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卓上遊戯と昔話
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結論から言えばすごろくはニーナが圧勝した。普段からこのすごろくで遊んでおり、サイコロの振り方からマス目でのコインの使い方、そういった物に慣れていたからだ。
「オレの勝ち~」
ニーナは得意げに言い、ベッドに広げられた遊技盤のゴールに駒を進めた。
(……負けても良かったのに、熱くなってしまった)
カインが思っていた以上に楽しげに遊ぶので、ニーナもついつい熱が入ってしまったのだった。
「負けてしまったな……だが、楽しかった」
カインは残念そうにおもちゃのコインをニーナに渡した。
「……じゃ、ご褒美貰おっかな」
ニーナはベッドに寝転んでカインを見上げた。カインは「ああ」と言った後にハーブジュースを飲み干し、何を言ったものか考えている風に口元に手を当てた。
「俺のことと言われても、何が良いだろうか……」
「ん~、じゃあ、自己紹介みたいに言ってみてよ。そういうの、ちゃんとやったことなかったし」
「自己紹介、か」
カインは空になった盃を盆に置き、ベッドのヘッドボードに持たれかかると、ニーナを穏やかな暗い瞳で見つめた。
「名前はカイン・アルノルト。年齢は20才で職業は冒険者だ」
最近のニーナは受付で名簿整理などの事務作業をしていたのでカインのファミリーネームを知っていたが、初めて聞いた風な顔をして「アルノルト君だね」と言った。
「じゃあ、好きな食べ物や趣味は何ですか~?」
「食べ物の好き嫌いは特にないな。何でも食べられる。趣味は剣術の鍛錬だろうか? あとは本を読むのも好きだが……趣味なのかは分からない。改めて聞かれると難しいな」
カインは照れくさそうに言った。
「聞いたことなかったから、新鮮で面白いよ。特技とか、最近楽しかったことは?」
「特技……剣術は褒められることがあるので、特技だと思う。楽しかったことは、そうだな……」
手を伸ばしニーナの頭の上の耳を撫でて、「ニーナに出会えたことだな」と微笑んだ。
「そ、そう。うん、そうなんだ?」
ニーナは心臓が一際大きくドキッと鳴るのを感じた。
(心臓に悪いことするなよな。わざと言っているのか……? 天然ならそれはそれで厄介だし……)
耳をくすぐる様に撫でるので手で防いで押し退けた。
「カイン君、真面目にやってください~」
「真面目に答えているんだが……」
カインは苦笑してふっと息をついた。
「あとは……えー、お休みの日は何をしていますか?」
カインの知りたいことを「お見合いみたい」と言っていたのに、ニーナも十分お見合いの様なことを聞いてしまっていた。
「休みの日……買い出しに出かけたり、武具の手入れをしたり……あとは、時間が合えば教会で子ども達に剣術や勉強を教えているな」
「え、子どもに? 何で?」
初めて聞くカインの私生活にニーナは興味津々になり目を輝かせた。
(だって、娼館の客のプライベートなんて、普段ほとんど聞かないし……カインみたいな娼館に似合わない初心で可愛い男の話なんて、尚の事だ。だから、オレが興味を持つのも仕方ないんだ)
ニーナは自分自身への言い訳を頭の中に並べ立て、カインの話に耳を傾けた。
「俺は幼い頃から姉と二人で暮らしていたんだが、姉が亡くなってから少しの間教会で過ごしていたことがあってな。その時の恩返しといっては何だが、教師の真似事をしている」
「そうなんだ……お姉さんが……」
このまま話の続きを聞いても良いのか悩んでいるとカインはニーナの髪を撫でた。
「すまない、気を遣わせてしまったな。姉のことはしんみりした話ではないんだ……姉も冒険者をやっていて、とても面白い人だった」
カインは姉のことになると少年の様な表情になった。
「……そっか。あのさ、カインさえ良かったら、お姉さんの話、聞きたいな」
「ニーナがあの人……姉の話を聞きたいと言ってくれてとても嬉しい」
ニーナに向かって心底嬉しそうに微笑んだ。
「オレの勝ち~」
ニーナは得意げに言い、ベッドに広げられた遊技盤のゴールに駒を進めた。
(……負けても良かったのに、熱くなってしまった)
カインが思っていた以上に楽しげに遊ぶので、ニーナもついつい熱が入ってしまったのだった。
「負けてしまったな……だが、楽しかった」
カインは残念そうにおもちゃのコインをニーナに渡した。
「……じゃ、ご褒美貰おっかな」
ニーナはベッドに寝転んでカインを見上げた。カインは「ああ」と言った後にハーブジュースを飲み干し、何を言ったものか考えている風に口元に手を当てた。
「俺のことと言われても、何が良いだろうか……」
「ん~、じゃあ、自己紹介みたいに言ってみてよ。そういうの、ちゃんとやったことなかったし」
「自己紹介、か」
カインは空になった盃を盆に置き、ベッドのヘッドボードに持たれかかると、ニーナを穏やかな暗い瞳で見つめた。
「名前はカイン・アルノルト。年齢は20才で職業は冒険者だ」
最近のニーナは受付で名簿整理などの事務作業をしていたのでカインのファミリーネームを知っていたが、初めて聞いた風な顔をして「アルノルト君だね」と言った。
「じゃあ、好きな食べ物や趣味は何ですか~?」
「食べ物の好き嫌いは特にないな。何でも食べられる。趣味は剣術の鍛錬だろうか? あとは本を読むのも好きだが……趣味なのかは分からない。改めて聞かれると難しいな」
カインは照れくさそうに言った。
「聞いたことなかったから、新鮮で面白いよ。特技とか、最近楽しかったことは?」
「特技……剣術は褒められることがあるので、特技だと思う。楽しかったことは、そうだな……」
手を伸ばしニーナの頭の上の耳を撫でて、「ニーナに出会えたことだな」と微笑んだ。
「そ、そう。うん、そうなんだ?」
ニーナは心臓が一際大きくドキッと鳴るのを感じた。
(心臓に悪いことするなよな。わざと言っているのか……? 天然ならそれはそれで厄介だし……)
耳をくすぐる様に撫でるので手で防いで押し退けた。
「カイン君、真面目にやってください~」
「真面目に答えているんだが……」
カインは苦笑してふっと息をついた。
「あとは……えー、お休みの日は何をしていますか?」
カインの知りたいことを「お見合いみたい」と言っていたのに、ニーナも十分お見合いの様なことを聞いてしまっていた。
「休みの日……買い出しに出かけたり、武具の手入れをしたり……あとは、時間が合えば教会で子ども達に剣術や勉強を教えているな」
「え、子どもに? 何で?」
初めて聞くカインの私生活にニーナは興味津々になり目を輝かせた。
(だって、娼館の客のプライベートなんて、普段ほとんど聞かないし……カインみたいな娼館に似合わない初心で可愛い男の話なんて、尚の事だ。だから、オレが興味を持つのも仕方ないんだ)
ニーナは自分自身への言い訳を頭の中に並べ立て、カインの話に耳を傾けた。
「俺は幼い頃から姉と二人で暮らしていたんだが、姉が亡くなってから少しの間教会で過ごしていたことがあってな。その時の恩返しといっては何だが、教師の真似事をしている」
「そうなんだ……お姉さんが……」
このまま話の続きを聞いても良いのか悩んでいるとカインはニーナの髪を撫でた。
「すまない、気を遣わせてしまったな。姉のことはしんみりした話ではないんだ……姉も冒険者をやっていて、とても面白い人だった」
カインは姉のことになると少年の様な表情になった。
「……そっか。あのさ、カインさえ良かったら、お姉さんの話、聞きたいな」
「ニーナがあの人……姉の話を聞きたいと言ってくれてとても嬉しい」
ニーナに向かって心底嬉しそうに微笑んだ。
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