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出会い
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「こういった場所では、皆どんな風に振る舞っているんだ?」
「んー、人によるけど基本的にちょっとお話してからエッチなことをするかな。そういう場所だからね」
「そうか……」
カインはキョロキョロと部屋を見回しているので、マッサージしてから繋いだままの手をギュッと握った。カインの手は固くゴツゴツとしていたが温かくて触り心地は悪くはない。
「カインはこういう所はやっぱり緊張しちゃう?」
「いや、そういう訳では。俺は君が……」
「ニーナ。『君』じゃなくてニーナって呼んでよ」
こういう真面目そうな男にはこちらから積極的に行った方が楽しい。ニーナは経験からそう知っていたので、遠慮なく物を言った。ニーナは見た目が儚げなので大人しそうだと思われがちだが、実際には全くそんなことはない。
(まあ、大人しそうなのが好きな奴だったらそういう演技をするけど。カインは初めてだからこっちがリードするのが良いだろう)
ふさふさとした長い尻尾でカインの腕を服越しに撫でた。
「……俺は」
「うん」
カインは長い尻尾に触れられるのが心地良いのかふっと息をついた。
「ニーナがキレイだから緊張しているんだ」
頬をほんの少しだけ赤くし、口元を押さえてニーナを見つめて来る。カインの暗いダークブラウンの瞳はどこかミステリアスだ。そんなカインが「緊張する」と言って頬を赤らめる様子にニーナは久しぶりに胸がドキドキした。
「緊張なんてしなさそうなのに」
「そうか?」
「会って少ししか話してないけど、カインは何事にも動じないって感じがするよ」
そう返すとカインは困った様な顔をして笑った。あまり笑わなそうな雰囲気だったので、これにも意外な感じがした。
(笑うとちょっと幼い感じが残っているな)
自分より少し年下なのだろうか。こういった場所で年齢を尋ねる程野暮なことは無いので、普段からニーナは客の年齢は見た目や物腰から何となく判断していた。
「そういうことはたまに人から言われるが……俺はごく普通の男だよ」
「そうなんだ。でもギャップが良いよね」
「ギャップ……?」
「カインが困った風に笑ってる顔、オレは良いなって思ったよ」
カインの頬を撫でて首を傾げた。カインは表情が読みにくいけれど、ニーナ自身を好ましく思っているのは息遣いや瞳から伝わってくる。
「……そうか」
「ね、する? オレはもう、いつでも良いんだけど」
尻尾をカインの腕に絡めて顔を近づけた。
(やっぱり、娼館に来なくても相手に困らなさそうな顔だよなあ)
体つきも逞しく、腕はニーナより一回り太い。傭兵や冒険者を生業としているのだろうか。先程マッサージした手にも剣ダコの様な物があった。
しばらく見つめ合っていると、カインが少しだけ戸惑いの色を見せた。ニーナは積極的過ぎたかなと反省して、すぐに体を離した。
「いきなり肌を合わせるのはちょっとな~って感じだったら、一緒にお風呂に入ったりも出来るからね」
気を取り直して、出入り口の近くにもう一つある扉を指差して言った。
「そうなのか?」
「うん。ほら、あそこの扉を開けたら湯船があるんだ。この部屋は良い部屋だから」
娼館の客は部屋も選ぶことが出来る。ただカインは部屋の設備を知らなかったようなので、娼館の主人に何かと理由をつけて高い部屋を充てがわれた可能性がある。
(あいつは……本当、どうしようもなくがめついからなあ)
心の中でため息をついて、カインの頬を撫でた。
「部屋はカインが決めたんじゃないの?」
「オレは勝手が分からなかったので、主人に部屋やその他のことは『そちらに任せる』とだけ……」
「ああ、そうなんだ~」
カインは若いが身なりは悪くない。それなりの稼ぎがありそうだからふっかけても問題無いと判断されたのだろう。
「カイン、気をつけないと。こういう所でお任せは危ないよ」
「そうなのか?」
「うん、こういう所は自分で選んで決めないとね。カモだと思われてふっかけられちゃうよ!」
「ふ……そうか、カモだと思われていたのか、俺は」
カインは楽しそうにくつくつと笑った。
(やっぱり笑った顔が良いな)
ニーナはカインの顔を見つめてうんうんと頷いた。
「んー、人によるけど基本的にちょっとお話してからエッチなことをするかな。そういう場所だからね」
「そうか……」
カインはキョロキョロと部屋を見回しているので、マッサージしてから繋いだままの手をギュッと握った。カインの手は固くゴツゴツとしていたが温かくて触り心地は悪くはない。
「カインはこういう所はやっぱり緊張しちゃう?」
「いや、そういう訳では。俺は君が……」
「ニーナ。『君』じゃなくてニーナって呼んでよ」
こういう真面目そうな男にはこちらから積極的に行った方が楽しい。ニーナは経験からそう知っていたので、遠慮なく物を言った。ニーナは見た目が儚げなので大人しそうだと思われがちだが、実際には全くそんなことはない。
(まあ、大人しそうなのが好きな奴だったらそういう演技をするけど。カインは初めてだからこっちがリードするのが良いだろう)
ふさふさとした長い尻尾でカインの腕を服越しに撫でた。
「……俺は」
「うん」
カインは長い尻尾に触れられるのが心地良いのかふっと息をついた。
「ニーナがキレイだから緊張しているんだ」
頬をほんの少しだけ赤くし、口元を押さえてニーナを見つめて来る。カインの暗いダークブラウンの瞳はどこかミステリアスだ。そんなカインが「緊張する」と言って頬を赤らめる様子にニーナは久しぶりに胸がドキドキした。
「緊張なんてしなさそうなのに」
「そうか?」
「会って少ししか話してないけど、カインは何事にも動じないって感じがするよ」
そう返すとカインは困った様な顔をして笑った。あまり笑わなそうな雰囲気だったので、これにも意外な感じがした。
(笑うとちょっと幼い感じが残っているな)
自分より少し年下なのだろうか。こういった場所で年齢を尋ねる程野暮なことは無いので、普段からニーナは客の年齢は見た目や物腰から何となく判断していた。
「そういうことはたまに人から言われるが……俺はごく普通の男だよ」
「そうなんだ。でもギャップが良いよね」
「ギャップ……?」
「カインが困った風に笑ってる顔、オレは良いなって思ったよ」
カインの頬を撫でて首を傾げた。カインは表情が読みにくいけれど、ニーナ自身を好ましく思っているのは息遣いや瞳から伝わってくる。
「……そうか」
「ね、する? オレはもう、いつでも良いんだけど」
尻尾をカインの腕に絡めて顔を近づけた。
(やっぱり、娼館に来なくても相手に困らなさそうな顔だよなあ)
体つきも逞しく、腕はニーナより一回り太い。傭兵や冒険者を生業としているのだろうか。先程マッサージした手にも剣ダコの様な物があった。
しばらく見つめ合っていると、カインが少しだけ戸惑いの色を見せた。ニーナは積極的過ぎたかなと反省して、すぐに体を離した。
「いきなり肌を合わせるのはちょっとな~って感じだったら、一緒にお風呂に入ったりも出来るからね」
気を取り直して、出入り口の近くにもう一つある扉を指差して言った。
「そうなのか?」
「うん。ほら、あそこの扉を開けたら湯船があるんだ。この部屋は良い部屋だから」
娼館の客は部屋も選ぶことが出来る。ただカインは部屋の設備を知らなかったようなので、娼館の主人に何かと理由をつけて高い部屋を充てがわれた可能性がある。
(あいつは……本当、どうしようもなくがめついからなあ)
心の中でため息をついて、カインの頬を撫でた。
「部屋はカインが決めたんじゃないの?」
「オレは勝手が分からなかったので、主人に部屋やその他のことは『そちらに任せる』とだけ……」
「ああ、そうなんだ~」
カインは若いが身なりは悪くない。それなりの稼ぎがありそうだからふっかけても問題無いと判断されたのだろう。
「カイン、気をつけないと。こういう所でお任せは危ないよ」
「そうなのか?」
「うん、こういう所は自分で選んで決めないとね。カモだと思われてふっかけられちゃうよ!」
「ふ……そうか、カモだと思われていたのか、俺は」
カインは楽しそうにくつくつと笑った。
(やっぱり笑った顔が良いな)
ニーナはカインの顔を見つめてうんうんと頷いた。
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