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素直になって側にいたい
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『エントレナシアの王都イルミナデアは城郭都市である。広大な土地は堅固な壁に覆われ、出入り口として巨大な城門が設置されている。城門には衛兵の詰所があり、門番による出入審査が行われている』
カインから貰った観光案内の本によると、王都では出入審査があるそうだ。
王族のお膝元なので納得の管理体制だったが、ニーナは身の証を立てる術がないため一抹の不安を感じていた。
素性不明となれば王都に入れないかもしれない――療養施設にいる間、何とか出来ないものかと思案してみたが打開策は見つけられなかった。
(こっちの大陸に来た時は船を降りてすぐに出稼ぎ先に放り込まれたし……昔の記録とか残ってないかな。まさか娼館の主人を頼るわけにもいかないし……)
行き詰まったニーナがカインに相談すると、身元の保証人を引き受けてくれた上に、申請書を作るのを手伝ってくれた。カインは魔獣討伐で忙しいのに、仕事の合間を縫って協力してくれたことにニーナは感謝してもしきれなかった。
それから数日後、怪我の具合が良くなったニーナは平原の厄介事が一段落したカインと共に療養施設を出る日を決め、ついに二人して馬車で王都に向うこととなった。
王都までは宿泊を伴いつつ馬車で三日と半日はかかる。だが、カインと一緒だと思うと時間は溶けるように過ぎ、城門前まであっという間だった。
他の乗客に続いて馬車を降りると、巨大な城門までカインが案内してくれた。カインとの楽しい観光デート気分でいたかったが、これから審査があると思うとニーナの胃はキリキリと痛んだ。
不安気な顔でソワソワしていると、カインは気遣うように背中に手を添え「大丈夫か」と尋ねてきた。
カインの優しさに心を奮い立たたせたニーナは「平気だよ」と返事をし、しっかりとした足取りで歩みを進めた。カインは背中をポンポンと叩いて「ニーナは強いからな」とふっと微笑んだ。
(カインは落ち着いていて心強いな。オレもしっかりしないと……!)
城門前の通路は広く、行き交う人々で賑わっている。横目で人々を見ると、旅人や商人、冒険者のような風貌の者など様々だ。城門では衛兵が書類を眺めながら荷馬車や人の出入りを確認している様子が窺える。
門前にある詰所の窓口に辿り着くと、カインの出入審査は王都在住者だったからかすぐに終わった。
カインはニーナの審査を待つと譲らなかったが、長期の仕事を終えてやっと帰って来たカインにそこまでさせる訳にはいかないと感じ、どうにか説得して一足先に王都に戻ってもらった。
カインから貰った観光案内の本によると、王都では出入審査があるそうだ。
王族のお膝元なので納得の管理体制だったが、ニーナは身の証を立てる術がないため一抹の不安を感じていた。
素性不明となれば王都に入れないかもしれない――療養施設にいる間、何とか出来ないものかと思案してみたが打開策は見つけられなかった。
(こっちの大陸に来た時は船を降りてすぐに出稼ぎ先に放り込まれたし……昔の記録とか残ってないかな。まさか娼館の主人を頼るわけにもいかないし……)
行き詰まったニーナがカインに相談すると、身元の保証人を引き受けてくれた上に、申請書を作るのを手伝ってくれた。カインは魔獣討伐で忙しいのに、仕事の合間を縫って協力してくれたことにニーナは感謝してもしきれなかった。
それから数日後、怪我の具合が良くなったニーナは平原の厄介事が一段落したカインと共に療養施設を出る日を決め、ついに二人して馬車で王都に向うこととなった。
王都までは宿泊を伴いつつ馬車で三日と半日はかかる。だが、カインと一緒だと思うと時間は溶けるように過ぎ、城門前まであっという間だった。
他の乗客に続いて馬車を降りると、巨大な城門までカインが案内してくれた。カインとの楽しい観光デート気分でいたかったが、これから審査があると思うとニーナの胃はキリキリと痛んだ。
不安気な顔でソワソワしていると、カインは気遣うように背中に手を添え「大丈夫か」と尋ねてきた。
カインの優しさに心を奮い立たたせたニーナは「平気だよ」と返事をし、しっかりとした足取りで歩みを進めた。カインは背中をポンポンと叩いて「ニーナは強いからな」とふっと微笑んだ。
(カインは落ち着いていて心強いな。オレもしっかりしないと……!)
城門前の通路は広く、行き交う人々で賑わっている。横目で人々を見ると、旅人や商人、冒険者のような風貌の者など様々だ。城門では衛兵が書類を眺めながら荷馬車や人の出入りを確認している様子が窺える。
門前にある詰所の窓口に辿り着くと、カインの出入審査は王都在住者だったからかすぐに終わった。
カインはニーナの審査を待つと譲らなかったが、長期の仕事を終えてやっと帰って来たカインにそこまでさせる訳にはいかないと感じ、どうにか説得して一足先に王都に戻ってもらった。
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