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素直になって側にいたい
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王都を見て回ろうとカインが提案してくれたので、行きたい場所があると伝え、二人して乗合馬車で教会に来ていた。
王都の教会には礼拝堂や図書館に公園、聖騎士の鍛錬所等、様々な施設がある。どの施設も白を基調とした美しい造りをしており、観光客に人気だとカインは言った。
「カインはここで先生をしているんだよね」
教会の広い敷地の緑の中を並んで歩きながらニーナはカインに尋ねた。
「ああ、先生と言っても俺は教師の免許を持っていないので、真似事だがな」
学校へ通わずに働いている子どもや、孤児院の子ども達に勉強や剣術を教える教会の奉仕活動に参加しているのだとカインは説明してくれた。
「真似事でも人に物を教えるなんて立派なことだよ」
「……ニーナに褒められると舞い上がってしまうな」
カインは照れくさそうに目を伏せ、繋いだ手が少し力強くなった。
(手を繋ぐのは良いな。体温を感じるから考えていることが伝わりやすいっていうか……)
初めは繋いだ手に二人してギクシャクしていたが今は心地良いと感じている。
「ところで……本当に良いのか」
「何が?」
「王都で初めて行く場所が、俺の家族の墓というのは……」
カインは戸惑いを滲ませながらも、どこか嬉しそうだ。
「王都に着いたらカインの家族に挨拶したかったんだ」
教会の敷地内には墓地があり、カインの家族はそこで眠っている。
「だから一緒に来れてすっごく嬉しい」
「……ニーナ、ありがとう」
暗く静かな瞳がニーナを見つめた。
「ちゃんと『カイン君と交際させてもらっています』って伝えるね」
「それは良いな。きっと皆喜んでくれる」
カインは懐かしい記憶を辿るように目を細めた。
「……オレの家族にもいつか、カインを紹介したいな」
「ああ、いつか必ず二人で……ニーナの家族に挨拶しに行こう」
繋いだ手の指先を気遣わしげに撫でられ、ニーナの手を包むように握り直された。
「……ふふっ、そんな気負わなくて良いって!」
喪った者の話をするのは痛みを伴う辛いもので、ずっと向き合うことが出来なかった。だが今のニーナは少しずつだが、そうではなくなっていた。
(オレは弟や……家族のことが好きだったし。子どもの頃はいつまでもこんな日が続けばって思ってた)
ニーナは寂しさを感じながらも、故郷や家族に対して穏やかで前向きな言葉を紡げるようになっていた。
(家族が生きていればこんな風に思うかなって……カインみたいに言えるようになりたい)
逃げ出さず前に進めるようになったのは、カインが側にいるからだ。
(でも、カインも、もしかしたら)
カインも姉の話を誇らしく話せるようになるまで、辛く苦しいと感じることがあったのかもしれない――ニーナは隣のカインを見上げた。
「どうかしたのか」
カインは首を傾げて尋ねて来た。
「カイン、あのね」
「うん?」
「これからはオレがずっと……ずーっとカインの側にいるから」
ニーナはあの時死にかけて以来自分の気持ちに素直になることを誓った。
以前のニーナならばこんな言葉を誰かに伝える日が来るとは想像も出来なかっただろう。ニーナは真っ直ぐにカインを見つめてそう告げた。
「……俺は幸せ者だ」
カインはポツリとそう呟くと、一際嬉しそうに微笑んだ。
王都の教会には礼拝堂や図書館に公園、聖騎士の鍛錬所等、様々な施設がある。どの施設も白を基調とした美しい造りをしており、観光客に人気だとカインは言った。
「カインはここで先生をしているんだよね」
教会の広い敷地の緑の中を並んで歩きながらニーナはカインに尋ねた。
「ああ、先生と言っても俺は教師の免許を持っていないので、真似事だがな」
学校へ通わずに働いている子どもや、孤児院の子ども達に勉強や剣術を教える教会の奉仕活動に参加しているのだとカインは説明してくれた。
「真似事でも人に物を教えるなんて立派なことだよ」
「……ニーナに褒められると舞い上がってしまうな」
カインは照れくさそうに目を伏せ、繋いだ手が少し力強くなった。
(手を繋ぐのは良いな。体温を感じるから考えていることが伝わりやすいっていうか……)
初めは繋いだ手に二人してギクシャクしていたが今は心地良いと感じている。
「ところで……本当に良いのか」
「何が?」
「王都で初めて行く場所が、俺の家族の墓というのは……」
カインは戸惑いを滲ませながらも、どこか嬉しそうだ。
「王都に着いたらカインの家族に挨拶したかったんだ」
教会の敷地内には墓地があり、カインの家族はそこで眠っている。
「だから一緒に来れてすっごく嬉しい」
「……ニーナ、ありがとう」
暗く静かな瞳がニーナを見つめた。
「ちゃんと『カイン君と交際させてもらっています』って伝えるね」
「それは良いな。きっと皆喜んでくれる」
カインは懐かしい記憶を辿るように目を細めた。
「……オレの家族にもいつか、カインを紹介したいな」
「ああ、いつか必ず二人で……ニーナの家族に挨拶しに行こう」
繋いだ手の指先を気遣わしげに撫でられ、ニーナの手を包むように握り直された。
「……ふふっ、そんな気負わなくて良いって!」
喪った者の話をするのは痛みを伴う辛いもので、ずっと向き合うことが出来なかった。だが今のニーナは少しずつだが、そうではなくなっていた。
(オレは弟や……家族のことが好きだったし。子どもの頃はいつまでもこんな日が続けばって思ってた)
ニーナは寂しさを感じながらも、故郷や家族に対して穏やかで前向きな言葉を紡げるようになっていた。
(家族が生きていればこんな風に思うかなって……カインみたいに言えるようになりたい)
逃げ出さず前に進めるようになったのは、カインが側にいるからだ。
(でも、カインも、もしかしたら)
カインも姉の話を誇らしく話せるようになるまで、辛く苦しいと感じることがあったのかもしれない――ニーナは隣のカインを見上げた。
「どうかしたのか」
カインは首を傾げて尋ねて来た。
「カイン、あのね」
「うん?」
「これからはオレがずっと……ずーっとカインの側にいるから」
ニーナはあの時死にかけて以来自分の気持ちに素直になることを誓った。
以前のニーナならばこんな言葉を誰かに伝える日が来るとは想像も出来なかっただろう。ニーナは真っ直ぐにカインを見つめてそう告げた。
「……俺は幸せ者だ」
カインはポツリとそう呟くと、一際嬉しそうに微笑んだ。
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