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こんなに近くにいるのに
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黒髪の男の子が先に走り出したとはいえ、大人の足で全力疾走したので何とか追いつくことが出来た。ニーナは手を伸ばし、男の子を後ろから羽交い締めにするようにして捕まえ、胸に抱え上げた。
「は……はぁ……つ、捕まえた……!」
こんな全力で走ったのは子どもの頃以来だったので、ニーナは息も絶え絶えだ。獣人は身体能力が高いと言われていたが、鍛えないとこんな物なのかとニーナは少しばかりショックを受けていた。
(これは……もしかして年齢的な問題か? い、いや、体力はまだあるし! 持久力だって悪くない……ああ! 馬鹿馬鹿……今はそんなこと考えてる場合じゃないだろ!)
もがく男の子を捕まえたまま跳ねる心音と息を整え、冷静になるように自分自身を叱咤した。
「はぁ……はぁ……危ないから、戻ろうよ」
「ぅう……でも、お母さんが、お母さんがぁ!」
男の子は顔を涙で濡らしながら泣きじゃくった。ニーナがしっかりと捕まえているので、手足をバタバタさせて振り解こうと暴れている。
「ゔっ、うう……離して! お兄ちゃん……離してよう」
「困ったな……」
男の子の気持ちは痛いほど分かる。宿屋だって端の方にあるとはいえ、小さな集落なのでここから大した距離ではない。
(ああ……進むにも戻るにも微妙な距離だ。当たり前だけど誰も追って来ていないし)
男の子を危険な目に合わすわけにもいかないので寄り合い所に戻る必要がある。その後ならば――
「……ね、お母さんの側にいてあげなよ。オレが連れてってあげるから」
「いやだ! いやだ! お母さんの、お守りないと……ダメなんだ……離して、離して!」
「うん、それは、大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない……う、ううっ……うう……」
すすり泣く男の子の涙がニーナの腕を濡らした。ニーナはふっと息を漏らして抱えた男の子の頭を撫でた。
「……お守りは、さ」
ニーナは自分のお節介さに内心呆れつつも言葉を続けた。
「お兄ちゃんが取って来てあげるから」
男の子はニーナの言葉を聞き、一瞬キョトンとした。あどけない顔を見ているとニーナは弟のことを思い出して温かいような切ないような気持ちになってしまった。
「は……はぁ……つ、捕まえた……!」
こんな全力で走ったのは子どもの頃以来だったので、ニーナは息も絶え絶えだ。獣人は身体能力が高いと言われていたが、鍛えないとこんな物なのかとニーナは少しばかりショックを受けていた。
(これは……もしかして年齢的な問題か? い、いや、体力はまだあるし! 持久力だって悪くない……ああ! 馬鹿馬鹿……今はそんなこと考えてる場合じゃないだろ!)
もがく男の子を捕まえたまま跳ねる心音と息を整え、冷静になるように自分自身を叱咤した。
「はぁ……はぁ……危ないから、戻ろうよ」
「ぅう……でも、お母さんが、お母さんがぁ!」
男の子は顔を涙で濡らしながら泣きじゃくった。ニーナがしっかりと捕まえているので、手足をバタバタさせて振り解こうと暴れている。
「ゔっ、うう……離して! お兄ちゃん……離してよう」
「困ったな……」
男の子の気持ちは痛いほど分かる。宿屋だって端の方にあるとはいえ、小さな集落なのでここから大した距離ではない。
(ああ……進むにも戻るにも微妙な距離だ。当たり前だけど誰も追って来ていないし)
男の子を危険な目に合わすわけにもいかないので寄り合い所に戻る必要がある。その後ならば――
「……ね、お母さんの側にいてあげなよ。オレが連れてってあげるから」
「いやだ! いやだ! お母さんの、お守りないと……ダメなんだ……離して、離して!」
「うん、それは、大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない……う、ううっ……うう……」
すすり泣く男の子の涙がニーナの腕を濡らした。ニーナはふっと息を漏らして抱えた男の子の頭を撫でた。
「……お守りは、さ」
ニーナは自分のお節介さに内心呆れつつも言葉を続けた。
「お兄ちゃんが取って来てあげるから」
男の子はニーナの言葉を聞き、一瞬キョトンとした。あどけない顔を見ているとニーナは弟のことを思い出して温かいような切ないような気持ちになってしまった。
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