【BL/R18】元勇者の幼馴染は故郷の村に想い人がいるらしい【異世界転生描写有り】

元勇者の秘密(ハル視点)

5

　記憶を取り戻したのは9歳の誕生日を迎える週だった。ハルは季節の変わり目に高熱を出して寝込んでしまった。

(どうして……こんな熱、普段ならすぐに下がるのに……)

　もう三日三晩は熱にうなされて夜もよく眠れない。ハルはこのまま死んでしまうのではと恐怖で枕に顔を埋めて泣いていた。

(誕生日は、ルイスと山の洞穴に探検に行くって……父さんも母さんも……俺の好きなお菓子、沢山用意するって、言って……言って――――)

　メソメソと泣いて誕生日のことを考えていると、ドクンドクンと心臓の音が頭の中で一際高く響き渡り、体がカアッと熱くなった。

(何、何！？　怖い……何か、知らない、場面が、頭の中に――――ッ！！！！)

　ハルの頭の中に見たこともない風景と知っているようで知らない人間達との記憶が流れ混んで来た。初めての感覚に体は痙攣しベッドでのたうち回った。

――白い部屋でふてくされたように四角い遊戯盤のような物をいじくり回している子どもの姿

――見たこともない大きな四角い建物、高くて銀色の建物

――外国の服装なのか黄色い帽子を被った子ども達が沢山歩いている

――白い部屋の窓から黄色い帽子の子ども達を眺めているいじけたような顔の子ども

　何度が同じ子どもが頭の中に浮かんでは消え、消えては浮かぶ。知らないのに知っている、知っているはずなのに分からない――不思議な感覚がハルの頭を混乱させていった。

(俺は……ハル……ハル・グリーンウッドだ。でも、この頭の中にいる子どもは……誰だ？　違う……知っている。俺は……オレは―――)

　ハルはタラリと鼻血を出してベッドから落ち、そのまま気を失った。