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有聖たちが出ていくのを待ってから、翔は大急ぎで片付けを開始した。使った縄やタオルを回収し、床をモップで拭いておく。ついでに部屋のゴミ箱にゴミがないか確認しながら、客の忘れ物がないかも一通り見て回った。
「あ、フックとかの調子はどうしよう……?」
次のセッションがあるわけじゃないから、もうしなくていいのだろうか?
考えるより、わからないことは些細なことでも聞いた方が早い。聞くは一時の、というし、二度手間になるよりも聞いた方がいいだろう。
インカムで呼びかければ、すぐに茜が返事をしてくれた。
「ざっと床を拭いて、ゴミを確認したけど、フックとかの確認はいらない?」
『ありがとーん。業者が入るからいいよぉ。フックとかは定期的にメンテもあるし。縄とか入ってたワゴンは部屋の入り口付近に置いて、使用済みの縄とかまとめたのは、廊下に出しておいてちょ~』
「わかった。じゃ、それやったら戻るね」
てきぱきと動いて、言われたとおりに片付けていく。
一人の作業は気が楽だ。わからないところは聞けば、嫌な顔せず教えてもらえる。
部屋の外の廊下に使用済みの縄が入った袋や、その他タオルなどが入った袋を置いて、翔はゆっくりと伸びをした。
(もうそろそろ人が少なくなってきた頃かな……。やっぱ、この時間になってくると、ちょっと足が疲れてくるな)
一晩中立ちっぱなし歩きっぱなしの仕事だ。若いとはいえ、足が疲れてきた。
そんなことをぼんやりと思いながら、フロアへと続くドアを押し開けて出ようとした時、ドンと何かにぶつかった。衝撃によろけて、一歩二歩と後ろに後退る。
「っ、すみませっ! ――っ!」
フロアにいた客にぶつけてしまったのかと、翔は咄嗟に謝った。だが、ぶつかったはずの客が、さらに翔の肩を強い力で押したので、翔は勢いよく尻餅をついてしまう。
いてて、と尻をさすり、翔は一体に何事だと上を見上げた。
「……っ、なんなんだよ」
「案外、口が悪いんだね。悪い子だなぁ」
気味の悪いねっとりとした声がした。
「あんた――」
卑猥な妄想を垂れ流していた男だ。
――やばい。
「覚えてくれてるんだ。僕もずーっと君のこといいなぁって思ってたんだよ。可愛いなぁ」
にたりと粘着質な笑みを浮かべたまま、男が上から翔を見下ろしてくる。
翔は首の後ろがぞわぞわと怖気立つのを感じた。
「あの調教師よりも僕の奴隷になりなよ」
「な、に……言ってんの。冗談は、やめろよ」
男を睨みつけながら振り絞った声は微かに震えていた。
本能的に、翔はずりずりと座り込んだまま後退る。冷や汗が背筋を伝うのがわかった。
「ふん。言葉づかいがなってないなぁ。悪い子は縛りあげてお仕置きしなくちゃいけないな」
脂ぎった手が翔の方に伸びてくる。
「――ぃ! やめろっ!」
触ろうとする手を叩き落としたが、逆の手で腕を掴まれた。じっとりした感触に、翔の肌が粟立つ。
「いっ! はな、せ!」
がむしゃらに腕を振り解こうとしても、強く握り込まれた手は全く離れていかない。
それどころか、隙をついて横腹を蹴り上げられ転がったところを背中から馬乗りにされてしまった。背中で捻り上げられた肘がギリギリと軋む。
「じゃじゃ馬だなぁ。さぁ、まずは後ろ手に縛って座禅転がしだよ」
背中にありったけの体重を乗せられ、胸が潰れそうだった。
どこから取り出したのか、硬い縄のざらざらとした感触が手首を這った。
「っ、いやだ! やめ、ろっ――!」
ぐるぐると巻きつけられ、両手首をギチギチに締め上げられてしまった。
手首が軋んだ。だが、それよりもとてつもない吐き気を感じて、翔は息が詰まっていくのを感じた。
気持ち悪い。嫌だ。怖い。
有聖の時に感じたような恍惚感など全くない。これ以上にないほどの不快感と嫌悪感に体がどんどん痺れていく。
「……ゆ、うせい、……っ」
嫌だ。気持ち悪い。有聖以外にこんなことはされたくない。
翔の目に涙が滲んだ。
「かわいいなぁ。ちょっと縛っただけなのに、そんな顔して。舐めまわしてあげたくなっちゃうよ」
馬乗りになった男が翔の顔を覗き込み、にたりと下卑た笑みを浮かべた。
「あ、フックとかの調子はどうしよう……?」
次のセッションがあるわけじゃないから、もうしなくていいのだろうか?
考えるより、わからないことは些細なことでも聞いた方が早い。聞くは一時の、というし、二度手間になるよりも聞いた方がいいだろう。
インカムで呼びかければ、すぐに茜が返事をしてくれた。
「ざっと床を拭いて、ゴミを確認したけど、フックとかの確認はいらない?」
『ありがとーん。業者が入るからいいよぉ。フックとかは定期的にメンテもあるし。縄とか入ってたワゴンは部屋の入り口付近に置いて、使用済みの縄とかまとめたのは、廊下に出しておいてちょ~』
「わかった。じゃ、それやったら戻るね」
てきぱきと動いて、言われたとおりに片付けていく。
一人の作業は気が楽だ。わからないところは聞けば、嫌な顔せず教えてもらえる。
部屋の外の廊下に使用済みの縄が入った袋や、その他タオルなどが入った袋を置いて、翔はゆっくりと伸びをした。
(もうそろそろ人が少なくなってきた頃かな……。やっぱ、この時間になってくると、ちょっと足が疲れてくるな)
一晩中立ちっぱなし歩きっぱなしの仕事だ。若いとはいえ、足が疲れてきた。
そんなことをぼんやりと思いながら、フロアへと続くドアを押し開けて出ようとした時、ドンと何かにぶつかった。衝撃によろけて、一歩二歩と後ろに後退る。
「っ、すみませっ! ――っ!」
フロアにいた客にぶつけてしまったのかと、翔は咄嗟に謝った。だが、ぶつかったはずの客が、さらに翔の肩を強い力で押したので、翔は勢いよく尻餅をついてしまう。
いてて、と尻をさすり、翔は一体に何事だと上を見上げた。
「……っ、なんなんだよ」
「案外、口が悪いんだね。悪い子だなぁ」
気味の悪いねっとりとした声がした。
「あんた――」
卑猥な妄想を垂れ流していた男だ。
――やばい。
「覚えてくれてるんだ。僕もずーっと君のこといいなぁって思ってたんだよ。可愛いなぁ」
にたりと粘着質な笑みを浮かべたまま、男が上から翔を見下ろしてくる。
翔は首の後ろがぞわぞわと怖気立つのを感じた。
「あの調教師よりも僕の奴隷になりなよ」
「な、に……言ってんの。冗談は、やめろよ」
男を睨みつけながら振り絞った声は微かに震えていた。
本能的に、翔はずりずりと座り込んだまま後退る。冷や汗が背筋を伝うのがわかった。
「ふん。言葉づかいがなってないなぁ。悪い子は縛りあげてお仕置きしなくちゃいけないな」
脂ぎった手が翔の方に伸びてくる。
「――ぃ! やめろっ!」
触ろうとする手を叩き落としたが、逆の手で腕を掴まれた。じっとりした感触に、翔の肌が粟立つ。
「いっ! はな、せ!」
がむしゃらに腕を振り解こうとしても、強く握り込まれた手は全く離れていかない。
それどころか、隙をついて横腹を蹴り上げられ転がったところを背中から馬乗りにされてしまった。背中で捻り上げられた肘がギリギリと軋む。
「じゃじゃ馬だなぁ。さぁ、まずは後ろ手に縛って座禅転がしだよ」
背中にありったけの体重を乗せられ、胸が潰れそうだった。
どこから取り出したのか、硬い縄のざらざらとした感触が手首を這った。
「っ、いやだ! やめ、ろっ――!」
ぐるぐると巻きつけられ、両手首をギチギチに締め上げられてしまった。
手首が軋んだ。だが、それよりもとてつもない吐き気を感じて、翔は息が詰まっていくのを感じた。
気持ち悪い。嫌だ。怖い。
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「……ゆ、うせい、……っ」
嫌だ。気持ち悪い。有聖以外にこんなことはされたくない。
翔の目に涙が滲んだ。
「かわいいなぁ。ちょっと縛っただけなのに、そんな顔して。舐めまわしてあげたくなっちゃうよ」
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