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素直になって側にいたい
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商人ギルドの職員にガランドの店の場所を教えてもらい、ニーナは『ガランド商会』へ向かった。
ガランドの経営する『ガランド商会』は商人ギルド区画内にあり、茶色のレンガ造りの堂々とした店構えに大きな看板が掲げられていた。
立派な店なのでニーナは気後れしそうになったが「取り敢えず行ってダメなら他を探す」という気持ちだったので、思い切って中に入った。
店内には値札が着いた木箱が沢山並べられ、頑丈そうなガラス棚には不可思議な置物が飾られていた。卸問屋のような事業を行っているのだろうか。そんな商品を眺めつつ商談を行っている者もいる。
近くの従業員に話しかけ、避難先の集落でのことをかいつまんで説明すると「ああ」と得心がいったような顔になり「こちらでお待ち下さい」と店の衝立の奥に通された。衝立の奥は商談スペースなのか、ソファセットと机がある。
温かい茶に菓子まで出され、ニーナがそわそわしながら待っていると、亜麻色の髪の少年がやって来てにこやかに話しかけて来た。
聞けば少年はガランドの一番上の息子で「父から話は聞いています」と見た目に似合わない大人びた口調で話し始めた。
「父は商談で不在ですので、後日来て頂くことは可能でしょうか?」
「はい、もちろんです。オレ……私も突然尋ねて来たのに対応して頂いて……本当にありがとうございます」
「どうぞお気になさらず。父から話は伺っておりましたので」
ガランドの息子はリカルドと名乗り、父の元で商売の勉強をしていると言った。
「あの……今更ですが、どうして私のような旅先で知り合っただけの者に、ガランドさんは良くしてくださるのでしょう?」
「ふふ、父は普段から持ち前の鑑定眼で外から人材を発掘して来るんですよ」
リカルドは微笑しつつそう言った。
「よくあることですので、その点はお気になさらないでください」
「……よ、よくあることなんですね」
「ええ、父さ……父の鑑定眼は王都でも評判なんです!」
誇らしそうに言うリカルドは年相応の少年に見えた。ガランドを心から尊敬しているのだろう。ニーナが戸惑った表情をしているとリカルドが苦笑した。
「……申し訳ありません。いきなり鑑定眼と言われても胡散臭いですよね」
「い、いえ、胡散臭いなんて、そんなことは……」
鑑定眼とは恐らく商人が持つスキルのような物だろう。ただニーナは避難先の集落では雑用仕事をしてはガランドと茶を飲んでいただけなので、今ひとつガランドの鑑定眼に叶う行動に心当たりがなかった。
「僕は父のような鑑定眼はありませんが……ジオさんは相槌が上手いので、話をしっかり聞いてくれているのが分かりますし、朗らかでお話していて楽しいなって思います。そういった所を父は良いと感じたのでないかと。それに……」
リカルドは少し照れたように話を続けた。
「父がジオさんのことを『妖精のような青年』と言って喜んでいたのですが、お会いして意味が分かりました……!」
キラキラした瞳がこちらに向けられた。好意と言うよりは縁起物を見るような眼差しに、ニーナは不思議な気分がした。
(そういえば、前にカインにも妖精だとか言われたな。あの時は成人した男に何を言っているんだと思ったけど……避難先の集落の人もそんな風に言っていたみたいだし。何か似ている物があるのか……?)
ニーナの風貌がこの国の人間には分かる程度に何かしらの妖精と似ているのかもしれない。
「あの妖精と言うのは……」
疑問を口にしようとすると店の従業員が急ぎの用があるらしく衝立の向こうから入って来た。リカルドに耳打ちすると、先程までの少年らしい様子からすぐに大人びた表情に戻った。
「ジオさん、申し訳ないのですが、予定より早く商品が届いたらしくて今から見に行かないといけなくて……もう少しお話したかったのですが」
「そんな。とんでもないです」
ニーナはブンブンと首を振った。リカルドは出していた菓子を包むと、ニーナに持たせてくれた。
「父は三日後には戻って来ますので、その頃合いにまた来て頂けますか?」
手土産まで貰い、ニーナが恐縮しているとリカルドはまた少年らしく笑った。
「父は避難先でジオさんと話せて楽しかったと言っていました。あまり気負わずに会いに来てくれたら僕も嬉しいです」
そして小さな声で「仕事内容が合わなければ断っても大丈夫ですからね」とそっと付け足した。ニーナは思わぬことを言われ、眉を下げて困り顔で笑った。
ガランドの経営する『ガランド商会』は商人ギルド区画内にあり、茶色のレンガ造りの堂々とした店構えに大きな看板が掲げられていた。
立派な店なのでニーナは気後れしそうになったが「取り敢えず行ってダメなら他を探す」という気持ちだったので、思い切って中に入った。
店内には値札が着いた木箱が沢山並べられ、頑丈そうなガラス棚には不可思議な置物が飾られていた。卸問屋のような事業を行っているのだろうか。そんな商品を眺めつつ商談を行っている者もいる。
近くの従業員に話しかけ、避難先の集落でのことをかいつまんで説明すると「ああ」と得心がいったような顔になり「こちらでお待ち下さい」と店の衝立の奥に通された。衝立の奥は商談スペースなのか、ソファセットと机がある。
温かい茶に菓子まで出され、ニーナがそわそわしながら待っていると、亜麻色の髪の少年がやって来てにこやかに話しかけて来た。
聞けば少年はガランドの一番上の息子で「父から話は聞いています」と見た目に似合わない大人びた口調で話し始めた。
「父は商談で不在ですので、後日来て頂くことは可能でしょうか?」
「はい、もちろんです。オレ……私も突然尋ねて来たのに対応して頂いて……本当にありがとうございます」
「どうぞお気になさらず。父から話は伺っておりましたので」
ガランドの息子はリカルドと名乗り、父の元で商売の勉強をしていると言った。
「あの……今更ですが、どうして私のような旅先で知り合っただけの者に、ガランドさんは良くしてくださるのでしょう?」
「ふふ、父は普段から持ち前の鑑定眼で外から人材を発掘して来るんですよ」
リカルドは微笑しつつそう言った。
「よくあることですので、その点はお気になさらないでください」
「……よ、よくあることなんですね」
「ええ、父さ……父の鑑定眼は王都でも評判なんです!」
誇らしそうに言うリカルドは年相応の少年に見えた。ガランドを心から尊敬しているのだろう。ニーナが戸惑った表情をしているとリカルドが苦笑した。
「……申し訳ありません。いきなり鑑定眼と言われても胡散臭いですよね」
「い、いえ、胡散臭いなんて、そんなことは……」
鑑定眼とは恐らく商人が持つスキルのような物だろう。ただニーナは避難先の集落では雑用仕事をしてはガランドと茶を飲んでいただけなので、今ひとつガランドの鑑定眼に叶う行動に心当たりがなかった。
「僕は父のような鑑定眼はありませんが……ジオさんは相槌が上手いので、話をしっかり聞いてくれているのが分かりますし、朗らかでお話していて楽しいなって思います。そういった所を父は良いと感じたのでないかと。それに……」
リカルドは少し照れたように話を続けた。
「父がジオさんのことを『妖精のような青年』と言って喜んでいたのですが、お会いして意味が分かりました……!」
キラキラした瞳がこちらに向けられた。好意と言うよりは縁起物を見るような眼差しに、ニーナは不思議な気分がした。
(そういえば、前にカインにも妖精だとか言われたな。あの時は成人した男に何を言っているんだと思ったけど……避難先の集落の人もそんな風に言っていたみたいだし。何か似ている物があるのか……?)
ニーナの風貌がこの国の人間には分かる程度に何かしらの妖精と似ているのかもしれない。
「あの妖精と言うのは……」
疑問を口にしようとすると店の従業員が急ぎの用があるらしく衝立の向こうから入って来た。リカルドに耳打ちすると、先程までの少年らしい様子からすぐに大人びた表情に戻った。
「ジオさん、申し訳ないのですが、予定より早く商品が届いたらしくて今から見に行かないといけなくて……もう少しお話したかったのですが」
「そんな。とんでもないです」
ニーナはブンブンと首を振った。リカルドは出していた菓子を包むと、ニーナに持たせてくれた。
「父は三日後には戻って来ますので、その頃合いにまた来て頂けますか?」
手土産まで貰い、ニーナが恐縮しているとリカルドはまた少年らしく笑った。
「父は避難先でジオさんと話せて楽しかったと言っていました。あまり気負わずに会いに来てくれたら僕も嬉しいです」
そして小さな声で「仕事内容が合わなければ断っても大丈夫ですからね」とそっと付け足した。ニーナは思わぬことを言われ、眉を下げて困り顔で笑った。
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