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幼馴染のアプローチ(ルイス視点)
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ハルが王都から村に帰って来て十日程経ち、ルイスは昼下がりの道具屋で商品棚を整理していた。
ルイスが営む道具屋『ベル道具店』は日用品から小間物、日持ちする携帯食料などを取り揃えている。今日は棚の整理が終われば早めに店を閉め、商売のための勉強をする予定だ。
(今日の夕食は何にしようかな。マーガレットがスープを作り置いてくれたのがあるから、何か具材を足して……そうだ。干し肉とパンを買いに行かないと)
そんなことを考えながら棚を拭いていると左手首の深緑色のブレスレットが目に入った。ブレスレットは先日ハルから貰った物で、普段着にも気軽に合わせられるので気に入っていた。
(ハルは都会の上級学校に通っていたし、色々な物を見て来たから趣味が良いんだろうな)
ベギン村ははっきり言って田舎だ。こういった都会産の趣味の良い商品があると、田舎の道具屋でも店内が洒落たように感じるなとルイスは一人微笑んだ。
ハルが仕入れてくれた装飾品は店の中央のテーブルにキレイに陳列してある。窓から入って来る日差しをガラス細工のアクセサリーが反射してキラキラと輝いていた。
(代金を受け取るのを嫌そうにしていたのを、どうにか懐にねじ込んだけれど……他にもお礼がしたいなあ)
ルイスは剣術指南で王都へ行ったハルを道具屋の使いっ走りにさせてしまい申し訳なさを感じていた。
(まさか仕入れをしてくれるとは考えていなかったからな)
思えばハルは昔から妙に気が利く子どもだった。
学舎に通っていた頃、ルイスが帳面を忘れてしまったので取りに戻ろうとすると、予備だからと言って自分の新しい帳面を渡して来たことがある。
他にも王都の学校に通うハルと手紙のやり取りをしていた時、風邪気味で喉を痛めたと書けば喉に良いという飴をすぐにルイスに送ってくれた。
新品の帳面はさすがに断ったが、飴はとても美味しかったのでマーガレットと分け合って大事に食べた。懐かしいなとルイスは息をついた。
(昔から本当、気が利くって言うか……ハルは気遣い屋だ)
そんな風に考えていると道具屋の出入り口の扉が開き、扉に付けている呼び鈴が鳴った。
「いらっしゃいま……ああ、ハル」
「よお」
出入り口から入って来たのはハルだった。今日はネクタイを着けておらず、白いシャツに前の開いたベストを重ね、黒いズボンを履いている。
(普段着姿のハルを見たのは久しぶりな気がする)
村に帰って来てからも、ハルは領主に会いに行ったり、村長と話に行ったり、村の相談役達の会合に参加したりと、とにかく忙しそうだった。
「今日は畏まった格好じゃないんだね」
「ああ、今日はもう用事は済んだからな」
そう言うと棚の方にいるルイスに近付き、道具屋の仕事をする時に着けているエプロンの前側の紐を突いた。
「紐が解けかけてるぞ」
「あ、本当だ」
確かに片側の紐が緩んでいる。
「結び直すよ」
「え、良いよ、自分で……」
言い終わらない内にスッと背中を丸めて、テキパキとルイスのエプロンの紐を結び直した。
「あ、ありがとう……」
「どういたしましてだな」
ハルは目を細めて爽やかに微笑んだ。ルイスは屈託ない笑顔にまた胸がドキドキしてしまった。
(ハルは格好良いから……幼馴染とはいえこんな風に笑いかけられたら照れてしまう)
ルイスがハルの笑顔を見つめていると「どうした?」と首を傾げられた。
「な、何でもないよ。それより買い物に来たの?」
パッと視線を外して問いかけると「ああ」と返事が帰って来た。
「庭の柵が少し傷んでいたから、補修しておこうと思ってな」
「そうなんだ。それだったら良い補修材が……」
「あとはルイスの顔が見たくて来た」
ポツリと付け足すように呟き、ルイスの左手を取った。
「ブレスレットを着けてくれているんだな」
「う、うん、気に入っているから」
「そう。気に入ってくれたのか」
「えっと……ハルが仕入れてくれた装飾品、村の若い人に人気があるよ」
琥珀色の瞳にまっすぐに見つめられてルイスはたじろいでしまい話題を変えた。
(この間、不可抗力でハルとイチャついてしまったからか……こんな触れられると緊張してしまう。僕達は幼馴染なのに!)
ハルにそんな態度を悟られたくなかったので、何気ない素振りを装ってスッと手から逃れ、中央の装飾品を指差した。
「ほら、もう並んでいる分しか在庫が無いんだ」
「もうこれだけなのか。もっと仕入れて来れば良かったな」
ハルは指差した方向を見て顎下に手を当て、思案顔になった。
「ううん、十分だよ。今度は僕が仕入れに行こうかと思っているくらいなんだから」
「そうなのか。その時は俺が案内するよ」
「ふふ、ありがとう。嬉しいよ」
ルイスはそわそわする気持ちを押し込め、普段通りに振る舞うように意識した。
ルイスが営む道具屋『ベル道具店』は日用品から小間物、日持ちする携帯食料などを取り揃えている。今日は棚の整理が終われば早めに店を閉め、商売のための勉強をする予定だ。
(今日の夕食は何にしようかな。マーガレットがスープを作り置いてくれたのがあるから、何か具材を足して……そうだ。干し肉とパンを買いに行かないと)
そんなことを考えながら棚を拭いていると左手首の深緑色のブレスレットが目に入った。ブレスレットは先日ハルから貰った物で、普段着にも気軽に合わせられるので気に入っていた。
(ハルは都会の上級学校に通っていたし、色々な物を見て来たから趣味が良いんだろうな)
ベギン村ははっきり言って田舎だ。こういった都会産の趣味の良い商品があると、田舎の道具屋でも店内が洒落たように感じるなとルイスは一人微笑んだ。
ハルが仕入れてくれた装飾品は店の中央のテーブルにキレイに陳列してある。窓から入って来る日差しをガラス細工のアクセサリーが反射してキラキラと輝いていた。
(代金を受け取るのを嫌そうにしていたのを、どうにか懐にねじ込んだけれど……他にもお礼がしたいなあ)
ルイスは剣術指南で王都へ行ったハルを道具屋の使いっ走りにさせてしまい申し訳なさを感じていた。
(まさか仕入れをしてくれるとは考えていなかったからな)
思えばハルは昔から妙に気が利く子どもだった。
学舎に通っていた頃、ルイスが帳面を忘れてしまったので取りに戻ろうとすると、予備だからと言って自分の新しい帳面を渡して来たことがある。
他にも王都の学校に通うハルと手紙のやり取りをしていた時、風邪気味で喉を痛めたと書けば喉に良いという飴をすぐにルイスに送ってくれた。
新品の帳面はさすがに断ったが、飴はとても美味しかったのでマーガレットと分け合って大事に食べた。懐かしいなとルイスは息をついた。
(昔から本当、気が利くって言うか……ハルは気遣い屋だ)
そんな風に考えていると道具屋の出入り口の扉が開き、扉に付けている呼び鈴が鳴った。
「いらっしゃいま……ああ、ハル」
「よお」
出入り口から入って来たのはハルだった。今日はネクタイを着けておらず、白いシャツに前の開いたベストを重ね、黒いズボンを履いている。
(普段着姿のハルを見たのは久しぶりな気がする)
村に帰って来てからも、ハルは領主に会いに行ったり、村長と話に行ったり、村の相談役達の会合に参加したりと、とにかく忙しそうだった。
「今日は畏まった格好じゃないんだね」
「ああ、今日はもう用事は済んだからな」
そう言うと棚の方にいるルイスに近付き、道具屋の仕事をする時に着けているエプロンの前側の紐を突いた。
「紐が解けかけてるぞ」
「あ、本当だ」
確かに片側の紐が緩んでいる。
「結び直すよ」
「え、良いよ、自分で……」
言い終わらない内にスッと背中を丸めて、テキパキとルイスのエプロンの紐を結び直した。
「あ、ありがとう……」
「どういたしましてだな」
ハルは目を細めて爽やかに微笑んだ。ルイスは屈託ない笑顔にまた胸がドキドキしてしまった。
(ハルは格好良いから……幼馴染とはいえこんな風に笑いかけられたら照れてしまう)
ルイスがハルの笑顔を見つめていると「どうした?」と首を傾げられた。
「な、何でもないよ。それより買い物に来たの?」
パッと視線を外して問いかけると「ああ」と返事が帰って来た。
「庭の柵が少し傷んでいたから、補修しておこうと思ってな」
「そうなんだ。それだったら良い補修材が……」
「あとはルイスの顔が見たくて来た」
ポツリと付け足すように呟き、ルイスの左手を取った。
「ブレスレットを着けてくれているんだな」
「う、うん、気に入っているから」
「そう。気に入ってくれたのか」
「えっと……ハルが仕入れてくれた装飾品、村の若い人に人気があるよ」
琥珀色の瞳にまっすぐに見つめられてルイスはたじろいでしまい話題を変えた。
(この間、不可抗力でハルとイチャついてしまったからか……こんな触れられると緊張してしまう。僕達は幼馴染なのに!)
ハルにそんな態度を悟られたくなかったので、何気ない素振りを装ってスッと手から逃れ、中央の装飾品を指差した。
「ほら、もう並んでいる分しか在庫が無いんだ」
「もうこれだけなのか。もっと仕入れて来れば良かったな」
ハルは指差した方向を見て顎下に手を当て、思案顔になった。
「ううん、十分だよ。今度は僕が仕入れに行こうかと思っているくらいなんだから」
「そうなのか。その時は俺が案内するよ」
「ふふ、ありがとう。嬉しいよ」
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