【完結/BL/R18】獣人のオレは娼館で働いているのに初心な大型犬に絆されて、それから

テルマ江

文字の大きさ
上 下
79 / 105
素直になって側にいたい

12

しおりを挟む
 商人ギルドの職員にガランドの店の場所を教えてもらい、ニーナは『ガランド商会』へ向かった。

 ガランドの経営する『ガランド商会』は商人ギルド区画内にあり、茶色のレンガ造りの堂々とした店構えに大きな看板が掲げられていた。

 立派な店なのでニーナは気後れしそうになったが「取り敢えず行ってダメなら他を探す」という気持ちだったので、思い切って中に入った。

 店内には値札が着いた木箱が沢山並べられ、頑丈そうなガラス棚には不可思議な置物が飾られていた。卸問屋のような事業を行っているのだろうか。そんな商品を眺めつつ商談を行っている者もいる。

 近くの従業員に話しかけ、避難先の集落でのことをかいつまんで説明すると「ああ」と得心がいったような顔になり「こちらでお待ち下さい」と店の衝立の奥に通された。衝立の奥は商談スペースなのか、ソファセットと机がある。

 温かい茶に菓子まで出され、ニーナがそわそわしながら待っていると、亜麻色の髪の少年がやって来てにこやかに話しかけて来た。

 聞けば少年はガランドの一番上の息子で「父から話は聞いています」と見た目に似合わない大人びた口調で話し始めた。

「父は商談で不在ですので、後日来て頂くことは可能でしょうか?」
「はい、もちろんです。オレ……私も突然尋ねて来たのに対応して頂いて……本当にありがとうございます」
「どうぞお気になさらず。父から話は伺っておりましたので」

 ガランドの息子はリカルドと名乗り、父の元で商売の勉強をしていると言った。

「あの……今更ですが、どうして私のような旅先で知り合っただけの者に、ガランドさんは良くしてくださるのでしょう?」
「ふふ、父は普段から持ち前の鑑定眼で外から人材を発掘して来るんですよ」

 リカルドは微笑しつつそう言った。

「よくあることですので、その点はお気になさらないでください」
「……よ、よくあることなんですね」
「ええ、父さ……父の鑑定眼は王都でも評判なんです!」

 誇らしそうに言うリカルドは年相応の少年に見えた。ガランドを心から尊敬しているのだろう。ニーナが戸惑った表情をしているとリカルドが苦笑した。

「……申し訳ありません。いきなり鑑定眼と言われても胡散臭いですよね」
「い、いえ、胡散臭いなんて、そんなことは……」

 鑑定眼とは恐らく商人が持つスキルのような物だろう。ただニーナは避難先の集落では雑用仕事をしてはガランドと茶を飲んでいただけなので、今ひとつガランドの鑑定眼に叶う行動に心当たりがなかった。

「僕は父のような鑑定眼はありませんが……ジオさんは相槌が上手いので、話をしっかり聞いてくれているのが分かりますし、朗らかでお話していて楽しいなって思います。そういった所を父は良いと感じたのでないかと。それに……」

 リカルドは少し照れたように話を続けた。

「父がジオさんのことを『妖精のような青年』と言って喜んでいたのですが、お会いして意味が分かりました……!」

 キラキラした瞳がこちらに向けられた。好意と言うよりは縁起物を見るような眼差しに、ニーナは不思議な気分がした。

(そういえば、前にカインにも妖精だとか言われたな。あの時は成人した男に何を言っているんだと思ったけど……避難先の集落の人もそんな風に言っていたみたいだし。何か似ている物があるのか……?)

 ニーナの風貌がこの国の人間には分かる程度に何かしらの妖精と似ているのかもしれない。

「あの妖精と言うのは……」

 疑問を口にしようとすると店の従業員が急ぎの用があるらしく衝立の向こうから入って来た。リカルドに耳打ちすると、先程までの少年らしい様子からすぐに大人びた表情に戻った。

「ジオさん、申し訳ないのですが、予定より早く商品が届いたらしくて今から見に行かないといけなくて……もう少しお話したかったのですが」
「そんな。とんでもないです」

 ニーナはブンブンと首を振った。リカルドは出していた菓子を包むと、ニーナに持たせてくれた。

「父は三日後には戻って来ますので、その頃合いにまた来て頂けますか?」

 手土産まで貰い、ニーナが恐縮しているとリカルドはまた少年らしく笑った。

「父は避難先でジオさんと話せて楽しかったと言っていました。あまり気負わずに会いに来てくれたら僕も嬉しいです」

 そして小さな声で「仕事内容が合わなければ断っても大丈夫ですからね」とそっと付け足した。ニーナは思わぬことを言われ、眉を下げて困り顔で笑った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】黒兎は、狼くんから逃げられない。

N2O
BL
狼の獣人(異世界転移者)×兎の獣人(童顔の魔法士団団長) お互いのことが出会ってすぐ大好きになっちゃう話。 待てが出来ない狼くんです。 ※独自設定、ご都合主義です ※予告なくいちゃいちゃシーン入ります 主人公イラストを『しき』様(https://twitter.com/a20wa2fu12ji)に描いていただき、表紙にさせていただきました。 美しい・・・!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...