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こんなに近くにいるのに
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(※流血表現有り)
開け放った小さな窓からローブの塊を出来るだけ遠くに投げ飛ばすと、魔獣二匹はローブに向かって駆け出して行った。
(……よ、よしっ!)
魔獣二匹が引き付けられている内に扉を固定していた鍬を引き抜き、勢いよく扉を開くと残っていた一匹の魔獣が飛びかかって来た。
「くっ、このっ……!」
ニーナは向かってくる魔獣に斧を力まかせに振り下ろした。鼻先には当たらなかったが、こめかみあたりを深く切り裂くように斧が入り込み、魔獣はギャアッとわめいて横向きに倒れた。
魔獣は口から泡を出してもがいているが、まだ生きている。ニーナは扉前に倒れた魔獣を飛び越えて駆け出した。
――ザカッザカッザカッザカッ
――ザカッザカッザカッザカッザカッ
後ろからこちらに向かって来る足音が聞こえる。ローブを追いかけていた二匹がニーナに気がついたのだろう。
ニーナは寄り合い所には遠回りになるが民家の隙間を縫うようにしてジグザグに走り回った。
(頼むから、あのでっかいのは来るなよな……)
二回も投げ飛ばされたせいかジクジクとした熱を体の内側に感じる。
(どこか骨にヒビが入ってたりするんじゃないかな……でも)
ニーナの体は傷だらけだったが、不思議と痛みを感じていなかった。生存本能からか、今はただただ走ることに体が集中している。
(早く……早く、早く、もっと、早く……!)
民家の角を急に曲がり、魔獣が飛びかかって来るのを躱し、足に噛みつこうとする鼻先に斧を叩き込む。魔獣は黒い霧のような血を吹き出してもニーナを追うことをやめない。
(しつこいなあっ! 何でこんな……ああ、もしかして、狩りの獲物にされてるのか?)
あの大きな魔獣が親だとすれば、子どもに狩りの仕方を教えているのかもしれない。集落を襲っているのも人間という獲物が固まって暮らしているからだろうか。
(だとしたら、けっこう頭が良いって言うか……じゃあ、あのでっかいのは猛獣使いが仕込んだ優秀な個体って奴か……? 冗談じゃない!)
寄り合い所まではもうすぐなのに、ニーナは永遠に続く距離のように感じられた。息も絶え絶えになって、足を必死で動かし、前に前に何とか進んで行く。そんなニーナのすぐ後ろを小さい魔獣は素早く動き回り、足元をすくおうとしてくる。
――ザカッザカッザカッザカッ
――ザカッザカッザカッザカッザカッ
不快な足音は夕暮れの集落に響き渡る。ニーナは斧を振り回して足元の魔獣を払い除けたが、一匹が靴の踵に噛み付き、グッとニーナを放り投げた。
「あっ……!わっ……!」
放り投げられた先は集落の中でも広い通りで、寄り合い所はもうすぐそこだ。寄り合い所の扉の前に誰かが立っているのが見える。こちらに気がついたのか何かを叫んでいる。若い冒険者か、自警団の誰かだろうか。
勢いを殺すためにゴロゴロと転がっていると、ニーナを放り投げた魔獣が飛びかかり、鉤爪を首筋に刺そうとして来る。
「この……ぐっ……!」
ニーナは斧の柄で鉤爪を受け止め、力いっぱい押し返した。もう一匹はキュウキュウと鳴いてニーナを遠くの方から睨みつけている。片目が潰れているので、ニーナが火かき棒で刺した個体だろうか。
「く……はぁ……はぁ……この……! このっ!」
ニーナは地面に押さえつけられたまま、斧を魔獣の顔に叩きつけた。黒い霧状の血が顔にかかり、鉤爪が肌に食い込んで来たが、そんなことはもう気にしていられない。
何度も、何度も、何度も、何度も、斧を叩き込むと、魔獣はしだいにぐったりとしてニーナの体の上で動かなくなった。
「……あ、ぅ……はぁ……はぁ……」
ニーナは魔獣の亡骸を自分の上から退かし、起き上がろうとすると、片目の魔獣がこちらを睨みつけたまま、キュウキュウキュウキュウと高い声で鳴いた。
「な、何を……」
ニーナが「何をするつもりだ」と言いかけたが、言葉は最後まで続かなかった。ニーナはまた集落の屋根が見える程高く吹き飛ばされていたからだ。
「ひっ……ああっ! あっ……」
情けない悲鳴を上げてニーナは地面に叩きつけられた。
――ギュワンギュワン
長い耳に、巨大な体躯、怒気を帯びた唸り声がニーナの耳に飛び込んで来る。
(ああ……でっかいのを呼んでたのか……)
巨大な魔獣は相変わらず足音がほとんどしない。何か特殊な能力かなとニーナは地面から起き上がれないまま妙に冷静なことを考えていた。
受け身を取れずに地面に叩きつけられ、小石に裂かれたのか額がぱっくりと切れている。目の前を赤い液体が流れ、視界が段々と赤く染まるのが夕日のせいなのか、自分の血のせいなのか、ニーナにはもう分からなかった。
――ザカッザカッザカッ
――ザカッザカッザカッザカッ
――ザカッザカッザカッザカッザカッ
――ザカッザカッザカッザカッザカッザカッ
巨大な魔獣が不愉快な咆哮を上げていると、後方から更に沢山の魔獣が駆けて来るのが見えた。集落の通りいっぱいに広がるように小さな魔獣が先頭を駆け、後方に巨大な魔獣が数体蠢いている。
(繁殖期だから、沢山いるんだろうけど……でっかい奴は……他にもいるのかよ)
地獄のような光景だ。寄り合い所の方向からも怒声が上がり、何かが飛んで来る。赤い火種のような物が空中でぱっと弾けては燃え上がった。発破か魔法の炎かなとニーナはぼんやりとした頭で弾け飛ぶ光を見つめた。
光のような炎は魔獣の毛皮に火をつけたが、魔獣はその場で転がったり、魔獣同士で体をぶつけ合ってすぐに火は消えてしまった。威嚇用なのか、威力はあまりないようだ。
「火……火は、やだなあ……」
疲労と流血で頭が朦朧としていたが、ポケットの人形が焼けるように熱い。
「起きて、お守り……届けないと、だよね……」
駆け寄って来た小さな魔獣がニーナにのしかかり、胸の辺りに鉤爪を突き立てた。ニーナも押し返そうとするが、手に上手く力が入らない。大きな魔獣はそんな光景を満足そうに見つめている。
(もう、けっこう、キツイかも……)
爪が深く皮膚の内側に入り込むと、痛みよりは熱さを感じ、恐怖で体が震えるのにニーナはどこか妙な安心感があった。
(いつかこんな日が来ることを……望んでいたような気がする)
ふらふらと刹那的に生きることしか出来なかったニーナは、いつもぼんやりと「どうせ長生きしないし」と考えていた。
(どうしようもない大きな力で……オレの全部を消し飛ばして欲しいって思ってた……でも、今は)
そうだったはずなのに――それなのに、今のニーナの心には未練が渦巻いている。
「まだ……オレは……カインに、気持ちを伝えてないんだ」
ニーナは斧をべシャリと振りおろした。力が入っていないので魔獣の横っ面を叩いただけで終わり、魔獣は不快そうに爪を立てる力を強くした。
「あ……ゔ……」
熱い血がドクリドクリと流れて服を濡らす。新鮮な血の匂いを嗅ぎつけたのか、他の小さな魔獣達がこちらに向かって来る。
「うぅ……カイン……」
寄り合い所の方向でも戦闘が始まっているらしく猛々しい声が聞こえる。ニーナは瞼が重くなり意識を手放しかけたが、空中を飛び散った炎が地面でまだチリチリと燃えているのが目に飛び込んで来た。
光のような炎は普通の炎ではないのか、何も燃やしていないのに地面でキラキラと輝いている。
(やっぱり魔法の火なのかな……? あれを……使えば)
鉤爪を突き立てられながら斧を伸ばし、地面を掻くようにして光の炎を引き寄せた。そしてその炎をひっ掴むと、魔獣に向かってバシリと投げつけた。
ニーナは素手で炎を掴んだはずなのに、不思議と痛みは全くない。やはり炎自体に威力がないようだったが、炎を投げつけられた魔獣は驚いて爪が緩み、その隙をついてニーナはよろよろと逃げ出した。
「カイン……カインと……オレ、また、話がしたい……」
地面に這いつくばって必死に前に前に進んでいると、またグンッと体が宙を舞っていた。空中を逆さまになりながら巨大な魔獣と目が合った。
(また……あのでっかい奴か。ダメだ……もう、体が……)
今度地面に叩きつけられればボロボロのニーナの体は耐えられそうにない。
「ごめん……ごめんな……」
ニーナはもう、あの男の子との約束を守れそうになかった。掠れた小さな声で何度も「ごめん」と呟き、唇を噛み締めて地面に叩きつけられる覚悟を決め、目を閉じた。
――ヒュッ
その瞬間、風が通り抜けるような音がニーナの耳をくすぐった。
ニーナははっきりとしない意識で何の音か考えていると、体がグッと浮き上がるように支えられ、抱え込まれた。
(あれ……?)
魔獣に掴まれたのかと恐る恐る目を開くと、よく見知った顔と目が合う。黒い髪に凛々しい顔立ち、それは間違えようもなくカイン本人だった。
(もしかして、探してくれてたのかな……)
探知魔法がかかった手の平がカインに反応しているのか、フワリと温かく光っている。
「ニーナ、どうして、こんなことに……」
カインは満身創痍のニーナを見つめ、呆然とした声で呟いた。暗い瞳には戸惑いと怒りが混じり合い、夕日の赤い光が反射して燃えているようだった。
「うん……ちょっと、ね」
ニーナは途切れ途切れの声で微かに笑った。
開け放った小さな窓からローブの塊を出来るだけ遠くに投げ飛ばすと、魔獣二匹はローブに向かって駆け出して行った。
(……よ、よしっ!)
魔獣二匹が引き付けられている内に扉を固定していた鍬を引き抜き、勢いよく扉を開くと残っていた一匹の魔獣が飛びかかって来た。
「くっ、このっ……!」
ニーナは向かってくる魔獣に斧を力まかせに振り下ろした。鼻先には当たらなかったが、こめかみあたりを深く切り裂くように斧が入り込み、魔獣はギャアッとわめいて横向きに倒れた。
魔獣は口から泡を出してもがいているが、まだ生きている。ニーナは扉前に倒れた魔獣を飛び越えて駆け出した。
――ザカッザカッザカッザカッ
――ザカッザカッザカッザカッザカッ
後ろからこちらに向かって来る足音が聞こえる。ローブを追いかけていた二匹がニーナに気がついたのだろう。
ニーナは寄り合い所には遠回りになるが民家の隙間を縫うようにしてジグザグに走り回った。
(頼むから、あのでっかいのは来るなよな……)
二回も投げ飛ばされたせいかジクジクとした熱を体の内側に感じる。
(どこか骨にヒビが入ってたりするんじゃないかな……でも)
ニーナの体は傷だらけだったが、不思議と痛みを感じていなかった。生存本能からか、今はただただ走ることに体が集中している。
(早く……早く、早く、もっと、早く……!)
民家の角を急に曲がり、魔獣が飛びかかって来るのを躱し、足に噛みつこうとする鼻先に斧を叩き込む。魔獣は黒い霧のような血を吹き出してもニーナを追うことをやめない。
(しつこいなあっ! 何でこんな……ああ、もしかして、狩りの獲物にされてるのか?)
あの大きな魔獣が親だとすれば、子どもに狩りの仕方を教えているのかもしれない。集落を襲っているのも人間という獲物が固まって暮らしているからだろうか。
(だとしたら、けっこう頭が良いって言うか……じゃあ、あのでっかいのは猛獣使いが仕込んだ優秀な個体って奴か……? 冗談じゃない!)
寄り合い所まではもうすぐなのに、ニーナは永遠に続く距離のように感じられた。息も絶え絶えになって、足を必死で動かし、前に前に何とか進んで行く。そんなニーナのすぐ後ろを小さい魔獣は素早く動き回り、足元をすくおうとしてくる。
――ザカッザカッザカッザカッ
――ザカッザカッザカッザカッザカッ
不快な足音は夕暮れの集落に響き渡る。ニーナは斧を振り回して足元の魔獣を払い除けたが、一匹が靴の踵に噛み付き、グッとニーナを放り投げた。
「あっ……!わっ……!」
放り投げられた先は集落の中でも広い通りで、寄り合い所はもうすぐそこだ。寄り合い所の扉の前に誰かが立っているのが見える。こちらに気がついたのか何かを叫んでいる。若い冒険者か、自警団の誰かだろうか。
勢いを殺すためにゴロゴロと転がっていると、ニーナを放り投げた魔獣が飛びかかり、鉤爪を首筋に刺そうとして来る。
「この……ぐっ……!」
ニーナは斧の柄で鉤爪を受け止め、力いっぱい押し返した。もう一匹はキュウキュウと鳴いてニーナを遠くの方から睨みつけている。片目が潰れているので、ニーナが火かき棒で刺した個体だろうか。
「く……はぁ……はぁ……この……! このっ!」
ニーナは地面に押さえつけられたまま、斧を魔獣の顔に叩きつけた。黒い霧状の血が顔にかかり、鉤爪が肌に食い込んで来たが、そんなことはもう気にしていられない。
何度も、何度も、何度も、何度も、斧を叩き込むと、魔獣はしだいにぐったりとしてニーナの体の上で動かなくなった。
「……あ、ぅ……はぁ……はぁ……」
ニーナは魔獣の亡骸を自分の上から退かし、起き上がろうとすると、片目の魔獣がこちらを睨みつけたまま、キュウキュウキュウキュウと高い声で鳴いた。
「な、何を……」
ニーナが「何をするつもりだ」と言いかけたが、言葉は最後まで続かなかった。ニーナはまた集落の屋根が見える程高く吹き飛ばされていたからだ。
「ひっ……ああっ! あっ……」
情けない悲鳴を上げてニーナは地面に叩きつけられた。
――ギュワンギュワン
長い耳に、巨大な体躯、怒気を帯びた唸り声がニーナの耳に飛び込んで来る。
(ああ……でっかいのを呼んでたのか……)
巨大な魔獣は相変わらず足音がほとんどしない。何か特殊な能力かなとニーナは地面から起き上がれないまま妙に冷静なことを考えていた。
受け身を取れずに地面に叩きつけられ、小石に裂かれたのか額がぱっくりと切れている。目の前を赤い液体が流れ、視界が段々と赤く染まるのが夕日のせいなのか、自分の血のせいなのか、ニーナにはもう分からなかった。
――ザカッザカッザカッ
――ザカッザカッザカッザカッ
――ザカッザカッザカッザカッザカッ
――ザカッザカッザカッザカッザカッザカッ
巨大な魔獣が不愉快な咆哮を上げていると、後方から更に沢山の魔獣が駆けて来るのが見えた。集落の通りいっぱいに広がるように小さな魔獣が先頭を駆け、後方に巨大な魔獣が数体蠢いている。
(繁殖期だから、沢山いるんだろうけど……でっかい奴は……他にもいるのかよ)
地獄のような光景だ。寄り合い所の方向からも怒声が上がり、何かが飛んで来る。赤い火種のような物が空中でぱっと弾けては燃え上がった。発破か魔法の炎かなとニーナはぼんやりとした頭で弾け飛ぶ光を見つめた。
光のような炎は魔獣の毛皮に火をつけたが、魔獣はその場で転がったり、魔獣同士で体をぶつけ合ってすぐに火は消えてしまった。威嚇用なのか、威力はあまりないようだ。
「火……火は、やだなあ……」
疲労と流血で頭が朦朧としていたが、ポケットの人形が焼けるように熱い。
「起きて、お守り……届けないと、だよね……」
駆け寄って来た小さな魔獣がニーナにのしかかり、胸の辺りに鉤爪を突き立てた。ニーナも押し返そうとするが、手に上手く力が入らない。大きな魔獣はそんな光景を満足そうに見つめている。
(もう、けっこう、キツイかも……)
爪が深く皮膚の内側に入り込むと、痛みよりは熱さを感じ、恐怖で体が震えるのにニーナはどこか妙な安心感があった。
(いつかこんな日が来ることを……望んでいたような気がする)
ふらふらと刹那的に生きることしか出来なかったニーナは、いつもぼんやりと「どうせ長生きしないし」と考えていた。
(どうしようもない大きな力で……オレの全部を消し飛ばして欲しいって思ってた……でも、今は)
そうだったはずなのに――それなのに、今のニーナの心には未練が渦巻いている。
「まだ……オレは……カインに、気持ちを伝えてないんだ」
ニーナは斧をべシャリと振りおろした。力が入っていないので魔獣の横っ面を叩いただけで終わり、魔獣は不快そうに爪を立てる力を強くした。
「あ……ゔ……」
熱い血がドクリドクリと流れて服を濡らす。新鮮な血の匂いを嗅ぎつけたのか、他の小さな魔獣達がこちらに向かって来る。
「うぅ……カイン……」
寄り合い所の方向でも戦闘が始まっているらしく猛々しい声が聞こえる。ニーナは瞼が重くなり意識を手放しかけたが、空中を飛び散った炎が地面でまだチリチリと燃えているのが目に飛び込んで来た。
光のような炎は普通の炎ではないのか、何も燃やしていないのに地面でキラキラと輝いている。
(やっぱり魔法の火なのかな……? あれを……使えば)
鉤爪を突き立てられながら斧を伸ばし、地面を掻くようにして光の炎を引き寄せた。そしてその炎をひっ掴むと、魔獣に向かってバシリと投げつけた。
ニーナは素手で炎を掴んだはずなのに、不思議と痛みは全くない。やはり炎自体に威力がないようだったが、炎を投げつけられた魔獣は驚いて爪が緩み、その隙をついてニーナはよろよろと逃げ出した。
「カイン……カインと……オレ、また、話がしたい……」
地面に這いつくばって必死に前に前に進んでいると、またグンッと体が宙を舞っていた。空中を逆さまになりながら巨大な魔獣と目が合った。
(また……あのでっかい奴か。ダメだ……もう、体が……)
今度地面に叩きつけられればボロボロのニーナの体は耐えられそうにない。
「ごめん……ごめんな……」
ニーナはもう、あの男の子との約束を守れそうになかった。掠れた小さな声で何度も「ごめん」と呟き、唇を噛み締めて地面に叩きつけられる覚悟を決め、目を閉じた。
――ヒュッ
その瞬間、風が通り抜けるような音がニーナの耳をくすぐった。
ニーナははっきりとしない意識で何の音か考えていると、体がグッと浮き上がるように支えられ、抱え込まれた。
(あれ……?)
魔獣に掴まれたのかと恐る恐る目を開くと、よく見知った顔と目が合う。黒い髪に凛々しい顔立ち、それは間違えようもなくカイン本人だった。
(もしかして、探してくれてたのかな……)
探知魔法がかかった手の平がカインに反応しているのか、フワリと温かく光っている。
「ニーナ、どうして、こんなことに……」
カインは満身創痍のニーナを見つめ、呆然とした声で呟いた。暗い瞳には戸惑いと怒りが混じり合い、夕日の赤い光が反射して燃えているようだった。
「うん……ちょっと、ね」
ニーナは途切れ途切れの声で微かに笑った。
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