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愛しさと逃げ出したい気持ち・中編
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連れ込み宿の部屋にも湯船はあったが、ニーナとカインは別々に入った。
カインに一緒に入るか尋ねてみたが「もう俺達は客と従業員ではない」や「そういったサービスはしなくて良い」と頑なに拒まれ、特に何事も起こらないままベッドに二人で並んでいる。
「明日は早いので、先に出ることになる」
「ん……そうだったんだ。朝まで付き合ってもらってごめんね」
「気にしなくて良い。ニーナと眠らせてもらえるのは嬉しいからな」
「……せめて見送らせてよ」
「良いんだ。ニーナは寝ていてくれ」
カインはニーナを抱きしめても来ず、あやすように髪を撫で「おやすみ」と言った。二人とも寝巻き代わりに備え付けのガウンを着ていたが、特に色っぽい雰囲気にはならなかった。
(オレだけ浮かれているみたいだ。最後だし、抱いてくれるかもって期待してしまった)
カインは隣ですやすやと眠っている。ニーナも生きて来た環境柄どこででも眠れるが、寝床が変わると寝入るのに時間がかかる。ニーナはカインを起こさないようににじり寄り、腕にこっそりとくっついた。
(カインは腕にもけっこう古い傷があるよな。お姉さんのことがあってから、冒険者を目指して……血の滲むような努力をして来たんだろうな)
またカインの話を聞いてみたい、そして自身のことも話したいと、ニーナは考えていた。
(でも……側にいるのが怖い。大事にしたいと思っても、いつかまた……あの心が引きちぎれるような苦しみや痛みに襲われるんじゃないかって思うと……)
ニーナははぁっとため息をついてカインの腕に頬ずりをした。
(カインは冒険者で、体だって丈夫だ。だから、そう簡単にはオレの側からいなくなったりしない。でも、いつか、そんな日が突然来たらと思うと……オレは自分が自分でいられなくなりそうだ……)
胸が苦しくなって来たので、ふるふると首をふった。
(……カインとはこのデートが本当に最後なんだ。だから、今だけは後ろ向きなことは考えないで楽しまないと)
ニーナは眠るカインの横顔をじっと見つめた。凛々しい顔立ちは眠っていると少しあどけなく見える。
(ほら、この大型犬の可愛い寝顔とか……見納めなんだからな。ちゃんと覚えておかないと)
カインの指先をそっと撫で、寄り添うように肩の辺りに顔を埋めた。そこから見える横顔や逞しい首筋や鎖骨に、ニーナは胸がドキドキして堪らなくなった。首を伸ばしてそっと頬にキスをすると、カインがピクリと動いた気がして慌てて顔を離した。
(こんなにしたら起きちゃうよな。あんまりくっついていると、オレも体がウズウズして来ちゃうし……離れて、大人しく寝よう)
カインの腕から手を離そうとすると、ギュッと手を握りしめられた。ニーナが驚いているとカインの目が開いた。
「ニーナ……寝込みを襲うのはどうかと思う」
カインは目を細め、狼狽えるニーナを暗い瞳で見つめた。
カインに一緒に入るか尋ねてみたが「もう俺達は客と従業員ではない」や「そういったサービスはしなくて良い」と頑なに拒まれ、特に何事も起こらないままベッドに二人で並んでいる。
「明日は早いので、先に出ることになる」
「ん……そうだったんだ。朝まで付き合ってもらってごめんね」
「気にしなくて良い。ニーナと眠らせてもらえるのは嬉しいからな」
「……せめて見送らせてよ」
「良いんだ。ニーナは寝ていてくれ」
カインはニーナを抱きしめても来ず、あやすように髪を撫で「おやすみ」と言った。二人とも寝巻き代わりに備え付けのガウンを着ていたが、特に色っぽい雰囲気にはならなかった。
(オレだけ浮かれているみたいだ。最後だし、抱いてくれるかもって期待してしまった)
カインは隣ですやすやと眠っている。ニーナも生きて来た環境柄どこででも眠れるが、寝床が変わると寝入るのに時間がかかる。ニーナはカインを起こさないようににじり寄り、腕にこっそりとくっついた。
(カインは腕にもけっこう古い傷があるよな。お姉さんのことがあってから、冒険者を目指して……血の滲むような努力をして来たんだろうな)
またカインの話を聞いてみたい、そして自身のことも話したいと、ニーナは考えていた。
(でも……側にいるのが怖い。大事にしたいと思っても、いつかまた……あの心が引きちぎれるような苦しみや痛みに襲われるんじゃないかって思うと……)
ニーナははぁっとため息をついてカインの腕に頬ずりをした。
(カインは冒険者で、体だって丈夫だ。だから、そう簡単にはオレの側からいなくなったりしない。でも、いつか、そんな日が突然来たらと思うと……オレは自分が自分でいられなくなりそうだ……)
胸が苦しくなって来たので、ふるふると首をふった。
(……カインとはこのデートが本当に最後なんだ。だから、今だけは後ろ向きなことは考えないで楽しまないと)
ニーナは眠るカインの横顔をじっと見つめた。凛々しい顔立ちは眠っていると少しあどけなく見える。
(ほら、この大型犬の可愛い寝顔とか……見納めなんだからな。ちゃんと覚えておかないと)
カインの指先をそっと撫で、寄り添うように肩の辺りに顔を埋めた。そこから見える横顔や逞しい首筋や鎖骨に、ニーナは胸がドキドキして堪らなくなった。首を伸ばしてそっと頬にキスをすると、カインがピクリと動いた気がして慌てて顔を離した。
(こんなにしたら起きちゃうよな。あんまりくっついていると、オレも体がウズウズして来ちゃうし……離れて、大人しく寝よう)
カインの腕から手を離そうとすると、ギュッと手を握りしめられた。ニーナが驚いているとカインの目が開いた。
「ニーナ……寝込みを襲うのはどうかと思う」
カインは目を細め、狼狽えるニーナを暗い瞳で見つめた。
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