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指名と攻防

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 客から告白まがいのことを言われそうになった場合、そういうことは困ると先に釘を刺しておく――これも歓楽街ではよくある話だ。

 こちらは仕事でやっているのに、恋愛感情を向けられるのは面倒でしかない。だが、今のニーナはカインの穏やかな暗い瞳を見ると胸がチクチクと痛んでしまう。ニーナもカインのことが気に入っていたからだ。

(でも、それは、客としてお気に入りってだけで……カインは顔も性格も可愛いし、撫でるのも上手になったし、体だって良いし、手とか縛ったりしないし、首とか締めてこないし、朝まで抱き潰したりしないし……)

 獣人は体力があるといってもしんどいものはしんどい。

(カインはそういうことしなさそうって言うか、知らなさそうだし……オレが今までして来たことを知ったら引いちゃうだろうなあ~)

 あまりにも特殊な性癖の客は流石に断って来たが、体力でカバー出来そうなことならばニーナは大体応えてきた。

(うん、やっぱりカインはオレみたいな阿婆擦れじゃなくて、初々しい感じの人間と初々しく交際して……そういうのがお似合いだ)

 ニーナが一人うんうんと頷いているとカインが首を傾げた。今はカインの膝の上で横抱きにされて頬や髪を撫でられている。

「どうかしたか?」
「え? うーん、カインにどんなことしようかなって、考えてる」
「……ニーナの接客はとても素晴らしい。だが俺はニーナを撫でるのが……好きだ」

 寂し気に言われると毎回「全く大型犬はしょうがないなあ」とニーナは諦めてしまっていたが、今回は違う。

「オレもカインにいっぱい触りたいな……」

 ニーナが自分の体を抱きしめ、切なそうに言うとカインは分かりやすく狼狽えた。ニーナは内心「チョロいな」と思ったが、同時に多少の罪悪感もあった。

「ね、ダメ?」
「う……」

 上目遣いで見つめるとカインは頬を染めた。

(初心な上にチョロいなんて……やっぱりカインは可愛い)

 ニーナは顔がニヤけそうになったので頬の肉を噛んで耐えた。

「オレもお客さんの要望には応えたいんだけど……カインの体かっこいいから触りたくなっちゃうなあ~」
「……そう、か」

 カインは撫でる手を止め、けっこうな時間考え込んだ。

(あ~、困ってる困ってる……可愛いけどやっぱり罪悪感が湧くな)

 ニーナは考え込むカインの戸惑った様子を見つめた。

(カイン自身も体の欲望が発散出来れば、娼館に来るのがもっと楽しくなるだろうし……)

 カインには悶々とした甘酸っぱい思いなんて抱えず、娼館での『遊び』を気軽に楽しんで欲しかった。

「分かった……」

 カインが何かを振り切る様に言ったので、ガバリと抱きついた。

「やった~、じゃあニーナお兄さんがカイン君をいっぱい撫でたげるね」

 耳元で囁くとカインの喉が鳴ったので、ニーナはクスクスと笑った。

「ああ……だが、俺もニーナを撫でるからな」
「うん、良いよ。触り合いっこだね」
「触り合い……そう、だな」

 カインは観念した風に力無く言った。

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