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元勇者の朝帰り(ハル視点)
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その日の朝は普段通り酷く穏やかだった。父と母は農場に向かい、ハルは村長の仕事を手伝い、昼はルイスと食堂に行き、午後は書類仕事をしていた。
しばらくして書類仕事を終え、村周辺の魔獣罠に異常が無いか見回りをしていると早駆けの馬がこちらに向かって来るのが見えた。
村長に急ぎ伝えることがあると隣村から来た男は言い、見たことがない魔獣に周辺の村が襲われているので警戒せよと告げられた。
ハルは嫌な予感がした。ベギン村周辺にはそんな獰猛な魔獣は生息していない。何か別のことが原因となっているのではないかと。
心臓がドクンドクンと嫌な風に鳴った。村長が領主にも状況を報せるため早馬を走らせ、元冒険者の腕っぷしが強い者達が警戒する中、護身用の剣を持ってハルは農場に両親を迎えに行った。
そこには見たこともない者達がいた。二本足で立つ黒い鎧を着た狼のような姿の者が三人、古めかしい上等な服装の異様な雰囲気の男が一人――収穫した麦の束は血に染まり、腹から血を流す母を庇うように鎌を振り上げる父の姿、駆け寄ろうとするとハルを見つけた父が叫んだ。
「ハル! 逃げろ、走れ!」
優しい父の聞いたこともない怒声が辺りに響き――上等な服を着た男が槍のような黒い炎を出すと父と母を貫き、二人はそれきり言葉を発しなくなった。
ハルは時間が止まったような気がして、目を見開いて口を押さえた。上等な服の男は手から黒い炎を出すと辺りの納屋や畑を燃やし、ハルの方を向き――
(殺される)
ハルは気がつけば一目散に駆け出していた。両親の元に駆け寄ることも出来ず、ハルの足はただただ全速力で逃げ出してしまった。
(あれは……魔獣なんかじゃない。知能が高くて残虐で……人間の命を何とも……何とも思っていない……あれは……魔族だ!)
ハルはこのまま自分が知る物語なんてものは始まらずに1195年が平穏に終わることを願っていた。だが、そうなることは無かった。
グラステラ王国暦1195年の秋の終わり、ハルは17歳になっていた。
しばらくして書類仕事を終え、村周辺の魔獣罠に異常が無いか見回りをしていると早駆けの馬がこちらに向かって来るのが見えた。
村長に急ぎ伝えることがあると隣村から来た男は言い、見たことがない魔獣に周辺の村が襲われているので警戒せよと告げられた。
ハルは嫌な予感がした。ベギン村周辺にはそんな獰猛な魔獣は生息していない。何か別のことが原因となっているのではないかと。
心臓がドクンドクンと嫌な風に鳴った。村長が領主にも状況を報せるため早馬を走らせ、元冒険者の腕っぷしが強い者達が警戒する中、護身用の剣を持ってハルは農場に両親を迎えに行った。
そこには見たこともない者達がいた。二本足で立つ黒い鎧を着た狼のような姿の者が三人、古めかしい上等な服装の異様な雰囲気の男が一人――収穫した麦の束は血に染まり、腹から血を流す母を庇うように鎌を振り上げる父の姿、駆け寄ろうとするとハルを見つけた父が叫んだ。
「ハル! 逃げろ、走れ!」
優しい父の聞いたこともない怒声が辺りに響き――上等な服を着た男が槍のような黒い炎を出すと父と母を貫き、二人はそれきり言葉を発しなくなった。
ハルは時間が止まったような気がして、目を見開いて口を押さえた。上等な服の男は手から黒い炎を出すと辺りの納屋や畑を燃やし、ハルの方を向き――
(殺される)
ハルは気がつけば一目散に駆け出していた。両親の元に駆け寄ることも出来ず、ハルの足はただただ全速力で逃げ出してしまった。
(あれは……魔獣なんかじゃない。知能が高くて残虐で……人間の命を何とも……何とも思っていない……あれは……魔族だ!)
ハルはこのまま自分が知る物語なんてものは始まらずに1195年が平穏に終わることを願っていた。だが、そうなることは無かった。
グラステラ王国暦1195年の秋の終わり、ハルは17歳になっていた。
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