【BL/R18】元勇者の幼馴染は故郷の村に想い人がいるらしい【異世界転生描写有り】

元勇者のためらい(ハル視点)

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　ベギン村を襲撃した魔族を聖なる剣で退けた後、ハルは「剣に選ばれし勇者」としてグラステラ王国現国王に招集され、あれよあれよと勇者に祀り上げられた。

　国王の話によると、復活した魔王から宣戦布告を受け、今もグラステラ王国各地はベギン村のように襲撃を受けているとのことだった。

　国王の謁見の間にはゲームの登場人物が二人いた。一人は魔法使いのオズワルド・シン、もう一人は濃紺の騎士団服を身に纏い金髪碧眼で胡散臭いくらいに美形の男――騎士アルベルト・エステバンが控えていた。

　どうやらハル・グリーンウッドの物語での二人は最初の旅の仲間ということらしい。ただアルベルトは自身の部隊を率いてハル達をサポートする形となっていた。

　ゲームの「聖なる剣の物語」の勇者一行は主人公の剣士、魔法使い、治療術師、戦士の四人で構成され、騎士アルベルトは旅の途中途中でお助けキャラとして登場をするので、それに習っているようだ。

　「ソードストーリー」は勇者一行ではなく、ヒロインが旅の途中で出会う剣の持ち手となる騎士、魔法使い、治療術士、戦士のどれかのルートに入ることで恋愛物語が進んで行く。ハルはルイス以外と恋愛する気は全く無かったので、自分の物語がソードストーリー寄りではなくて本当に良かったとその点だけは安堵していた。

　そうして勇者となったハルは、魔法使いオズワルドと騎士アルベルトが隊長を務める星火騎士団第五部隊と共に各地にある結界の修繕に向かうこととなった。
　
　オズワルド曰く、千年前の封印以外にも後年に魔王復活を危惧する魔法使い達により何重にも封印の結界は張り巡らされており、今の魔王は完全復活というわけでなく、結界の一部を破壊して無理矢理復活している――つまり力がセーブされている状態ということだった。

　ハルは結界の話を聞いて魔王復活というものの重みを改めて実感していた。結界の一部を破壊されただけで国を揺るがす程の力が魔王にあったからだ。

　勇者が聖なる剣で魔王を浄化出来なければ、グラステラ王国だけでなくこの世界は魔族に蹂躙され、大事なルイスが――それだけでなく村長やマーガレットも、ハルが守りたいと思うものを全て失うことになる。

　ハルは騎士団に警護されながら目的地へと馬を走らせ、いつ戻れるか分からない故郷のベギン村に思いを馳せた。

　本来ならば悪役令息として闇落ちするはずだったハル・グリーンウッドがこの大役を全う出来るのかと不安に思うこともあったが、この力はハル自身が望んだことでもあった。それならば後は人事を尽くすしかない。

　ハルは遠い空に愛しいルイスの姿を思い浮かべながら嘆息した。