87 / 105
素直になって側にいたい
20
しおりを挟む
(ついに夜だ……)
湯上がりのニーナは頭にタオルをのせたまま階段の前で立ち尽くしていた。
フサフサの長い尻尾は緊張と興奮によるものなのか、落ち着きなく小きざみに揺れている。
(カインと一緒に……眠る時間が来た)
カインは二階の自室でニーナを待っている。ニーナは色々と体の準備があったので、先に部屋に戻っていてと言ったからだ。
(応接間で待つって言われたけど、それはちょっと気まずいからな)
ソファでイチャついた後は、家の中を案内してもらったり、一緒に食事をしたり、王都の観光名所の話をしたりと、何だかあっという間に時は過ぎていった。楽しくてとても充実した時間だったが、ニーナはまたそわそわして落ち着かない気持ちになっていた。
(結局美味しいパイも昼間と同じで集中して食べられなかったし……で、でも何切れか残ったから明日の朝食べようって、カインと朝食の約束が出来た!)
同じ屋根の下、すぐ触れられる距離にカインがいて、共に眠り、共に食事をするなんて、とんでもなく幸福なことだと、ニーナはため息をついた。
(カインと結婚したら、幸せ過ぎてオレはダメな奴になっちゃわないか?)
ニーナはまだ水気の残る頭と耳をわしわしとタオルで擦った。
(結婚したら……カインとご飯食べるのが当たり前になるんだよな。じゃあ、毎日、アレが出来るんだ)
今日の夕食時、二人きりなのをいいことにカインの口元に食べ物を運び、存分にカインの食べっぷりの良さを味わった。それが毎日出来る――ニーナは幸せ過ぎてどうして良いのか分からなくなった。
(そんな楽しい食事を毎日? 良いのか? そんな良い思いをして)
甘い妄想を繰り広げながら無心で頭をタオルで擦っていると、二階から扉が開く音がしてパタパタと階段からカインが降りて来た。
「カ、カイン……」
カインは廊下に立ち尽くしているニーナを見て首を傾げた。
「こんな所でどうしたんだ?」
カインは部屋着に着替え、ゆったりとした格好をしている。ニーナは新鮮な気持ちがして、しばらくジッと見つめてしまった。
「ニーナ?」
「あ、ああ、うん。髪の毛乾いてないなあってボーッとしちゃってただけ! 今から階段上ろうとしてたんだよ。本当だよ」
ハッと我に帰り、挙動不審になりつつもそう言った。
「カインこそ、どうしたの?」
「ああ、水を飲もうと思ってな。緊張すると喉が乾く」
カインは目を泳がせながら呟いた。
「そ、そうなんだ」
「ニーナの分も持って行こう。先に部屋で待っていてくれ」
「うん、ありがとう……」
会話が途切れてからも離れ難いようなむず痒い時間が流れた。二人して落ち着かない様子でしばらく見つめ合ってから、おずおずと顔を近づけて軽くキスをした。
「……すぐに、戻る」
「ん……」
照れくさそうにそう言うとカインは台所へ向かった。ニーナはそんなカインの背中を見送ってから、階段を早足で駆け上った。
湯上がりのニーナは頭にタオルをのせたまま階段の前で立ち尽くしていた。
フサフサの長い尻尾は緊張と興奮によるものなのか、落ち着きなく小きざみに揺れている。
(カインと一緒に……眠る時間が来た)
カインは二階の自室でニーナを待っている。ニーナは色々と体の準備があったので、先に部屋に戻っていてと言ったからだ。
(応接間で待つって言われたけど、それはちょっと気まずいからな)
ソファでイチャついた後は、家の中を案内してもらったり、一緒に食事をしたり、王都の観光名所の話をしたりと、何だかあっという間に時は過ぎていった。楽しくてとても充実した時間だったが、ニーナはまたそわそわして落ち着かない気持ちになっていた。
(結局美味しいパイも昼間と同じで集中して食べられなかったし……で、でも何切れか残ったから明日の朝食べようって、カインと朝食の約束が出来た!)
同じ屋根の下、すぐ触れられる距離にカインがいて、共に眠り、共に食事をするなんて、とんでもなく幸福なことだと、ニーナはため息をついた。
(カインと結婚したら、幸せ過ぎてオレはダメな奴になっちゃわないか?)
ニーナはまだ水気の残る頭と耳をわしわしとタオルで擦った。
(結婚したら……カインとご飯食べるのが当たり前になるんだよな。じゃあ、毎日、アレが出来るんだ)
今日の夕食時、二人きりなのをいいことにカインの口元に食べ物を運び、存分にカインの食べっぷりの良さを味わった。それが毎日出来る――ニーナは幸せ過ぎてどうして良いのか分からなくなった。
(そんな楽しい食事を毎日? 良いのか? そんな良い思いをして)
甘い妄想を繰り広げながら無心で頭をタオルで擦っていると、二階から扉が開く音がしてパタパタと階段からカインが降りて来た。
「カ、カイン……」
カインは廊下に立ち尽くしているニーナを見て首を傾げた。
「こんな所でどうしたんだ?」
カインは部屋着に着替え、ゆったりとした格好をしている。ニーナは新鮮な気持ちがして、しばらくジッと見つめてしまった。
「ニーナ?」
「あ、ああ、うん。髪の毛乾いてないなあってボーッとしちゃってただけ! 今から階段上ろうとしてたんだよ。本当だよ」
ハッと我に帰り、挙動不審になりつつもそう言った。
「カインこそ、どうしたの?」
「ああ、水を飲もうと思ってな。緊張すると喉が乾く」
カインは目を泳がせながら呟いた。
「そ、そうなんだ」
「ニーナの分も持って行こう。先に部屋で待っていてくれ」
「うん、ありがとう……」
会話が途切れてからも離れ難いようなむず痒い時間が流れた。二人して落ち着かない様子でしばらく見つめ合ってから、おずおずと顔を近づけて軽くキスをした。
「……すぐに、戻る」
「ん……」
照れくさそうにそう言うとカインは台所へ向かった。ニーナはそんなカインの背中を見送ってから、階段を早足で駆け上った。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~
菱沼あゆ
ファンタジー
旅の途中、盗賊にさらわれたアローナ。
娼館に売られるが、謎の男、アハトに買われ、王への貢ぎ物として王宮へ。
だが、美しきメディフィスの王、ジンはアローナを刺客ではないかと疑っていた――。
王様、王様っ。
私、ほんとは娼婦でも、刺客でもありませんーっ!
ひょんなことから若き王への貢ぎ物となったアローナの宮廷生活。
(小説家になろうにも掲載しています)
社畜サラリーマン、異世界で竜帝陛下のペットになる
ひよこ麺
BL
30歳の誕生日を深夜のオフィスで迎えた生粋の社畜サラリーマン、立花志鶴(たちばな しづる)。家庭の都合で誰かに助けを求めることが苦手な志鶴がひとり涙を流していた時、誰かの呼び声と共にパソコンが光り輝き、奇妙な世界に召喚されてしまう。
その世界は人類よりも高度な種族である竜人とそれに従うもの達が支配する世界でその世界で一番偉い竜帝陛下のラムセス様に『可愛い子ちゃん』と呼ばれて溺愛されることになった志鶴。
いままでの人生では想像もできないほどに甘やかされて溺愛される志鶴。
しかし、『異世界からきた人間が元の世界に戻れない』という事実ならくる責任感で可愛がられてるだけと思い竜帝陛下に心を開かないと誓うが……。
「余の大切な可愛い子ちゃん、ずっと大切にしたい」
「……その感情は恋愛ではなく、ペットに対してのものですよね」
溺愛系スパダリ竜帝陛下×傷だらけ猫系社畜リーマンのふたりの愛の行方は……??
ついでに志鶴の居ない世界でもいままでにない変化が??
第11回BL小説大賞に応募させて頂きます。今回も何卒宜しくお願いいたします。
※いつも通り竜帝陛下には変態みがありますのでご注意ください。また「※」付きの回は性的な要素を含みます
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる