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指名と攻防
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「先日来た時はニーナがいなかったので、今日は会えて嬉しい」
「うん、そうなんだ……」
今日も来店したカインはベッドの上でニーナを膝に乗せて撫でている。ムーディーだった魔法の照明はカインによって明るさを調整され、温かみのある色に変えられてしまった。
(こんな普通の宿屋みたいにされて……カインはただ眠りに来ているだけみたいだ)
「オレも毎日いるわけじゃないからさあ……え~と、オレがいなかった日はどこか別の店で遊んで帰ったりした? ここら辺はまあまあ優良店が多いから、遊び慣れていなくても……」
「いや、その日は帰った」
「ん……そう」
カインは当たり前だと言わんばかりの顔で言った。
(カインは歓楽街でもうちょっと遊びを覚えても良いんじゃないかな? オレが初めての相手だからってこだわる必要は無いのに)
カインは最初よりだいぶ慣れた手つきでニーナの喉や耳を優しく撫で擦ってくる。
「ニーナ、今日は大人しいな。疲れているのならもう寝るか?」
「カイン、それなんだけどさぁ……」
ニーナはカインの膝の上で位置を変えて、向かい合う様な体勢になった。
「どうしたんだ、ニーナ」
「ね、この体勢、何か思い出さない?」
ガバリとカインに抱きついて頬擦りした。
「初めてカインとエッチした時の体勢」
「ッ……」
耳元で囁くとカインは狼狽えた。
「指名してくれるのはありがたいし、毎回良い部屋選んでくれるのも嬉しいんだけどさぁ……あの日以来一回もしてないのは、どうして?」
ニーナなりに「オレのサービスが良くなかったのかも」や「ちょっと意地悪したからトラウマになったのかも」など、色々考えてもみたが、結局本当のことはカイン本人しか知らない。
「それは……」
「たまたま体が反応しなかったのかな~って思って、聞きづらかったんだけど……流石に一ヶ月以上はさぁ……オレとエッチした時、実はあんまり良くなかったとか?」
「それなら店を変えれば良いのに」とニーナは不貞腐れた。
「……すまない。ニーナには何の非もない。君との初めての体験は素晴らしかった。忘れられないくらいに」
「君って呼ぶのやだ……」
「ニーナ……」
カインは甘い声色でニーナの名前を呼び、背中に腕を回して抱きしめ返した。
「気にさせてしまってすまない」
「謝ってばっかり……」
「すまない……」
また謝ったのでニーナはカインの首筋に軽く噛みついた。
「……ニーナは怒り方も可愛いんだな」
「怒ってない」
「怒っているじゃないか」
カインは苦笑してニーナの髪を撫でた。優しく触れられると胸の奥がチリチリと熱くなった。
(こんな時にもオレはときめいているのか……? ここ最近、カインに毛づくろいされまくったせいだ。だいぶ大型犬に情が移ってしまった……)
ガブガブと首筋を噛んでいるとカインは嗜める様にギュウギュウと抱きしめた。
「俺はニーナの柔らかい髪や滑らかな肌を撫でていると、とても穏やかな気持ちになって……それだけで満たされるんだ」
「そういう感じ良く分からないんだけど……カインはそれだけで良いの? 娼館に来ているのに?」
「ああ、俺は満足している。ただ、ニーナを困らせていたんだな……」
ニーナはカインにとっての『満足』が自分を撫でることだと言われ、全く理解出来なかった。娼館にわざわざ来て、けして安くない金を払い、男娼を撫でるだけのどこで満たされているのだろうと首を傾げた。
(やっぱりカインは娼館に来なくても良いタイプの人間だ……)
冒険者ギルドに所属しているのなら普段は王都で暮しているはずだ。こんな辺鄙な国境沿いの歓楽街でわざわざニーナを撫でずとも、カインになら撫でられたいと言う者は多そうだ。
(そういう人間がカインに今までいなかったのが不思議だ。いや、カインは初心だから……客と従業員みたいな関係じゃないと会話が続かないとか……?)
「……オレが言えた立場じゃないけど、カインは自分のことをもっと周囲に知ってもらった方が良いよ」
実際のカインは大型犬だが、見た目はミステリアスで近寄り難い印象がある。おまけに初心なので、気心が知れた間柄になるまでは少し時間がかかる。好意を持って寄って来た人間も、そういったカインを見て「脈なし」と離れて行くのかもしれない。ありありと想像出来た。
「そういったことは仕事仲間達にもよく言われる……」
「ふ……やっぱり」
ニーナが笑ったのでカインは安心したのか、少しだけ体を離した。
「娼館に来て、ニーナをただ撫でたいというのは俺の自分本位な考えからだ。もし、そういったことをされるのは困ると言うのなら……次からは俺の指名を断ってくれて構わない……」
カインは真剣な眼差しだったけれど、明らかにシュンとしている。まるで叱られた後の大型犬だ。瞳には「本当はニーナに断って欲しくない」という思いが透けてしまっている。
(……く、何て目を……そういう所だけ分かりやすいとか……本当に可愛い……いや、もしかしてわざとやっているのか!?)
ニーナはカインの思いがダダ漏れている瞳を見つめていると、段々と自分の困惑がどうでもよくなっていった。
「……ん~、まあ、オレのサービスが良くなかったってことじゃ無いみたいだし。指名は受けるよ」
カインの髪の毛をクシャクシャと撫で回した。
「オレとしても、カインみたいな男前に撫でられるのは、悪い気分じゃないし……」
「……俺の見た目を良いと思ってくれるんだな」
「うん、カインの顔、かっこいいから好き」
一番良いと思っている点は初心な可愛さだったが、言うとまたシュンとされそうだったのでニーナは黙っておいた。
「好き……そう、か」
珍しくカインが目を泳がせたので、またクシャクシャと髪の毛を撫でた。
「うん、そうなんだ……」
今日も来店したカインはベッドの上でニーナを膝に乗せて撫でている。ムーディーだった魔法の照明はカインによって明るさを調整され、温かみのある色に変えられてしまった。
(こんな普通の宿屋みたいにされて……カインはただ眠りに来ているだけみたいだ)
「オレも毎日いるわけじゃないからさあ……え~と、オレがいなかった日はどこか別の店で遊んで帰ったりした? ここら辺はまあまあ優良店が多いから、遊び慣れていなくても……」
「いや、その日は帰った」
「ん……そう」
カインは当たり前だと言わんばかりの顔で言った。
(カインは歓楽街でもうちょっと遊びを覚えても良いんじゃないかな? オレが初めての相手だからってこだわる必要は無いのに)
カインは最初よりだいぶ慣れた手つきでニーナの喉や耳を優しく撫で擦ってくる。
「ニーナ、今日は大人しいな。疲れているのならもう寝るか?」
「カイン、それなんだけどさぁ……」
ニーナはカインの膝の上で位置を変えて、向かい合う様な体勢になった。
「どうしたんだ、ニーナ」
「ね、この体勢、何か思い出さない?」
ガバリとカインに抱きついて頬擦りした。
「初めてカインとエッチした時の体勢」
「ッ……」
耳元で囁くとカインは狼狽えた。
「指名してくれるのはありがたいし、毎回良い部屋選んでくれるのも嬉しいんだけどさぁ……あの日以来一回もしてないのは、どうして?」
ニーナなりに「オレのサービスが良くなかったのかも」や「ちょっと意地悪したからトラウマになったのかも」など、色々考えてもみたが、結局本当のことはカイン本人しか知らない。
「それは……」
「たまたま体が反応しなかったのかな~って思って、聞きづらかったんだけど……流石に一ヶ月以上はさぁ……オレとエッチした時、実はあんまり良くなかったとか?」
「それなら店を変えれば良いのに」とニーナは不貞腐れた。
「……すまない。ニーナには何の非もない。君との初めての体験は素晴らしかった。忘れられないくらいに」
「君って呼ぶのやだ……」
「ニーナ……」
カインは甘い声色でニーナの名前を呼び、背中に腕を回して抱きしめ返した。
「気にさせてしまってすまない」
「謝ってばっかり……」
「すまない……」
また謝ったのでニーナはカインの首筋に軽く噛みついた。
「……ニーナは怒り方も可愛いんだな」
「怒ってない」
「怒っているじゃないか」
カインは苦笑してニーナの髪を撫でた。優しく触れられると胸の奥がチリチリと熱くなった。
(こんな時にもオレはときめいているのか……? ここ最近、カインに毛づくろいされまくったせいだ。だいぶ大型犬に情が移ってしまった……)
ガブガブと首筋を噛んでいるとカインは嗜める様にギュウギュウと抱きしめた。
「俺はニーナの柔らかい髪や滑らかな肌を撫でていると、とても穏やかな気持ちになって……それだけで満たされるんだ」
「そういう感じ良く分からないんだけど……カインはそれだけで良いの? 娼館に来ているのに?」
「ああ、俺は満足している。ただ、ニーナを困らせていたんだな……」
ニーナはカインにとっての『満足』が自分を撫でることだと言われ、全く理解出来なかった。娼館にわざわざ来て、けして安くない金を払い、男娼を撫でるだけのどこで満たされているのだろうと首を傾げた。
(やっぱりカインは娼館に来なくても良いタイプの人間だ……)
冒険者ギルドに所属しているのなら普段は王都で暮しているはずだ。こんな辺鄙な国境沿いの歓楽街でわざわざニーナを撫でずとも、カインになら撫でられたいと言う者は多そうだ。
(そういう人間がカインに今までいなかったのが不思議だ。いや、カインは初心だから……客と従業員みたいな関係じゃないと会話が続かないとか……?)
「……オレが言えた立場じゃないけど、カインは自分のことをもっと周囲に知ってもらった方が良いよ」
実際のカインは大型犬だが、見た目はミステリアスで近寄り難い印象がある。おまけに初心なので、気心が知れた間柄になるまでは少し時間がかかる。好意を持って寄って来た人間も、そういったカインを見て「脈なし」と離れて行くのかもしれない。ありありと想像出来た。
「そういったことは仕事仲間達にもよく言われる……」
「ふ……やっぱり」
ニーナが笑ったのでカインは安心したのか、少しだけ体を離した。
「娼館に来て、ニーナをただ撫でたいというのは俺の自分本位な考えからだ。もし、そういったことをされるのは困ると言うのなら……次からは俺の指名を断ってくれて構わない……」
カインは真剣な眼差しだったけれど、明らかにシュンとしている。まるで叱られた後の大型犬だ。瞳には「本当はニーナに断って欲しくない」という思いが透けてしまっている。
(……く、何て目を……そういう所だけ分かりやすいとか……本当に可愛い……いや、もしかしてわざとやっているのか!?)
ニーナはカインの思いがダダ漏れている瞳を見つめていると、段々と自分の困惑がどうでもよくなっていった。
「……ん~、まあ、オレのサービスが良くなかったってことじゃ無いみたいだし。指名は受けるよ」
カインの髪の毛をクシャクシャと撫で回した。
「オレとしても、カインみたいな男前に撫でられるのは、悪い気分じゃないし……」
「……俺の見た目を良いと思ってくれるんだな」
「うん、カインの顔、かっこいいから好き」
一番良いと思っている点は初心な可愛さだったが、言うとまたシュンとされそうだったのでニーナは黙っておいた。
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