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幼馴染との触れ合い(ルイス視点)

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 ハルと過ごした後、ルイスは店を閉めて家に帰宅した。

 甘い時間の名残でまだ顔が熱い気がする。ルイスは扉の前で立ち止まって頬に手を当てた。

 家には妹もいるのに、兄がこんな緩みきった表情で帰宅するわけにはいかない。ペチペチと軽く頬を叩いてから玄関扉に鍵を差し込んだ。

「……ただいま」
「おかえりなさい。お兄ちゃん」

 玄関を開けると、エプロンと三角巾を着けたマーガレットが台所から飛び出して来て腕に抱きついた。

「夕食の準備をしてくれていたんだね。ありがとう」
「今日は私の方が早く帰ったから気にしないで。あのね、今日はカミラおばさまの所で新作のパンを焼いたの」
「そうなんだ。どんなパンを焼いたの?」

 はしゃいだ声を出す妹に寄り添われるように居間に向かった。

「あのね、セミハードタイプでチーズと干し果物が入っていて……あれ、何だか顔が赤くない?」
「え、あ……そ、そうかな?」

 ルイスが上着を脱ぐのを手伝おうとしたマーガレットは首を傾げながら顔を覗き込んだ。

「うん……熱は無いみたい。良かった」

 気遣わしそうに額に手を当てられ、不安そうな表情で見つめられた。

「今日は張り切って店の掃除をしたから……疲れが出たのかな」

 ルイスはしどろもどろと説明した。帰りがけに恋人である幼馴染とイチャついていたせいだと妹に言える訳が無い。

「店のお掃除なら私が手伝ったのに。お兄ちゃんはご飯が出来るまで座って休んでて」
「大丈夫だよ。僕も手伝う」
「だーめ!」

 マーガレットは頬を膨らませ、ルイスの腕を引っ張って居間にあるソファに座らせた。

「……マーガレットとご飯作りたかったな」
「もう出来上がる所だったし、ゆっくりしていて良いから」

 ベル家は両親が不在なので兄妹二人支え合って生活しているが、元々しっかりしていたマーガレットは兄であるルイスに恋人が出来てから更にしっかりしていた。

(元々年齢より大人びた所がある子だったけれど、少しだけ寂しい気分になってしまう)

 ハルと恋人になってからも兄妹水入らずの時間は大事にしていたが、妹の成長は目覚ましいものがある。

(ずっとずっと一緒にいられるわけじゃないけど……マーガレットもいつか家を出て行ったりするのかな)

 今の所マーガレットは村で親族のカミラのパン屋や学舎の手伝いを楽しそうにしている。だが、いつか都会の方で仕事をしたいなんて言って、村を出て行くかもしれない。ルイスはそんな姿を思い浮かべて目頭が熱くなった。
 
「お兄ちゃん、ご飯の前にこれを飲んでみて」

 パタパタと台所からマーガレットが出て来ると、コップをルイスの前に置いた。中には緑色のポタージュスープのようなとろっとした液体が入っている。

「これはスープ?」
「ううん、ハーブとハチミツと果物をギュッと絞って、牛乳に溶かした滋養に良いジュースよ」
「え! わざわざ作ってくれたの!?」
「簡単な物だし気にしないで。お兄ちゃんの健康は私が守るから」
「マーガレット……」
「沼みたいな色だけど、味はけっこう美味しいはずよ」

 マーガレットは三角巾を取って隣にポスンと腰掛け、ルイスは手作りのジュースをコクコクと飲んだ。

 ハーブのほんのりとした苦味がハチミツや果物の甘みと合わさり、それがまろやかな味の牛乳に包みこまれており、不思議な美味しさがあるジュースだった。

「美味しい……ありがとう、マーガレット」
「ふふ、また作るね」
「また作ってくれるの?」
「もちろん! 私が一緒に暮らしているのに、お兄ちゃんが健康じゃなくなったらハルに小言を言われちゃう」

 マーガレットはクスクスと鈴の転がるような声で笑ってからふうっと息をついた。

「ねえ、お兄ちゃんって……ハルと一緒になるの?」
「ぅ、え……!? 何を、突然」
「二人ともいつ結婚してもおかしくない年だもの。それに私がハルだったら、お兄ちゃんを捕まえておきたいから絶対に結婚を前提に交際を申し込むわ」
「そ、それは……」

 丁度結婚については店で妄想していた所だったので、ルイスは顔から火が出そうな程頬が熱くなっていた。

「……私、ハルがお兄ちゃんをすごく大事にしている所は認めているのよ」

 頬を染めるルイスを見て、マーガレットは人形のような顔に大人びた笑みを浮かべた。

「お兄ちゃんが選んだ相手なら絶対に祝福する。私は……お兄ちゃんが幸せになるのが一番嬉しいから」

 ほんの少し寂し気に眉を下げ、ルイスの肩に寄り添うように身を寄せて目を伏せた。

「マーガレット……」
「それでね。もし、ハルが結婚相手にはあんまりって思ったならすぐに言ってね。私が良い男でも良い女でもすぐに見繕って来るから!」

 マーガレットはパッと体を離し、拳を握りしめて明るく言い放った。

「まあハルは……悔しいけどだいぶ良い男の部類だから多分そんな風にはならないと思うけれど……何にせよ、遠慮せずに相談してね?」  
「う、うん」

 どうやら幼馴染との交際が順調なものなのか妹に心配されていたようだった。

(マーガレットは兄である僕のことまで考えてくれているんだな)

 6歳下の妹は昔からルイスの後ろをちょこちょこと着いて来ていた。小さな体で一生懸命に駆け寄って来る様子を愛おしく感じ、抱き上げるとその軽さに驚いたのを昨日のことのように思い出す。そんなマーガレットは今では心身ともに立派に成長し、兄であるルイスに並び歩き――もしかしたらずっと先を歩いているのかもしれない。

「マーガレットはすごくしっかりした大人になったね」

 感慨深い気持ちになって呟くと、マーガレットはきょとんとしてから表情を明るくした。

「本当? 私、しっかりした大人になってる?」
「うん、本当だよ」
「私ね、早く大人になって皆の……お兄ちゃんの助けになりたいってずっと思っていたの」

 ルイスは感極まって泣き出しそうな気分になってしまい口元を押さえた。

「マーガレットにそんなに思われて、僕は幸せ者だな……」
「幸せなの? ふふ、嬉しい!」

 声を震わせながら妹の頭をポンポンと撫でた。

「お兄ちゃん、幸せになってね。私、優しいあなたの妹に生まれて来ることが出来てずっと幸せだったの。だからお兄ちゃんにも沢山幸せになって欲しい」

 マーガレットはそう言って穏やかに微笑んだ。慈愛に満ちた笑顔はまるで物語に出て来る聖女のようだなとルイスはため息を漏らした。



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