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素直になって側にいたい
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「お邪魔します……」
主がいない部屋の扉を開け、ニーナは緊張の面持ちで中に入った。
カインの部屋には本棚と机、こじんまりとしたクローゼット、ベッドにサイドボード、隅の方に鍛錬用の道具らしき物があったが、どこか生活感がない。
(きっと仕事で家を空けることが多いからだろうな)
娼館の寮には従業員が持ち寄った様々な物が溢れていた。下働きの従業員とニーナで定期的に整理していたが、良くわからない置物や本が減ることはなかった。
(国境沿いの町でのことが何だか随分前のことみたいだ)
サイドボードにある魔法の照明は部屋を穏やかな光で包んでいる。そんな風に落ち着いた雰囲気の部屋の中、ベッドのシーツだけが光を反射して一際明るく見えた。
ニーナはベッドに向かい、シーツの上にポスンと腰掛けた。シーツをツッと指先で撫でてみると手触りが良くてパリッとしていた。新しい物を用意してくれたのだろう。
少しだけ横になってみると、カインの匂いに包まれているようで胸がキュンと鳴った。ベッドはカインの身長に合わせてか大きめの物だったが、二人で眠るには狭いかもしれないなどと考えてニーナは身悶えた。
(これから、カインとここで……ああ、ドキドキしてきた。好きな相手とするのなんて初めてだし。オレ……耐えられるかな)
カインの枕をギュッと抱きしめていると、部屋がノックされた。自分の部屋なのに律儀だなとニーナは苦笑して「どうぞ」と返事をしてから起き上がった。
「ニーナ」
「お帰りなさい、カイン」
カインは水差しとコップが二つ載った盆を持って部屋に入って来た。盆をサイドボードに置くと、コップに水を注いで立ったままグイッと飲み干した。
「ニーナも今飲むか?」
カインは新しいコップを指差して言った。ニーナはふるふると首を振った。
「今は大丈夫。後で貰うよ」
「そうか……後か」
カインは水を飲み干したコップをしばらく持ったままでいた。そしてベッドに座るニーナを見てから、盆の上にコップを戻した。
「こっち来ないの?」
カインはベッドの近くで相変わらず立ったままこちらを見ている。ニーナはシーツをポンポンと叩き、座るように促した。
「……俺の部屋にニーナがいるのが、現実なのか分からなくなっていた」
カインは照れくさそうに言うとニーナの隣に腰を下ろした。
「ふふっ、カインもなんだ。実はオレも」
隣に座ったカインに抱きつくと、カインは甘いため息を漏らした。
「やっぱりさ、夢かどうか頬をギュッてつねり合うべきだって」
「……ニーナの頬にそんなことは出来ない」
昼間にもしたやり取りをベッドの上でするとどこか甘ったるく感じる。ニーナはふっと息をついた。
「……じゃあ、こういうのは?」
ニーナはカインの手を取り、剣ダコのある指先をカプリと軽く甘噛みした。カインは驚いたのかビクリと震えた。
「痛い?」
「……痛くはないが妙な気分になる」
「オレのことも齧って良いよ」
カインの手を優しくマッサージするように撫で、ニーナは微笑んだ。
「まあ、美味しくはないけどね」
「……ニーナはどこもかしこも美味そうだがな」
カインはそう言うと、ニーナの頭の上についた耳をパクリと優しく噛んだ。
主がいない部屋の扉を開け、ニーナは緊張の面持ちで中に入った。
カインの部屋には本棚と机、こじんまりとしたクローゼット、ベッドにサイドボード、隅の方に鍛錬用の道具らしき物があったが、どこか生活感がない。
(きっと仕事で家を空けることが多いからだろうな)
娼館の寮には従業員が持ち寄った様々な物が溢れていた。下働きの従業員とニーナで定期的に整理していたが、良くわからない置物や本が減ることはなかった。
(国境沿いの町でのことが何だか随分前のことみたいだ)
サイドボードにある魔法の照明は部屋を穏やかな光で包んでいる。そんな風に落ち着いた雰囲気の部屋の中、ベッドのシーツだけが光を反射して一際明るく見えた。
ニーナはベッドに向かい、シーツの上にポスンと腰掛けた。シーツをツッと指先で撫でてみると手触りが良くてパリッとしていた。新しい物を用意してくれたのだろう。
少しだけ横になってみると、カインの匂いに包まれているようで胸がキュンと鳴った。ベッドはカインの身長に合わせてか大きめの物だったが、二人で眠るには狭いかもしれないなどと考えてニーナは身悶えた。
(これから、カインとここで……ああ、ドキドキしてきた。好きな相手とするのなんて初めてだし。オレ……耐えられるかな)
カインの枕をギュッと抱きしめていると、部屋がノックされた。自分の部屋なのに律儀だなとニーナは苦笑して「どうぞ」と返事をしてから起き上がった。
「ニーナ」
「お帰りなさい、カイン」
カインは水差しとコップが二つ載った盆を持って部屋に入って来た。盆をサイドボードに置くと、コップに水を注いで立ったままグイッと飲み干した。
「ニーナも今飲むか?」
カインは新しいコップを指差して言った。ニーナはふるふると首を振った。
「今は大丈夫。後で貰うよ」
「そうか……後か」
カインは水を飲み干したコップをしばらく持ったままでいた。そしてベッドに座るニーナを見てから、盆の上にコップを戻した。
「こっち来ないの?」
カインはベッドの近くで相変わらず立ったままこちらを見ている。ニーナはシーツをポンポンと叩き、座るように促した。
「……俺の部屋にニーナがいるのが、現実なのか分からなくなっていた」
カインは照れくさそうに言うとニーナの隣に腰を下ろした。
「ふふっ、カインもなんだ。実はオレも」
隣に座ったカインに抱きつくと、カインは甘いため息を漏らした。
「やっぱりさ、夢かどうか頬をギュッてつねり合うべきだって」
「……ニーナの頬にそんなことは出来ない」
昼間にもしたやり取りをベッドの上でするとどこか甘ったるく感じる。ニーナはふっと息をついた。
「……じゃあ、こういうのは?」
ニーナはカインの手を取り、剣ダコのある指先をカプリと軽く甘噛みした。カインは驚いたのかビクリと震えた。
「痛い?」
「……痛くはないが妙な気分になる」
「オレのことも齧って良いよ」
カインの手を優しくマッサージするように撫で、ニーナは微笑んだ。
「まあ、美味しくはないけどね」
「……ニーナはどこもかしこも美味そうだがな」
カインはそう言うと、ニーナの頭の上についた耳をパクリと優しく噛んだ。
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