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元勇者の秘密(ハル視点)
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ハルが意識を取り戻すと知らない部屋にいた。
服は着替えさせられたのか新しくなっており、鼻血も出していない。熱はまだあるようだったがだいぶ落ち着いている。
(ここ……どこだ?)
首だけ動かして周囲を見ると勉強机や、子どもが描いた絵が飾ってある。
(何があったんだっけ。オレは……俺で……そうだ。俺は、昔、違う俺として生きていた……?)
ハルはガバリと起き上がり、自分の顔をペタペタと触った。
(本当に、何だこれ……俺は、ハル・グリーンウッドなのに……別の記憶が頭の中に残っている)
ハルは深呼吸をしてから口元に手を当てハッとした。
「異世界……転生……?」
別の記憶の中で聞いたことがある単語が不意に口からこぼれ出た。
突拍子もないがそれしか考えられなかった。何故なら『ルイス』や『マーガレット』という名前があるゲームの登場人物と一致しており、村の名前も、王都の場所も、何もかもが『ソードストーリー』と同じだったからだ。
「転生……俺が……?」
ブツブツと独り言を言っているとガチャリと部屋の扉が開き、盆を持ったルイスが入って来た。
「ハルッ!」
ルイスはハルが起き上がっているのに気が付くとベッドに駆け寄って来た。ガチャガチャと盆をベッド脇の小さい机に置き、ギュウッとハルに抱きついた。
「良かった……生きてて……」
「ル、ルイス……ここ、どこ……?」
突然の人の温もりに戸惑っているとルイスが体を離して「僕の部屋だよ」と言った。
「……何で?」
「あのね、ハルが気を失ってからお医者さん呼んだり、色々していて……それで、おじさんとおばさんは大きい街まで薬を買いに行くってなったから、ハルを僕の家で預かることになったんだ。ハルはまる二日寝ていたよ」
「あ、あぁ……そう、なんだ」
ルイスは嬉しそうに早口でそう言った。ハルは色々なことがあって頭がぼーっとしていたが、何とか状況を飲み込んだ。
「果物すりおろしたのがあるけど、いる? 水もあるよ?」
「ん……果物がいい……」
「ちょっと待ってね」
ルイスはイスに腰掛けて、盆に載せていた果物のすりおろしをスプーンで口元に運んで来た。ハルはそれをチュルリと飲み込み、久しぶりに物を食べたからか果物の甘さが体中に染み渡った。
「まだ食べられる?」
「……うん、もう少し、食べたい」
そう言うとルイスはまた同じようにしてくれたので、ハルは器半分程の果物を食べた。
「まだ少し熱っぽいね。寝てなよ」
「もう食べられない」と言うと、ルイスはハルの額に手を当て、ベッドに寝かせて毛布をかけ直してくれた。
「……ありがとう、ルイス」
「気にするなよ。幼馴染だろ」
穏やかに笑ってそう言った。
「…………俺が寝るまで傍にいてくれる?」
普段の粗暴なハルならけして言わないような言葉だったが、違う世界の子どもの記憶が頭の中でぐちゃぐちゃになって随分と惨めな気分になっていたせいか、弱音のような言葉が唇から転がり出た。
ルイスはきょとんとしていたけれど「良いよ」と手を握ってくれた。
「ずっと寝ていたから心細くなったんだろ? ハルは意地っ張りな所があるからな」
「……別に、そんなこと」
優しいルイスの言葉に鼻の奥がツンとなり、我慢していないとみっともなく泣きわめいてしまいそうだった。
「なあ……ルイス」
「ん、何?」
「ルイスは……俺が、別の世界で死んじゃってさ、この世界に生まれて来たって言ったらどうする……?」
「そういう怖い夢を見たの?」
「……そうかもな」
ルイスはうーんと考え込んだ。握ったままの手からは絶えず体温が伝わって来て、ハルは胸が温かくなった。
「死んじゃうのは悲しいけどさ、ここでハルが生まれたから僕達出会えたんだし……僕はハルがここにいてくれて、僕の幼馴染になってくれてすごく嬉しいよ」
「そう、嬉しいんだ……」
「元気になったら遊びに行こうね」
「……うん」
心の中に喜びが満ち溢れるのをハルは感じていた。違う世界で生きていた頃のハルはずっと「自分を気にかけてくれる存在」を欲していたからだ。記憶の中にいる子どもが嬉しそうにしているのが分かり、ハルは思わず泣いてしまった。
「わ、ハル、どこか痛いの!?」
ルイスは慌てた声を出してパッと手を離し、ハルの涙を持って来ていた濡れタオルで拭いた。
「違う……何だか、寂しかったのが……埋まっていくみたいで……」
「え、あ、そっか! おじさんもおばさんもいないから寂しくなっちゃったんだね」
ハルがそう言うとルイスはベッドに上がり込み、毛布の中に潜り込んで来た。
「な、ルイス……!?」
「マーガレットも夜一人で寝るのが寂しくなると、父さんと母さんのベッドで寝たがるんだ。ハルもそれで寂しくなったんだろ?」
「いや……それは……」
しどろもどろとハルがぼんやりした頭で何を言おうか考えていると、ルイスはギュッと抱きついて来た。
「今、おじさんとおばさんがいないから、僕が代わりに抱きしめてあげるね」
「ル、ルイス……」
弱った体を抱きしめられると今まで感じたことがないくらいに気分が良くなり、ルイスの温かな優しさにハルは胸がドキドキと騒がしくなった。
「ハル、誕生日おめでとう。早く良くなってね」
「うん……」
ルイスはそう言って優しく微笑んだ。ハルは自分がいつの間にか9歳の誕生日を迎えていたことを知り、そしてこの日を境にルイスへの感情が特別な物になっていった。
服は着替えさせられたのか新しくなっており、鼻血も出していない。熱はまだあるようだったがだいぶ落ち着いている。
(ここ……どこだ?)
首だけ動かして周囲を見ると勉強机や、子どもが描いた絵が飾ってある。
(何があったんだっけ。オレは……俺で……そうだ。俺は、昔、違う俺として生きていた……?)
ハルはガバリと起き上がり、自分の顔をペタペタと触った。
(本当に、何だこれ……俺は、ハル・グリーンウッドなのに……別の記憶が頭の中に残っている)
ハルは深呼吸をしてから口元に手を当てハッとした。
「異世界……転生……?」
別の記憶の中で聞いたことがある単語が不意に口からこぼれ出た。
突拍子もないがそれしか考えられなかった。何故なら『ルイス』や『マーガレット』という名前があるゲームの登場人物と一致しており、村の名前も、王都の場所も、何もかもが『ソードストーリー』と同じだったからだ。
「転生……俺が……?」
ブツブツと独り言を言っているとガチャリと部屋の扉が開き、盆を持ったルイスが入って来た。
「ハルッ!」
ルイスはハルが起き上がっているのに気が付くとベッドに駆け寄って来た。ガチャガチャと盆をベッド脇の小さい机に置き、ギュウッとハルに抱きついた。
「良かった……生きてて……」
「ル、ルイス……ここ、どこ……?」
突然の人の温もりに戸惑っているとルイスが体を離して「僕の部屋だよ」と言った。
「……何で?」
「あのね、ハルが気を失ってからお医者さん呼んだり、色々していて……それで、おじさんとおばさんは大きい街まで薬を買いに行くってなったから、ハルを僕の家で預かることになったんだ。ハルはまる二日寝ていたよ」
「あ、あぁ……そう、なんだ」
ルイスは嬉しそうに早口でそう言った。ハルは色々なことがあって頭がぼーっとしていたが、何とか状況を飲み込んだ。
「果物すりおろしたのがあるけど、いる? 水もあるよ?」
「ん……果物がいい……」
「ちょっと待ってね」
ルイスはイスに腰掛けて、盆に載せていた果物のすりおろしをスプーンで口元に運んで来た。ハルはそれをチュルリと飲み込み、久しぶりに物を食べたからか果物の甘さが体中に染み渡った。
「まだ食べられる?」
「……うん、もう少し、食べたい」
そう言うとルイスはまた同じようにしてくれたので、ハルは器半分程の果物を食べた。
「まだ少し熱っぽいね。寝てなよ」
「もう食べられない」と言うと、ルイスはハルの額に手を当て、ベッドに寝かせて毛布をかけ直してくれた。
「……ありがとう、ルイス」
「気にするなよ。幼馴染だろ」
穏やかに笑ってそう言った。
「…………俺が寝るまで傍にいてくれる?」
普段の粗暴なハルならけして言わないような言葉だったが、違う世界の子どもの記憶が頭の中でぐちゃぐちゃになって随分と惨めな気分になっていたせいか、弱音のような言葉が唇から転がり出た。
ルイスはきょとんとしていたけれど「良いよ」と手を握ってくれた。
「ずっと寝ていたから心細くなったんだろ? ハルは意地っ張りな所があるからな」
「……別に、そんなこと」
優しいルイスの言葉に鼻の奥がツンとなり、我慢していないとみっともなく泣きわめいてしまいそうだった。
「なあ……ルイス」
「ん、何?」
「ルイスは……俺が、別の世界で死んじゃってさ、この世界に生まれて来たって言ったらどうする……?」
「そういう怖い夢を見たの?」
「……そうかもな」
ルイスはうーんと考え込んだ。握ったままの手からは絶えず体温が伝わって来て、ハルは胸が温かくなった。
「死んじゃうのは悲しいけどさ、ここでハルが生まれたから僕達出会えたんだし……僕はハルがここにいてくれて、僕の幼馴染になってくれてすごく嬉しいよ」
「そう、嬉しいんだ……」
「元気になったら遊びに行こうね」
「……うん」
心の中に喜びが満ち溢れるのをハルは感じていた。違う世界で生きていた頃のハルはずっと「自分を気にかけてくれる存在」を欲していたからだ。記憶の中にいる子どもが嬉しそうにしているのが分かり、ハルは思わず泣いてしまった。
「わ、ハル、どこか痛いの!?」
ルイスは慌てた声を出してパッと手を離し、ハルの涙を持って来ていた濡れタオルで拭いた。
「違う……何だか、寂しかったのが……埋まっていくみたいで……」
「え、あ、そっか! おじさんもおばさんもいないから寂しくなっちゃったんだね」
ハルがそう言うとルイスはベッドに上がり込み、毛布の中に潜り込んで来た。
「な、ルイス……!?」
「マーガレットも夜一人で寝るのが寂しくなると、父さんと母さんのベッドで寝たがるんだ。ハルもそれで寂しくなったんだろ?」
「いや……それは……」
しどろもどろとハルがぼんやりした頭で何を言おうか考えていると、ルイスはギュッと抱きついて来た。
「今、おじさんとおばさんがいないから、僕が代わりに抱きしめてあげるね」
「ル、ルイス……」
弱った体を抱きしめられると今まで感じたことがないくらいに気分が良くなり、ルイスの温かな優しさにハルは胸がドキドキと騒がしくなった。
「ハル、誕生日おめでとう。早く良くなってね」
「うん……」
ルイスはそう言って優しく微笑んだ。ハルは自分がいつの間にか9歳の誕生日を迎えていたことを知り、そしてこの日を境にルイスへの感情が特別な物になっていった。
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