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出会い
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「ニーナは肌もキレイだな」
「……うん、それはどうも」
広くはない足つきの白いバスタブに大の男がギュウギュウに詰まっている姿は何だか笑えるなとニーナは思った。
娼館の風呂でこんな風に向かい合ってゆったりと湯に浸かることは用途外でしかない。ニーナはカインを見つめた。風呂に入る前はカインを洗って色々しようと考えていたのに、何故かカインはニーナを洗いたがり、されるがままに洗われた。
「ねえ、カイン。お互いに洗い合うとかさあ。したかったなあ~」
多少恨み言の様なことも言ってしまう。カインは洗い終わったニーナを先にバスタブに入れ、自分の体は自分で洗ってから湯船に入って来た。これではどちらが客か分からない。
「すまない。正直、君に触られるのは照れくさいんだ」
「そんなにオレの見た目が好みなの~?」
「好み……好みかは分からないが、男をこんなにキレイだと思ったり、一緒にいると緊張するのは初めてだ」
「ふ、ふーん」
カインは至極真面目な表情で言った。
(カインみたいな男にそういう風に言われると悪い気はしないな)
ニーナ自身も「たまには初心そうな男に抱かれたい」といった心持ちで客を物色していたので、あまり強くは言えなかった。
「ん、ちょっと待って。カインは男が好きだからオレを指名したんじゃないの?」
「男が好きかはあまり考えたことは無いな……」
「じゃあ、普段は女の子が好きな人?」
普段は異性が好きだが、同性とそういう行為をしてみたいがために男娼がいる娼館を訪れる者は少なからずいる。
「いや……今までずっと仕事ばかりで……そういったこと自体、考えることが無かったな」
「……そうなんだね」
カインの体の傷はお湯で体温が上がっているせいか先程より浮かび上がって見える。そんな風になるまで体を酷使し、禁欲的に生きてきたカインをニーナも好ましく思い始めていた。
「……何でカインは娼館に来たの?」
ニーナはずっと思っていたことを口にした。
「今の仕事仲間に『こういう経験はしておいた方が後々役に立つ』と歓楽街に連れられて来たんだが、皆それぞれ馴染みに会いに行くと言って……」
「うわ~、それで娼館にほっぽり出されたの?」
カインは見た目こそ凛々しくミステリアスな雰囲気だ。だが、話してみると大人しいが人懐っこい大型犬の様なので仕事仲間にも可愛がられているのだろう。
(娼館での経験をしておいた方が良いなんて……可愛がるついでに余計な世話も焼かれているんだな)
「それでうちのがめつい主に高い部屋を充てがわれて……カモにされて……カイン、オレが言えた立場じゃないけど仕事仲間の人には怒って良いと思うよ?」
ニーナは手を伸ばしてカインの頭を「よしよし」と撫でた。
「俺はけっこう楽しんでいるんだが……」
「え、そうなの?」
楽しむ要素がどの辺りにあったのかニーナには分からなかった。自分が同じ立場なら歓楽街で遊んだ代金を全て仕事仲間のツケにして、更に恨み言の一つも言うだろう。
「ニーナの接客が上手いから、俺が楽しい気持ちになれるんだ。ありがとうニーナ」
撫でられるのが気持ち良いのかカインは目を細めてされるがままになっている。
「ありがとうって……」
手を握って一緒に風呂に入っただけで一般的に娼館で行う「楽しい」ことはまだ何もしていない。
「カイン、まだ楽しいこと全然していないんだからさ。もっと貪欲にならないとダメだよ」
ニーナは娼館の従業員の中でも年齢が上の方だ。そのせいか、つい年下の世話を焼きたくなってしまう性質があった。お節介といってもいい。
「貪欲か……」
カインは撫でられたままニーナを見つめた。
「……うん、それはどうも」
広くはない足つきの白いバスタブに大の男がギュウギュウに詰まっている姿は何だか笑えるなとニーナは思った。
娼館の風呂でこんな風に向かい合ってゆったりと湯に浸かることは用途外でしかない。ニーナはカインを見つめた。風呂に入る前はカインを洗って色々しようと考えていたのに、何故かカインはニーナを洗いたがり、されるがままに洗われた。
「ねえ、カイン。お互いに洗い合うとかさあ。したかったなあ~」
多少恨み言の様なことも言ってしまう。カインは洗い終わったニーナを先にバスタブに入れ、自分の体は自分で洗ってから湯船に入って来た。これではどちらが客か分からない。
「すまない。正直、君に触られるのは照れくさいんだ」
「そんなにオレの見た目が好みなの~?」
「好み……好みかは分からないが、男をこんなにキレイだと思ったり、一緒にいると緊張するのは初めてだ」
「ふ、ふーん」
カインは至極真面目な表情で言った。
(カインみたいな男にそういう風に言われると悪い気はしないな)
ニーナ自身も「たまには初心そうな男に抱かれたい」といった心持ちで客を物色していたので、あまり強くは言えなかった。
「ん、ちょっと待って。カインは男が好きだからオレを指名したんじゃないの?」
「男が好きかはあまり考えたことは無いな……」
「じゃあ、普段は女の子が好きな人?」
普段は異性が好きだが、同性とそういう行為をしてみたいがために男娼がいる娼館を訪れる者は少なからずいる。
「いや……今までずっと仕事ばかりで……そういったこと自体、考えることが無かったな」
「……そうなんだね」
カインの体の傷はお湯で体温が上がっているせいか先程より浮かび上がって見える。そんな風になるまで体を酷使し、禁欲的に生きてきたカインをニーナも好ましく思い始めていた。
「……何でカインは娼館に来たの?」
ニーナはずっと思っていたことを口にした。
「今の仕事仲間に『こういう経験はしておいた方が後々役に立つ』と歓楽街に連れられて来たんだが、皆それぞれ馴染みに会いに行くと言って……」
「うわ~、それで娼館にほっぽり出されたの?」
カインは見た目こそ凛々しくミステリアスな雰囲気だ。だが、話してみると大人しいが人懐っこい大型犬の様なので仕事仲間にも可愛がられているのだろう。
(娼館での経験をしておいた方が良いなんて……可愛がるついでに余計な世話も焼かれているんだな)
「それでうちのがめつい主に高い部屋を充てがわれて……カモにされて……カイン、オレが言えた立場じゃないけど仕事仲間の人には怒って良いと思うよ?」
ニーナは手を伸ばしてカインの頭を「よしよし」と撫でた。
「俺はけっこう楽しんでいるんだが……」
「え、そうなの?」
楽しむ要素がどの辺りにあったのかニーナには分からなかった。自分が同じ立場なら歓楽街で遊んだ代金を全て仕事仲間のツケにして、更に恨み言の一つも言うだろう。
「ニーナの接客が上手いから、俺が楽しい気持ちになれるんだ。ありがとうニーナ」
撫でられるのが気持ち良いのかカインは目を細めてされるがままになっている。
「ありがとうって……」
手を握って一緒に風呂に入っただけで一般的に娼館で行う「楽しい」ことはまだ何もしていない。
「カイン、まだ楽しいこと全然していないんだからさ。もっと貪欲にならないとダメだよ」
ニーナは娼館の従業員の中でも年齢が上の方だ。そのせいか、つい年下の世話を焼きたくなってしまう性質があった。お節介といってもいい。
「貪欲か……」
カインは撫でられたままニーナを見つめた。
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