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素直になって側にいたい

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(ついに夜だ……)

 湯上がりのニーナは頭にタオルをのせたまま階段の前で立ち尽くしていた。

 フサフサの長い尻尾は緊張と興奮によるものなのか、落ち着きなく小きざみに揺れている。

(カインと一緒に……眠る時間が来た)

 カインは二階の自室でニーナを待っている。ニーナは色々と体の準備があったので、先に部屋に戻っていてと言ったからだ。

(応接間で待つって言われたけど、それはちょっと気まずいからな)

 ソファでイチャついた後は、家の中を案内してもらったり、一緒に食事をしたり、王都の観光名所の話をしたりと、何だかあっという間に時は過ぎていった。楽しくてとても充実した時間だったが、ニーナはまたそわそわして落ち着かない気持ちになっていた。

(結局美味しいパイも昼間と同じで集中して食べられなかったし……で、でも何切れか残ったから明日の朝食べようって、カインと朝食の約束が出来た!)

 同じ屋根の下、すぐ触れられる距離にカインがいて、共に眠り、共に食事をするなんて、とんでもなく幸福なことだと、ニーナはため息をついた。

(カインと結婚したら、幸せ過ぎてオレはダメな奴になっちゃわないか?)

 ニーナはまだ水気の残る頭と耳をわしわしとタオルで擦った。

(結婚したら……カインとご飯食べるのが当たり前になるんだよな。じゃあ、毎日、アレが出来るんだ)

 今日の夕食時、二人きりなのをいいことにカインの口元に食べ物を運び、存分にカインの食べっぷりの良さを味わった。それが毎日出来る――ニーナは幸せ過ぎてどうして良いのか分からなくなった。

(そんな楽しい食事を毎日? 良いのか? そんな良い思いをして)

 甘い妄想を繰り広げながら無心で頭をタオルで擦っていると、二階から扉が開く音がしてパタパタと階段からカインが降りて来た。

「カ、カイン……」

 カインは廊下に立ち尽くしているニーナを見て首を傾げた。

「こんな所でどうしたんだ?」

 カインは部屋着に着替え、ゆったりとした格好をしている。ニーナは新鮮な気持ちがして、しばらくジッと見つめてしまった。

「ニーナ?」
「あ、ああ、うん。髪の毛乾いてないなあってボーッとしちゃってただけ! 今から階段上ろうとしてたんだよ。本当だよ」

 ハッと我に帰り、挙動不審になりつつもそう言った。

「カインこそ、どうしたの?」
「ああ、水を飲もうと思ってな。緊張すると喉が乾く」

 カインは目を泳がせながら呟いた。

「そ、そうなんだ」
「ニーナの分も持って行こう。先に部屋で待っていてくれ」
「うん、ありがとう……」

 会話が途切れてからも離れ難いようなむず痒い時間が流れた。二人して落ち着かない様子でしばらく見つめ合ってから、おずおずと顔を近づけて軽くキスをした。

「……すぐに、戻る」
「ん……」

 照れくさそうにそう言うとカインは台所へ向かった。ニーナはそんなカインの背中を見送ってから、階段を早足で駆け上った。

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