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プロローグ 幼馴染は元勇者(ルイス視点)
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「王都ではこんな装飾品が流行っているんだね」
暖炉近くのソファセットに並んで二人して茶を飲み、ルイスはハルと団欒していた。ローテーブルには彩色された革紐のブレスレット、ガラス細工のペンダント等、様々な装飾品が並べられている。
「仕入れて来てくれてありがとう。王都なんて中々行けないから本当に嬉しいよ」
ハルには王都で流行っている小間物があれば教えて欲しいと出発前に尋ねていたが、まさか商品を仕入れて来てくれるとは思っていなかったので心からの感謝を伝えた。
「代金は後で店の経費で出すから!」
「別にこのくらい……」
「ダメだよ。僕の道具屋にってわざわざ商人ギルドに行ってくれたんだから!」
興奮気味にグッと身を乗り出して近づくと「別に良いのに」とハルは照れくさそうに呟いた。
「王都で友人同士や……恋人同士のちょっとした贈り物にこういった装飾品が今は流行りだそうだ」
ハルは茶を一口啜り、コトリとカップを机に置いた。
「特にこの革紐のブレスレットは手頃な値段で、相手の瞳や髪色の物を贈るのが流行していると聞いた」
深い緑色に染められたブレスレットを手に取り、留め具を外してルイスの腕に着けた。
「ルイスの瞳の色だ」
「本当、同じだね」
「……深緑色のブレスレットは俺からの土産だ。これは経費で払わなくて良いからな」
「良いの? ありがとう、ハル」
ブレスレットは革紐を彩色した物が丁寧に編み込まれている。普段装飾品を身に着けないルイスにもシンプルで使い勝手が良さそうだった。
「僕が着けていたらお客さんも欲しくなるかもしれない。大事にするね」
「ふふ、よく似合ってるよ、ルイス」
「う、うん」
ハルは満足そうに言うとにこやかに微笑んだ。
(キリッとした顔立ちのハルが、表情を柔らかくして優しく笑いかけて来ると流石にドキドキするなあ……)
幼馴染にドキドキしてしまった気まずさを誤魔化すように装飾品の数を数えてメモを取った。
「ねえ、そういえば、聞きたいことがあるんだけど」
メモを取り終え、気を取り直して例の件について尋ねることにした。
「聞きたいこと?」
「うん、マーガレットのことなんだけど」
「マーガレットがどうかしたか?」
ハルは茶を飲みながら首を傾げた。
「あの子は来年成人なんだけど。どう思う?」
「もっと子どもだと思っていたのに、もうそんなになるのか」
「それでどうかな? 一人の女性として、彼女のこと」
「女性としてどうって……別に、もうすぐ成人おめでとうくらいしか感想は無いけど。年頃だから見合いの話でも来たのか?」
「違うけど、まあ……近いかなぁ。どう思う?」
「あのお転婆に見合い」と言い、首を傾げながらハルは目を細めた。
「お転婆を相手側に悟られないようにして振る舞えば大丈夫じゃないか?」
ハルはあまり興味なさそうにコクコクと茶を飲んだ。
「ダメだったとしても次があるさ、多分」
「どうしてマーガレットのお見合いが失敗する前提なんだよ……!」
「失敗するなんて言っていない。あいつ……マーガレットは気が強いし、ルイスのことをだいぶ好いているから見合いに気が乗らないんじゃないかと思った。それだけだよ」
「……うーん、そうかなあ」
別にマーガレットに見合いの話は来ていないが、この物言いは「結婚したい相手」ではなさそうだなとルイスは唸った。
「まあ……お見合いかどうかは置いておくとして、ハルが天使みたいなマーガレットに魅力を感じないか聞きたかっただけなんだけど」
「……天使? マーガレットが?」
「うん、兄の欲目で見ても可愛いくて賢くて優しくて良い子だし、ハルが彼女に惹かれるものがあれば仲を取り持つのもやぶさかではないって言うか」
「はぁ……」
ハルは深い深いため息をつき「無い」ときっぱりと言い放った。
「どうして突然そんな話をするんだ。周りから言われたのか?」
「ううん、ただ思い出したんだ」
「何を?」
呆れたような声色になり、ハルはジト目でこちらを見てくる。ルイスは居心地が悪くなったが言葉を続けた。
「前にオズワルドさんと三人で飲んだことあったよね」
「ああ、オズが連絡もなしにいきなり訪ねて来て迷惑を被ったな」
「迷惑なんて、そんな」
「……まあ、良いか。話を続けてよ」
「うん、ハルが珍しく酔い潰れていた時にさ――」
ルイスがかいつまんで内容を伝えると、ハルは茶を飲み干してから頭を抱えてしまった。
暖炉近くのソファセットに並んで二人して茶を飲み、ルイスはハルと団欒していた。ローテーブルには彩色された革紐のブレスレット、ガラス細工のペンダント等、様々な装飾品が並べられている。
「仕入れて来てくれてありがとう。王都なんて中々行けないから本当に嬉しいよ」
ハルには王都で流行っている小間物があれば教えて欲しいと出発前に尋ねていたが、まさか商品を仕入れて来てくれるとは思っていなかったので心からの感謝を伝えた。
「代金は後で店の経費で出すから!」
「別にこのくらい……」
「ダメだよ。僕の道具屋にってわざわざ商人ギルドに行ってくれたんだから!」
興奮気味にグッと身を乗り出して近づくと「別に良いのに」とハルは照れくさそうに呟いた。
「王都で友人同士や……恋人同士のちょっとした贈り物にこういった装飾品が今は流行りだそうだ」
ハルは茶を一口啜り、コトリとカップを机に置いた。
「特にこの革紐のブレスレットは手頃な値段で、相手の瞳や髪色の物を贈るのが流行していると聞いた」
深い緑色に染められたブレスレットを手に取り、留め具を外してルイスの腕に着けた。
「ルイスの瞳の色だ」
「本当、同じだね」
「……深緑色のブレスレットは俺からの土産だ。これは経費で払わなくて良いからな」
「良いの? ありがとう、ハル」
ブレスレットは革紐を彩色した物が丁寧に編み込まれている。普段装飾品を身に着けないルイスにもシンプルで使い勝手が良さそうだった。
「僕が着けていたらお客さんも欲しくなるかもしれない。大事にするね」
「ふふ、よく似合ってるよ、ルイス」
「う、うん」
ハルは満足そうに言うとにこやかに微笑んだ。
(キリッとした顔立ちのハルが、表情を柔らかくして優しく笑いかけて来ると流石にドキドキするなあ……)
幼馴染にドキドキしてしまった気まずさを誤魔化すように装飾品の数を数えてメモを取った。
「ねえ、そういえば、聞きたいことがあるんだけど」
メモを取り終え、気を取り直して例の件について尋ねることにした。
「聞きたいこと?」
「うん、マーガレットのことなんだけど」
「マーガレットがどうかしたか?」
ハルは茶を飲みながら首を傾げた。
「あの子は来年成人なんだけど。どう思う?」
「もっと子どもだと思っていたのに、もうそんなになるのか」
「それでどうかな? 一人の女性として、彼女のこと」
「女性としてどうって……別に、もうすぐ成人おめでとうくらいしか感想は無いけど。年頃だから見合いの話でも来たのか?」
「違うけど、まあ……近いかなぁ。どう思う?」
「あのお転婆に見合い」と言い、首を傾げながらハルは目を細めた。
「お転婆を相手側に悟られないようにして振る舞えば大丈夫じゃないか?」
ハルはあまり興味なさそうにコクコクと茶を飲んだ。
「ダメだったとしても次があるさ、多分」
「どうしてマーガレットのお見合いが失敗する前提なんだよ……!」
「失敗するなんて言っていない。あいつ……マーガレットは気が強いし、ルイスのことをだいぶ好いているから見合いに気が乗らないんじゃないかと思った。それだけだよ」
「……うーん、そうかなあ」
別にマーガレットに見合いの話は来ていないが、この物言いは「結婚したい相手」ではなさそうだなとルイスは唸った。
「まあ……お見合いかどうかは置いておくとして、ハルが天使みたいなマーガレットに魅力を感じないか聞きたかっただけなんだけど」
「……天使? マーガレットが?」
「うん、兄の欲目で見ても可愛いくて賢くて優しくて良い子だし、ハルが彼女に惹かれるものがあれば仲を取り持つのもやぶさかではないって言うか」
「はぁ……」
ハルは深い深いため息をつき「無い」ときっぱりと言い放った。
「どうして突然そんな話をするんだ。周りから言われたのか?」
「ううん、ただ思い出したんだ」
「何を?」
呆れたような声色になり、ハルはジト目でこちらを見てくる。ルイスは居心地が悪くなったが言葉を続けた。
「前にオズワルドさんと三人で飲んだことあったよね」
「ああ、オズが連絡もなしにいきなり訪ねて来て迷惑を被ったな」
「迷惑なんて、そんな」
「……まあ、良いか。話を続けてよ」
「うん、ハルが珍しく酔い潰れていた時にさ――」
ルイスがかいつまんで内容を伝えると、ハルは茶を飲み干してから頭を抱えてしまった。
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