【BL/R18】元勇者の幼馴染は故郷の村に想い人がいるらしい【異世界転生描写有り】

テルマ江

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元勇者の秘密(ハル視点)

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 ハル・グリーンウッドの秘密――それは別の世界で生きた前世の記憶を持つ転生者であるということだ。

 この世界――今ハルが生きている場所はどうやら『ソードストーリー~愛と剣の伝説と選ばれし少女の物語~』というゲームに登場する世界らしい――と

 『ソードストーリー』は20☓☓年にPC版で発売された恋愛シュミレーションゲームだ。好感度パラメーターによってエンディングを迎える登場人物が変わり、スチルを集めたり恋愛イベントを楽しむ以外にも作中にはミニゲームが登場する。ミニゲームはスピンオフがアプリ版で出る程に人気があり、中々のやり込み要素のある内容となっていた。

 物語は小さな村で生まれた美しい少女マーガレット・ベルが復活した魔王により村を焼かれる場面から始まる。

『グラステラ王国暦1195年、封印されし魔王が復活した――魔族の襲撃により村が焼かれ、何とか逃げ延びたマーガレットの頭に謎の声が響いた。その声に従い祈りを捧げると光を放つ聖なる剣が出現する。マーガレットは古の時代、聖なる剣を守っていた一族の生まれ変わりだと謎の声から告げられる。そしてマーガレットは剣の持ち手を探す旅に出る――』

 後になって家庭用ゲーム機にも移植された『ソードストーリー』をハル・グリーンウッドの前世は病室の中でダウンロードした。

 前世のハルは幼い頃から病気がちで入退院を繰り返していた。病室が大部屋だった頃は年の近い入院中の子ども達と遊ぶことが出来たが、調子に乗って遊び回っていると肺炎を併発して両親にこっぴどく叱られた。それがあってかは分からないが、入院する際は個室の部屋を与えられるようになってしまった。

 ハルの前世はゲーム機のダウンロード画面を見つめながらため息をついた。もうすぐ誕生日なのにまた入院が決まったことにうんざりしていたのだ。

 誕生日には行きたかったテーマパークに連れて行ってもらい、夜はテーマパーク内のレストランで食事することになっていた。

 両親には「仕方ないよ」「また今度ね」とたしなめられ、前世のハルは自分の病弱さを呪いながら悔しくてその夜は一人病室で泣いてしまった。

 入院中に誕生日プレゼントは何が良いか聞かれ、前世のハルは「ゲームで良い」とそっけなく答えた。入院中はTVを観るか、ゲームをするか、体調が良い時の散歩くらいしか楽しいことはない。

 両親から家庭用ゲーム機のギフトカードを貰い、前から欲しかった大作RPGをダウンロードしようとすると、今ならキャンペーンでゲームもう1本が半額でダウンロード出来るとことを知った。

 前世のハルは対象ゲームの一覧を眺め、キャラクターの絵が好きなRPGのイラストレーターと同じだったので『ソードストーリー』をダウンロードすることにした。

「これRPGじゃないんだ……」

 名前からRPGだと思っていたので、ダウンロード後のチュートリアル画面でがっかりしてしまった。ただ絵が好みだったので大作RPGに挑む前の軽い慣らしのつもりでプレイし始めた。

 『ソードストーリー』のメインシナリオはマーガレットと剣の持ち手との恋愛だが、一通りクリアすると別視点から物語を見ることが出来た。

 前世のハルはマーガレットの恋愛に興味は無かったので恋愛イベントはスキップ気味だった。だが、別視点から見る『ソードストーリー』は作り込まれた世界観であることを気に入り、攻略サイトを見てシナリオのアンロック方法や見落としていた小ネタを確認することもあった。

 そしてシナリオをアンロックするためのパズルゲームをプレイすると、マーガレットの兄であるルイスが様々な言葉で励ましてくれたり、スコアが良くなるようにアドバイスをくれる所を好ましく感じた。

(ルイスは良い奴だよな。オレもこういう風な……励ましたり、気にかけてくれる存在がいたらなあ)

 両親は前世のハルを気にかけてはいたが、共働きなので入院中ずっと傍にいてくれるわけでもない。学校には通ってはいたが、入院が長引くと友達付き合いをしている暇もない。勉強には遅れたくなかったので入院中はタブレット端末を使って学習していたが、一人で必死に勉強していても誰も助けやアドバイスをくれるわけでもない。

 前世のハルはメインシナリオを大まかにクリアしてからはミニゲームばかりプレイしていたが、大作RPGをプレイし始めると『ソードストーリー』のことは段々と忘れていってしまった。

 そして、そんな入退院を繰り返して数年の時が経ったある日、前世のハルは風邪をこじらせ体調を酷く悪化させてしまい短い生涯を閉じたのだった。


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