上 下
13 / 76
幼馴染のアプローチ(ルイス視点)

1

しおりを挟む
 ハルが王都から村に帰って来て十日程経ち、ルイスは昼下がりの道具屋で商品棚を整理していた。

 ルイスが営む道具屋『ベル道具店』は日用品から小間物、日持ちする携帯食料などを取り揃えている。今日は棚の整理が終われば早めに店を閉め、商売のための勉強をする予定だ。

(今日の夕食は何にしようかな。マーガレットがスープを作り置いてくれたのがあるから、何か具材を足して……そうだ。干し肉とパンを買いに行かないと)

 そんなことを考えながら棚を拭いていると左手首の深緑色のブレスレットが目に入った。ブレスレットは先日ハルから貰った物で、普段着にも気軽に合わせられるので気に入っていた。

(ハルは都会の上級学校に通っていたし、色々な物を見て来たから趣味が良いんだろうな)

 ベギン村ははっきり言って田舎だ。こういった都会産の趣味の良い商品があると、田舎の道具屋でも店内が洒落たように感じるなとルイスは一人微笑んだ。

 ハルが仕入れてくれた装飾品は店の中央のテーブルにキレイに陳列してある。窓から入って来る日差しをガラス細工のアクセサリーが反射してキラキラと輝いていた。

(代金を受け取るのを嫌そうにしていたのを、どうにか懐にねじ込んだけれど……他にもお礼がしたいなあ)

 ルイスは剣術指南で王都へ行ったハルを道具屋の使いっ走りにさせてしまい申し訳なさを感じていた。

(まさか仕入れをしてくれるとは考えていなかったからな)

 思えばハルは昔から妙に気が利く子どもだった。

 学舎に通っていた頃、ルイスが帳面を忘れてしまったので取りに戻ろうとすると、予備だからと言って自分の新しい帳面を渡して来たことがある。

 他にも王都の学校に通うハルと手紙のやり取りをしていた時、風邪気味で喉を痛めたと書けば喉に良いという飴をすぐにルイスに送ってくれた。

 新品の帳面はさすがに断ったが、飴はとても美味しかったのでマーガレットと分け合って大事に食べた。懐かしいなとルイスは息をついた。

(昔から本当、気が利くって言うか……ハルは気遣い屋だ)

 そんな風に考えていると道具屋の出入り口の扉が開き、扉に付けている呼び鈴が鳴った。

「いらっしゃいま……ああ、ハル」
「よお」

 出入り口から入って来たのはハルだった。今日はネクタイを着けておらず、白いシャツに前の開いたベストを重ね、黒いズボンを履いている。

(普段着姿のハルを見たのは久しぶりな気がする)

 村に帰って来てからも、ハルは領主に会いに行ったり、村長と話に行ったり、村の相談役達の会合に参加したりと、とにかく忙しそうだった。

「今日は畏まった格好じゃないんだね」
「ああ、今日はもう用事は済んだからな」

 そう言うと棚の方にいるルイスに近付き、道具屋の仕事をする時に着けているエプロンの前側の紐を突いた。

「紐が解けかけてるぞ」
「あ、本当だ」

 確かに片側の紐が緩んでいる。

「結び直すよ」
「え、良いよ、自分で……」

 言い終わらない内にスッと背中を丸めて、テキパキとルイスのエプロンの紐を結び直した。

「あ、ありがとう……」
「どういたしましてだな」

 ハルは目を細めて爽やかに微笑んだ。ルイスは屈託ない笑顔にまた胸がドキドキしてしまった。

(ハルは格好良いから……幼馴染とはいえこんな風に笑いかけられたら照れてしまう)

 ルイスがハルの笑顔を見つめていると「どうした?」と首を傾げられた。

「な、何でもないよ。それより買い物に来たの?」

 パッと視線を外して問いかけると「ああ」と返事が帰って来た。

「庭の柵が少し傷んでいたから、補修しておこうと思ってな」
「そうなんだ。それだったら良い補修材が……」
「あとはルイスの顔が見たくて来た」 

 ポツリと付け足すように呟き、ルイスの左手を取った。

「ブレスレットを着けてくれているんだな」
「う、うん、気に入っているから」
「そう。気に入ってくれたのか」
「えっと……ハルが仕入れてくれた装飾品、村の若い人に人気があるよ」

 琥珀色の瞳にまっすぐに見つめられてルイスはたじろいでしまい話題を変えた。

(この間、不可抗力でハルとイチャついてしまったからか……こんな触れられると緊張してしまう。僕達は幼馴染なのに!)

 ハルにそんな態度を悟られたくなかったので、何気ない素振りを装ってスッと手から逃れ、中央の装飾品を指差した。

「ほら、もう並んでいる分しか在庫が無いんだ」
「もうこれだけなのか。もっと仕入れて来れば良かったな」

 ハルは指差した方向を見て顎下に手を当て、思案顔になった。

「ううん、十分だよ。今度は僕が仕入れに行こうかと思っているくらいなんだから」
「そうなのか。その時は俺が案内するよ」
「ふふ、ありがとう。嬉しいよ」

 ルイスはそわそわする気持ちを押し込め、普段通りに振る舞うように意識した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

執着男に勤務先を特定された上に、なんなら後輩として入社して来られちゃった

パイ生地製作委員会
BL
【登場人物】 陰原 月夜(カゲハラ ツキヤ):受け 社会人として気丈に頑張っているが、恋愛面に関しては後ろ暗い過去を持つ。晴陽とは過去に高校で出会い、恋に落ちて付き合っていた。しかし、晴陽からの度重なる縛り付けが苦しくなり、大学入学を機に逃げ、遠距離を理由に自然消滅で晴陽と別れた。 太陽 晴陽(タイヨウ ハルヒ):攻め 明るく元気な性格で、周囲からの人気が高い。しかしその実、月夜との関係を大切にするあまり、執着してしまう面もある。大学卒業後、月夜と同じ会社に入社した。 【あらすじ】  晴陽と月夜は、高校時代に出会い、互いに深い愛情を育んだ。しかし、海が大学進学のため遠くに引っ越すことになり、二人の間には別れが訪れた。遠距離恋愛は困難を伴い、やがて二人は別れることを決断した。  それから数年後、月夜は大学を卒業し、有名企業に就職した。ある日、偶然の再会があった。晴陽が新入社員として月夜の勤務先を訪れ、再び二人の心は交わる。時間が経ち、お互いが成長し変わったことを認識しながらも、彼らの愛は再燃する。しかし、遠距離恋愛の過去の痛みが未だに彼らの心に影を落としていた。 更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl 制作秘話ブログ: https://piedough.fanbox.cc/ メッセージもらえると泣いて喜びます:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...