69 / 105
素直になって側にいたい
2
しおりを挟む
一人になり、ニーナは少しだけ寂しさを感じて城門前から王都の方向を見つめていた。
(二人並んでこの門をくぐりたかったけど、そんな簡単にはいかないよな)
立ち止まっている場合ではないと思い直し、早速書類一式を窓口に提出した。しばらくすると呼び出され、初めての出入審査だからか面談する運びとなった。
衝立で区切られた簡易な部屋に通されたニーナの胃は緊張でまた悲鳴を上げていた。衝立の向こうからは、恐らく同じような立場の者が面談を受けているようで話し声が漏れ聞こえてくる。時折談笑する声が混じり、ニーナは酷く羨ましく感じた。
ニーナも普段ならば初対面の者とも物怖じせずに会話が出来る。だが、今日はカインとの未来がかかっているので、いつものように気さくに話しかけるわけにはいかない。
(この面談には例えじゃなくて人生かかってるからな。カインの側で生きて行くためには、ちゃんと……本当にちゃんと受け答えしないと!)
ニーナの面談相手は事務方の職員らしき風貌の者で、淡々と書類を捲りながら質問を投げかけて来た。ニーナは冷や汗をかきつつも何とか口を開き、心の中で「今のは大丈夫かな」やら「印象が悪くないかな」やら、気忙しく考え続けていた。
そんなやり取りも小一時間程で終わった。衝立の部屋を出るとニーナは極度の緊張のためか何を話したのかほとんど思い出せなくなっていたが、審査結果は五日後という職員の言葉だけは頭の片隅に残っていた。
ほぅっと息をついて詰所の窓から外を見ると日が暮れかけている。疲弊していたニーナは詰所にある待合室に向かった。
広々とした待合室は長椅子が沢山設置され、小さな売店まである。窓口が閉まった後も待合室は開放されるらしく、室内にはニーナと似た境遇の者達が休むために集まっていた。
(キレイな建物だと思ってたけど、中もすごくちゃんとしてるな。外で野宿する覚悟もしてたから助かる)
ニーナは今日はここで夜明かしすることを決めた。辺りを見渡すと長椅子で雑魚寝する者達は鞄を枕にしたり、座ったまま丸まったりと様々だ。床に寝なくて済むなんてツイてるなとありがたがっていると後ろから「ニーナ」とよく知った声で名を呼ばれた。
振り向くと、王都に戻ったはずのカインが待合室の入口からこちらに向かって歩いて来ている。ニーナは心底驚いてカインの元に駆け寄った。
聞けばカインは家路の途中でニーナを一人にしたことを心残りに感じ、再度出入審査を受けて引き返して来たのだそうだ。
ニーナは申し訳なさと嬉しさを感じながらも「また今日の内に会えるなんて」とはしゃいだ声でカインの腕にそっと身を寄せた。
カインは穏やかな表情ではしゃぐニーナを見つめていたが、待合室で雑魚寝する所だと伝えるとみるみる渋い顔に変わっていった。
(オレはこういう所で雑魚寝するのは慣れてるから、平気なんだけどな。でもカインは優しいから、こ、恋人が一人でこういう所に泊まるのは気にしちゃうのかな……)
どうしたものかと思案していると、カインは護衛代わりに自分もここに寝泊まりすると言い出したのでニーナは慌てた。
流石にこれ以上大型犬に心配をかけられないなと思い直し、ニーナは王都近くの集落に滞在することを決めたのだった。
(二人並んでこの門をくぐりたかったけど、そんな簡単にはいかないよな)
立ち止まっている場合ではないと思い直し、早速書類一式を窓口に提出した。しばらくすると呼び出され、初めての出入審査だからか面談する運びとなった。
衝立で区切られた簡易な部屋に通されたニーナの胃は緊張でまた悲鳴を上げていた。衝立の向こうからは、恐らく同じような立場の者が面談を受けているようで話し声が漏れ聞こえてくる。時折談笑する声が混じり、ニーナは酷く羨ましく感じた。
ニーナも普段ならば初対面の者とも物怖じせずに会話が出来る。だが、今日はカインとの未来がかかっているので、いつものように気さくに話しかけるわけにはいかない。
(この面談には例えじゃなくて人生かかってるからな。カインの側で生きて行くためには、ちゃんと……本当にちゃんと受け答えしないと!)
ニーナの面談相手は事務方の職員らしき風貌の者で、淡々と書類を捲りながら質問を投げかけて来た。ニーナは冷や汗をかきつつも何とか口を開き、心の中で「今のは大丈夫かな」やら「印象が悪くないかな」やら、気忙しく考え続けていた。
そんなやり取りも小一時間程で終わった。衝立の部屋を出るとニーナは極度の緊張のためか何を話したのかほとんど思い出せなくなっていたが、審査結果は五日後という職員の言葉だけは頭の片隅に残っていた。
ほぅっと息をついて詰所の窓から外を見ると日が暮れかけている。疲弊していたニーナは詰所にある待合室に向かった。
広々とした待合室は長椅子が沢山設置され、小さな売店まである。窓口が閉まった後も待合室は開放されるらしく、室内にはニーナと似た境遇の者達が休むために集まっていた。
(キレイな建物だと思ってたけど、中もすごくちゃんとしてるな。外で野宿する覚悟もしてたから助かる)
ニーナは今日はここで夜明かしすることを決めた。辺りを見渡すと長椅子で雑魚寝する者達は鞄を枕にしたり、座ったまま丸まったりと様々だ。床に寝なくて済むなんてツイてるなとありがたがっていると後ろから「ニーナ」とよく知った声で名を呼ばれた。
振り向くと、王都に戻ったはずのカインが待合室の入口からこちらに向かって歩いて来ている。ニーナは心底驚いてカインの元に駆け寄った。
聞けばカインは家路の途中でニーナを一人にしたことを心残りに感じ、再度出入審査を受けて引き返して来たのだそうだ。
ニーナは申し訳なさと嬉しさを感じながらも「また今日の内に会えるなんて」とはしゃいだ声でカインの腕にそっと身を寄せた。
カインは穏やかな表情ではしゃぐニーナを見つめていたが、待合室で雑魚寝する所だと伝えるとみるみる渋い顔に変わっていった。
(オレはこういう所で雑魚寝するのは慣れてるから、平気なんだけどな。でもカインは優しいから、こ、恋人が一人でこういう所に泊まるのは気にしちゃうのかな……)
どうしたものかと思案していると、カインは護衛代わりに自分もここに寝泊まりすると言い出したのでニーナは慌てた。
流石にこれ以上大型犬に心配をかけられないなと思い直し、ニーナは王都近くの集落に滞在することを決めたのだった。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~
菱沼あゆ
ファンタジー
旅の途中、盗賊にさらわれたアローナ。
娼館に売られるが、謎の男、アハトに買われ、王への貢ぎ物として王宮へ。
だが、美しきメディフィスの王、ジンはアローナを刺客ではないかと疑っていた――。
王様、王様っ。
私、ほんとは娼婦でも、刺客でもありませんーっ!
ひょんなことから若き王への貢ぎ物となったアローナの宮廷生活。
(小説家になろうにも掲載しています)
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる