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卓上遊戯と昔話
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(※流血表現有)
今から十四年前にアルノルト姉弟は両親を海難事故で亡くし、八つ上の姉は両親が亡くなったのを境に冒険者ギルドに所属する冒険者になった。
カインは自分を養うために姉が危険な職業に就いたのだと気に病んでいたが、姉はカインが幼年学校を卒業して教師かギルド職員を目指そうかという時になっても冒険者を続け、若くしてA級冒険者にまでなってしまった。
カインの姉はどちらかといえば引っ込み思案で、両親を亡くした時も幼いカインを抱きしめては泣き腫らしていた。剣術も若い頃に冒険者をしていた父親に護身術程度に習ったきりで、とても魔獣を倒したり、ダンジョン攻略が出来るとはカインには思えなかった。そしてカインの思っていた通り、見習いへなちょこ冒険者の姉は怪我をして帰って来ては寝込んだり、魔獣に食われかけたりと、散々な目にあっていた。
カインはそんな姉を見ては心を痛め「冒険者をやめて欲しい」と何度も言ったが、姉は聞かなかった。そこからカインは聞く耳を持たない姉と距離を取る様になってしまった。嫌いになったわけではないし、両親を亡くしても二人で暮らせるように取り計らってくれた姉には感謝をしていた。カインはまた大事な身内を喪ってしまわないか怖かったのだ。
「ね、カイン、あんた、自分を養うために姉さんが無理してるって思ってるんでしょ」
いつだったか二人で食事をする機会があった。姉はA級冒険者になってからは忙しく魔獣討伐や高難度ダンジョン攻略に駆け回っていたので二人で食事をするのは久々だった。距離をとっていたこともあり、カインはよそよそしく「そうだよ」と答えた。
「カイン、私、冒険者が天職なの」
自信に満ちた目をしてカインの姉はそう言った。長かった黒髪をばっさりと切った姉は輝く様な生命力に溢れていた。冒険者が天職――カインも本当はそんな気がしていたが、引っ込み思案な姉と今の快活な姉の姿がカインの中で上手く重ならなかったのだ。
「ね、カインにも剣術教えてあげる。今はギルドで紹介された団体に私の先生がいるんだ!」
引っ込み思案だった頃には見たことがない笑顔だった。カインは苦笑して「うん」とだけ答えた。もしかしたら自分が知らなかっただけで、本来の姉はこちらかもしれないとカインは思った。
それから姉は暇を見つけてはカインに剣術を教えるようになった。カインは冒険者になるつもりはなかったが、姉との繋がりが持てたことを内心嬉しく思っていた。
「カインは器用だから、飲み込みが早いね。うん、別に冒険者にならなくても良いの! あんたはこれから何にだってなれるし、何をするかを自分で選んで行くんだから」
姉が冒険者にならずとも教会で住み込みで働いたり、王都の保護施設で暮しても良かったはずだ。幼年学校を卒業したカインには姉が渋々冒険者になったのでないことは分かりきっていた。
「あんたも私と同じで目が良いからね。大事なのは相手の動きをよーく観察すること。それから賢い頭で考えて行動するの、ね、簡単よ!」
そんな風に言っては姉は練習用の木刀で容赦なくカインをふっ飛ばした。魔法により腕力を強化した姉による剣術の稽古は短期集中型というか、果てしなく実戦向きだった。きっと姉もこういった訓練を受けて来たのだろう。カインはふっ飛ばされる度に絶対に冒険者にはならないと心に誓った。
そして、ある時、病を撒き散らす魔獣達の討伐依頼が国外から入り、遠征団に姉も加わった。王都でも選ばれし者しかなれないS級冒険者数名を筆頭に大規模な魔獣討伐は遠征先の国の兵隊と連携して連日連夜行われた。
そこでの出来事はカインも聞き及んだ話でしかなかったが、病を撒き散らす魔獣を操っていたのは二本足の翼竜だったそうだ。竜は存在そのものが人間と相容れず、かつ知能が高い者が多かったため不可侵の対象だったが、その竜は人間に害をなすため、悪竜として討伐対象となった。
悪竜討伐となれば一個師団は必要だと言われていたが、体制を整えている暇もなく悪竜側からの猛攻は続いた。頼みのS級冒険者達も目や手を引きちぎられ、あわや全滅かという時、姉達は突貫の強襲部隊を編成し悪竜の巣へ殴り込みをかけた。
あれは勇敢というよりは蛮勇だったと生き残った者は口々にそう言った。カインもその場にいれば、姉を諫め、「良いから逃げろ」と言っていただろう。
姉は自分の体の膂力を最大限まで魔法で高め、口から血を吐き、片目を失い、腕の肉が引きちぎられようが、三日三晩戦い抜き、とうとう悪竜と相討ちになってしまった。
カインは姉の最期を聞いた時、傍若無人で何とも自由で冒険者が天職だといった姉らしい話だと、泣きながら笑ってしまった。
今から十四年前にアルノルト姉弟は両親を海難事故で亡くし、八つ上の姉は両親が亡くなったのを境に冒険者ギルドに所属する冒険者になった。
カインは自分を養うために姉が危険な職業に就いたのだと気に病んでいたが、姉はカインが幼年学校を卒業して教師かギルド職員を目指そうかという時になっても冒険者を続け、若くしてA級冒険者にまでなってしまった。
カインの姉はどちらかといえば引っ込み思案で、両親を亡くした時も幼いカインを抱きしめては泣き腫らしていた。剣術も若い頃に冒険者をしていた父親に護身術程度に習ったきりで、とても魔獣を倒したり、ダンジョン攻略が出来るとはカインには思えなかった。そしてカインの思っていた通り、見習いへなちょこ冒険者の姉は怪我をして帰って来ては寝込んだり、魔獣に食われかけたりと、散々な目にあっていた。
カインはそんな姉を見ては心を痛め「冒険者をやめて欲しい」と何度も言ったが、姉は聞かなかった。そこからカインは聞く耳を持たない姉と距離を取る様になってしまった。嫌いになったわけではないし、両親を亡くしても二人で暮らせるように取り計らってくれた姉には感謝をしていた。カインはまた大事な身内を喪ってしまわないか怖かったのだ。
「ね、カイン、あんた、自分を養うために姉さんが無理してるって思ってるんでしょ」
いつだったか二人で食事をする機会があった。姉はA級冒険者になってからは忙しく魔獣討伐や高難度ダンジョン攻略に駆け回っていたので二人で食事をするのは久々だった。距離をとっていたこともあり、カインはよそよそしく「そうだよ」と答えた。
「カイン、私、冒険者が天職なの」
自信に満ちた目をしてカインの姉はそう言った。長かった黒髪をばっさりと切った姉は輝く様な生命力に溢れていた。冒険者が天職――カインも本当はそんな気がしていたが、引っ込み思案な姉と今の快活な姉の姿がカインの中で上手く重ならなかったのだ。
「ね、カインにも剣術教えてあげる。今はギルドで紹介された団体に私の先生がいるんだ!」
引っ込み思案だった頃には見たことがない笑顔だった。カインは苦笑して「うん」とだけ答えた。もしかしたら自分が知らなかっただけで、本来の姉はこちらかもしれないとカインは思った。
それから姉は暇を見つけてはカインに剣術を教えるようになった。カインは冒険者になるつもりはなかったが、姉との繋がりが持てたことを内心嬉しく思っていた。
「カインは器用だから、飲み込みが早いね。うん、別に冒険者にならなくても良いの! あんたはこれから何にだってなれるし、何をするかを自分で選んで行くんだから」
姉が冒険者にならずとも教会で住み込みで働いたり、王都の保護施設で暮しても良かったはずだ。幼年学校を卒業したカインには姉が渋々冒険者になったのでないことは分かりきっていた。
「あんたも私と同じで目が良いからね。大事なのは相手の動きをよーく観察すること。それから賢い頭で考えて行動するの、ね、簡単よ!」
そんな風に言っては姉は練習用の木刀で容赦なくカインをふっ飛ばした。魔法により腕力を強化した姉による剣術の稽古は短期集中型というか、果てしなく実戦向きだった。きっと姉もこういった訓練を受けて来たのだろう。カインはふっ飛ばされる度に絶対に冒険者にはならないと心に誓った。
そして、ある時、病を撒き散らす魔獣達の討伐依頼が国外から入り、遠征団に姉も加わった。王都でも選ばれし者しかなれないS級冒険者数名を筆頭に大規模な魔獣討伐は遠征先の国の兵隊と連携して連日連夜行われた。
そこでの出来事はカインも聞き及んだ話でしかなかったが、病を撒き散らす魔獣を操っていたのは二本足の翼竜だったそうだ。竜は存在そのものが人間と相容れず、かつ知能が高い者が多かったため不可侵の対象だったが、その竜は人間に害をなすため、悪竜として討伐対象となった。
悪竜討伐となれば一個師団は必要だと言われていたが、体制を整えている暇もなく悪竜側からの猛攻は続いた。頼みのS級冒険者達も目や手を引きちぎられ、あわや全滅かという時、姉達は突貫の強襲部隊を編成し悪竜の巣へ殴り込みをかけた。
あれは勇敢というよりは蛮勇だったと生き残った者は口々にそう言った。カインもその場にいれば、姉を諫め、「良いから逃げろ」と言っていただろう。
姉は自分の体の膂力を最大限まで魔法で高め、口から血を吐き、片目を失い、腕の肉が引きちぎられようが、三日三晩戦い抜き、とうとう悪竜と相討ちになってしまった。
カインは姉の最期を聞いた時、傍若無人で何とも自由で冒険者が天職だといった姉らしい話だと、泣きながら笑ってしまった。
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