?」

「ちゃんと敵の生死は確認しねえとなぁ!!」

「ッ!?」

 俺がロトの声を聞き、振り返った瞬間。土煙の中からグレゴリーが姿を現して龍斗の懐に潜り込み、魔法を直接腹に叩き込まれた龍斗は吹っ飛んだ。

「龍斗!」

 龍斗は数回地面を跳ねた後、壁にぶつかり止まった。

「オイ龍斗! 返事をしろ!!」

 しかし、いくら呼びかけても龍斗はピクリとも動かない。

「クソッ!」

「ヒャハハハ! よそ見してる場合かよ!」

「くッ!?」

 俺は咄嗟にグレゴリーが繰り出す攻撃を防ぐが、段々と押し込まれていく。

「ガハッ!」

 遂に防御が追い付かなくなり剣を跳ね上げられた後、腹部にグレゴリーの蹴りを受け、俺は空中を舞った。

「ガッ! クソッ……たれ……」

 俺は背中から床に落ちて血反吐を吐くも、無理矢理立ち上がる。

「この! ギガントスマッシュ!」

 茜はそのボロボロの体でグレゴリーに攻撃するが防がれてしまい、茜は腹に拳を叩き込まれた。

「ゲホッ!?」

「望月茜ぇ……良いぜ、オマエ復讐対象だ。手始めに先ずはお前から殺してやるよ!」

 グレゴリーは悪意に満ちた笑みを浮かべると、腹を抑えてうずくまる茜に向けて手を向ける。

「んじゃあ吹き飛べ」

「やめろ……やめろォォォ!!!」

 俺はクールタイムを無視して、疾風迅雷・真を発動させる。そして全身を襲う激痛に耐えながら、茜とグレゴリーの間に滑り込んだ。

 ーーこれは……死んだな。

 向かってくる魔法をスローになった視界で眺めていると、唐突に魔法が真っ二つになり、誰かが俺を庇うようにグレゴリーの前へそびえ立った

「もう大丈夫だ、悠馬。後はおじいちゃんに任せなさい」

 ーー嘉義鴎将かぎおうすけ……何故ここに……

 俺を安心させようと笑いかける作中最強キャラの顔を眺めながら、俺は意識を失い崩れ落ちた。



「で、アンタは? 一体誰なんだ?」

 俺は病院のベッドの上で、よれよれのコートを羽織った老人に話しかけていた。

 嘉義鴎将かぎおうすけ。作中最強のキャラクターで、唯一神威の使用が確認されたキャラ。そして、世界に5人しかいないSSランクエンフォーサーの一人。

 ーーだから一応知ってはいるんだけど……けどコイツ、俺の知り合いなのか?

「……やはり、記憶喪失という話は本当だったか」

 嘉義鷗将は一瞬寂しそうな顔をしたが、その後。気を取り直すと、俺に向かって自己紹介する。

「儂の名前は嘉義鴎将かぎおうすけ。お前のおじいちゃんだよ」

 ーーは?

「……えっと、アンタが世界中放浪しまくってるっていう俺のじいちゃん?」

 ーーあ、あれ? 俺の祖父ってシーガルじゃないの!? って……

 確かに、シーガル自体もおかしな奴だった。
 余程の高難易度ダンジョン以外は居てその上ショップを開いているなんて、ゲームではなく現実となった今、改めて考えるとおかしすぎる。
 だが、シーガルの正体がコイツだって言うなら納得だ。

「まさか二人が事故にあって死んでしまっていたとは……辛いときに傍にいてやれなくて済まなかった」

「い、いや……そういえば皆はどうなったんだ!?」

「大丈夫だ、何人かは重症だが命に別状はない……それに」

 鷗将はちらりと病室のドアを見ると笑みを浮かべ、病室のドアを開けた。

「うわっ!? 痛ッ!」

「痛ッ! おでこが……もう! 冬香!」

「え、えっと……初めまして、浅野円華です。その、盗み聞きするつもりは……」

 すると、そこにはそれぞれ頭と額を抑えてうずくまる冬香とソフィア、そしてわたわたとうろたえる姉さんがそこには居た。

「良いってことよ。どうやら友達には恵まれたみたいで安心したぞ。それじゃあおじいちゃん行くから」

 鷗将は帽子を被ると、足早に去っていった。

「お、起きたんだな悠馬。目覚めてくれて本当に良かった」

 姉さんはそう言うと、俺に抱き着いた。

「なッ!」

「えっ!?」



 その後、ブツブツと『ダイジョウブ……コレは姉弟特有のスキンシップ。コレは姉弟特有のスキンシップ……』だの『セーフよセーフ……アレ? これって本当に大丈夫な奴?』などと呟く二人をなんとか現実に引き戻し、俺は三人に話を聞いていた。

「それで学園長と尾野さん、龍斗君は入院。私達はまだ軽症で済んだから、治癒魔法だけ掛けられて経過観察中だ」

「なるほど……それで、ジェームズは?」

「それなんだけど……」

 どうやら彼は助からなかったらしい。それもそうか、真っ二つだもんな。ちなみに、彼は堕天使を使役するなんてお国柄上アウトな大ポカを衆人環境でやらかし、家の取りつぶしが決まったそうだ。
 その上、あんな代物。子供だけで手に入れられるわけが無いと家に捜査が入ると、あれよあれよと汚職や犯罪の証拠等が出てきて、父親と母親は牢屋行きになるそうな……

「……ところで、俺ってどんくらい寝てた?」

「一週間」

「……一週間!? あ、あとグレゴリーは?」

「逃げられたみたい。悠馬のおじいさんが居なかったらと思うと……」

「そうか……」

 ーー次戦うときは負けない! もっと強くなってやる、絶対に!

 俺は密かに心の中で決意すると、病院の窓から空を見上げた。
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