48 / 105
こんなに近くにいるのに
3
しおりを挟む
黒髪の男の子が先に走り出したとはいえ、大人の足で全力疾走したので何とか追いつくことが出来た。ニーナは手を伸ばし、男の子を後ろから羽交い締めにするようにして捕まえ、胸に抱え上げた。
「は……はぁ……つ、捕まえた……!」
こんな全力で走ったのは子どもの頃以来だったので、ニーナは息も絶え絶えだ。獣人は身体能力が高いと言われていたが、鍛えないとこんな物なのかとニーナは少しばかりショックを受けていた。
(これは……もしかして年齢的な問題か? い、いや、体力はまだあるし! 持久力だって悪くない……ああ! 馬鹿馬鹿……今はそんなこと考えてる場合じゃないだろ!)
もがく男の子を捕まえたまま跳ねる心音と息を整え、冷静になるように自分自身を叱咤した。
「はぁ……はぁ……危ないから、戻ろうよ」
「ぅう……でも、お母さんが、お母さんがぁ!」
男の子は顔を涙で濡らしながら泣きじゃくった。ニーナがしっかりと捕まえているので、手足をバタバタさせて振り解こうと暴れている。
「ゔっ、うう……離して! お兄ちゃん……離してよう」
「困ったな……」
男の子の気持ちは痛いほど分かる。宿屋だって端の方にあるとはいえ、小さな集落なのでここから大した距離ではない。
(ああ……進むにも戻るにも微妙な距離だ。当たり前だけど誰も追って来ていないし)
男の子を危険な目に合わすわけにもいかないので寄り合い所に戻る必要がある。その後ならば――
「……ね、お母さんの側にいてあげなよ。オレが連れてってあげるから」
「いやだ! いやだ! お母さんの、お守りないと……ダメなんだ……離して、離して!」
「うん、それは、大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない……う、ううっ……うう……」
すすり泣く男の子の涙がニーナの腕を濡らした。ニーナはふっと息を漏らして抱えた男の子の頭を撫でた。
「……お守りは、さ」
ニーナは自分のお節介さに内心呆れつつも言葉を続けた。
「お兄ちゃんが取って来てあげるから」
男の子はニーナの言葉を聞き、一瞬キョトンとした。あどけない顔を見ているとニーナは弟のことを思い出して温かいような切ないような気持ちになってしまった。
「は……はぁ……つ、捕まえた……!」
こんな全力で走ったのは子どもの頃以来だったので、ニーナは息も絶え絶えだ。獣人は身体能力が高いと言われていたが、鍛えないとこんな物なのかとニーナは少しばかりショックを受けていた。
(これは……もしかして年齢的な問題か? い、いや、体力はまだあるし! 持久力だって悪くない……ああ! 馬鹿馬鹿……今はそんなこと考えてる場合じゃないだろ!)
もがく男の子を捕まえたまま跳ねる心音と息を整え、冷静になるように自分自身を叱咤した。
「はぁ……はぁ……危ないから、戻ろうよ」
「ぅう……でも、お母さんが、お母さんがぁ!」
男の子は顔を涙で濡らしながら泣きじゃくった。ニーナがしっかりと捕まえているので、手足をバタバタさせて振り解こうと暴れている。
「ゔっ、うう……離して! お兄ちゃん……離してよう」
「困ったな……」
男の子の気持ちは痛いほど分かる。宿屋だって端の方にあるとはいえ、小さな集落なのでここから大した距離ではない。
(ああ……進むにも戻るにも微妙な距離だ。当たり前だけど誰も追って来ていないし)
男の子を危険な目に合わすわけにもいかないので寄り合い所に戻る必要がある。その後ならば――
「……ね、お母さんの側にいてあげなよ。オレが連れてってあげるから」
「いやだ! いやだ! お母さんの、お守りないと……ダメなんだ……離して、離して!」
「うん、それは、大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない……う、ううっ……うう……」
すすり泣く男の子の涙がニーナの腕を濡らした。ニーナはふっと息を漏らして抱えた男の子の頭を撫でた。
「……お守りは、さ」
ニーナは自分のお節介さに内心呆れつつも言葉を続けた。
「お兄ちゃんが取って来てあげるから」
男の子はニーナの言葉を聞き、一瞬キョトンとした。あどけない顔を見ているとニーナは弟のことを思い出して温かいような切ないような気持ちになってしまった。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説

【完結】黒兎は、狼くんから逃げられない。
N2O
BL
狼の獣人(異世界転移者)×兎の獣人(童顔の魔法士団団長)
お互いのことが出会ってすぐ大好きになっちゃう話。
待てが出来ない狼くんです。
※独自設定、ご都合主義です
※予告なくいちゃいちゃシーン入ります
主人公イラストを『しき』様(https://twitter.com/a20wa2fu12ji)に描いていただき、表紙にさせていただきました。
美しい・・・!

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる