13 / 105
指名と攻防
4
しおりを挟む
客から告白まがいのことを言われそうになった場合、そういうことは困ると先に釘を刺しておく――これも歓楽街ではよくある話だ。
こちらは仕事でやっているのに、恋愛感情を向けられるのは面倒でしかない。だが、今のニーナはカインの穏やかな暗い瞳を見ると胸がチクチクと痛んでしまう。ニーナもカインのことが気に入っていたからだ。
(でも、それは、客としてお気に入りってだけで……カインは顔も性格も可愛いし、撫でるのも上手になったし、体だって良いし、手とか縛ったりしないし、首とか締めてこないし、朝まで抱き潰したりしないし……)
獣人は体力があるといってもしんどいものはしんどい。
(カインはそういうことしなさそうって言うか、知らなさそうだし……オレが今までして来たことを知ったら引いちゃうだろうなあ~)
あまりにも特殊な性癖の客は流石に断って来たが、体力でカバー出来そうなことならばニーナは大体応えてきた。
(うん、やっぱりカインはオレみたいな阿婆擦れじゃなくて、初々しい感じの人間と初々しく交際して……そういうのがお似合いだ)
ニーナが一人うんうんと頷いているとカインが首を傾げた。今はカインの膝の上で横抱きにされて頬や髪を撫でられている。
「どうかしたか?」
「え? うーん、カインにどんなことしようかなって、考えてる」
「……ニーナの接客はとても素晴らしい。だが俺はニーナを撫でるのが……好きだ」
寂し気に言われると毎回「全く大型犬はしょうがないなあ」とニーナは諦めてしまっていたが、今回は違う。
「オレもカインにいっぱい触りたいな……」
ニーナが自分の体を抱きしめ、切なそうに言うとカインは分かりやすく狼狽えた。ニーナは内心「チョロいな」と思ったが、同時に多少の罪悪感もあった。
「ね、ダメ?」
「う……」
上目遣いで見つめるとカインは頬を染めた。
(初心な上にチョロいなんて……やっぱりカインは可愛い)
ニーナは顔がニヤけそうになったので頬の肉を噛んで耐えた。
「オレもお客さんの要望には応えたいんだけど……カインの体かっこいいから触りたくなっちゃうなあ~」
「……そう、か」
カインは撫でる手を止め、けっこうな時間考え込んだ。
(あ~、困ってる困ってる……可愛いけどやっぱり罪悪感が湧くな)
ニーナは考え込むカインの戸惑った様子を見つめた。
(カイン自身も体の欲望が発散出来れば、娼館に来るのがもっと楽しくなるだろうし……)
カインには悶々とした甘酸っぱい思いなんて抱えず、娼館での『遊び』を気軽に楽しんで欲しかった。
「分かった……」
カインが何かを振り切る様に言ったので、ガバリと抱きついた。
「やった~、じゃあニーナお兄さんがカイン君をいっぱい撫でたげるね」
耳元で囁くとカインの喉が鳴ったので、ニーナはクスクスと笑った。
「ああ……だが、俺もニーナを撫でるからな」
「うん、良いよ。触り合いっこだね」
「触り合い……そう、だな」
カインは観念した風に力無く言った。
こちらは仕事でやっているのに、恋愛感情を向けられるのは面倒でしかない。だが、今のニーナはカインの穏やかな暗い瞳を見ると胸がチクチクと痛んでしまう。ニーナもカインのことが気に入っていたからだ。
(でも、それは、客としてお気に入りってだけで……カインは顔も性格も可愛いし、撫でるのも上手になったし、体だって良いし、手とか縛ったりしないし、首とか締めてこないし、朝まで抱き潰したりしないし……)
獣人は体力があるといってもしんどいものはしんどい。
(カインはそういうことしなさそうって言うか、知らなさそうだし……オレが今までして来たことを知ったら引いちゃうだろうなあ~)
あまりにも特殊な性癖の客は流石に断って来たが、体力でカバー出来そうなことならばニーナは大体応えてきた。
(うん、やっぱりカインはオレみたいな阿婆擦れじゃなくて、初々しい感じの人間と初々しく交際して……そういうのがお似合いだ)
ニーナが一人うんうんと頷いているとカインが首を傾げた。今はカインの膝の上で横抱きにされて頬や髪を撫でられている。
「どうかしたか?」
「え? うーん、カインにどんなことしようかなって、考えてる」
「……ニーナの接客はとても素晴らしい。だが俺はニーナを撫でるのが……好きだ」
寂し気に言われると毎回「全く大型犬はしょうがないなあ」とニーナは諦めてしまっていたが、今回は違う。
「オレもカインにいっぱい触りたいな……」
ニーナが自分の体を抱きしめ、切なそうに言うとカインは分かりやすく狼狽えた。ニーナは内心「チョロいな」と思ったが、同時に多少の罪悪感もあった。
「ね、ダメ?」
「う……」
上目遣いで見つめるとカインは頬を染めた。
(初心な上にチョロいなんて……やっぱりカインは可愛い)
ニーナは顔がニヤけそうになったので頬の肉を噛んで耐えた。
「オレもお客さんの要望には応えたいんだけど……カインの体かっこいいから触りたくなっちゃうなあ~」
「……そう、か」
カインは撫でる手を止め、けっこうな時間考え込んだ。
(あ~、困ってる困ってる……可愛いけどやっぱり罪悪感が湧くな)
ニーナは考え込むカインの戸惑った様子を見つめた。
(カイン自身も体の欲望が発散出来れば、娼館に来るのがもっと楽しくなるだろうし……)
カインには悶々とした甘酸っぱい思いなんて抱えず、娼館での『遊び』を気軽に楽しんで欲しかった。
「分かった……」
カインが何かを振り切る様に言ったので、ガバリと抱きついた。
「やった~、じゃあニーナお兄さんがカイン君をいっぱい撫でたげるね」
耳元で囁くとカインの喉が鳴ったので、ニーナはクスクスと笑った。
「ああ……だが、俺もニーナを撫でるからな」
「うん、良いよ。触り合いっこだね」
「触り合い……そう、だな」
カインは観念した風に力無く言った。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
食べて欲しいの
夏芽玉
BL
見世物小屋から誘拐された僕は、夜の森の中、フェンリルと呼ばれる大狼に捕まってしまう。
きっと、今から僕は食べられちゃうんだ。
だけど不思議と恐怖心はなく、むしろ彼に食べられたいと僕は願ってしまって……
Tectorum様主催、「夏だ!! 産卵!! 獣BL」企画参加作品です。
【大狼獣人】×【小鳥獣人】
他サイトにも掲載しています。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで
キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────……
気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。
獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。
故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。
しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?
ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる
すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。
第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」
一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。
2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。
第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」
獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。
第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」
幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。
だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。
獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる