【BL/R18】元勇者の幼馴染は故郷の村に想い人がいるらしい【異世界転生描写有り】

テルマ江

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元勇者の懊悩(ハル視点)

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 ハルは9歳になってから前世の記憶を取り戻したが、当時は自分でもそのことに疑心暗鬼だった。

 魔王が復活するのは、グラステラ王国暦1195年でマーガレット・ベルが15歳の時であるはずだが――現在グラステラ王国暦1187年でマーガレットは3歳だ。

 今のマーガレットでは8年後の魔王復活時11歳にしかならない。ソードストーリーと年齢が合っていないのだ。そして何よりも不思議に感じていたのが自分自身の存在だった。

 9歳のハルは自室で思い出せる限りのソードストーリーの内容を帳面に書き出していた。そしてやはり、自分に対しての疑問が募っていた。

(ハル・グリーンウッドなんて……俺の思い出す限りそんな名前の登場人物はソードストーリーにはいなかった)

 もしかしたら隠しキャラクターといった物かもしれなかったが、前世のハルがソードストーリーの攻略サイトを見た時にはそんな情報は無かった。

(そもそもソードストーリーは作り込まれた世界感の割にメインシナリオが恋愛寄りでシンプルなんだよ。キャンペーンで半額対象商品だったし、けっこうサクッと終わるって言うか……)

 羽ペンを持ったまま唸り、首を傾げた。

(俺も何かしら物語に絡むのかと身構えていたけど……たまたま異世界転生しただけだったのかな)

 噂に聞く異世界転生後の人生が一般村人というのは人によれば残念に感じるのかもしれないが、ハルは現状にとても満足していた。

 何故かと言えば、ベギン村のハル・グリーンウッドには大好きな幼馴染がおり、負けず嫌いの性格が影響してか勉強は出来るし、スラッとした両親の良いところを受け継ぎ見た目も悪くない。

 そして何よりもハル・グリーンウッドの素晴らしい所は――健康で丈夫な肉体を持っている点だ。

 前世のハルが欲しくても得られなかった「普通の健康体」という物を持っているだけで、大成功の異世界転生だとハルは心から喜びを感じていた。

(あとは背がもう少し伸びれば良い)

 ハルは机の上にある牛乳の入ったコップを持ち、コクコクと飲んだ。

 前に村長に背を伸ばす秘訣を聞いた所、牛乳と卵を摂って陽の下で沢山運動することだと言われ、ずっと実践している。前世のハルの知識がある今でも、村長の言うことはそこまで間違いではないなと考え「牛乳、卵、運動」を続けていた。

(俺の両親は背が高いし、成長期を迎えればきっと自然と伸びるはずだ)

 以前は小柄なことに悩み、からかわれる度に喧嘩をしていたが、前世の記憶がある今なら「焦る必要はないな」と心に余裕が生まれていた。

(そもそもこの国は15歳で成人の世界だ。成人してからでも全然背は伸びる)

 前世のハルが生きていたのは日本という国で18歳が成人だ。15歳なんてまだまだ子どもの括りになる。

(俺は前世の記憶を得てから心が落ち着いているな。前まであんな妙に焦ってイライラしていたのが嘘みたいに感じる)

 少し前のハルは小賢しく負けず嫌いの粗暴な子どもだったと自分でも思う。今も根っこは変わっていないのかもしれないが、自身を客観的に見れるようになっていた。

(今の俺は……ハル・グリーンウッドでしかないけれど、前世の俺の心に助けられているのかな……?)

 羽ペンを置き、コップを持ったまま頬杖をついて帳面を見た。

(でも……もし、ただ単に俺の頭がこの間の熱で変になっていて、意味の分からないことを帳面に書きなぐっているだけだったらどうしよう)

 そういった疑心暗鬼には度々陥っていたが、誰かに話せるわけでもない。ハルはあの時以来、熱は出ていないし至って体は健康だ。街の方の大きな医者に連れて行かれて検査も受けたが何もなかった。

(うーん……自分が変になっているかどうかは……今は考えないでおこう。そして、誰かにこの帳面を見られたとしてもちゃんと誤魔化さなきゃ)

 9歳の子どもの頭でこの世界のことを考えるにはまだまだ知識が足りない。幸いハルは勉強が出来る方だったので、これからもっと学んで行かなければと考えた。

(まずは剣やら魔王やらについて調べて……マーガレットのことも気にかけておかないと)

 マーガレットがもしも11歳でソードストーリーのような旅に出るとなれば周囲が――特に兄であるルイスが全力で止めにかかるだろう。

(11歳の旅なんて危な過ぎるし、ソードストーリーのメインシナリオは恋愛だぞ。何もかもあり得ない)

 ルイスならばそんな年齢のマーガレットを危険な旅に送り出すわけがないという確信があった。

(ルイスは本当に良い幼馴染で……す、好きだけど。妹に対してはシスコンをこじらせているからな)

 ルイスはマーガレットを溺愛している。マーガレットは人形のように可憐で、仕草も小動物のように愛らしく、年が離れているので兄として庇護欲を掻き立てられるのだろう。

 そんな風にルイスのことを考えているとハルは自然と笑顔になっていた。

『誕生日おめでとう。早く良くなってね』

 あの日、混乱して寂しさや苦しさで心がぐちゃぐちゃになっていたハルにルイスは寄り添い、ずっと抱きしめたまま一緒に眠ってくれた。

(まあ……病人のベッドに潜り込んで呑気に寝ていたからルイスは両親から叱られたみたいだけど)

 クスクスと笑ってルイスの顔を思い出した。暗い焦げ茶色の髪に深緑色の瞳――心優しくて穏やかで、話しているだけで心が和む――ハルはあの日以来、いつかそんなルイスを独り占めしたいと考えるようになっていた。

 ハルの両親は幼馴染同士で結婚したと聞いたことがある。そしてこの世界は同性で結婚している者も多い。つまり、ルイスと結婚するなんて未来があるかもしれない――ハルはそんな想像をしてしまいフルフルと首を振った。

(い、いや、結婚なんて気が早過ぎるし、まずは今は魔王や、色々なことを考えないといけないんだ! ベギン村が襲われた時に出来る限りの対処を出来るようにしないと……!)

 いつか来るかもしれない魔王復活までに一般村人でも出来ることを考えておかないといけない。ハルはグッと牛乳を飲み干し、また帳面に向かうことにした。


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