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幼馴染との約束・前編(ルイス視点)
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「これマーガレットにどうかな」
「良いんじゃないか。黄色と白、どっちにするんだ?」
「うーん、白かなあ」
骨董市の一画にある装飾品を扱っているテントでイヤリングを見つめてルイスは唸った。
花をかたどった貝殻細工の小ぶりなイヤリングはマーガレットに似合いそうだ。ルイスは白いイヤリングを指差して、代金を店員に渡し「これを一つください」と言った。
「ハルと街に出掛けるって言うと悔しそうだったから、お土産を買って帰らないとなんだ」
「……悔しそうだったのか」
「きっとハルと遊びたかったんだよ」
ハルはボソリと「それは絶対に違うだろ」と呟いた。
「そんなことないと思うけどなあ」
ルイスは店員から小さな紙包みを受け取り、自分の鞄に仕舞った。ハルとマーガレットは喧嘩友達と言う表現が似合うような間柄で、ルイスには二人がとても仲が良いように映っている。
「マーガレットとハルは仲良しだし」
「俺はルイスとの方がすごく仲が良いし、マーガレットとは持ちつ持たれつと言うか……腐れ縁だ」
「もー、腐れ縁なんて、マーガレットが聞いたら怒るよ」
そんな風な話をしながら、装飾品が並ぶテントを離れ、また二人で並んで歩き出した。
骨董市はミラスの街の広場全体を使って開かれており、簡素なテントの下で商人達が自慢の品を広げている。広場の噴水がある辺りには食べ物の屋台があったり、大道芸人達が芸を披露したりと、ちょっとしたお祭のようになっていた。
「この辺りを回ったら、古本市も見に行こう」
「うん、行こう。楽しみだ」
「僕も何か商売の本があれば買おうかな」
ベギン村には本屋が無い。本が読みたければ学舎の図書室に行くか、自身で手に入れないといけない。そして新品の本は中々良い値段がするため、庶民は古書店や古本市で本を手に入れることが多かった。
「古本だと内容もけっこう昔の物になるんじゃないか?」
「そりゃあ新しいのが良いけど……僕の道具屋は最新の商売事情が必要って感じじゃないだろ」
ルイスはハルの方に顔を向けて、少々自虐的に言った。
ベル道具店は日用品を主として取り扱っており、村人が大工用品を買いに来たり、学舎の生徒が少しだけ置いてある菓子を買いに来たり、たまに来る旅人や冒険者が身の回り品を買いに来たり――片田舎にある道具屋は村の生活に寄り添って経営されている。
「いきなり最新の商売を始めても、今のお客さんが離れちゃうかな……」
両親から店を継いだ時も常連からは「親父さんか女将さんいないの?」やら「成人したばかりで大丈夫か」など言われることがあった。ルイスとしても歯がゆい気持ちだったが、新しい物がいきなり受け入れられることは少ない。
「そうか……ルイスも苦労しているな」
「苦労って程じゃないよ。暇な時は早めに店を閉めたり、内装をいじったり……けっこう好きにやっているし」
ルイスは困り顔で微笑み、ハルはそんな表情を眺め慈しむような目をした。
「俺にも手伝えることがあれば言ってよ」
「ありがとう。でもこれは僕がやらなきゃなんだ」
ハルは「俺の幼馴染は立派だ」と自分のことのように嬉しそうに呟いた。
「良いんじゃないか。黄色と白、どっちにするんだ?」
「うーん、白かなあ」
骨董市の一画にある装飾品を扱っているテントでイヤリングを見つめてルイスは唸った。
花をかたどった貝殻細工の小ぶりなイヤリングはマーガレットに似合いそうだ。ルイスは白いイヤリングを指差して、代金を店員に渡し「これを一つください」と言った。
「ハルと街に出掛けるって言うと悔しそうだったから、お土産を買って帰らないとなんだ」
「……悔しそうだったのか」
「きっとハルと遊びたかったんだよ」
ハルはボソリと「それは絶対に違うだろ」と呟いた。
「そんなことないと思うけどなあ」
ルイスは店員から小さな紙包みを受け取り、自分の鞄に仕舞った。ハルとマーガレットは喧嘩友達と言う表現が似合うような間柄で、ルイスには二人がとても仲が良いように映っている。
「マーガレットとハルは仲良しだし」
「俺はルイスとの方がすごく仲が良いし、マーガレットとは持ちつ持たれつと言うか……腐れ縁だ」
「もー、腐れ縁なんて、マーガレットが聞いたら怒るよ」
そんな風な話をしながら、装飾品が並ぶテントを離れ、また二人で並んで歩き出した。
骨董市はミラスの街の広場全体を使って開かれており、簡素なテントの下で商人達が自慢の品を広げている。広場の噴水がある辺りには食べ物の屋台があったり、大道芸人達が芸を披露したりと、ちょっとしたお祭のようになっていた。
「この辺りを回ったら、古本市も見に行こう」
「うん、行こう。楽しみだ」
「僕も何か商売の本があれば買おうかな」
ベギン村には本屋が無い。本が読みたければ学舎の図書室に行くか、自身で手に入れないといけない。そして新品の本は中々良い値段がするため、庶民は古書店や古本市で本を手に入れることが多かった。
「古本だと内容もけっこう昔の物になるんじゃないか?」
「そりゃあ新しいのが良いけど……僕の道具屋は最新の商売事情が必要って感じじゃないだろ」
ルイスはハルの方に顔を向けて、少々自虐的に言った。
ベル道具店は日用品を主として取り扱っており、村人が大工用品を買いに来たり、学舎の生徒が少しだけ置いてある菓子を買いに来たり、たまに来る旅人や冒険者が身の回り品を買いに来たり――片田舎にある道具屋は村の生活に寄り添って経営されている。
「いきなり最新の商売を始めても、今のお客さんが離れちゃうかな……」
両親から店を継いだ時も常連からは「親父さんか女将さんいないの?」やら「成人したばかりで大丈夫か」など言われることがあった。ルイスとしても歯がゆい気持ちだったが、新しい物がいきなり受け入れられることは少ない。
「そうか……ルイスも苦労しているな」
「苦労って程じゃないよ。暇な時は早めに店を閉めたり、内装をいじったり……けっこう好きにやっているし」
ルイスは困り顔で微笑み、ハルはそんな表情を眺め慈しむような目をした。
「俺にも手伝えることがあれば言ってよ」
「ありがとう。でもこれは僕がやらなきゃなんだ」
ハルは「俺の幼馴染は立派だ」と自分のことのように嬉しそうに呟いた。
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