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キスは好きな人と

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 目覚めてからは医者や治療術師達から様々な検査を受け、回復するまで療養する運びとなった。

 病室に戻って来たニーナはベッドから上体を起こしてカインと向かい合い、あの後何がどうなったのかを聞き出していた。

「まだ万全ではないだろ。長く話すのは良くない」
「大丈夫だよ。あの人形がどうなったか、知りたいんだ」
「人形……ああ、あのお守りか。分かった……だが、無理はしないでくれよ」
「うん!」

 黒装束のカインはベッド脇の椅子に腰掛け、ニーナを疲れさせないようにするためか時系列を短くまとめて話してくれた。

 カインの話によると、ニーナはカインの腕の中で気を失ってから治療術師の魔法によって一命を取り留めた。だが、集落には小さな診療所しかなかったため国境警備兵の療養施設に運ばれ、そこでカインの言う「先生」によって治療術が施され三日眠っていたそうだ。

(ちょっとだけ起きたけど、あれは初日だったのかな? オレは三日も寝ていたのか)

「お守りは寄り合い所の少年に渡した。瘴気に当てられた母親の物だったんだな」
「うん。オレがお守りを取って来てあげるって、約束してたんだ」
「……そうか」

 カインは一瞬渋い顔をして何か言いかけたが、グッと言葉を飲み込んだようだった。

「……母親は無事回復した。親子揃ってニーナに感謝していた」
「そっか! そうなんだ! 良かった~」

 ニーナは耳や尻尾をピンと立ててはしゃいだ声を上げた。男の子との約束を果たせたことがニーナは心の底から嬉しかった。カインはそんな姿を見て困り顔で微笑んだ。

「ぜひ礼をしたいと言っていたな。連絡先も預かっている。会いに行けばきっと喜ばれるだろう」
「え~、お礼とか良いのに。でもすっごく嬉しい!」

 カインははしゃぐニーナを穏やかに見つめ、目を少し伏せた。

「俺はあの日……天国と地獄を同時に見た気がしたんだがな」

 切なそうに呟き、見舞い品に持って来ていた果物を手に取った。

「う……それは……本当に、ごめん」

 カインの言う『天国』とは、自分の告白のことだろうかとニーナは謝りつつも嬉しくなってしまった。

「良いんだ。生きていてくれたら……それだけで」

 ニーナは気まずくなり、耳を少しだけ垂らした。カインは「良いんだ」と繰り返し、手甲を外すと果物の皮をナイフで器用に剝き始めた。

(もし、あのまま腕の中で息絶えてたら……カインにむごい心の傷を負わせる所だった。告白されたのに、腕の中で血だらけで眠りにつかれたら……一生忘れられなくなるだろ)

 自分が同じ立場なら逆に腹が立って墓を蹴り飛ばした後に泣き喚き、その後も引きずり続けるなとニーナは自嘲した。

「……ね、カインはさ、今はお仕事中なんだよね」

 ニーナはお互いにとって気まずい話題を変えようと、黙々と果物を切り分けるカインの手元を見つつ話しかけた。

「ああ、そうだ」

 療養施設は国境警備兵の詰所に併設されている。カイン達討伐部隊はギルドから依頼を受けた冒険者団体『盾狼たておおかみ』からの派遣で、平原と国境沿いの町、詰所を行き来しては魔獣を狩っている――ニーナは検査をした医者や治療術師達から、カイン達についてそれとなく聞き出していた。

「この後平原に向かうが、出発までは自由時間だ。どうかニーナは気にしないでくれ」
「そ、そうなんだ……」

 自由時間なのに側にいてくれたんだなと、ニーナは胸がキュンと鳴り、カインをジッと見つめた。

 黒装束――黒銀色のプレートメイルに黒いマントを纏い、腰に剣を差したカインは凛々しい顔つきも相まって、冒険者というよりは「剣士様」と言いたくなる風貌だ。

「何だ、見惚れているのか?」

 カインが視線に気づき、冗談めかして言った。

「うん、カイン、すごくかっこいいよ!」
「……そうか、ありがとう」

 冗談のつもりだった言葉をニーナに肯定され、カインは居心地が悪そうな表情になった。

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