【完結/BL/R18】獣人のオレは娼館で働いているのに初心な大型犬に絆されて、それから

テルマ江

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キスは好きな人と

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 翌日、ニーナは午前中から昼前まで検査を受け、昼食後はベッドに座ってカインから貰った本を眺めていた。

 王都の観光案内の本を半分程読み進め、気になる箇所へ付箋代わりの紙を挟んでいると、病室の扉をノックする音が聞こえた。

(きっとカインだ! 約束通り来てくれたんだ)

 ニーナは耳と尻尾をピンと立てて「どうぞ」と明るい声で返事をした。

「ニーナ、具合はどうだ?」

 扉が開くと予想通りカインが入って来た。今日は白いシャツにネクタイとベストを着けており、かしこまった格好をしている。

「カイン君いらっしゃい。ニーナお兄さんは元気だよ」
「そうか。ニーナが元気で嬉しい」

 カインはベッド脇の椅子に腰掛けてニーナに向かって微笑んだ。

「ね、この後どこかに出かけるの?」
「今日はどこにも行かないな。どうしてだ?」
「ネクタイしてるから、出かけるのかなって」
「……これは、その……今日はきちんとした格好をしようと思ってな。それよりも、本を読んでくれたんだな」

 カインは歯切れ悪くそう言うと、話題を変えるようにニーナが持っている本を指さした。

(何だろう? もしかして仕事が入っちゃったとか……?)

 急に仕事で偉い人に会う予定が入ったのかもしれないとニーナはカインを気遣うように見つめた。

「ニーナ?」
「カインって非番の日も急に仕事が入ったりする?」
「まあ、たまにあるが……いきなりどうしたんだ」
「ううん、その時はそっちを優先してね。カインのお仕事って、替えが効かないお仕事だし」

 ニーナは本の表紙を撫で、精一杯明るく笑って言った。

(本当は行って欲しくないけど、昨日みたいに引き止めないようにしないと。オレはカインの仕事に理解があって余裕のあるお兄さんでいたいからな)

「ニーナ……」

 カインはニーナの名前を読んで立ち上がると、ギシリとニーナのベッドの端に腰掛けた。

「え、な、何」

 ニーナがドギマギしていると、カインは本をスッと取り上げ、ニーナの手を取った。 

「そんな寂しそうに笑われると意地らしく感じる。何かあったのか?」

 気持ちを見抜かれていたことが恥ずかしくなり、ニーナは目を伏せた。
 
「何もないよ。ネクタイしてるから、もしかしてお仕事入っちゃったのかなって思っただけ」
「それだけか?」
「それだけだよ!」

 逃れようとしたが、カインはニーナの手を取ったままだった。

「本当にそれだけだからさ、もう離してよ……」
「嫌だ」
「何だよ。今日のカイン君は強引だな……」

 ニーナは観念してカインに手を取られたまま、大きな体にピタリとひっついた。

「ッ……今日、仕事は入っていないので安心してくれ」
「そうなの? ね、じゃあさ、折角だから靴脱いでもっとこっちに来てよ。ダメ……?」
「はぁ……」

 カインはニーナの誘いにため息を漏らした。そしてしばらく考える風にしてから、躊躇いつつもブーツを脱ぎ、ニーナのベッドに上がって来た。

「こんな近くに来てくれて嬉しい」

 カインの胸に頭を擦り付けると、カインはニーナの頭に顔を寄せた。

「俺が何かしないように……どうか、気をつけてくれ」
「えー、カイン君、ニーナお兄さんのベッドに上がってやらしいことしたいのかと思ったのに~」

 からかうようにクスクスと笑って見上げると、カインは眉を下げてこちらを薄目で見ている。

「……ニーナは本当に魅力的で、困る」

 カインはニーナの髪を撫で、心底参ったという風に呟いた。

「俺は今日、ニーナと色々な話をしに来たんだ」
「色々? オレ、カインとお話するのって楽しいから、好き」

 ニコニコと笑いかけると、カインに愛しそうな瞳で見つめられ、胸がドキドキして苦しくなった。

「それで……まあ、話と言うのはだな……」

 カインは何かを言いかけては口籠った。どうやらよほど言い難いことのようだ。ニーナは昨日の嫌な考えが頭をよぎってしまった。

「……緊張してる? 手がちょっと冷たいね」

 体を離してカインの剣ダコのある大きな手を触ると、普段よりひんやりとしている。

「緊張はしているな……」
「言い難いことなのかな。もしかして、良くないことだったり……?」
「違う。良くないことではない……はずだ」
「そ、そっか。ちょっと安心したよ」

 ニーナはほっとして、カインの手を両手で握りしめて温めるように擦った。

「じゃあさ、落ち着くまで別のお話しようよ。オレ、カインがここでどんな風に過ごしているのか聞きたいな」
「……ニーナは優しいな」
「まあね。オレの方がお兄さんだから!」

 実際のニーナは久々の距離の近さに胸が早鐘のように鳴っており、余裕はほとんどなかったが、カインの前ではどうしても年上ぶりたくなってしまう。

 ニーナはそんな自分に呆れながらも、カインの手を握って身を寄せ合う理由が出来たことに喜びを感じていた。

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